33.私をラーヴォルンに連れてってたのは・・・
<<琴音>>
「あっ、そうだ。」
突然、ミディアちゃんが大声を上げたので、びっくりした。
「どうしたの、ミディアちゃん?」
「今ね、すごいいいことを思いついたんだよ。」
ミディアちゃん、すごい笑顔だ。
一体、何を思いついたのだろう?
そう思って、ミディアちゃんに話を聞こうとしたその時だった。
突然、体が光り始めた。
そっか、今日はいつもより早く寝たから、いつもより早いお目覚めらしい。
それにしても、なんて空気の読めない目覚めなんだろう。
思わずため息が出てしまった。
「そっか、今日は早くに来たから・・・」
「ウン、ゴメンね。
じゃあ、ミディアちゃんの思いついた話、明日聞かせてもらうね。」
「ウン、じゃあ、明日待ってるね。」
「ミディアちゃん、みんな、今日はありがとう。
すごい楽しかったよ。」
「琴音こそ、色々持ってきてくれてありがとう。
本当に嬉しかったよ。」
ミディアちゃんは笑顔で見送ってくれた。
「明日はいつもの時間に来るね。」
「ウン、じゃあ、また明日ね。」
いつものお別れの挨拶をした後、視界が光に包まれる。
そして、目を覚ます・・・はずだった。
でも、今回はいつもと違った。
「あれっ、何、これ?」
突然、目の前の光景が止まった。
ミディアちゃんもラーファちゃんもエレーネちゃんもアイちゃんも、全く動かない。
いや、4人だけじゃない。
ラーヴォルン全体が、アトゥアの全てが止まっていた。
「何、これ?」
そういや、こんな光景を以前一度だけ見たことがあった。
あの時は、確か家に帰る時だった。
突然、街中の全てが止まって、そしてあの時は謎の覆面が私の元にやってきたんだっけ。
じゃあ、もしかして、今回も?
嬉しくないことに、こういう悪い時だけ、私の予想はいつも的中する。
そして、どうやら今回も的中してしまったみたいだ。
停止したラーヴォルンの街の向こうから、謎の覆面がやってきた。
多分、こないだ来たのと同じ奴だ。
最初は逃げようとしたけど、やっぱり覆面から逃げることはできなかった。
全てが止まってるのに、逃げられるわけがないか。
逃げるのは無駄だと思ったので、潔く逃げるのをやめた。
覆面は、ゆっくりと私の目の前までやってきた。
今度は一体何をされるのだろう?
そう思ったら、覆面が話しかけてきた。
「琴音、ラーヴォルンはどうだった?」
覆面にそう聞かれた。
「えっ?」
「ラーヴォルンは楽しかったか?」
「・・・・・」
どうして覆面はそんなことを聞いてくるんだろう?
ていうか、どうして覆面がラーヴォルンにいるんだろう?
そう思いつつも、心の奥底では予感めいたものを感じていた。
それは、私の中で最大の謎についてだった。
多分、私をラーヴォルンに連れてっていたのは、この覆面なんだ。
そう言えば、あの時、私のおでこに何か細工しているみたいだった。
「あなたが私をラーヴォルンに連れてってたの?」
「そうだ。」
覆面は即答した。
やっぱり、そうだったんだ。
でも・・・
「どうして私をラーヴォルンに?」
「それは、お前を楽しませたかったからだ。」
えっ、まさか、謎の覆面が私のためにそんなことを?
「・・・なんて言うとでも思ったか?」
違うんかい。
心の中で突っ込んだ。
「そんなの、私にメリットがあるからに決まってるだろう。」
えっ、どういうこと?
私がラーヴォルンで楽しんでいたのは、覆面のメリットを得るためだったの?
目の前の得体のしれない覆面のために、私はラーヴォルンに行っていたということなの?
この覆面は一体何者なんだろう?
もしかして、地球侵略を企む宇宙人?
だとしたら、私は知らないうちに地球侵略に手を貸していたことになる。
知らず知らずのうちに、人類の敵に力を与えていたかもしれない。
そう思ったら、すごい胸がざわっとなった。
「メリットって何よ!?」
思わず大声を上げていた。
でも、その質問に、覆面は何も答えてくれなかった。
「それで琴音、ラーヴォルンはどうだった?」
代わりに覆面はもう一度同じ質問を私に問いかけてくる。
どうだったと聞かれても、どう答えたらいいのか困る。
ラーヴォルンに行けたのは、すごい嬉しかった。
見るものすべてが素晴らしくて、素敵な友達にも会えた。
本当にラーヴォルンに行けてよかったと思ってる。
でも、自分がわけのわからない状況に陥っていることについては、正直気味が悪かった。
せめて、覆面が何の目的でこんなことをするのかさえわかれば、すっきりするんだけど、どうやらそれは話してもらえそうになかった。
どう答えたらいいんだろう?
いろいろと考えた末に、ここは素直な気持ちを答えることにした。
「ウン、すごい楽しいよ。
ラーヴォルンに行けて、本当によかったと思ってる。」
「そうか。」
覆面はそう言うと、続けて質問をしてきた。
「でも、毎日ラーヴォルンに行くのも辛いだろう。
もし、お前が望むなら、解除してやってもいいぞ。」
これは、意外なことを言ってきた。
覆面は私に施した何らかの細工を解除してくれるらしい。
これで、普通に戻れる。
夜眠っても、ラーヴォルンに飛ばされることもなく、普通に安眠することができる。
もう得体のしれない覆面に利用されることもなくなる。
すぐにでも解除してもらうべきだ。
ウン、そうするべきだ。
それなのに、どうしても私は躊躇してしまう。
「じゃあ、また明日ね。」
さっき、そう言ってくれたミディアちゃんの笑顔が頭から離れない。
「嫌だ・・・」
「・・・・・・」
「嫌だ・・・お願い、解除しないでよ・・・」
気がつくと、私は大声で拒否していた。
この覆面が何を企んでいるのかわからないけど、残酷すぎるよ。
あんなに素晴らしい世界に連れて行って、ミディアちゃん達のような素敵な友達と仲良くさせておいてから、いきなり解除してやってもいいだって?
そんなの拒否するしかないじゃない。
「ここで解除しなくても、いつかは効力が切れて自然解除される。
いつかは別れの日は来る。
ならば、まだ日が浅い今のうちに解除した方がお前のためだと思うが?」
「嫌だ、今お別れするなんて、絶対に嫌だ。」
もう一度強く拒否した。
覆面はさっき自然解除されると言っていた。
多分、私に施した細工にはリミットがあるんだろう。
てことは、ここで解除されなくても、いつかはミディアちゃんとお別れする日が来るんだ。
ウン、その日が来ることは覚悟している。
でも、それが今日だなんて、あまりにも唐突すぎるよ。
だって、さっきミディアちゃんと約束したばかりだもん。
明日また会おうって。
「ねえ、自然解除って、いつ頃に来るの?」
でも、相変わらず覆面は私の質問には答えてくれない。
「ミディアとの勝負の結果が出るまで待ってやったんだがな。」
「どうして、そのことを知っているの?」
「驚くことはないだろう。
お前を連れてっているのは、この私なのだからな。」
「ま、まさか、私の行動をずっとチェックしていたの?」
だとしたら最悪だ。
得体のしれない覆面にずっとストーキングされていたことになる。
さっきのメリット以上にざわっとなった。
「まさか。
私とて、お前に張りついていられるほど暇ではない。
だが、お前をラーヴォルンに連れて行っている以上、全く放置するわけにもいかんからな。
ちょくちょく様子を見ていただけだ。」
でも、覆面の存在なんて全然気づかなかった。
覆面はすごい力を持っているから、多分、誰にも見えない場所から見ていたのかもしれない。
「ミディアとの決着もついたことだし、これで心置きなくラーヴォルンに別れを告げることができるだろう。」
「ちょ、ちょっと待ってよ。
あまりにもいきなりすぎるよ。」
いくらなんでも、今日いきなりお別れはヒドイよ。
何の心の準備もできていない。
お別れするにしても、せめてミディアちゃん達にちゃんとお別れの挨拶をしてからにしたい。
「まあ、お前が望むなら、今しばらくは連れてってやってもいい。」
「えっ、本当?」
「だが、でもいいのか?
お前はつまらない日常に飽きていたのだろう。
毎日ラーヴォルンに行くことになれば、そのうちラーヴォルンはお前の日常になるだろう。
そうなったら、きっと後悔することになるぞ。」
そう言えば、私はついこないだまで、毎日をつまらないと思い、惰性で過ごしてたんだった。
まだ一か月も経ってないのに、もう随分遠い昔のことのように思える。
それくらい、ここ数週間は本当に毎日楽しくて仕方がなかったってことなんだろう。
ラーヴォルンのおかげで、私の毎日は劇的に変わった。
こんな楽しい毎日がつまらない日常になってしまうなんて、絶対に考えられないよ。
「今はまだ、私はラーヴォルンに行きたい。
だって、私はまだ全然ラーヴォルンのことを知らないんだもん。
それにラーヴォルンにはミディアちゃんやラーファちゃんやエレーネちゃんやアイちゃんがいる。
あんな素敵な場所で、素敵な友達と一緒にいられるんだよ。
絶対につまらない日常になるなんてことないよ。」
「本当にそうか?」
「ウン。
だって、ラーヴォルンは私の理想郷だもん。」
私がそう言うと、覆面の動きが止まった。
「まさか・・・まさか・・・こんな短期間で・・・」
覆面はなにか驚いているようだった。
「ラーヴォルンは私の理想郷だよ。」
大事なことなので、もう一度言ってやった。
すると、覆面は私の方に顔を近づけてきた。
「ラーヴォルンが理想郷だと!?
随分と面白い勘違いをしているみたいだな。」
「勘違いじゃないよ。
あんな素敵な場所、今まで見たことないもん。」
「つまらない毎日を過ごしてきたお前が、たまたま違う世界を見て、素晴らしいと感じてるだけだ。
お前の理想郷は、実に安っぽいな。」
「・・・・・・」
覆面にそう言われて、何も言えなくなってしまった。
覆面の言ってる通りかもしれない。。
覆面の言ったように、初めて見た世界に単純に惹かれているだけなのかもしれない。
多分、初めてミディアちゃん達とラーヴォルンの絶景を見たあの瞬間に、私はラーヴォルンの虜になってしまったんだと思う。
あんな絶景、今まで見たことなかった。
それ以上に、あの絶景を見た瞬間、何か心にこみあげてくるものがあった。
やっぱり、私にとってラーヴォルンは理想郷だ。
覆面は、私の理想郷が安っぽいと思ってるのかもしれないけど、そんなのはどうでもいいことだ。
今の私は、ラーヴォルンに行きたいと思ってる。
ミディアちゃん達ともっと一緒にいたいと思ってる。
今、大事なのはその気持ちだけだ。
「それでも・・・それでも、私はラーヴォルンに行きたい。」
「どうして、そこまでラーヴォルンに固執する?」
「だって、ミディアちゃん達と約束したんだもん。
明日、また会おうねって。」
覆面は、私の話を聞いた後、しばらくの間沈黙し続けた。
私をじっと見つめたまま、何やら考えているみたいだった。
私をどうやってラーヴォルンから引き離すかを考えているのかもしれない。
私も何を話せばいいのかわからず、覆面の出方を伺うしかなかった。
どれだけ時間が経ったのだろうか?
いや、ここは止まってるから、時間は経ってないのかな?
沈黙の時間がすごい長く感じられた。
でも、しばらくすると、覆面は再び話し始めた。
「お前がラーヴォルンをどう思おうが勝手だが、素敵な時間が永遠に続くことはない。
いつか別れはやってくる。
わずか数週間でこれだ。
やっぱり今すぐに解除した方が、お前のためにもいい。」
「・・・・・・」
いつかは、ラーヴォルンに行けなくなる日が来る。
ミディアちゃん達とお別れにする日は、いつかやってくる。
この先、どれだけラーヴォルンに行けるかわからないけど、長く行けば行くほど、ミディアちゃん達とのお別れは辛くなる。
だったら、今別れた方が、まだ寂しくないかもしれない。
でも、明日また会おうって、約束したばかりなのに・・・
突然、目の前の視界が急に歪みだした。
多分、目が覚めそうになっているんだと思う。
視界が完全に消える前に、覆面の声が聞こえてきた。
「一日だけ時間をやろう。今日一日、ゆっくり考えるがいい。」
覆面の姿が、歪みの中に消えていく。
そして、気がつくと、自分のベッドの上で目を覚ましていた。
時間は5時を少し過ぎたくらいだった。
いつもより早い朝の目覚めは、今までの中で最悪だった。
今日、大きな謎の一つが明らかになった。
「私がラーヴォルンに行けていたのは、あの覆面の仕業だったんだ。」
ただ、何の目的があって、そんなことをしているのかわからない。
しかも、どうして私なんだろう?
もしかしたら、私以外にもあっちに行ってる人がいるのかもしれない。
私はラーヴォルンに行ってるけど、他の人はアトゥアの別の場所に飛ばされてるから会えないだけなのかも。
でも、どうしてそんなことをしているんだろう?
覆面は自分にメリットがあるからだと言っていた。
でも、どんなメリットがあると言うのだろう?
全く想像できなかった。
あの覆面は一体何者なんだろう?
地球とラーヴォルンを簡単に行き来できて、しかも時空を止めるほどの力を持っている。
明らかに、今の地球文明を超える力を持っている。
覆面が地球と友好的だったらいいけど、もし覆面が地球人類と敵対する侵略者だったとしたら・・・
もしかしたら、何か悪いことに利用されているのかもしれない。
だとしたら、これ以上ラーヴォルンに行くのはやめた方がいいのかもしれない。
「でも、もうミディアちゃん達に会えなくなるなんて嫌だよ。」
気がついたら、ポロポロ涙がこぼれていた。
ミディアちゃん達の笑顔が、頭から離れない。
「ミディアちゃん・・・ラーファちゃん・・・エレーネちゃん・・・アイちゃん・・・
またみんなに会いたいよ。」
それからしばらく、布団の中でずっと泣き続けた。
「琴音、日花里ちゃんが迎えに来てるわよ。」
しばらくして、お母さんが部屋に入ってきた。
いつの間にか、8時前になっていた。
ずっと泣いていたから、全然気づかなかった。
時計のタイマーもいつの間にか切っていた。
早く起きて、学校に行く準備をしないと・・・
ダメだ、今日は学校に行く気がしない。
布団の中から顔を出すと、お母さんは驚いた顔になった。
「琴音、どうしたの?」
お母さんが心配そうな顔で、私の部屋に入ってきた。
ずっと泣いていたので、きっとひどい顔をしているんだろう。
でも、まだ涙が止まらない。
これだけ泣いたのに、まだ涙が止まらない。
「ゴメン・・・今日は学校を休みたい。」
お母さんにそう言うと、お母さんは小さく頷いた。
「そう、じゃあ、今日はおとなしく寝ていなさい。」
お母さんは、私に何も聞いてこなかった。
どうやら私が学校を休むことを許してくれたみたいだ。
お母さんは日花里ちゃんに、私が今日学校を休むことを話しているのが聞こえてきた。
「姉ちゃん、大丈夫か?」
いきなり、部屋に悟が入ってきた。
大方、悟は私の弱っているところを見に来たのだろう。
でも、私が泣きはらした顔をしているのを見ると、一言
「ゴメン」
と言って、部屋の扉を閉めた。
今日は学校を休んだおかげで、考える時間ができた。
でも、だからといって、どうしていいのかわからなかった。
寝よう。
でも、そうしたら、またあの覆面と会ってしまうかもしれない。
そう思ったら、寝ることにも躊躇してしまう。
「私は、どうしたらいいんだろう?」
私は、答えの出ることのない質問を、頭の中で繰り返し問いかけていた。




