31.ラーヴォルンは私の理想郷
<<琴音>>
今朝はさわやかな目覚めだった。
結局、どうしてラーファちゃんが怒っていたのかわからなかったなあ。
でも、すぐに仲直りできてよかった。
ミディアちゃんとラーファちゃんには仲良くしてほしかったからね。
それに、あの二人の仲のいいところを見ていると、私がすごい和むんだよね。
ラーファちゃんがミディアちゃんに抱きつく姿を見て、すごい癒された。
いつものように朝食をとった後、家を出て日花里ちゃんと学校に向かう。
「ふーん、そんなことがあったんだ。」
「ウン、でも、結局、ラーファちゃんは何を怒ってたのかな?」
「さあね、でも、前に私がラーヴォルンに行ったときに思ったことなんだけど、琴音って本当にミディアちゃんになついてるのね。」
「ちょっと、なついてるって、人をペットみたいに言わないでよ。」
「ゴメンゴメン。
でも、琴音はどうして向こうではあんなに抱きつこうとするの?」
ウーン、それはわからない。
ミディアちゃんにはスキンシップだって言ったけど、それ以外にも何かあるような気がする。
ラーヴォルンに行くと、いつも心が躍り出すという感じがする。
それで、無意識のうちに体が動いてるのかもしれない。
あんな素敵な場所だから仕方がないよ。
「ラーヴォルンは私の理想郷だからね。
心躍り出して、自然とスキンシップも激しくなってるんだろうね。」
「理想郷とは、またえらい持ち上げたものね。
でも、理想郷って、現実には存在しない場所のことを指すんだけど。」
「あるよ。ラーヴォルンはあるんだよ。」
「じゃあ、理想郷って表現は、少しおかしいんじゃ・・・」
「地球にはないんだからいいでしょ。
もう、日花里ちゃんは細かいなあ。」
日花里ちゃんは言葉の使い方を間違えると、ネチネチと注意してくるタイプの人だ。
国語苦手なくせに、そういうところは変に細かい。
「私も一応見ているから、ラーヴォルンがどこかに存在することは否定しないよ。
確かに素敵な街だと思う。」
「でしょ。
毎日見ているのに全然飽きないし、ミディアちゃん達みたいな素敵な友達にも出会えたし。
多分、これから先、こんな素敵な場所には絶対に出会えないと思う。」
「これから先って、まだ16歳なのに断言しちゃうわけ?
アンタ、日本から出たことないし、赤川市の外だって、ほとんど行ったことないでしょ。」
「いいんだよ。
ラーヴォルンは最高の場所だよ。
私にとっての理想郷だよ。」
これは間違いなく断言できる。
ラーヴォルン以上の素敵な場所は、この地球には存在しないと。
「まあ、琴音がそう思ってるんだったら、それでいいよ。
それはそうと、昨日、テストのことを話したの?」
「ウン、ミディアちゃんがすっごく喜んでくれてね。
それがすごく嬉しくなっちゃって、ついミディアちゃんをギュッとして、ほっぺにチューしちゃったんだよ。
そしたら、ラーファちゃんが突然怒りだしてね。」
「ラーファちゃんって、ミディアちゃんのお姉ちゃんみたいな人なんでしょ。
きっと嫉妬ね。」
「でも、そんなに嫉妬するものなのかな?」
「まあ、琴音はお子ちゃまだからね。
わからないかもね。」
なんか、また日花里ちゃんに見下されている感じがする。
でも、そうかもしれない。
「どうせ私はお子ちゃまですよ。
誰かに嫉妬するような経験なんて全然ないし。」
「あーでも、幼稚園の登校の時、私が他の子と手をつないだら、散々泣きわめいてたよね。
あれは嫉妬じゃなかったの?」
「もう、その話はしないでよ。」
日花里ちゃんは小さな頃の話をよく持ち出してくる。
しかも、私が恥ずかしくなるような話ばかり持ち出してくる。
日花里ちゃんのそういうところ、すごい嫌いだ。
「おはよー。」
私達の背後から、ニコちゃんが声をかけてきた。
「おはよう、ニコちゃん。」
「おはよう、ニコ。
珍しいわね、声をかけてくるなんて。」
「いつもは、日花里ちゃんは琴音ちゃんと一緒だったから、遠慮してたんだよ。
でも、琴音ちゃんとも友達になったし、もういいよね。」
ニコちゃんはそう言うと、私達の間に割って入ってきた。
それにしても、本当にニコちゃんで定着しちゃったなあ。
ニコちゃんも、ニコちゃんって呼ばれてもすんなり反応しているし。
ニコちゃんがそれでいいなら直さないけど、なんか悪いことしたような気がしないでもない。
「それはそうと、琴音ちゃん、またラーヴォルンの話を聞かせてよ。」
「さっき、日花里ちゃんに話したばかりなんだけどなあ。」
結局、ニコちゃんに同じ話をもう一回することになった。
今度からは、ニコちゃんが合流してから、話をすることにしよう。
「へえ、ミディアちゃんに抱きついてキスしたんだ。
もしかして、琴音ちゃんって、男の子より女の子の方が好きなの?」
ニコちゃんがさらりととんでもないことを言い出した。
「ど、どうして、そんな話になるの?」
「だって、話聞く限りだと、琴音ちゃん、ミディアちゃんにラブラブじゃない。」
「いや、だから、別にそういうんじゃなくて・・・」
「じゃあ、今度、琴音ちゃんの喜びそうなゲームを持ってくるね。」
なんか、勝手に話を進めてきた。
なんだろう、私の喜びそうなゲームって。
すごく嫌な予感がする。
「ニコ、頼むから琴音を汚染しないで。」
日花里ちゃんがニコちゃんの手を掴んだ。
「失礼な。私が琴音ちゃんを汚染するってどういうことよ。」
「アンタが部長になってから、文芸部が汚染されたでしょ。
つまり、そういうことよ。」
文芸部で一体何があったんだろう?
やっぱり、一度ぐらい文芸部に遊びに行くべきだった。
「でも、3年の時の文芸集、すごく評判よかったじゃない。」
「一部の偏った人達にはね。
その他大勢の人にはドン引きされたでしょ。
それに、先生に厳重注意されたじゃない。」
「ま、まあ、その話は今は置いておこう。」
一体、どんな文芸集を出したのやら。
なんだかんだで、学校はあっという間に終わった。
期末テストも終わって、夏休みが近いこの時期が一番好きだ。
実際に夏休みが入ってしまうと、ダラダラ過ごしちゃうだけだからね。
午前中だけ学校があるこの時期が、一番バランスがいい。
それに、夏休みが目前と言うこともあって、一番心浮き立つ時期のような気がする。
心浮き立つこの時期に、ラーヴォルンに行って、さらに心浮き立たせる。
今は本当に最高かもしれない。
授業が終わって、さっさと帰ろうとしたら、ニコちゃんが声をかけてきた。
「ねえ、琴音ちゃん、一緒にカラオケに行こうよ。」
「ゴメン、今日はちょっとやりたいことがあるから、また明日ね。」
ニコちゃんには悪いけど、今日はやりたいことがあったので断った。
「振られたわね、ニコ。」
「う、うるさいなあ、もう。」
教室の中で、日花里ちゃんとニコちゃんが何やら話していたけど、私は気にすることなく教室を出た。
心浮き立つこの時期だけど、今日はさらに特別な日だった。
なんせ、いよいよミディアちゃんの結果が発表される日だからだ。
実技テストでは全部課題をクリアしていたし、理論の方も勉強頑張ってたから、絶対にいい点数だと信じてる。
だから、今日はまた前みたいにおしゃれをして行きたい。
前に着ていった服でもいいんだけどね。
でも、せっかくだから、今日は別の服を着て行こう。
「あーでも、あまり服を着て、暑苦しくなって途中で目覚めるのも困るなあ。」
そう考えると、やっぱりTシャツにショートパンツの組み合わせが一番いいのかな。
いくらミディアちゃんとラーファちゃんにしか見えないとはいえ、スカートは抵抗あった。
空を飛ばなければいいのかもしれないけど、私、あっちだと無意識のうちに大はしゃぎしてるからなあ。
それに、スカート来て寝ると、スカートがしわしわになっちゃいそうだし。
やっぱり、スカートはやめておこう。
ウーン、Tシャツにショートパンツだったら、別に買い物する必要もないかな。
家に帰って、何を着ていくか、考えよう。
夏じゃなければ、もう少し着込んでいけたんだと思うけどな。
こんな感じで着て行く服について色々考えていたんだけど、ちょうどその時にいいことが閃いた。
そうだ、何か物を持っていこう。
ポーチとかに入れておいて、それを身につけて眠れば、向こうに持っていけるような気がする。
あまり大きなカバンだと眠れなくなりそうだけど、ポーチぐらいなら多分大丈夫だと思う。
「んー、何を持って行こうかな?」
ポーチに入れられる程度のものだと、大したものは入れられない。
まずはスマホかな。
今やこれ一つで大抵なんでもできる。
日本を紹介するには、スマホを持っていくのが一番手っ取り早い。
でも、あっちだと、ネットが使えるかどうか。
電話も多分使えないだろうし。
スマホからネットと電話を取ったら、ほとんど何もできない機械になってしまう。
そもそもスマホが使えるかどうかも怪しい。
でも、色々と準備だけはしておこう。
そうだ、アニメをスマホに入れて行こう。
確か、録画していたアニメがいくつかあった。
それをスマホに入れておこう。
何にしようかな?
怖い話は絶対にダメだな。
じゃあ、魔法の出てくるアニメにしよう。
今放送中の魔法少女もののアニメにしよう。
私の部屋にあるレコーダーがスマホと連携可能でよかった。
とりあえず1話だけ入れておこう。
気に入ってくれるといいな。
そして見たら、きっとこんなこと言ってくると思うんだ。
「二ホンの魔法少女って、どうして変身するんだ?」
楽しみだなあ。
後は、赤川市の風景写真を何枚か入れておこうと思ったけど、私写真あまり撮らないから全然入ってないな。
じゃあ、ネットからダウンロードして入れておこう。
地元の風景写真をネットからダウンロードするってのも何か変だなあ。
何だかんだいろいろやっているうちに、気がついたら夕方になっていた。
持っていくものも決まったし、着ていく服も決まった。
今日は早くに寝よう。
だって、ミディアちゃんと一緒に結果を見たいからね。
<<ミディア>>
今日はいよいよ魔法検定の結果が出る日だ。
昨日は琴音がすごくいい点数を取った。
今度は私の番だ。
今回は初めて課題を全部クリアできたし、きっといい点数になっていると信じたい。
「大丈夫よミディア、きっといい点数だって。」
ラーファはそう言ってくれたけど、少し不安だった。
琴音があんなに頑張っていい点数を取ったのに、私の点数が低かったら琴音に申し訳ないよ。
「私は実技は失格だったから、理論だけなんだけど、こっちも自信ないからなあ。」
「どうせハーメルトンのコンサートのことが気になって、あまり勉強できなかったんでしょ。
結局、勉強会にも来なかったし。」
「まあ、自業自得と言われたら、それまでなんだけどね。」
きっと、あの時のラーファもエレーネ先輩も、勉強よりもコンサートの方に意識が行ってたんだろう。
でも、今ならその気持ちもわかるよ。
コンサートがあんなに素晴らしいものだとは思わなかったよ。
ラーファと一緒に学校に行くと、門の前になんと琴音が待っていた。
「琴音、どうしてこんなに早くに?」
琴音はいつもと違って、すごいかわいい服を着ていた。
「今日は随分とおしゃれだね。」
「ウン、だって、今日はミディアちゃんの結果発表だし、一緒にお祝いしようと思って。」
琴音はそう言うと、ニコッと笑った。
その琴音の気持ちはすごい嬉しかったけど、今の私にはすごいプレッシャーだよ。
「ミディア、もう魔法検定は終わってるんだし、今更ジタバタしても仕方がないでしょ。」
ラーファの言うことはわかるんだけど、でもいい点数が取れているか、本当に不安で仕方がないんだよ。
「私はミディアちゃんがいい点数を取るって信じてるよ。
だから、こうしておしゃれしてきたんだからね。」
琴音が力強くそう言ってくれた。
おかげで少しだけ自信が持てた。
「あっ、ミディア、ラーファ、おはよう。」
エレーネ先輩が来た。
「おはよう、ラーファ先輩、ミディア、エレーネ先輩。」
そして、アイも来た。
「今日は別に来なくてもよかったんだけどなあ。」
アイは朝からやる気なしモードだった。
「だって、私、実技は失格したし、筆記も全然できなかったからね。」
そう言えばそうだった。
今回の魔法検定は散々だって言ってた。
「でも、ミディアの合格を見届けに来てあげたわよ。」
アイはそう言うと、ぷいっと横を向く。
「アイ、ありがとう。」
みんなのおかげで、いい点数が取れるような気がしてきたよ。
魔法検定の結果は、学年別に行われる。
だから、私達はラーファやエレーネ先輩とは別の教室だ。
「じゃあ、また後でね。」
ラーファ達はそう言うと、一つ隣の教室に入って行った。
私とアイが教室に入ると、既に多くの生徒が席に座っていた。
一応同級生なんだけど、ほとんどの生徒と面識がなかった。
だって、実技も理論も同じクラスじゃないからね。
しばらくすると、教室に先生が入ってきた。
「じゃあ、今から先日の魔法検定の結果通知表を皆さんに配ります。」
先生がそう言うと、一気に教室がざわめき出した。
多くが「私自信ない。」と言った類の会話だった。
「いよいよだね、ミディアちゃん。」
背後にいた琴音が声をかけてきた。
「ウン、いよいよだね。」
先生は一人ずつ名前を呼ぶと、呼ばれた生徒が前に出ていく。
「あの通知表に結果が書いてあるの?」
琴音が訪ねてきた。
「ウン、テストの点数が書いてある。
実技テストの場合は、課題をクリアできた場合だけだけどね。」
「そっか、いい点数が書かれているといいね。」
「ウン。」
そうこうしているうちに、アイが帰ってきた。
アイは結果通知表を見るなり、がっくりとうなだれてしまった。
「どうしたの、アイ。」
声をかけると、アイは顔を起こさずに通知表を渡してきた。
「うわあ、これはヒドイ。」
思わずそう呟いてしまった。
でも、アイは既にうなだれていたので、私の言葉にも全く反応しなかった。
アイのレベル15の実技テストの結果は、失格だったので横線が一本入っているだけだった。
そして、理論テストの欄には、34点という数字が書かれていた。
「で、でも、中間テストの時の私の数学のテストの点数よりは、ずっと上だよ。」
琴音がそう言った。
中間テストの時の数学の点数がすごい気になった。
「ミディアさん、ミディア・スフィルランさん。」
私の名前が呼ばれた。
席を立って、前に結果通知表を受け取る。
でも、結果はまだ見ない。
結果は、席に戻って琴音と一緒に見るって決めてたからね。
同級生の何人かが、私の方を見てクスクス笑っていた。
多分、私の実技レベルが低いことを笑ってるんだと思う。
だから、いつもはこの時間が大嫌いだった。
でも、今日は琴音がいるから、全然平気だ。
「どうだった、ミディア?」
席に戻ると、アイが尋ねてきた。
「まだ見てない。
ここで、琴音と一緒に見るって決めてたからね。」
「ミディアちゃん。」
琴音が後ろから覗き込んできた。
いよいよ決着の時だ。




