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黄昏のラーヴォルン  作者: レトリックスター
第2章 晩夏のラーヴォルン
32/254

28.ラーファが怒った

<<ミディア>>

 今日は朝からずっとそわそわしていた。

 これというのも昨日、琴音とお別れの挨拶をしなかったからだ。

「あーもう、どうして私、気を失ったりしたんだろう。」

 自分の怖がりが嫌になってくる。

「いや、あれは仕方がないと思う。」

 ラーファはそう言ってくれるけど、もう少し怖いものに耐性をつけないといけない。

 心の底からそう思った。

 せめて泣き叫ぶぐらいでとどまっていれば・・・

「もう、そんなに気にすることないでしょ。

 どうせ、今日になったら、また会えるんだし。」

「ラーファは甘いよ。

 私とラーファは、明日になってもまた会えると言い切れるよ。

 でも、琴音は違う。

 私達と違う世界から来ていて、琴音もどうやって来ているのかわからないんだから。

 明日になったらまた会えるなんて保障、どこにもないんだよ。」

 だから、いつもと同じ感じでお別れしたかった。

 きっと、今日も琴音は来てくれると思うけど・・・

 普段とちょっと違うだけで、こんなにも不安に感じるとは思わなかった。

「琴音はきっと来るわよ。」

 ラーファが力強くそう言ってくれた。

「今日はなんだかラーファ頼もしいね。」

「そりゃあそうよ。だって、私、ミディアのお姉さんだからね。」

 なんだ、ただの姉アピールかあ。

 私がため息をついた時に、ラーファが言った。

「それに、今日は琴音のテストの結果が出る日でしょ?

 琴音は、ミディアとの勝負を大事にしてた。

 だから、絶対に来るわよ。」

 ウン、そうだよ。

 今日は琴音のテストの結果が返ってくる日だ。

 私と琴音との大事な大事な勝負。

 それを琴音がすっぽかすわけがないよ。

 なんだか、不安がなくなってきた。

「ありがとう、ラーファ。」

 こういう時のラーファは、やっぱりお姉さんだ。


 琴音の点数が悪いとは微塵にも思わなかった。

 琴音はすごい頑張ってたみたいだし、きっといい点数を持ってきてくれると思ってる。

「琴音のことばかり心配してられないでしょ。

 私達の魔法検定の結果も明日出るんだからね。」

「そうだね。」

 そっか、明日で琴音との決着がついちゃうんだ。

 そう思ったら、なんだか少し寂しい気がした。

「ミディア、琴音がいい点数だといいね。」

「ウン。」

 私達は琴音がいい点数であることを祈った。


 お昼になって、エレーネ先輩がラーファと一緒に私達のところにやってきた。

「今日はどこでお昼食べる?」

 エレーネ先輩がお昼の話を切り出しても、私の心はずっとそわそわしていた。

「今日はなんだかミディア、落ち着きないね。」

 エレーネ先輩にも言われてしまった。

「だって、今日は琴音のテストの結果が出る日だからね。」

「そっか、それでそわそわしてるんだ。」

 ラーファとアイにも言われた。

 でも、今そわそわしているのは、琴音の点数が気になるからじゃない。

 いつも通り、琴音が来てくれる。

 そう信じているつもりなのに、不安でずっと心がそわそわして仕方がなかった。

「でもさあ、琴音と勝負してるんでしょ。

 だったら、琴音の点数が悪い方がいいんじゃあないの?」

 ウン、アイの言うことはわかるよ。

 でも、私は本当は勝負なんてどうでもいいんだよ。

 これは元々、お互いに苦手なものを克服するための勝負だったんだから。

 だから、琴音にいい点数を取ってほしかった。

「アイ、ダメよ。

 ミディアは琴音がいい点数取ることしか考えてないわよ。」

「ウン・・・」

 結局、こんな感じで昼食も何食べたのかすら覚えてなかった。


 そんな感じで昼食を食べ終わって、ボーッとしながら歩きながらの帰り道の途中だった。

「ミディアちゃん。」

 今一番聞きたかった声が、私の耳に入ってきた。

 声のする方を見ると、琴音が手を振って待ち構えていた。

「琴音。」

 気がついたら、琴音の方に向かって駆けだしていた。

 今日も琴音と会えた。

 昨日から続いていた不安から一気に解き放たれて、パーッと晴れた気分になった。

「琴音、今日は随分と早かったね。」

 琴音の元に駆け寄ると、琴音は笑顔で抱きついてきた。

「ウン、だって、ミディアちゃんに早く会いたかったからね。

 ミディアちゃん、私やったよ。

 苦手な科目で90点と88点だった。」

「すごい、すごいよ琴音。」

 琴音がいい点数取れててよかった。

「ありがとうミディアちゃん。」

 琴音はまた泣いてた。

「琴音、今日もまた泣いてるよ。泣きすぎだよ。」

「そういうミディアちゃんだって泣いてるよ。」

 本当だ。

 いつの間にか、私も泣いていた。

 琴音の笑顔がまた見られて安心したら、自然と涙が出ていた。

「本当に2人とも泣き虫なんだから。」

 ラーファに頭を撫でられた。

 そして、その脇で、アイがまた明後日の方向を向いていた。

 また何か変なことを妄想しているんだろうか?


「ねえ、ラーファ。

 琴音がいい点数取れたんだから、ちゃんとした琴音の姿を念写してよ。」

 今度こそ、エレーネ先輩やアイに本当の琴音の姿を知ってもらいたかった。

「えっ、こないだのあれって琴音じゃないの?」

 エレーネ先輩とアイはショックを受けていた。

「うん、こないだのは、ラーファの創作がかなり混ざってたんだよね。

 だから、今度は私の部屋で琴音を念写してほしいの。

 そうしたら、私がイデアフィールズでチェックできるから。」

「ミディア、そんなに私のことが信用できないの?」

「ウン。」

 即答したら、ラーファすごい落ち込んじゃった。

 でも、前科があるし、信用できるわけないじゃない。

「ハイハイ、わかりましたよ。」

 なんか少し怒ってるけど、悪いのはラーファの方なんだからね。

「どうしよう、私、今日、普通にパジャマだよ。」

 琴音は琴音でなんか慌ててるし。

「こんなことだったら、もっとおしゃれをしてくるんだった。」

 琴音は頭を抱えていた。

 確かに、いきなり言い出した私にも問題があったかもしれない。

「ラーファ、こないだの服で、正確な琴音の姿を念写してほしい。」

「無茶言わないでよミディア。」

 ラーファに怒られた。

「それは無理だわ。

 念写は正確に目の前のものを映すだけでも難しいんだから。

 それこそ空想士でもない限り無理だと思う。」

 エレーネ先輩がそう言うんだったら、多分そうなんだろう。

「じゃあ琴音、明日おしゃれしてきてよ。

 ラーファ、明日琴音を念写してくれる?」

 琴音とラーファにそう提案すると、ラーファはいいよと頷いてくれた。

 でも、琴音はしばらく考えた後、首を横に振った。

「ウウン、このままでいい。

 ラーファちゃん、今日、私を念写して。」

 琴音も明日にすると言うと思ってただけに、これは意外だった。

「琴音、いいの?その姿で?」

 ラーファも琴音のことを気遣ってくれた。

 でも、琴音はいいと頷いた。


「今日、友達の日花里ちゃんにも言われたんだよ。

 私がこれからもずっとラーヴォルンに行ける保証なんてないんだってね。

 だから、今日を大事にしたい。

 ミディアちゃんと一緒にいられる時間を大事にしたいんだよ。」

 琴音がいきなりそんなこと言い出すなんて思わなかった。

 私も同じ不安を持っていたから・・・

 琴音の気持ちがすごい嬉しかった。

「だから、ラーヴォルンに来たら、あまりやり直しとかしたくないんだ。

 せっかく今日、ミディアちゃんが念写をしようって言ってくれたんだから、今日やろうよ。」

 まさか、琴音がそんな風に考えてくれていたなんて思わなかった。

 琴音が私と過ごす時間をすごい大事にしてくれていることがわかって、とても嬉しくて、胸が熱くなった。

「ありがとうミディアちゃん。」

 琴音が私に抱きついてきた。

 もちろん、琴音は私に触れられないけど、でも暖かいぬくもりを感じることができたような気がした。

「今日もこうやってずっとミディアちゃんにくっついてるんだ。」

「琴音・・・」

 多分、今、私の顔は緩みきっているんだろうなあ。

「今日は朝からずっと不安で不安で仕方がなかったんだよ。

 だから、ミディアちゃんと会えて、本当によかった。」

 琴音はそう言うと、なんと私のほっぺにキスしてきた。

 これには、さすがにビックリした。

「こ、琴音・・・さ、さすがにそれはやりすぎだよ。」

「ミディアちゃん、顔真っ赤だよ。

 そんなミディアちゃんもかわいい。」

 琴音はそう言うと、また私に抱きついてきた。

「ねえ、ミディアちゃんも私のほっぺにチューしてよ。」

「ええっ、わ、私も!?」

 今日の琴音はいつも以上にスキンシップが激しすぎるよ。

 それに、さすがにこんなに大勢の人前で・・・

 でも、冷静に考えたら、琴音の姿が見えるのってラーファだけだよね。

 それに、実際には私達は互いに触れることができない。

 じゃあ、ちょっとぐらいいいかな。

 目を瞑ると、琴音のほっぺのある場所に、そっと唇を寄せた。

「キャーーーッ、ミディアちゃんにチューされちゃった。」

 琴音は顔を真っ赤にしながら、そう叫んでいた。

「琴音、すごい顔真っ赤だよ。」

「ミディアちゃんだって。」

 私達はしばらく顔を見合わせた後、大笑いした。

 ウン、今日は私も琴音も少しおかしい。

 でも、なんかすごい心がパーッと晴れた気分になった。

 きっと、琴音もそうなんだと思う。


「ねえ、これって今どういう状況ですか?」

 アイがラーファに今の状況を確認していた。

 でも、ラーファの表情はなぜかすごい強張っていた。

「琴音とミディアが互いに愛の告白をして、キスしあってるのよ。」

「ええっ、愛の告白!?キス!?」

 それを聞いて、アイは甲高い声をあげた。

「ちょ、ちょっとラーファ、変なこと言わないでよ。」

 急にすごい暑くなったような気がした。

 実際は、私の体温が熱くなってるだけだと思うけど。

「ミディア、さっきからずっと顔がすごい真っ赤だよ。」

 いつの間にか、エレーネ先輩はイデアルーンで撮影していた。

「ちょっと、エレーネ先輩、撮影をやめてください。」

「いいじゃん、今のミディア、すっごいかわいいよ。」

 ラーファに愛の告白とか言われるし、真っ赤になっているところをエレーネ先輩に撮影されているし。

 そして、相変わらずその横ではアイが何やら妄想しているし。

 なんだか頭がボーッとなってきて、わけがわからなくなってきた。


「さっさとミディアの部屋に行くわよ。」

 突然、ラーファが強引に私の手を引っ張った。

「あっ、ラーファ、もしかしてやきもち妬いてるな。」

「妬いてないわよ。」

 ラーファはすごい剣幕でそう言うと、私の手を強く引っ張った。

 私は、ラーファに引っ張られるまま、家へと向かうことになった。

 ちなみに、琴音はと言うと、部屋に着くまでずっと私に抱きついたままだった。


「ミディア、いつまでぼーっとしているつもり?」

 ラーファにバシッと頭を叩かれる。

「あれっ、いつの間にかもう部屋についてる。」

 途中、どうやって部屋に戻ってきたのかも覚えていなかった。

「いやあ、ミディア、今日はいい映像が撮れたよ。ありがとう。」

 エレーネ先輩はすごい満足な笑みを浮かべていた。

 一体どんな映像を撮られたのか、すごい気になる。

 アイは・・・もうほっとこう。

 部屋に戻ってきたことだし、早速念写の準備をしないとね。

 机から新しいイデアを取り出して、ラーファに手渡した。

「じゃあ、ラーファ、琴音の念写お願いね。」

「無理。」

 ラーファは即答した。

「さっき、してくれるって言ったのに、どうしてよ?」

 ラーファに尋ねるけど、ラーファは何も答えてくれなかった。

「ラーファの代わりに私が答えようか?」

 代わりにエレーネ先輩が答えてくれた。

「念写ってのは精神を集中させないと難しい。

 でも、今のラーファは琴音への嫉妬でそれどころではない。

 そう言うことだよ。」

「ちょっと、私が嫉妬しているように見えるの?」

「ウン。」

 エレーネ先輩は即答した。

 でも、ラーファはどうして琴音に嫉妬してるんだろう?

「ええっ、ラーファちゃん、私に嫉妬しているの?」

 琴音も驚いてるみたいだった。

「だって・・・だって・・・だってえ・・・」

 なんか、ラーファが子供みたいに泣きじゃくってるよ。

 こんなラーファを見たの、初めてだ。

「ラーファ先輩・・・」

 そして、正気に戻ったアイが、子供みたいなラーファを見て驚いていた。

 アイはラーファのしっかりしたところに憧れてたから、何気にショックだったんだろうね。


「どうしてラーファが嫉妬してるの?

 私と琴音って、いつもこんな感じだったでしょ。」

「どうみても、いつも以上でしょ。」

 ラーファにきっぱりと言われた。

 まあ、確かに私も琴音も気持ちが昂ぶってたから、いつもよりスキンシップが激しかったとは思う。

 でも、ラーファに嫉妬されるようなことは、何もしているつもりないんだけど・・・

「どうしてラーファが怒ってるのか、私達の方がわかんないよ。

 ねえ、琴音。」

 私はずっと抱きついている琴音に尋ねると、琴音も笑顔でウンと頷いた。

「ちっがーう、絶対にいつもと違うよ。」

 ラーファは、あくまで私と琴音がいつもと違うと言う。

 心なしか、さっきよりも怒っているような気がする。

「自覚がない人に何を言ってもダメだし、嫉妬に狂ってる人に何を言ってもダメ。

 つまり、この状況は、完全にお手上げってことだよ。」

 エレーネ先輩は深いため息をついた。


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