27.ニコちゃんと仲良くなった
<<琴音>>
チャイムが鳴ると、日花里ちゃんが私の席にやってきた。
「琴音、まずは第一関門突破だね。」
「ウン。」
そう、これはまだ第一関門でしかない。
次の国語を突破してこそ、本当の成功なのだ。
「アンタ、国語は酷語って言うくらい嫌ってたけど、今回は自信あるんでしょ?」
「ウーン、どうだろ?わかんない。」
そう、国語に関してはわからないというしかなかった。
いつもできたと思っても、帰ってきたテストの点数は思わしくない。
本当に苦手で仕方がなかった。
「それにしても、まさか90点とはね。
本当によく頑張ったわね、琴音。」
「ありがとう、日花里ちゃん。」
「由姫咲さんすごいよ。90点だなんて。」
二小柴さんもほめてくれた。
「ありがとう、二小柴さん。」
私がそう言うと、日花里ちゃんは驚いた表情になった。
「あれっ、アンタ達2人って仲良かったっけ?」
「ああ、さっき声かけて仲良くなったんだよね。」
「ウン。」
「そっか、ニコは前から琴音と話したいって言ってたもんね。」
「もう、そういうこと言わないでよ。」
二小柴さんは少し照れていた。
日花里ちゃんと二小柴さんって仲いいんだね。
二小柴さんのことをニコって呼んでるし。
同じクラスだったのに、全然知らなかったよ。
「でも、どうして私と?」
「だって、せっかく席が近くになったんだから、仲良くなりたかったんだよ。
でも、由姫咲さん、なんかずっと話しかけないでオーラ出してたからね。」
「入学した頃の琴音は、本当に毎日がつまらなそうで、誰も寄せ付けないオーラ出してたからね。」
日花里ちゃんがそう言った。
以前の私って、そんなに話しづらいオーラ出してたんだ。
「でも、最近になって、由姫咲さん変わったよね。
なんか毎日楽しそうで、今ならお友達になれるかなって思って。」
確かに、今は毎日楽しい。
それは、きっとラーヴォルンに行けるようになったからだと思う。
そうだとすれば、二小柴さんと友達になれたのは、ラーヴォルンのおかげだ。
「ところで、日花里ちゃんは数学のテストどうだったの?」
二小柴さんが日花里ちゃんに尋ねると、日花里ちゃんは大きくため息をついた。
「ウン、ミスっちゃったよ。」
日花里ちゃんはそう言うと、私達に答案を見せてくれた。
ミスっちゃったと言う答案には、96点という数字が大きく書かれていた。
「ミスっちゃっても96点なんだ・・・」
90点で泣くほど喜んでいた私って・・・
そうこうしているうちに、チャイムが鳴った。
次の国語は黙下先生だ。
すごい物静かな先生で穏やかな男の先生だった。
そのせいか、自然と教室が静まり返った。
「では、テストを返します。」
黙下先生は、静かに生徒の名前を呼ぶ。
何ていうか、すごい低い声で呼ばれるので、呼ばれる方もなんか仰々しく返事してしまう。
「・・・二小柴さん。」
「ハ、ハイ。」
おずおずと前にいく二小柴さん。
そして、おずおずとテストを受け取る二小柴さん。
点数を見てもはしゃぐことも落ち込むこともせずに、おずおずと席に戻る二小柴さん。
二小柴さんに限らず、他の生徒も同じ感じだった。
この先生の醸し出すオーラがそうさせてるのだろうか?
その時、二小柴さんの言っていたことが脳裏によぎった。
「でも、由姫咲さん、なんかずっと話しかけないでオーラ出してたからね。」
少し前の私もこんな感じだったのかな?
いや、ここまでは酷くなかったと思いたい。
「どうだった、二小柴さん?」
小声で二小柴さんに尋ねる。
「んーまあまあかな。」
そう言って、答案を見せてくれた。
二小柴さんの国語の答案には、78点と言う数字が書かれていた。
「すごいね、二小柴さん。」
「いや、すごいというほどじゃないよ。」
いや、酷語な私にとっては奇跡の数字だよ。
「・・・藤島さん。」
「ハイ。」
今度は日花里ちゃんが呼ばれた。
日花里ちゃんは元々国語は得意じゃない。
というか、どちらかというと苦手だと言っていた。
とはいえ、私の酷語ほどひどい点数じゃないけどね。
答案を見て、日花里ちゃんは大きくため息をついていた。
やはり、あまり結果がよくなかったのだろう。
「・・・由姫咲さん。」
あっ、私の番だ。
「ハ、ハイ。」
答案を受け取りに前に静々と歩いていく。
そして、テストを受け取ると、静々と席に戻った。
数学の時みたいに大騒ぎしたらマズいと思ったからだ。
「どうだった、由姫咲さん?」
「まだ見ていない。」
「じゃあ、一緒に見ようよ。」
「ウン。」
私は胸に抱えているテストを、そっと机の上に置いた。
答案の数字を見た瞬間、私は思わず大声を上げそうになったけど、私の口をとっさに二小柴さんが塞いだ。
「ゴメン。」
「いいよ。そんなことより、由姫咲さんすごいね。」
二小柴さんは驚いていた。
でも、それ以上に私が驚いていた。
私のテストの答案には88点という数字が書かれていた。
「私、国語で60点以上取ったこと、今まで一度もなかったのに。」
「それは・・・さすがにどうなんだろう。」
二小柴さんはそう言うけど、本当に苦手な科目だったんだよ。
私の今回の戦いは、数学で90点、国語で88点を取ることができた。
これでミディアちゃんにいい報告ができる。
早く夜にならないかなあ。
国語のテストが帰ってきてからは、ミディアちゃんのことばかりずっと考えていた。
気がつけば下校時刻になっていた。
と言っても、期末テストが終われば、学校は半日で終わりだったんだけどね。
「日花里ちゃん、私、琴音ちゃんに全敗だよ。」
二小柴さんが日花里ちゃんに泣きついていた。
でも、しばらくして慌てて頭を上げた。
「あっ、由姫咲さんのこと、琴音ちゃんって呼んでもいい?」
名前で呼んだことをマズいと思ったのか、そう聞いてきた。
そんなこと、わざわざ確認しなくてもいいのに。
「ウン、別にいいよ。」
「よかった。」
「アンタ達、すっかり仲良くなったわね。」
日花里ちゃんにそう言われた。
確かにそうかもしれない。
なんか、今日一日で二小柴さんと友達になれた気がする。
「ウン、私も二小柴さんと仲良くなれてよかった。」
「じゃあ、私のことも下の名前で呼んでよ。」
二小柴さんがそう言ってきた。
「えーっと、じゃあ・・・み―――」
「ダメよ。」
日花里ちゃんが遮った。
「琴音、この子はニコよ。」
なんだかわからないけど、日花里ちゃんが強くそう言ってきた。
「日花里ちゃん、その呼び方はやめて。
美咲ちゃんって呼んでよ。
琴音ちゃん、お願い。」
「ウン、わかったよニコちゃん。」
「うわああああ。」
私がニコちゃんって読んだら、思い切り頭を抱えて崩れ落ちた。
そんなに嫌なのかなあ。
ニコちゃんってかわいいと思うけどなあ。
「よくやった、琴音。」
日花里ちゃんは私の肩をポンと叩いて、ニヤリと笑った。
なんだかんだで、私も日花里ちゃんに毒されてるのかもしれないと思った。
ニコちゃんと途中まで同じ帰り道だったので、一緒に帰ることにした。
今日は部活が休みらしく、珍しく日花里ちゃんも一緒だった。
「ニコちゃんは部活に入ってないの?」
「もう、ニコちゃんはやめてよ。」
「でも、かわいいと思うけどなあ。」
「私、名前で呼ばれるのが好きなのに、みんなニコちゃんって呼ぶんだもん。」
呼び方ってそんなに気になるものかなあ?
「ニコちゃんって、日花里ちゃんと仲がいいんだね。」
「また、ニコちゃんって言うし・・・」
ニコちゃんはすっかり落ち込んでしまった。
じゃあ、名前で呼んであげるかな。
「美咲ちゃんは、日花里ちゃんと仲がいいんだね。」
私がそう言うと、美咲ちゃんの表情がパーッと明るくなった。
「琴音ちゃん、ありがとう。」
そして、私の両手をガシッと掴んだ。
そんなに名前で呼ばれるのが嬉しかったのかな。
ていうか、私の質問にはいつになったら答えてもらえるのかな?
「私と日花里ちゃんは、中学の部活が同じだったんだよ。」
そうだったんだ。
それは知らなかった。
私、中学も部活に入ってなかったからね。
「てことは、ニコちゃんは私達と同じ中学だったんだ。」
「また、ニコちゃんに戻ってる。」
また落ち込んじゃった。
なんだか、めんどくさい人だな。
「え、えっと、美咲ちゃんは私達と同じ中学校だったんだ。」
「ウン。」
「日花里ちゃんって中学の時、たしか文芸部だったから、二・・・美咲ちゃんも文芸部だったんだ。」
「そう、同学年だと私と日花里ちゃんだけだったからね。
3年間一緒の部活にいたら、自然と仲良くなるってもんよ。」
「でも、日花里ちゃん、高校になってテニス部に行っちゃったけどね。」
あれっ、ニコ・・・美咲ちゃんが落ち込んでる。
「どうしたのニコちゃん?」
「またニコちゃんに戻ってる。」
「・・・・・・・・・」
私は日花里ちゃんと顔を見合わせて、小さく頷いた。
「呼び方なんてそんなに気にすることないでしょ、ニコ。」
「そうだよ、ニコちゃん。」
「ちょっともうやめてよ。」
「私はニコちゃんってかわいいと思うけどなあ。」
「そうよ、あなたはニコでいいのよ。」
「ニコちゃん、ニコちゃん、ニコちゃん・・・」
「あなたはニコなんだからニコでいいのよ。ニコニコニコ・・・」
「いやあああ、やめてーーーー!!!」
ウーン、ちょっと悪乗りしすぎちゃったかな。
ニコちゃん、頭を抱えてしゃがみこんでしまったよ。
「ゴメンねニコちゃん、悪気はなかったんだよ。」
「そう、ちょっとからかっただけだから。」
日花里ちゃんはニコニコしながら謝ってるけど、絶対に反省してなさそうだ。
「それで、どうして日花里ちゃんがテニス部に入って落ち込んでたの?」
話を元に戻すことにした。
「だって、日花里ちゃん、高校でも文芸部に入るって思ったのに、テニス部に入っちゃったし。」
「ニコちゃんは文芸部に入らないの?」
私と一緒に帰っているということは、帰宅部のようだけど、どうなんだろう?
「だって、日花里ちゃんと一緒じゃないとつまらないもん。」
日花里ちゃんと一緒の文芸部って、そんなに楽しい部活なんだろうか?
こんなことだったら、中学の時に文芸部に遊びにいけばよかったなあ。
「じゃあ、ニコもテニス部に入ればよかったじゃない。」
「そうだよ、ニコちゃんもテニス部に入ればいいんだよ。」
「無理無理、私に運動部は無理だよ。」
どうやらニコちゃんも日花里ちゃんと同じで運動音痴みたいだ。
それにしても、すっかりニコちゃんで定着したみたいだ。
どうやらニコちゃんも諦めちゃったみたいだ。
ウーン、なんか悪いことしちゃったかもしれない。
「そうだ、琴音ちゃん、ラーヴォルンの話を私にも教えてよ。」
突然、ニコちゃんがそう言ってきた。
まさか、ニコちゃんにラーヴォルンのことを聞かれるとは思っていなかった。
「以前、ニコにラーヴォルンの話をしたら、すっかり夢中になっちゃってね。
よかったらラーヴォルンの話をしてやってよ。」
ラーヴォルンの話を聞いてくれる人が増えるのは、私にとって嬉しいことだった。
「ウン、喜んで。」
私はいろんなことを話した。
ミディアちゃん、ラーファちゃん、エレーネちゃん、アイちゃんのこと
魔法のことや魔法学校のこと、コンサートのことやイデアのことを色々話した。
「もうね、みんなすっごいかわいいんだよ。
最近じゃあ、ミディアちゃんと一緒にいるだけで、頬が緩みっぱなしだと思うよ。」
「へえ、そうなんだ。
いいなあ、私も行ってみたいなあ、ラーヴォルンに。」
ニコちゃんはそう言った。
てっきり夢の話だと言われるかと思っただけに、少し驚いた。
「ニコちゃんは私の話、信じてくれるの?」
「信じてるから、話を聞かせてもらったんだよ。
こないだ、日花里ちゃんもラーヴォルンは実在したって言われたしね。」
そっか、日花里ちゃん、あの時のことを話したんだ。
「今度、私も琴音ちゃんの家にお泊りしに行ってもいい?」
「ウン、いいよ。」
私がそう答えると、ニコちゃんは大喜びしてくれた。
ラーヴォルン仲間が増えることは、私にとっても嬉しい。
ニコちゃんがラーヴォルンに行きたいって言うんだったら、私にできることは何でもするよ。




