26.期末テストが返ってきた
<<ミディア>>
「ミディア、なんか大変だったみたいね。」
帰り道、ラーファが私にそう言った。
「ウン、あの映像のことを思い出そうとすると、すごい頭が痛くなるんだよ。」
「実は、私もそうなんだよね。」
そっか、ラーファもあのイデア見たんだ。
で、きっとラーファも・・・
ラーファも私と同じくらい怖がりだもんね。
わかるよ。
「ていうか、あんな映像を思春期の女の子に渡すっておかしくない?」
突然、ラーファが怒りだした。
まあ、私もそう思うけど、なんでラーファは怒ってるんだろう。
「エレーネもエレーネだよ。
怖がりのミディアが映像見て、ショック死する可能性を考えなかったなんて。」
ラーファは私のことを、何だと思ってるんだろう。
いくらなんでも、そんなに簡単に死ぬつもりはないよ。
「ミディアが倒れたって聞いた時は、本当に頭の中真っ白になったんだからね。」
「ゴメンねラーファ、何か心配かけちゃったみたいで。」
「ウウン、ミディアが無事で本当によかった。」
突然、ラーファが私に抱きついてきた。
「ちょっと、ラーファ、暑いよ。」
ラーヴォルンは真夏は過ぎて、そろそろ秋に差しかかろうとしていた時期だけど、それでもまだまだ暑い。
ただでさえ暑いのに、ラーファに抱きつかれたら、暑く苦しくてかなわないよ。
「まあまあ、ミディア、そんなこと言わないで。」
でも、ラーファは私にすがりついてくる。
「ラーファって、最近なんか姉っぽくなくなったよね。」
私がそう言ったら、ラーファはなんかショックを受けていた。
「なんて言うか、最近のラーファは姉というより妹みたいだよ。」
「そ、そんなバカな・・・
学校では同級生からしっかりしててお姉さんっぽいって言われているのに。」
「それは、普段のラーファの姿を見ていないからだよ。」
私がそう言うと、ラーファはまたショックを受けていた。
以前、というか数日前までは、確かにラーファは私にとって姉みたいな存在だった。
ちょっと心配性なところもあったけど、私のことを気にかけてくれる素敵なお姉さんって感じだった。
でも、最近、というかここ数日のラーファの様子は、なんか違う。
もちろん、今のラーファも嫌いじゃないけど、前より姉っぽさがなくなったというか・・・
どちらかというと、私の方が姉っぽいくらいだ。
もしかしたら、何か悩みでもあるのかな?
「やっぱり、こうしているのが一番落ち着くわあ。」
この暑い中、ラーファはギュッと抱きついてきた。
周りの観光客が、私達を見て
「見て見て、あの二人仲のいい2人ね。」
とか言って通り過ぎていく。
でも、当の抱きつかれている本人が思っていることは一つだけだった。
「あーもう暑苦しいよ。」
何とかラーファを離そうとしたけど、結局ルーイエ・アスクに戻るまでラーファは私にしがみ続けた。
おかげで、家に着くころには、汗でぐっしょりになってしまった。
夕飯の前に、お風呂に入りたい。
そう思っていたら、ラーファが話しかけてきた。
「ミディア、今日は一緒にお風呂に入ろうね。」
「・・・・・・」
本当に、最近のラーファは、何かおかしい。
心の底からそう思った。
「そう言えば、おばさんにイデア没収されそうになってたけど、あれからどうなったの?」
さりげなく話題を変える。
すると、ラーファの表情がさっきまでと一変して、泣きそうな表情になった。
「そう、それなんだけど、聞いてよミディア。」
よかった、ラーファが話に食いついてきてくれた。
うまいこと話を逸らすことができてよかった。
ラーファが泣きそうな顔に変わったところを見ると、必死に守ろうとしたけど、結局イデアは取られちゃったんだろうな。
そこから、夕食の時間まで、ラーファの愚痴を聞かされる羽目になった。
ラーファの愚痴を聞きながら思った。
「そう言えば、ラヴィおばさんはどうしてラーファのイデアを没収しようとしたんだろう?」
ラーファに聞いてみたけど、ラーファは「知らないわよ。」の一言で済ませてしまったので、結局理由はわからず、ただただラーファの愚痴で無駄な時間を浪費することになった。
よっぽど頭に来ていたみたいだけど、愚痴を聞かされるこっちの身にもなってほしい。
ラーファのおかげで結局、夕飯の前にお風呂に入ることはできなかった。
<<琴音>>
なんだろう。
朝からすごい気分がもやもやする。
多分、ミディアちゃんとお別れの挨拶ができなかったからだと思うけど・・・
それにしても、ミディアちゃんって本当に怖がりだったんだね。
確かにお化けのインパクトはすごかったけど、あの程度、こっちのアニメや映画では普通にあるからね。
日本のホラー映画とか見たら、ミディアちゃん、最初から最後までずっと気絶してそうだ。
「でも、気絶しているミディアちゃんもかわいかったなあ。」
そんなことを考えていると、日花里ちゃんが声をかけてきた。
「どうしたの琴音、今日は朝から元気がないみたいだけど・・・」
「いや、元気がないってわけじゃないんだけど、ミディアちゃんとお別れの挨拶ができなくて、ちょっともやもやしているだけだよ。」
「そっか、じゃあ、このままラーヴォルンに行けなくなったら、ミディアちゃんとはお別れせずに永遠の別れってことになるんだ。」
またこの子は、縁起の悪いことをさらっと言ってくれるよ。
「もう、今日だって、ちゃんとラーヴォルンに行くよ。」
「でも、琴音は自分がどうやってラーヴォルンに行けるかわかってないんでしょ?」
「うっ。」
それを言われると辛い。
「だから、ある日突然、ラーヴォルンに行けなくなるってことだってないとは言い切れないでしょ。」
日花里ちゃんの話を聞いてると、だんだん不安になってきた。
でも、日花里ちゃんは振り返ると、私に笑顔でこう言った。
「だから、一日一日を大切に過ごさないとね。」
「ウン。」
確かに日花里ちゃんの言う通りだ。
最近、夜寝たら当たり前のようにラーヴォルンに行けると思い込んでいたけど、日花里ちゃんの言う通り、いつ行けなくなるかわからないもんね。
こういうのって、やっぱり思春期特有のもので、大人になったらいけなくなるってパターンなのかなあ?
・・・やめよう。
今からお別れする時のことなんて考えたくない。
でも、今は毎日毎日を大切に過ごそう。
日花里ちゃんの話を聞いてそう思った。
「日花里ちゃんの話を聞くと、いつも不安に気持ちになるよ。」
日花里ちゃんのおかげで、今すぐラーヴォルンに行きたくなってきた。
でも、日花里ちゃんは私が抗議しても、ニコニコしていた。
ダメだこりゃ。
「それに、今日は大事なテストが帰ってくる日でしょ。」
「そうだった。確か今日だった。」
ここ数日、色んなことがありすぎて、すっかり忘れてた。
私とミディアちゃんは、テストの点数の勝負をしていた。
そして、今日はいよいよ数学と国語のテストが帰ってくる日だった。
中間テストの時は、数学と国語以外の科目は平均点以上は確保できていた。
しかし、数学と国語だけは平均点を大きく下回ってしまった。
よく追試とかにならなかったものだ。
それくらい酷い点数だった。
「そっかあ、今日帰ってくるんだ。
じゃあ、ミディアちゃんの結果が出るのは明日だよ。」
確か、私のテストが帰ってくる次の日だって言ってたからね。
「琴音、いい点数取れてるといいわね。」
「ウン。」
ミディアちゃんにいい点数取れたことを報告できるといいなあ。
よし、なんかやる気が出てきたぞ。
今日の1時間目は、いきなり数学だった。
期末テストでは、私はできる限りのことはやったつもりだ。
だから、あとは結果を待つのみ。
そう思い、授業が始まるのを待っていたら、
「ねえ、由姫咲さん。」
前の席に座っている女の子が、いきなり私に話しかけてきた。
前の子とはほとんど面識がなかったので、いきなり声をかけられてびっくりした。
「は、はい?」
だから、返事がすっとんきょうな声になってしまった。
前の席の子って、なんて名前だったっけ?
「由姫咲さん、今日の数学と国語のテストの点数を、夢の世界の子と勝負してるって聞いたよ。」
えっ、一体誰からそんな話を・・・て私以外にこの話を知っている人物は一人しかいない。
日花里ちゃんの仕業か。
夢の話だと聞いて、てっきりバカにされるかと思いきや、
「いい点とれてるといいね。」
意外な反応が返ってきた。
「ウン、そうだね。」
思わず普通に会話しちゃったけど、この子の名前なんだっけ?
「でも、よかった。」
「えーっと何が?」
「私ね、日花里ちゃんにこの話を聞いてから、ずっと由姫咲さんとお話ししてみたかったんだよ。
だから、こうやってお話しできてよかった。」
「そうだったんだ。」
ラーヴォルンの話を日花里ちゃんから聞いて、私と話してみたくなったってことは、もしかして、この子もラーヴォルンに興味を持ってくれたってことかな?
ていうか、名前なんだっけ?
本当に思い出せないや。
せっかく、ラーヴォルン仲間を増やせるかもしれないのに、名前すら思い出せなんて。
チャイムのベルが鳴るのとほとんど同時に先生が教室に入ってきた。
数学の小田切先生はフレンドリーな女の先生だ。
みんなからは、小田切ちゃんって言われてる。
「はーい、みんなが楽しみにしている数学のテストを返します。」
先生がそう言うと、教室中がざわめく。
まあ、テストが帰ってくる時って、いつもこんな感じだよね。
「じゃあ、名前を呼ばれた人は前まで答案を取りに来てください。」
小田切ちゃんはそう言うと、次々と生徒の名前を呼び始める。
名前を呼ばれた生徒は前に答案を取りに行く。
そして、その後はだいたいいつもと同じ光景。
「お前、点数どうだった?」
「まあまあ、お前は?」
「まあまあかな。」
こんなやりとりが教室のあちこちで起こっていた。
「二小柴さん。」
「はい。」
小田切ちゃんが名前を呼ぶと、前の席の子が立ち上がった。
そうだ、思い出した。
前の席の子の名前。
たしか、二小柴 美咲ちゃんって名前だったはず。
一応、同じクラスメートで自己紹介も聞いているので、名字さえわかれば名前までつながる。
「あちゃー。」
二小柴さんはテストを見るなり、答案に顔を埋めてそう呟いていた。
どうしよう、声をかけた方がいいのかな?
でも、1学期一緒にいたけど、ついさっきまで全く話したこともない子に、気軽に声をかけていいものかな?
そう思っていたら、二小柴さんの方が声をかけてきた。
「あまりいい点数じゃなかったよ。」
そう言って、わざわざ私に答案を見せてくれた。
テストの点数は58点だった。
確かにあまりいい点数ではないけど、でも私の中間テストの点数に比べればはるかにいい点数だ。
「中間テストの私の点数よりも、ずっと上だよ。」
私がそう言うと、二小柴さんは驚いていた。
「えっ、琴音ちゃん、数学、本当に苦手なんだね。
私よりも悪いなんて相当だよ。」
「ウン。」
私が思うに、58点ってそんなに悪い点数ではないと思うんだけど・・・
「藤島さん。」
今度は日花里ちゃんの名前が呼ばれた。
日花里ちゃんは答案を受け取る。
そして、テストの点数を見て、短い舌打ちをした。
「チッ。」
なんだろう?
日花里ちゃん、すごい不機嫌そうだ。
まさか、日花里ちゃん、数学の点数悪かったのかな?
でも、日花里ちゃんは数学が得意だったはず。
「由姫咲さん。」
おっと、私の名前が呼ばれた。
いよいよ、テストとご対面だ。
「せめて60点は取れてますように。」
本当は50点でも上出来なんだけど、それではミディアちゃんに会わせる顔がない。
せめて、半分以上はできてないと。
だから、半分よりも上と言うことで60点を超えるのを目標にしていた。
小田切ちゃんのところに、答案を受け取りに行く。
小田切ちゃんは、答案を私に渡す時に、「よく頑張ったね。」と言ってくれた。
もしかしたら、これは60点を超えているのかな。
そう淡い期待を抱きながら、答案を覗き込んだ。
「ええっ!!!!」
答案を覗き込んで、教室中に響き渡るぐらいに絶叫してしまった。
教室の中にいる全員の視線が私の方を向いた。
いつもだったら、みんなからの視線で恥ずかしくなってしまうところだけど、今に限っては驚きでそれどころではなかった。
それぐらいの衝撃を受けていた。
「由姫咲さん、どうしましたか?」
小田切ちゃんが私に声をかけてくる。
「せ、先生、これ、私の答案ですよね?」
なんか変なことを聞いてしまった。
でも、私の持っている答案に書かれている数字が、どうしても信じられなかった。
「ええ、それはあなたの答案ですよ。
本当によく頑張りましたね。」
そっか、本当に私の答案なんだ。
信じられなかった。
60点を超えていれば上出来だと思っていたその答案には、大きく90点という数字が書かれていた。
私が数学で90点取ったんだ。
ずっと数が苦だったのに、まさかの90点だよ。
本当に信じられなかった。
「琴音、どうしたの?」
日花里ちゃんが、心配そうに声をかけてきた。
「ひ、日花里ちゃん・・・見てよ、90点だよ。
私、あの数学で90点取ったよ。」
私が答案を見せると、日花里ちゃんもびっくりしていた。
「90点はすごいわね。」
「由姫咲さん、すごいね。」
二小柴さんも私に声をかけてきてくれた。
「こ、これ、夢じゃないよね?
ドッキリじゃないよね?」
「アンタをドッキリにかけるために、先生がそんな答案用意するわけないでしょ。
本当に頑張ったわね琴音。」
日花里ちゃんにそう言われた瞬間、私は涙をこらえきれなくなってしまった。
「やったよ日花里ちゃん、私やったよ。」
気がつけば、私は日花里ちゃんに抱きついて泣いていた。
「やっぱり、琴音は泣き虫よね。」
「だって・・・こんな点数が返ってくるなんて思ってもなかったんだもん。」
「ていうか、またみんなの注目浴びてるわよ。」
気がつけば、またしてもクラス中の視線を独り占め状態だった。
「私も期末テストの点数で大泣きした子には、初めて出会いました。」
小田切ちゃんがそう言うと、クラス中が笑いであふれた。
「ハイハイ、みんな席について。
じゃあ、これからテストの復習をしましょうね。」
小田切ちゃんがそう言うと、みんな席につく。
私も自分の席に戻った。
それから、期末テストの復習が始まったけど、私の頭の中には全然入ってこなかった。
数学の全校平均点は54点だったということも、後から日花里ちゃんに聞くまで知らなかった。
早くミディアちゃんに報告したい。
もうそのことしか私の頭の中にはなかった。




