3.ちょっと不思議な出会い
<<ミディア>>
えーっと、どうしたらいいんだろう?
突然、光輝く女の子が現れたと思ったら、私の方にやってきて、いきなり声をかけてきた。
彼女の話す言葉は、全く聞いたことのない言葉のはずなのに、なぜか彼女が何を言ってるのかわかるような気がした。
多分、彼女は私に自分の姿が見えるかどうかを聞いてきたのだろう。
でも、どうしてそんなことを聞いてくるのかな?
やっぱり、他の人達には彼女の姿が見えないのかな?
もしかして、私にだけ見えてるってこと?
「えっと、あの、その・・・」
元々人見知りの私は、どう答えていいのかわからず、しばらく固まっていたら、
「ねえ、私の姿見えてるんでしょ。お願い、返事してよ。」
目の前のその子は目を潤ませながら、私のすぐ目の前にまで近寄ってきた。
その子のこちらを見る表情があまりにも可愛くて、なんかすごいドキドキした。
それにしても、す、すごく近い。
私の顔のすぐ前に彼女の顔があるせいか、私の鼓動がどんどん激しくなっていく。
彼女は、私の返事を待つように、ずっとこちらを見つめているし。
これ以上はもう耐えきれませんでした。
「は、はい・・・」
そう答えると、目の前の女の子は満面の笑みを浮かべました。
すごいかわいい。
同じ女の子なのに、すごいドキドキしちゃった。
その子は、よっぽど嬉しかったのか、私に抱きつこうとしてきました。
でも、彼女の体は、私の体をすり抜けてしまいました。
どうやら、彼女は私に触れられないようです。
見た目はかわいいけど、どう見ても普通の人間ではありません。
これって、やっぱり彼女がルフィルってことなのかな?
「あのう・・・」
勇気を振り絞って、こちらから聞いてみることにしました。
「なあに?」
すると、目の前の女の子は、嬉しそうにこちらを見つめてきた。
「あ、あなたは・・・もしかしてルフィルですか?」
私の質問に、彼女はしばらくきょとんとしていた。
しばらく何か考えているようだったけど、1分ほど経ってから、逆に私にこう尋ねてきた。
「ルフィルって何?」
あれっ?
彼女はルフィルを知らない。
ってことは、彼女はルフィルではないってこと?
ルフィルの儀式の中で、突然現れた光輝く女の子。
絶対に彼女がルフィルだと思ったのに・・・
「そんなことより、ねえ・・・」
今度は彼女の方から私に声をかけてきた。
「な、何でしょう?」
「ここって、一体どこ?」
彼女の質問に、今度は私が驚いてしまった。
これって、もしかして噂に聞く召喚魔法ってやつかな?
ルフィルの儀式は実は召喚魔法で、間違って彼女が呼び出されてしまったってことかな?
よくわからない。
わからないけど、それはそれで、なんかすごい興味が出てきた。
「ここは、リーヴァ王国にあるラーヴォルンって街ですよ。」
「へえ、ラーヴォルンって街なんだ。すごいきれいで賑やかな街だね。」
その子は、周りの景色をしばらく見渡していました。
ていうか、普通に空飛んでるんだけど、もしかして彼女は大魔導士なのかな?
目の前の女の子と話して慣れてきたのか、私の心にも少し余裕ができてきました。
とりあえず、彼女についてもっと知りたくなったので、もう一度質問してみることにした。
「ところで、あなたはどこから来たのですか?」
私が声をかけると、その子は私の近くに降りてきた。
「私は赤川市ってところに住んでるんだよ。
わかるかな?日本って国にある赤川市。」
二ホン?アカガワシ?
アトゥアにそんな国や街あったっけ?
「あっ、そうだ。」
突然、目の前の女の子が、何かを思いついたように私に声をかけてきた。
「な、なんですか?」
「そう言えば、自己紹介がまだだったよ。
私の名前は由姫咲 琴音。
琴音って呼んでくれていいよ。」
目の前の彼女が突然、自己紹介をしてきた。
ユメサキ コトネ?
なんだか、少し変わった名前だなあ。
まあ、私の名前も変わっているって言われるから、人のこと言えないけどね。
多分、琴音はアトゥアでも、私のほとんど知らない国から来た人なんだろう。
「私の名前はミディア・スフィルラン・ラーヴォルン。
ミディアって呼んでください。」
「ミディアちゃんか、よろしくね。」
琴音はそう言うと、また私に抱きつこうとしてきた。
でも、やっぱり彼女の体は私の体をすり抜けてしまった。
どうやら、私と琴音は互いに触れることができないみたい。
「んもう、どうしてこんなにかわいい女の子と友達になれたのに、スキンシップもできないなんて。」
目の前の琴音は、少しイラッと来ているようだった。
ていうか、知り合ったばかりの人に、いきなり抱きつくってどうなんだろう?
「それで、ミディアちゃんは何歳なの?」
「こないだ16歳になったばかりです。」
私がそう答えると、琴音はすごく嬉しそうな表情で、また私のすぐ目の前まで顔を近づけてきた。
「16歳なの。
私もこないだ16歳になったばかりなんだよ。」
琴音は嬉しそうにそう話した。
でも、本当に顔近いよ。
二ホンの人は、みんなこんな感じなのかな?
「ねえ、その子、一体誰?」
背後から、ラーファの声が聞こえてきた。
そう言えば、さっきからラーファ、ずっと空気みたいに静かだったな。
ラーファの方を振り返ると、なんだかラーファ、かなり怯えているようだった。
「えーっと、この子は由姫先 琴音さんだよ。」
私はラーファに琴音を紹介する。
でも、ラーファの表情は引きつったままだ。
「いや、そうじゃなくて、彼女は一体何者よ?」
「そっか、ラーファにも彼女の姿が見えるんだね?」
ラーファに尋ねると、ラーファは小さく頷いた。
ラーファは相当怯えているようだった。
そんなラーファの姿を見て、私の心の中にちょっぴり黒い感情が溢れてきた。
これは、いつもの借りを返す時が来たと。
私がお化けとか怖いものが、超がつくほど苦手なのを知ってるくせに、ラーファはいつも私を怖がらせて楽しんでくれたからね。
でも、私、知ってるんだよね。
本当は、ラーファもすごい怖がりだってことに。
自分より怖がりの私を怖がらせることで、自分は怖がりでないことを周りにアピールしてきただけなんだよね。
でも、これで立場逆転。
今こそ、日頃の恨みを晴らす時が来た。
というわけで―――
「琴音に私の友達を紹介するよ。」
「いやあああああ!!!」
なんか、ラーファの悲鳴が聞こえてきた気がしたけど、気にせずに話を続ける。
「この子の名前は、ラーファイム・ルーイエ・ラーヴォルン。
私達はみんなラーファって呼んでる。」
「ラーファちゃんか。
ねえ、ラーファちゃんももしかして・・・」
琴音が期待した表情で、私の方を見つめてくる。
だから、私は笑顔で琴音の期待に応えた。
「うん、ラーファも琴音の姿が見えるみたい。」
そう言った瞬間、琴音はラーファに抱きつこうと飛びかかっていった。
そして、それと同時に、ラーファの悲鳴が聞こえてきた。
ウン、これで少し気分がすっきりしたよ。
数分後・・・
ラーファは私の背中にずっと隠れて、すっかりおびえ切ってしまったようです。
少しやりすぎちゃったかもしれない。
「ゴメンね、ラーファ。ちょっとやりすぎちゃった。」
ここは素直にラーファに謝っておこう。
でも、ラーファは、琴音に心底おびえ切ってしまっているようだった。
「ラーファちゃんに怖がられて、なんかショック。」
そして、ラーファに過剰に怯えられて、琴音もショックを受けているようだった。
「これじゃ、私がまるでお化けみたいじゃない。
私、死んでないのに。」
琴音もショックを受けて、シュンとうなだれていた。
でも、私が言うのもなんだけど、私達にとって琴音はお化けみたいな存在なんだよ。
だって、周りの人達には、琴音の姿が全く見えてないんだから。
見えてるのは、私とラーファだけのようだし。
これって、存在的にはお化けみたいなものじゃない?
「ミディア、ラーファ、さっきから何やってるんだ?」
いつの間にか、さっきまでいなかったエレーネ先輩が戻ってきていた。
そう言えば、飲み物を買いに行くって言ってたっけ。
「ねえ、またかわいい女の子が来たよ。私に紹介してよ。」
私の背後で、琴音がせがんできます。
でも、その前にまず、確認しないとね。
「エレーネ先輩、私の後ろに立っている黒髪の女の子の姿が見えますか?」
エレーネ先輩はきょとんとした表情で、私の方を見ます。
「黒髪の女の子? アンタの後ろに立ってる人って、どこかの銀髪の観光客じゃないの?
もしかして、昔の記憶が戻って、黒い髪の知り合いがいたことでも思い出したとか?」
エレーネ先輩が全然的外れなことを言ってきたので、軽く首を振って否定します。
どうやら、エレーネ先輩には、琴音の姿が見えないようだ。
琴音の姿が見えるのは、今のところ、私とラーファの2人だけみたい。
なんだか選ばれた人になったみたいで、少しだけいい気分になりました。
もっとも、もう一方の選ばれた人は、私の背中にずっと隠れて怖がっているけど。
「ええっ、アンタ達にしか見えない女の子がそこにいるって!?」
エレーネ先輩は、私の指さす方をじっと見つめていました。
でも、エレーネ先輩には、儀式を見ている観光客の背中しか見えないようです。
私達には、その手前に琴音の姿が見えるんだけど、やっぱりエレーネ先輩には見えないようです。
「で、その子、なんて名前なの?」
エレーネ先輩が名前を聞いてきた。
「えっと、由姫先 琴音って言うそうです。
琴音って呼んでほしいって言ってました。」
「ふーん、琴音か。
私の名前はエレーネ・ヴォルティス・ラーヴォルン。
エレーネって呼んでくれていいよ。」
エレーネ先輩は、琴音のいる方に向かってそう話しかけました。
もしかして、本当は琴音の姿が見えてるんじゃ・・・
「エレーネちゃん、よろしくね。」
琴音がすごいスピードでエレーネ先輩に突進して、抱きつこうとしているけど、エレーネ先輩は全く無反応だった。
やっぱり、エレーネ先輩には見えてないんだ。
「それじゃ、そろそろ行こうか。」
エレーネ先輩の一言で、今日の計画のことを思い出した。
そう言えば、今日はエレーネ先輩が私達をこの街を見渡せる隠れた絶景スポットに連れて行ってくれるんだっけ。
「そうですね。そろそろ行きましょうか。」
エレーネ先輩に返事した後で、琴音に声をかける。
「これからエレーネ先輩がラーヴォルンの絶景スポットに連れてってくれるそうなんだけど、琴音も来る?」
「な、何てこと言い出すのよ。」
背中からラーファの悲鳴が聞こえてくる。
「ウン、もちろん。」
琴音が笑顔で答えると、背後からもう一回小さな悲鳴が上がった。
ラーファには悪いけど、なんだか今日はすごい楽しい日になる。
そんな気がしました。