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黄昏のラーヴォルン  作者: レトリックスター
第2章 晩夏のラーヴォルン
29/254

25.お別れの挨拶はなし

<<琴音>>

「私の空想作品を見てみてよ。」

 アイちゃんがイデアをエレーネちゃんに渡す。

「ちょ、いつの間に念写したんだ?」

「今さっき。」

 さっき悶えていた時に、イデアに念写していたんだ。

 どうやら、誰も気づいていなかったみたい。

「ミディアはイデアから読み取ることができないし、じゃあ私の部屋で観賞会のついでに見るとしようか。」

「賛成。」

 ということで、みんなでエレーネちゃんの家に行くことにした。


 今日は観光客が少ないので、エレーネちゃんのお店もあまりお客さんはいなかった。

「エレーネ、お帰り。」

 お店にはエレーネちゃんのお母さんがいた。

「ただいま。」

「あら、ミディアにアイ―シャもいらっしゃい。」

「おじゃまします。」

 ミディアちゃんとアイちゃんはおじぎをする。

 私もあいさつしたけど、やっぱりエレーネちゃんのお母さんには聞こえてなかったようだ。

「えーっと、今から鑑賞会やるよ。」

「こないだの映像ね。

 わかったわ。」


 私達は、エレーネちゃんの後について、2階へと上がっていく。

 そして、エレーネちゃんの部屋に案内された。

「ここ、こないだ潜入した時に、エレーネちゃんとラーファちゃんが話していた部屋だよ。」

 ミディアちゃんにこそっと伝える。

「そっか、でも、ここは映像チェックのための部屋で、エレーネ先輩の部屋じゃないよ。

 ラーファとこの部屋で何をやっていたんだろう?」

「今日と同じで、映像チェックじゃないの?」

「多分、そうだね。

 もしかしたら、鑑賞会の途中でハーメルトンのコンサートの話が出たのかもね。」

 でも、あの時、ニュースが流れてたし、鑑賞会を開いていたようには思えないんだけどなあ。

「ちなみに、ラーファの映像チェックはメチャクチャ厳しいんだよ。」

 へえ、ラーファちゃんって、意外と厳しいんだな。


 エレーネちゃんは、イデアフィールズを用意すると、最初にアイちゃんのイデアをセットした。

「じゃあ、アイの妄想力を、たっぷりと見せてもらうとするか。」

「OK。」

 エレーネちゃんとアイちゃんはノリノリだった。

 でも、ミディアちゃんは不安そうな表情だった。

 しばらくして、映像が映り始める。

 最初は多少ノイズが混じっているけど、次第に映像は鮮明になってきた。

 そして、鮮明な映像になった瞬間、私達は驚いた。

「あれは、ラーファちゃんのイデアに映っていた私に似てない。」

「っていうか、あれは多分琴音だよ。」

 アイちゃん以外の全員が、映像を見て引いていた。

 映像の中の私は、なぜか裸になって、アイちゃんとお風呂場でちゅっちゅしていました。

「アイ、卑猥すぎるよ。」

 ミディアちゃんが真っ赤になって、私の代わりに怒ってくれた。

 でも、真っ赤になって怒っているミディアちゃん、かわいいなあ。

 自分のことなのに、ミディアちゃんを見てキュンキュンしている私も、人のこと言えないなあ。

 正直、私はアイちゃんの映像のことは、あまり気になりませんでした。

 だって、イデアに映っているのは、ラーファちゃんが作った別人の私だし。

「相変わらずだな、アイは。」

 エレーネちゃんは映像を見て笑ってるけど、慣れてるのかな。

「もう、アイもアイのお父さんも、2人が作るイデアは澱みきってるよ。」

 ミディアちゃんの発言で、ようやく私にもみんながアイちゃんのお父さんに会いたがらない理由がわかったような気がした。

 つまり、アイのお父さんは、日本で言うところのエロアニメを作っている人ってことだね。

 日本のエロアニメと違って、こっちは空想というか妄想で作り上げるから、確かにそんな人とは会いたくないなあ。

 映像は10秒程度で終わったけど、その間、私もどきとアイちゃんは、裸でずっとちゅっちゅしていました。

「この程度じゃあ、アイのお父さんにはまだまだ追いつけないぞ。」

 エレーネちゃんがアイちゃんに向かってそう言う。

「いや、追いつかなくていいよ。

 アイ、お願いだからもうやめてよ。」

 ミディアちゃんは真っ赤になって怒ってた。


「そうだ、せっかくだから、以前、アイのお父さんからもらったイデアを見せてあげるよ。」

「いやあ、やめてーーーーっ!!!」

 エレーネ先輩がイデアを取り出すと、ミディアちゃんがすごい悲鳴を上げた。

 アイちゃんのお父さんの作るイデアって、そんなにすごい映像なのかな。

 ミディアちゃんには悪いけど、ちょっと見てみたい。

「ミディアは見なくてもいいけど、琴音は見たいんじゃないの?」

 エレーネちゃん、わざわざ私のために・・・

 エレーネちゃんって、いつも見えない私にも気を遣ってくれて嬉しいよ。

「琴音、見るのやめた方がいいよ。」

「ミディアちゃんに悪いけど、私、見てみたい。」

 私がそう言うと、ミディアちゃんは真っ青になって、固まってしまいました。

「その反応だと、どうやら琴音は見たがってるようだね。」

 エレーネちゃんはそう言うと、イデアをセットします。

 ミディアちゃんは、ずっと固まったままだった。

 そんなにすごい映像なのかなあ。

 なんだか、ミディアちゃんに悪いことしたかも。

「これ、私がアイの家に行ったときに、アイのお父さんが即興で作ったイデア。

 時間は1分程度だけど、即興でこんな映像作れるなんてすごい人だと思ったよ。

 ただし、内容は酷いけどね。」

 エレーネちゃんはそう言うと、イデアをセットする。


 しばらくすると、またノイズ交じりの映像が映り始める。

 そして、しばらくすると、映像が鮮明になってきた。

 映像は、私が予想していたエロアニメとは違った。

 エレーネちゃんの小さい頃のエロい映像が見られるのかと思ってただけに、ちょっとがっかり。

 でも、そんな心の余裕は、すぐに消えてなくなった。


 映像の最初の方に、いきなりエレーネちゃんが走ってる姿が映し出された。

 映像のエレーネちゃんは、今よりかなり幼くてかわいかったけど、それを楽しめる雰囲気ではなかった。

 なんか真っ暗でやたら不気味なな森の中にエレーネちゃんはいた。

 そして、エレーネちゃんの後を、不気味で大きな化け物が追いかけてくる。

 エレーネちゃんは必死に逃げるけど、化け物に捕まってしまう。

 そして、化け物は捕まえたエレーネちゃんを、なんと丸のみしてしまった。


 何これ。

 ただのホラーじゃない。

「これさあ、私が10歳の時にもらったものなんだけどさあ。

 このイデアを見てからしばらく、森に行けなくなったんだよね。」

 エレーネちゃんがそう言って苦笑した。

 小さな女の子にこんな映像を渡すなんて、確かに悪趣味だ。

 ミディアちゃんは、さっきからずっと固まったままだ。

「ミディア、気を失っちゃったよ。」

 ミディアちゃん、繊細で、こういう映像に耐性なさそうだからなあ。

 そういや、ミディアちゃんは怖がりだってラーファちゃんも言ってたなあ。

「でも、この映像、お父さんの作ったイデアの中では、全然マイルドな方だよ。」

 アイちゃんがそう言うと、

「そ、そうだね。」

 エレーネちゃんも頷いた。

 エレーネちゃんの表情、かなり引きつってるよ。

「だって、エレーネ先輩、化け物に丸のみされてるでしょ。

 本気のお父さんが作る映像だと、絶対に咀嚼するし、血しぶきとかもすごいからね。」

 アイちゃんが笑顔でそう話してくれた。

 最悪だよ。

 嫌なものを想像してしまった。

 アイちゃんのお父さんが作るイデアって、エロじゃなくてグロだったかあ。

「ミディアがアイの家に遊びに行ったときにも、似たような映像を即興で作って渡されたらしいよ。

 何でも、すごい酷いイデアらしいんだけど、ミディアがイデアを封印しちゃって、見せてくれないんだよね。」

 エレーネちゃんが苦笑する。

「私も見てないんだよね。

 私がトイレに行ってる間に、作って渡したらしいんだけど・・・」

 本当に即興で作るんだ。

 内容はともかく、これだけのものを即興で作れるって、アイちゃんのお父さんってすごいんだな。

 でも・・・

「なるほど、ミディアちゃんやエレーネちゃんが会いたくないと言った理由がよーくわかったよ。」

 それにしても困った。

 私の姿が見えるのも、私が会話できるのも、この場にはミディアちゃんしかいない。

 そのミディアちゃんが気を失ってしまったら、私は誰とも会話できないよ。

 お願いミディアちゃん、早く目を覚まして。


 その後、気を失っているミディアちゃんを放置して、試写会は行われた。

 映された映像の中には、私が最初にラーヴォルンに来た時の映像もあった。

 やっぱり、あの時の景色は、黄昏に包まれたラーヴォルンは、イデアで見ても美しかった。

 私とミディアちゃんが初めて会った時の映像だと言うのに、当のミディアちゃんはずっと気を失ったままだ。

 しかも、気がつけば、もう帰る時間が来ていた。

 本当は、もっと早くに来るはずだったのに、色々寄り道したから仕方がないけど、最後まで見たかったなあ。

 でも、それ以上に残念なのは、ミディアちゃんにお別れの挨拶ができないことだ。

 いつも、「また明日ね。」って挨拶してお別れして帰るのに、今日はそれはできそうもない。

 そういや、挨拶せずに別れたのって、最初に来た時以来になるのか。

 最初に来た時の映像を見て、最初と同じように挨拶もせずにお別れだなんて。

 何か嫌な感じがした。

「ミディアちゃん、目を覚ましてよ。

 挨拶もせずに帰っちゃうの、嫌だよ。」

 私はミディアちゃんの耳元で、大声で叫んだけど、結局、ミディアちゃんは目を覚まさなかった。

 そして、気がついたら、私が見慣れたベッドの上で目を覚ました。


<<ミディア>>

 なんだか、懐かしい夢を見た。

 見慣れない女の人と、どこか見慣れない街を歩いている夢。

 顔はよくわからないけど、この感じは覚えがある。

 きっと、この人はお母さんだ。

 でも、どうしても、顔が思い出せない。

 実の母親なのに、どうして顔が思い出せないのだろう?

 それに、私のお父さんは、どうして夢に出てこないのだろう?

 何もかもわからない。

 夢の中の私は、すごく楽しそうだった。

 でも、何が楽しかったのか、全く思い出せない。

 ああ、これは夢だ。

 また夢だと自覚してしまった。

 夢だと自覚してしまったら、目覚めるのは時間の問題だった。


 目覚めると、そこにはエレーネ先輩がいた。

「エレーネ先輩?」

「よかった。ミディア、目覚めてくれてよかった。

 すっごく心配したんだぞ。」

 エレーネ先輩はホッと胸をなで下ろした。

 周りを見渡して、エレーネ先輩の部屋にいることがわかった。

「エレーネ先輩、どうして私はエレーネ先輩の部屋に?」

「覚えてないのか?私のイデアを見て、気を失ったんだよ。」

 そうだった。

 エレーネ先輩がアイのお父さんのイデアを映し出したところまでは覚えている。

 その映像を見て、私は気を失ったんだ。

 あの時、この部屋には私とエレーネ先輩の他に、アイと琴音もいたはず。

 でも、ここには私とエレーネ先輩しかいない。

「先輩、アイと琴音はどこに行ったんですか?」

「アイは、私の編集したイデアを見終わったら、すぐに帰ったよ。

 琴音は私には見えないからわかんないけど、今はもう夜だから、多分・・・」

 そっか、琴音はもう帰っちゃったんだ。

 いつもの挨拶、できなかったなあ。


 バタン

 突然、部屋の扉が勢いよく開くと、ラーファが部屋の中に飛び込んできた。

「ミディア、ミディアは大丈夫なの?」

 ラーファが血相を変えて部屋に入ってきた。

「ラーファ、ミディアなら今、目を覚ましたよ。」

 エレーネ先輩がそう言って、私が目覚めたことを確認すると、ラーファは安心したのか、その場にへたり込んだ。

「よかった、ミディアが無事で・・・」

「いやあ、ミディアがあまりにも目覚めなかったから、さっきラーファに連絡したんだよ。

 そしたら、ラーファが血相変えちゃってさ。」

「当たり前でしょ。

 ミディアになんてものを見せるのよ。」

 あー、私がアイのお父さんのイデアを見たことも知ってるんだ。

 ラーファも随分と嫌ってたからなあ。

「ミディア、体は大丈夫?」

 ラーファはそう言うと、私の額に手を当てる。

「もう、熱を出した子供じゃないんだし、大丈夫だよ。」

 ラーファは少し心配しすぎだと思う。

 私はラーファと年は一つしか離れてないんだし、いつまでも子供みたいに心配されるのもどうかと思う。

 ラーファが私のことを心配してくれることは、すごく嬉しいんだよ。

 でも、少し過剰と言うか、過保護すぎるような気がするんだよね。

「さあ、一緒に家に帰りましょうね。」

「もう、ラーファ、私を子ども扱いしないでよ。」

 本当にラーファの過保護にも困ったものだよ。

 私をいつまでも子供扱いするんだから。

「イデア見て気絶するなんて、まだまだお子様だよ。」

 うっ、それを言われると、何も言い返せないよ。

 でも、あのイデアの映像を思い出そうとすると頭が痛くなる。

「じゃあ、ラーファも見ていく?」

 エレーネ先輩がラーファにそう言うと、ラーファは思い切り首を横に振った。

「だよねえ。」

 エレーネ先輩はそう言うと、ニヤリと笑った。

 そっか、ラーファもあの映像見たことあるんだ。

「そ、そんなことより、もう遅いし、さっさと帰るわよ、ミディア。」

「あっ、話そらした。」

 エレーネ先輩がそう言うと、ラーファが顔を膨らませる。

 本当にこの2人は仲がいいなあ。

 なんていうか、ラーファとエレーネ先輩のやりとりを見ていると、すごい和む。

 きっと、琴音がいたら、私と同じことを言ってるだろうね。


「琴音・・・」

 今日はお別れの挨拶ができなかった。

 いつもはきちんと明日会う約束をしてからお別れするのに、今日はできなかった。

 私が気絶していたせいで・・・

 きっと、明日も琴音は来てくれる。

 いつものように、「ミディアちゃん遊びに来たよ。」って言って、私の部屋まで来てくれる。

 ウン、そうに決まってる。

 でも、どうしてだろう?

 お別れの時に挨拶できなかっただけで、どうしてこんなにも不安な気持ちになるんだろう?


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