24.空想士ってどんな職業?
<<ミディア>>
「エレーネ先輩。」
「何だ、ミディア?」
「琴音から空想士について聞かれたんだけど、私にはうまく説明できなくて・・・」
「まあ、わけのわからない人達だからなあ。
じゃあ、私から説明してあげよう。」
さすがはエレーネ先輩。
こういう時には、非常に頼りになる先輩だ。
「琴音のいる世界って、確か魔法やイデアのない世界だって言ってたなあ。」
「ウン。」
琴音の代わりに私が返事する。
「今でこそ、イデアルーンとかイデアフィールズとかの機械で使われてるけど、イデアってのは元々魔法媒体なんだよ。
これは知ってる?」
私は琴音の方を見る。
琴音がウンと頷くのを見て、私がエレーネ先輩にウンと頷いた。
私は琴音とエレーネ先輩の橋渡しをする役目だ。
「まあ昨日、ラーファがイデアに念写してたし、それくらいのことは知ってるかあ。
念写ってのは非常に難しくて、少しでも雑念が入ると、全く違う映像になってしまう。」
「ウン、それはラーファちゃんの念写の映像を見てわかったよ。」
琴音がしみじみとそう呟いた。
なんか少し落ち込んでるよ。
嫌なことを思い出させてしまった。
「でも、それを逆手にとって、自分の作りたい世界を強く念写すれば、その世界を映像として残すことができる。
そういう映像を作ることのできる人達のことを空想士と言うんだよ。」
「自分達の作りたい世界を作る?」
琴音は首を傾げています。
やはり、イメージできないのかな?
「琴音、うまく理解できてないみたいです。」
「そっかあ、言葉で説明しても、イメージがわかないよなあ。
じゃあ、具体例を挙げてみるか。」
エレーネ先輩はそう言うと、最近見たイデアの話をしてくれた。
「最近イデアフィールズでやってたものだけど、世界に魔王が現れて、それを女の子達が変身して魔王を倒すって話。
これって、舞台となる世界も主人公の女の子達も魔王も、この世には存在しない空想の産物なんだよね。」
「わかった、アニメとか映画みたいなものだね。」
琴音がピーンと来たのか、そう答える。
「ていうか、イデアで作るアニメーションって説明した方がよかったんじゃないですか?」
「それじゃあ、空想士がどういう人達かわからないでしょ。」
そう言われたらそうだ。
「じゃあ、アトゥアではアニメは空想で作るの?」
琴音が聞いてきた。
「ウン、アニメとかの仮想作品はみんな空想士が作るんだよ。」
「へえ、こっちじゃアニメが簡単に作れていいね。」
琴音はそう言うと、自分も空想士になれるかもなんて言い出しました。
「琴音が、こっちではアニメが簡単に作れていいねだって。」
琴音の言ったことを、そのままエレーネ先輩に伝えたら、エレーネ先輩は首を横に振った。
「いやいや、空想士ほど大変な職業はないと思うよ。」
「えっ、そうなの?」
「だって、一つの世界を作り上げて、その中で仮想のキャラクターを作り上げて、物語を作らないといけない。
並の集中力じゃあ絶対に無理だよ。」
そうなんだ。
私も知らなかった。
「アニメを作る場合は、大抵複数の空想士が1年ぐらい時間をかけて作り上げるんだよ。」
「えっ、そんなに時間がかかるの?」
琴音は驚いていた。
そして、私も驚いた。
「強い空想じゃないと、イデアに念写できない。
1年もの間、同じ空想を抱き続けて作品を作ることが、どれだけ難しいか。
それに、空想士になるには、高度な魔法を使う必要もあるし。」
「魔法?」
「例えば、音のない世界じゃあ、アニメはつまらない。
でも、音は妄想できないから、こっちで作った音を魔法で刻み込むんだよ。
映像に合わせて、寸分狂わないタイミングでね。」
「なるほど。」
「他にも、様々な映像効果を加えたりする。
空想で加えることもできるけど、そういう効果は後から付け加えた方がいいらしい。
で、その効果をつけるのも魔法を使う。」
空想士って私もあまり知らなかったけど、そんなに大変な仕事なんだあ。
「アイちゃんは、その空想士を目指してるの?」
琴音が私に聞いていた。
アイが自称空想士なのは知ってるけど、本当に空想士を目指しているのかわからない。
「本当に空想士になりたいのかどうかわからないけど、アイのお父さんが空想士だからね。
もしかしたら、同じ空想士になるつもりなのかもね。」
「えっ、アイちゃんのお父さんって、空想士なの?」
琴音が反応してしまった。
しまった、話してはいけないことを言ってしまった。
「えっ、ウン、まあ、そうなんだけどね。」
「今からアイちゃんの家に行こうよ。
それで、アイちゃんのお父さんのイデアを見せてもらおうよ。」
さっきから目的地がコロコロ変わりすぎだよ。
船着き場からの景色を一緒に見たいって話は、どこに行っちゃったんだろう?
それに、確かにアイのお父さんはすごい空想士なんだけど・・・でも、紹介したくないなあ。
ていうか、私が会いたくない。
こないだ、アイの家で勉強会したのは、アイのお父さんが数日出張で帰ってこないって聞いたからであって、もしいるんだったら、自分の部屋で一人で勉強していたよ。
「琴音、それはまた今度にしよう。
いきなり押しかけても、迷惑でしょ。」
「一体何の話をしてるの?」
エレーネ先輩が尋ねてきた。
「いや、琴音がアイの家に行って、アイのお父さんの作品が見たいって言うから、その・・・」
「あっ・・・それはやめといたほうがいいかも・・・」
さすがのエレーネ先輩も、少し引いてる。
そっか、エレーネ先輩の方がアイとの付き合い長いし、そりゃあ見たことあるよね。
私が見た時は、エレーネ先輩いなくて、アイと2人っきりの時だった。
「琴音、今日は船着き場の景色を見に行こうよ。
私が映した景色を見たいって言ってたでしょ。」
こうなったら、多少強引にでも、アイの家から引き離そう。
「ウン、そうだったね。
じゃあ、船着き場に行こう。」
あれっ、あっさり頷いてくれた。
よかった、琴音が思いなおしてくれて。
「アイ、いつまでやってるの。
私達も行くよ。」
エレーネ先輩が妄想中のアイに声をかける。
ていうか、本当に一体どんなことを想像しているんだろうか?
「ところで、エレーネ先輩とアイはどこに行くところだったんですか?」
「いやあ、行くところもなかったから、こないだ撮影したイデアでも見ようかなって話になってね。」
なるほど、試写会だ。
エレーネ先輩は、ラーヴォルンの美しい景色を撮影しているんだけど、出来上がった映像を私達に見せてくれることがある。
見てどんな感じだったか感想を聞いて、次の作品作りの参考にするんだって。
ラーファが容赦なくダメだしするから、エレーネ先輩も大変だって言ってた。
そういや、ラーファのこと、すっかり忘れてた。
おばさんにイデア取られそうになってたけど、結局どうなったんだろう?
今頃、ラーファ、どうしてるかな?
<<エレーネ>>
アイだけを試写会に呼ぶつもりだったけど、せっかくだからミディアも誘うか。
今日は琴音もいるそうだし、もしかしたら斬新な意見を聞けるかもしれない。
ミディアとアイだけじゃ、頼りないからなあ。
あの二人、いつもすごいしか言わないから、あまり参考にならないし。
「もしよかったら、ミディアも来ない?」
ミディアを誘ってみたけど、今日のミディア、あまり乗り気じゃないみたいだ。
もしかして、琴音と約束でもしてるのかな?
そういや、さっき、船着き場の話してたし。
「あのさあ、用事があるんだったら、別に無理に来なくても・・・」
そう言ってみたけど、私の声はミディアには届いていないようだった。
さっきから、ミディアは何やらボソボソ話しているけど、あれってきっと琴音と話してるんだろうな。
いいなあ、私も琴音と話してみたい。
そして、もっと琴音のいる世界のことを知りたい。
琴音のいる世界って、一体どんな世界なんだろう?
魔法のない世界なんて想像できない。
魔法を使わないで、どうやって意識だけをラーヴォルンに転送しているのかな?
琴音の住む二ホンという国にすごい興味がある。
琴音ともっと話をして、二ホンの話を聞いてみたい。
でも、私は琴音の存在を確認することすらできない。
だから、私のできることと言えば、琴音と話せるミディアやラーファから、少しでも多くの二ホンの情報を入手することぐらいだ。
「エレーネ先輩、私達も行きます。」
ミディアは大きな溜息とついた。
きっと、琴音に押し切られたんだろうな。
しょうがないなあ。
「じゃあ、一か所寄りたいところがあるんで、寄り道してもいいか?」
「私はいいですよ。」
アイは軽い返事を返してきた。
きっと、また妄想中なんだろうなあ。
「私もいいです。」
ミディアの方は、なんかさっきからため息ばかりついてる。
まあ、仕方ないか。
「じゃあ、ついてきてね。」
その後、私達はほとんど会話することもなく、歩き続けた。
だって、アイは妄想中だし、ミディアはなんか落ち込んでるし。
まあ、ミディアの方はすぐに元気になると思うけどね。
「着いたよ。」
私が連れてきた場所を見たら、案の定ミディアの表情に笑顔が戻った。
「ここは、昨日の船着き場ですね。」
「ウン、そうだよ。
ここからの映像が欲しかったんだけど、最近観光客が多すぎて、なかなか撮影できなかったんだよ。」
もちろん、全部嘘だけどね。
でも、ミディアが喜んでくれたから、よかった。
やっぱりミディアはここに来たかったんだな。
「じゃあ、私は撮影するから、しばらく適当に時間をつぶしてくれる。」
私はそう言うと、機材を準備した。
本当は撮影するつもりなかったけど、せっかくだからミディアでも撮影しようと思ってね。
あんなに楽しそうなミディアの姿、ラーファに見せてやったら絶対に悔しがると思うし。
そういや、今日はラーファの姿を見かけないけど、今頃何やってるんだろう?
<<琴音>>
今日はまた、いろんなことを知ることができた。
そっかあ、アイちゃんのお父さんは空想士で、アイちゃんも空想士を目指してるのか
でも、どうして、ミディアちゃんやエレーネちゃんは、アイちゃんのお父さんに会わせてくれないんだろう?
まあ、いっか。
そのうち会うこともあるでしょう。
「琴音、ここから向こうの景色を見てみて。」
ミディアちゃんの指す方向を見てみると、大きな海が広がっていた。
「このラーヴォルン海峡は、二つの大きな大陸がもっとも近づく場所なんだよ。
だから、東を見ても、西を見ても、二つの大陸はどんどん離れていくでしょ。」
以前もその話は聞いたことあるけど、こうして見ると本当にそうだね。
ラーヴォルンは、二つの大陸が最も近づく場所。
そして、海峡をまたがって両大陸に街がある。
自然の奇跡がなければ、ラーヴォルンって街は存在しなかっただろう。
「ラーヴォルンは自然の奇跡が作り上げた街なのかもね。」
「琴音、詩人みたいなことを言うね。」
「そう?」
「ウン、今の琴音、なんだか詩人みたいだったよ。」
詩人かあ。
そんなこと、初めて言われたよ。
そもそも私、国語すっごい苦手だし、詩なんて作ったことない。
ラーヴォルンの詩人ってのは、こんな感じなのかな?
「そうだ、琴音、昨日のコンサートでイデアトゥアを見たでしょ?」
「ウン、すごかったね。」
「実は、あの映像を作ったのも、空想士なんだよ。」
「へえ、そうなんだ。」
言われてみれば、そうかもしれない。
最初の曲の宇宙の果てなんて、実際に見られるわけじゃないし、絶対に空想だよね。
「空想からあそこまでのものを作り上げることができるなんて、この世界の空想士はすごいね。」
「ハーメルトンのコンサートのイデアトゥアを作ったのは、リーヴァで一番すごい魔導士らしいよ。
すごい空想力と魔法力を持つリーヴァ最高の魔導士だって。
ハーメルトンの大ファンらしくて、ぜひハーメルトンの曲の世界を作りたいって言ってたらしいよ。」
リーヴァ最高の魔導士かあ。
あんなすごい世界を作ることができるんだったら、納得だよ。
そして、そんなすごい魔導士をファンにしてしまうハーメルトンもすごい。
「私だって、空想世界を作るくらいわけないよ。」
さっきまで妄想にふけっていたアイちゃんが、正気に戻って話に入ってきた。
「アイの空想世界って、10秒しかもたないでしょ。」
「今までの最高は13秒だよ。」
いや、大して変わらないと思うけど・・・
「どんな人でも空想することはできる。
でも、それをより鮮明な形で映像化できるかは、その人の空想力と魔法力、そして3次元の映像を詳細に組み立てることができる空間把握能力にかかっている。」
エレーネちゃんがそう言う。
わかるなあ。
空想って、誰にでもできるけど、一日中同じ空想ができるかって言うと難しい。
しかも、映像に形にするということは、ディテールが要求されるわけで、そんな空想、疲れるだけだよ。
「アイみたいに空想士になりたいって人はたくさんいるけど、成功した人は1%未満しかいないらしい。」
「そんなに難しいの?」
ミディアちゃんは驚いていた。
どうやら、ミディアちゃんも知らなかったらしい。
「ウン、一応、空想士になるための資格とかあって、合格する人は結構いるらしいんだけど、あまり関係ないらしい。
いかに素晴らしい映像が作れるかどうかにかかっているから、結局いいものを作る人にしか仕事は来ない。
だから、資格を取っても仕事がないと言う空想士は山ほどいるんだよ。」
「へえ、厳しいんだね。」
空想がそんなに難しいものとは思わなかったなあ。
「じゃあ、アイちゃんのお父さんって、すごい人なんだね。」
私がミディアちゃんにそう言うと、ミディアちゃんの表情が何とも言えない複雑な表情になる。
「エレーネ先輩、琴音がアイのお父さんはすごい人だって・・・」
「えっ、アハハハハハ・・・ま、まあ、たしかにすごいかもしれないね。」
エレーネちゃんの反応も微妙だ。
一体、アイちゃんのお父さんって、どんな人なんだろう?
すごい気になる。




