20.ハーメルトンのコンサート
<<琴音>>
「ウン、いいよ。」
なんと、あっさり承諾してくれた。
しかも、ラーファちゃん、私の方を見て微笑んでくれた。
少し前まで、あんなに私のことを怖がっていたのに・・・
「ラーファちゃん、ありがとう。」
気がついたら、ラーファちゃんに抱きつこうとしていた。
いや、触れないんだけどね。
「もう、琴音、また泣いてる。」
あれっ、また私泣いてるの?
ていうか、ミディアちゃん、そんなに笑わなくてもいいでしょ。
「本当にもう、琴音は仕方ないわね。」
ラーファちゃんにまで笑われた。
「ほら、念写するから、まずは涙を拭いて、いい笑顔を見せて。」
そっか、念写されると言うことは、初めてエレーネちゃんとアイちゃんに姿をお披露目するってことだ。
ちゃんとお色直ししないと。
「ちょ、ちょっと待ってて。」
涙を拭いて、髪を整えて、服を整えて、ポーズを決めて・・・
「いいよ、ラーファちゃん、お願い。」
私がポーズをとると、なぜかラーファちゃんは大笑いし始めました。
「もう、ちゃんと念写してよ。」
「ゴメンゴメン、何ていうか、琴音は本当に見ていて面白いね。」
それは喜んでいいのだろうか?
まあ、怖がられるよりはずっとマシだけど、なんか複雑な気分だ。
「じゃあ、始めるね。」
ラーファちゃんはそう言うと、一回大きな深呼吸をする。
すると、ラーファちゃんの表情が、一気に真剣な表情に変わった。
私の方をジーッと見つめて、手をイデアに添えて、集中しているみたいです。
どうしよう、私はどういう表情したらいいんだろうか?
「琴音、笑顔だよ、笑顔。」
ミディアちゃんはそう言うけど、何もないところで笑顔作るって難しいんだよ。
しかも、ラーファちゃんに真顔で見られている状態だと、なおさら笑いにくいよ。
でも、その時、
「琴音、笑って。」
ラーファちゃんがニコッと笑った。
ラーファちゃんに微笑まれると、こっちの顔もつられて自然と緩んできた。
「ウン、いい笑顔。」
ミディアちゃんにそう言われたけど、私、うまく笑えてるのかな?
「終わったよ、琴音。」
えっ、もう終わり?
そんなに簡単に念写ってできるの?
「ちょっと見せてみて。」
変な表情だったら嫌だから、事前にどんなのが撮れてるかを見せてほしいと思ったんだけど、
「ウウン、ここで見るのは無理。
だって、ここにイデアフィールズないでしょ。」
そっか、じゃあ、結局撮っても見られないってことか。
「ハイ、エレーネ。」
ラーファちゃんはエレーネちゃんにイデアを渡してしまった。
あーあ、結局映像を確認できないまま、エレーネちゃんの手に渡ってしまった。
エレーネちゃんはイデアに手をかざすと、精神を集中し始めた。
「おー、きれいに撮れてるな。さすが、ラーファだ。」
えっ、どういうこと?
「ねえ、もしかしてエレーネちゃんには、イデアの内容が・・・」
「ウン、見えてるよ。
以前、ラーファもやったことあったでしょ。
魔法を使えば、イデアの再生もできるんだよ。」
ミディアちゃんが笑顔で答えてくれた。
ええっ、じゃあ、今、エレーネちゃんに私の姿が見られてるってことになるの!?
「へぇ、これが琴音かあ。
すっごい服着てるなあ。
でも、黒髪がきれいな素敵な女の子だなあ。
足がすらっとしてて、すっごいきれい。」
エレーネちゃんにべた褒めされて、なんかすごい恥ずかしくなってきた。
私、見た目でこんなに褒められたことなかったから、なんかすごい恥ずかしい。
「エレーネ、今、琴音、すごい顔真っ赤だよ。」
ラーファちゃんが余計なことを言うから、ますます恥ずかしくなってきた。
「やべっ、琴音が照れている表情を想像したら、なんか悶々としてきた。」
エレーネちゃん、なんか興奮してるけど、どうして悶々とするのよ。
「エレーネ先輩、私にも見せてくださいよ。」
「ハイハイ。」
今度はアイちゃんに、イデアが手渡された。
アイちゃんもイデアに手をかざして、精神を集中させ始める。
「えーっ、琴音ってこんなにかわいい子なの?」
アイちゃんにもかわいいって言われた。
どうしよう?
こんなにかわいいなんて言われたことないから、本当に恥ずかしい。
「琴音、また顔真っ赤になったよ。」
もうミディアちゃん、一々言わなくていいよ。
「いいなあ、ミディア、こんなかわいい子といつも話せて・・・」
やめて、もうかわいいとか言わないで。
「琴音、なんか苦しんでるね。」
「もう2人とも、あまり琴音をからかっちゃダメよ。」
えっ、私、からかわれてたの?
「いや、私は本気で言ってるんだけど・・・
すっごい美しい黒髪、ぜひ触ってみたいなあ。」
エレーネちゃんに、髪の毛が美しいって言われた。
そんなにトリートメントとかちゃんとしてないのに・・・
「私も・・・
でも、私にはラーファ先輩がいるし・・・
でも、こんなにかわいい子だなんて、本当に思ってなかった。」
アイちゃんはイデア見てなんかうっとりしてるし。
「もう、かわいいかわいい言うのやめてよ。」
さっきからもう、ずっと顔が真っ赤のままだと思う。
そりゃあ私だって一応女の子だから、かわいいって言われたらうれしいけど、こんなに2人からべた褒めされると恥ずかしいよ。
「エレーネ先輩とアイには悪いけど、私にはずっと琴音の姿が見えるんだよね。
今も、私のすぐ近くに琴音がいるし。」
なぜか、ミディアちゃんは自慢げだけど、そして、なぜかエレーネちゃんとアイちゃんは悔しがってるけど・・・
あれっ、何だか頭が回らなくなってきた。
・・・と思ったら、突然体が光り始めた。
「えっ、ウソ、まだ始まってもいないのに・・・」
さっきまでの熱が一気に引いていく。
「琴音、もう帰っちゃうの?」
違う、そんなはずは・・・確かに遅くまでいられるように、遅くに寝たはずなのに、どうして?
「嫌だ、まだ帰りたくないよ。」
「琴音、一緒にコンサート見られるって・・・」
そのはずなのに・・・どうして?
そのまま光が輝いて、私は現実の世界に戻っちゃうの?
でも、一向に目が覚めない。
と思ったら、そのまま光がスーッと引いて行った。
あれっ、今のは何だったのだろう?
「もう、悪い冗談辞めてよ。」
ミディアちゃんの目に涙が浮かんでいた。
ミディアちゃん、人のことを泣き虫だって言うけど、ミディアちゃんも結構な泣き虫だよ。
でも、本当に今のは何だったのだろうか?
「ただいまより、入場受付を開始します。」
突然、大きな音で、受付案内の声が響き渡った。
「受付始まったよ。みんな行こう。」
ミディアちゃんがそう言うと、みんな慌てて受付に走って行っちゃった。
すごい人だ。
慌てて追いかけないと、見失っちゃう。
しっかり、ミディアちゃんについていかないと。
幸いにも、私の体は透き通ってるので、人ごみがいくらあっても関係ありません。
こういう時だけは、この体でよかったと思う。
「琴音、ついてきてる?」
「ウン、大丈夫。」
すごい人ごみをすり抜けて、何とか入場することができた。
私は全然平気だけど、ミディアちゃん達、きつかっただろうなあ。
全員やっぱり相当疲れているよ。
「この時だけは、琴音がうらやましく思うよ。」
やっぱり、ミディアちゃんもそう思ってたか。
「ハーメルトンのコンサートには前も来たけど、これだけは慣れないわね。」
「まったくだ。」
ラーファちゃんもエレーネちゃんもグロッキー状態だった。
「・・・・・・」
アイちゃんに至っては、言葉すら出ないようだ。
体力のほとんどを使い切ってしまったみたい。
「おーい、アイ、生きてるかあ。」
エレーネちゃんが声をかけてるけど、アイちゃん、目が完全に死んでるよ。
「仕方がないなあ。」
エレーネちゃんが、アイちゃんに肩を貸してあげている。
以前も思ったけど、何気にエレーネちゃん、後輩の面倒見いいよね。
「ミディアちゃんは大丈夫なの?」
「ウン、私は大丈夫だよ。」
そう言いながらも、ミディアちゃんも結構フラフラになっていた。
私だったら、絶対アイちゃんみたいになってると思う。
だって、10万人だよ。
昔、お父さんに野球連れてってもらった時も結構疲れたけど、多分その比じゃないよ。
入場ゲートが5か所あるけど、それだけじゃ絶対に足りないと思う。
「ここが私達の席だよ。」
自分達の席にたどり着くまでに、もう全員クタクタだよ。
「琴音、このホール全体がイデアトゥアだよ。」
ミディアちゃんが会場の方を指す。
「えっ!?ただのコンサート会場にしか見えないけど・・・」
周囲を見渡してみたけど、パッと見た目、普通の会場に見えるけど、何か違うのだろうか?
「あー多分始まらないとわからないよ。」
エレーネちゃんがそう言ってくれて、安心した。
「とりあえず、これだけは覚えておいて。
このコンサート会場はイデアトゥアで、私達はみんな、このイデアトゥアの中にいるってことをね。」
ラーファちゃんの説明は実にわかりやすい。
「ウン、とりあえず、それだけは覚えておくね。」
不意に会場の照明が消えて真っ暗になる。
それと同時に、会場のボルテージは一気に高まっていく。
「始まるわよ、琴音。」
ラーファちゃんの声とほぼ同時に、会場の中央が光る。
すると、中央のステージに人が現れた。
ただ、中央までの距離があるので、どんな人なのかよくわからなかった。
と思いきや、次の瞬間、上空に突然大きな立体映像が映し出された。
映像に映ったのは、なんと女の子達だった。
「ええっ、もしかして、ハーメルトンって女の子のグループなの?」
私だけでなく、ミディアちゃんも驚いていた。
「あれっ、言ってなかったっけ?」
「私、ラーファやエレーネ先輩が見に行ってるって言ってたから、男の人だと思っていた。」
「ミディア、それはどういう意味かな?」
エレーネちゃんがミディアちゃんの方を睨んでる。
「まあ、見てなさい。」
ラーファちゃんはそれだけ言うと、中央のステージを見た。
「行くよ。」
リーダーと思われる女の子がそう言うと、観客席からの歓声が大きくなる。
他の女の子はバックバンドなのかあ。
ハーメルトンってバンド名だったんだね。
会場全体に音楽が流れ始める。
なんだろう、この音色は?
日本のものとは少し違う音色だけど、これはディストーションギターだ。
そして、この曲調にはなじみがある。
これはロックだ。
演奏が始まった瞬間、会場全体が突然真っ暗になる。
違う、これは・・・宇宙空間だ。
会場全体が宇宙空間の中にいる。
私達、宇宙空間にいるみたいだ。
そして、周りの景色が、曲調に合わせて動き始める。
まるで、私達が宇宙空間を突き進んでいる錯覚になる。
「琴音、これがイデアトゥアだよ。
イデアトゥアってのは、イデアとアトゥアを組み合わせた造語で、イデアを使って作り上げる仮想世界技術のことだよ。」
なるほど、これがイデアトゥアかあ。
すごい・・・すごい・・・
もうすごいという言葉しか出てこない。
曲に合わせて、会場に様々な仮想世界が作り上げられていく。
この仮想世界のリアリティがまたすごい。
次の曲はバラードで、今度は会場が美しい幻想世界へと変わる。
なんだこれ。
私の知っているコンサートとは全く違う。
ハーメルトンの曲は、初めて聞いたけど、私好みの曲ばかりだった。
人気があるだけあって、ハーメルトン、いい曲多いね。
しかも、そんな曲に合わせて、会場が様々な仮想世界へと変わっていく。
時には、音まであちこちから飛んでくる。
これはもう芸術だよ。
「やっぱり、琴音、泣いてる。」
あれっ、また泣いていたのか私は?
ウン、でも、これは泣いていい。
「どうしてラーファちゃんやエレーネちゃんがはまったのか、わかった気がする。」
「ウン、私も。」
どうやらミディアちゃんもはまったみたいだ。
今ならわかる。
なぜ、ハーメルトンのコンサートに、こんなに人が集まるのか。
曲が素晴らしいのはもちろんだけど、それ以上に、イデアトゥアの作り上げる曲の世界がすごすぎる。
だから、ファンは曲を聞くだけでは飽き足らずに、こうやってラーヴォルンの会場までわざわざ足を運ぶのだろう。
なんか、あっという間に、コンサートが終わった感じがする。
「どうだった、ミディア?」
ラーファちゃんが、ミディアちゃんに声をかける。
「本当にすごかったよ。色んな世界に行った気分だよ。」
ミディアちゃんはコンサートの間、ずっと感嘆のため息ばかり発していた。
でも、わかるよ。
「琴音はどうだった?」
ラーファちゃんが私にも聞いてきた。
「すごかったよ。なんだか、夢の世界にいるみたい。」
私がそう言うと、ラーファちゃんはクスッと笑った。
「琴音、今日はずっと夢の世界って言ってるよ。」
確かに、今日はよく夢の世界って言ってるような気がする。
でも、本当に夢の世界という言葉しか思いつかないんだよ。
本当にすごいコンサートだった。
できれば、またハーメルトンのコンサートを見たい。
心からそう思った。
「じゃあ、少し遅くなったけど、夕飯に行こっか。」
「ウン。」
私達がリーブルガルトを出ると、外はすっかり夜になっていた。
夜のラーヴォルンには昨日もちょこっとだけ来たけど、こうやってみんなと散策するのはこれが初めてだ。
夜の街にみんなと一緒にいるだけで、何だか心が浮き立ってくる。
でも、みんなが夕飯に何を食べるのかだけは、少し気になった。
紫色の料理は気分悪くなるけど、さっきのような食べ物は、逆にお腹がすいてきて困る。
紫以外の料理で、あまりおいしそうでない料理にしてくれないかなあ。




