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黄昏のラーヴォルン  作者: レトリックスター
第1章 ラーヴォルンにようこそ
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2.由姫咲 琴音の不思議な体験

<<琴音>>

 世の中の人達は女子高生というものに、やたらと幻想を抱きすぎているのではないだろうか?

 実際に自分がその女子高生になってみて3か月ぐらい経つけど、中学生の頃から何か変わったようには思えない。

 変わったことと言えば、周りに知らない子がたくさん増えたことと、勉強が難しくなったことぐらい。

「あーあ、毎日がつまんないな。」

 休み時間、教室でそう呟くと、私の隣の席の女の子が声をかけてきた。

「琴音、アンタはまたそんなこと言ってるの?」

 声をかけてきたのは、私の幼馴染の女の子、藤島 日花里(ひかり)ちゃん。

 成績優秀で、こないだのテストでも学年トップクラスだったらしい。

 でも、日花里ちゃんはテストの結果とか隠してるから、みんなからはそこまでとは思われていないみたいだけど。

 一方、私の成績はと言うと、クラスでも中の下。

 特に数学と国語は最悪。

 中学の頃からずっと苦手のままだ。

 女子高生になったら、苦手科目も解消・・・なんてことになるわけがなくて。

 むしろ高校になってから、ますます難しくなって、全くついていけなくなった。

 まあ、他の科目ができるっていうわけでもないんだけどね。

 ちなみに、友達は日花里ちゃん一人だけだ。

 まあ、別にクラスで浮いているわけではなく、周囲の同級生が話しかけてきたら、それなりに会話はするけどね。

 でも、その程度かな。

 本当に何でも話せる人は、日花里ちゃんぐらいかな。


「琴音、次の授業は別の教室だから、そろそろ行かないと。」

 日花里ちゃんに促されるままに、次の授業がある教室へと向かう。

 最近、いつもこんな感じだ。

 変わり映えのしない毎日をひたすら無気力に過ごしているって感じ。

 でも、どうしてこんなに無気力になってしまったのだろうか?

 中学2年ぐらいまではそんなことなかったのに。

 自分でもよくわからない。

 ただ、いつも心の奥底に何かもやもやしたものがあって、多分それが自分を無気力にさせている原因なんだと思う。

 でも、そのもやもやの正体が一体何なのか、自分でもよくわからなくて・・・

 それが腹立たしくて、たまにそれが理由で不機嫌になったりする時もある。

 でも、そんな心にもやもやするような出来事なんて、今までなかったと思うんだけどなあ。

 恋愛経験もゼロだし。

 そんなもやもやも、女子高生になったら晴れるかなあって思ったけど、勉強が難しくなっただけで全くそんなことはなかった。

 結局、女子高生に一番幻想を抱いていたのは、私ってことなんだろうね。


 放課後、私は部活に入ってないので、いつものように一人で帰っていた。

 ちなみに、日花里ちゃんはと言うと、テニス部に入ってるので、いつも帰りは遅い。

 それにしても、あの超運動音痴の日花里ちゃんがテニス部とはね。

 中学の時は、確か文芸部に入ってたから、高校の部活も文化系の部活に入ると思ってたんだけどなあ。

 ちなみに、日花里ちゃんは、中学の時は50m走で12秒台という伝説的な記録を残した。

 もちろん、悪い方の意味での伝説だけど・・・

 ちなみに私はというと、7秒台後半だったと思う。

 いや、8秒台だったかもしれない。

 最近、体育で測定したばかりなので、どうも記憶が曖昧だ。

 私は走りはクラスの中でも速い方だったと思う。

 だからといって、陸上部に入ろうとかは思わないけど。


 そんなことを考えながら家に向かっていた私だけど、気がつくといつの間にか見知らぬ場所にいた。

「あれっ、ここはどこ?」

 私は周りをきょろきょろするけど、周囲には誰もいない。

 だんだん不安になって、その場から離れようと必死に走った。

 でも、どこまで走っても誰の姿もない。

 ていうか、私は必死になって走ってるのに、周りの風景が全然動かない。

 これってどういうこと?

 毎日がつまらない。

 確かにそう言ったけど、楽しいことは起こってほしいけど、怖いことは起こってほしくない。

 私は人一倍怖がりなのだ。

 時間にして5分ぐらい経っただろうか?

 ようやく向こうから人の姿が見えてくる。

 ようやく人と会える。

 そう思って安心したのもつかの間だった。

 向こうから来る人は、明らかに不審な人だった。

 全身をフードで覆い、謎の仮面をつけているその人は、明らかに私の方へとまっすぐ近づいてきていた。

 怖くなって、全力でその人物がくる逆の方に全力で駆けだす。

 今こそ50m7秒台の全速力を出す時だ。

 でも、私は走ってるのに、やっぱり周りの景色は全然動かず、どんどん距離を詰められる。

 そして、ついに私の目の前までその人は来てしまった。

 覆面の姿に怖くなって、私はその場に腰を抜かして座り込んでしまった。

 不審な人はそんな私をしばらくじっと見下ろしていた。

 その時間が、またすごく長く感じて、私はずっとビクビクしていた。

 だから、

「琴音。」

 その人が、男とも女ともわからない、ていうかすごい電気っぽい奇妙な声で私の名前を呼んだ時、私の緊張は一気に張り裂けた。

「だ、誰か、助けて!!!」

 気がつくと、私は大声で叫んでいた。

 しかし、私とその覆面以外誰もいないのに、誰がその声を聞いて助けに来てくれると言うのか。

 でも、その時の私は恐怖でそんなことを考えていられる余裕はなかった。

 ただただひたすら叫んでいた。

 でも

「静かにしろ。」

 覆面が大声でそう叫ぶと、恐怖のあまり声すら出なくなってしまった。


 怯える私に、覆面はゆっくりと近づいてきた。

 もうダメだ。

 この覆面に捕まって、きっとお嫁にいけなくなるようなひどいことをされてしまうのだろう。

 そんなことばかり考えていた時だった。

「私はこんな格好をしているが、怪しいものではない。」

 覆面は意外と紳士的に私に声をかけてきた。

 でも、声があまりにも不気味なので、やっぱり怖かったけど。

 この人は一体何者なんだろう?

 もしかして、宇宙人?

 それに、どうして私の名前を知ってるんだろう?

「琴音、お前は毎日退屈な日々を過ごしているらしいな。」

 覆面は私にそう尋ねてきた。

 確かに退屈していたけど、ここで「はい」と答えてしまうと、私は宇宙に連れ去られてしまうかもしれない。

 退屈した日々は嫌だけど、宇宙に連れて行かれたくはない。

 だから、私は

「い、いいえ」

と答えた。

 私の答えに、覆面は少し驚いているようだった。

 覆面をしているので、表情は全くわからないけど、私が答えた後に、覆面が小声で「えっ?」と言うのが聞こえたからだ。

 あれ、もしかしたら本当は怖くない人なのかもしれない。

 その小さな声一つで、私は少し冷静さを取り戻すことができた。

 とはいえ、この不思議空間から脱出する方法を私は知らないし、覆面を怒らせないようにするしかない。

 覆面が再び話しかけてきた。

「琴音、お前の退屈な日常を私が解決してやろう。」

 覆面はそう言うと、指先を私の額に持ってくる。

 これって、もしかして指先からドーンってされるやつかな?

 ていうか、私、退屈していないって言ったつもりなんだけど・・・

 再び私の表情がこわばった。

 でも、覆面は指先で私の額をなぞっただけで、それ以上は何もしてこなかった。

 そして、しばらくなぞった後、覆面は私に言う。

「琴音、目をつぶれ。」

 私は覆面に言われるまま、目を瞑った。

 覆面は私に目を瞑らせて、私に何をしようとするつもりなのだろうか?

 そう思った時だった。


「姉ちゃん、家の前で何やってんの?」


 聞きなれた声が耳に飛び込んできて、私は目を開ける。

 すると、私の目の前には、私の家が建っていた。

 玄関には由姫咲(ゆめさき)の表札があるし、間違いない。

 私はいつの間にか、家に帰ってきていた。

 そして、玄関には弟の悟が私の方を見ていた。

 家だ、悟だ。

 私は無事に戻ってくることができたんだ。

 嬉しさのあまり、気がついたら悟に抱きついていた。

「な、なんだよ姉ちゃん、気持ち悪いよ。」

 悟が必死に私を引きはがそうとする。

 ああ、この抵抗感、本物の悟だ。

 私は安心して、玄関で人目も気にせずに、悟に思いっきり抱きついて、頬をすりすりこすり合わせていた。

 家の中に悟の友達が来ていたことも気づかずに・・・


 夜、私は昼間に起こったことを日花里ちゃんに電話で話した。

「結局、あれは何だったんだろう?」

 日花里ちゃんに尋ねる。

「そんなの私にわかるわけないでしょ。」

 日花里ちゃんはすごい疲れているようだった。

「テニス部の練習で私疲れてるんだけど。」

 日花里ちゃんは明らかに電話を切りたがっている感じだった。

「なんだかお疲れのようだね。」

「テニス部の練習がちょっときつくてね。」

「やっぱり運動音痴の日花里ちゃんには無理だって。」

「せっかく高校生になったんだから、新しいことを始めてみたかったんだよ。」

 部活の話になると、日花里ちゃんはいつも最後にはそう答える。

 でも、無理してまで、新しいことを始める必要はないと思うんだけどなあ。

 どうせ・・・

 あれっ、今、何を思ったんだっけ?

 どうせ・・・何なんだろう?


「それはともかく、無事でよかったわ。」

 日花里ちゃんは私の無事を喜んでくれた。

「今度から、誰かと一緒に帰った方がいいと思う。

 お母さんに迎えに来てもらったらどう?」

 ただ、私を子ども扱いするのはやめてほしいけど。

「とにかく、詳しい話は明日学校で聞くから、今日はもう寝かせてくれないかな?」

 日花里ちゃんが私にそう言う。

 とにかく、日花里ちゃんはすぐに寝たいみたいだ。

 でも、まだ夜10時半だよ。

 寝るの早すぎじゃないかな?

 そう思ったけど、すごい疲れているようだったので「じゃあ、また明日ね。」と言って電話を切った。

 日花里ちゃんに寝るの早いと言ったけど、今日は私もなんだか疲れた。

 全力疾走したし、精神的にも消耗したからね。

 それに、悟にも謝り疲れたし・・・


 弟に過剰なスキンシップを行なう姉の構図は、弟の友達にあらぬ誤解を与えてしまったらしい。

 友達が帰った後、悟は私と一言も口を聞いてくれなくなった。

 悟にずっと謝り続けて、悟が「もういいよ。」とため息交じりに答えてくれるまで2時間ぐらいかかったと思う。

 そんなわけで、私も疲れた。

 ベッドに横になると、すぐに私は眠りについてしまった。


「あれっ?」

 気がつくと、私はまたしても見知らぬ場所に立っていた。

「ここはどこ?」

 私の周りでは、何やら仰々しい恰好をした人達が儀式っぽいことを行なっていた。

 しかも、なんとパジャマ姿で、大勢の人達のいるど真ん中に立っていた。

「えーーーっ、何この状況!?」

 慌てて周りを見渡すけど、儀式っぽいことをしている人達は誰も私のことに気がついていないようだった。

 その周囲には大勢の人達がこっちを見ていた。

 でも、その人達も、誰も私に気づいていないようで、みんな儀式の方を見ていた。

 まさか、これは昼間の再現では?

 そう言えば、あの覆面、何か言ってなかったっけ?

 あの時は、あまりの怖さで全然覚えてないんだけど、もしかして私の額にさわってたのは、この儀式に召喚するためだったのかな?

 昼間と違って、今度は大勢人がいるし、周りの時間も動いている。

 でも、誰も私の存在に気づいていない。

 私がどんなに大声を出しても、誰も気に留めようともしない。

 なんだか急に怖くなった。

 自分の存在が誰にも認識されないことが、こんなにも怖いことだと思わなかった。

 だが、その時だった。

 私の方をじーっと見ている美しい金髪の小さな女の子が見えた。

 もしかしたら、あの子にだけは私の姿が見えているのかも。

 試しにその子に向かって微笑んでみると、何とその子は私に微笑み返してくれた。

 間違いない、彼女には私の姿が見えている。

 そう思ったら、もう嬉しくなって、気がつけば彼女に向かって飛び出していた。


 飛び出していたってのは、文字通りの意味だった。

 途中で気づいたことだけど、私の体は空中を浮かんでいた。

 でも、今はそんなことよりも、早く彼女と話したい。

 そう思った。

 彼女は、私が飛んでくるのを見て、すごい驚いていた。

 それを見て、私は確信する。

 彼女だけには私の姿が見えている。

 早く会って話をしたい。

 こんなにも人恋しいと思ったのは、これが初めてだった。

 だから、普段人見知りで自分から話しかけることなんてできなかった私だけれど、この時だけは何の迷いもなく彼女に話しかけることができた。

「ねえ、あなたには私の姿が見えるの?」

 それが私が彼女に最初に発した言葉だった。

 そして、それが私と彼女との最初の出会いだった。


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