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黄昏のラーヴォルン  作者: レトリックスター
第2章 晩夏のラーヴォルン
17/254

13.ドキドキ潜入捜査

<<琴音>>

 この誰にも見えない体を、初めて活かせる時が来たかもしれない。

 潜入捜査だよ。

「じゃあ、私行ってくるよ。」

 ミディアちゃんにそう告げてから、エレーネちゃんのお店にそっと近づいて入った。

 今日は、あまりお客さんがいないみたいだ。

 お店には、見たことのない人がいた。

 多分、ここで働いている人だろう。

 そして、お店の奥の部屋に、そーっと入っていく。

 誰にも見えていないはずなのに、他人の家に忍び込む時の緊張感と来たらたまりません。

 そーっとそーっと、突き当たりの部屋に入ろうとした時、いきなり扉が開いて、中から人が出てきたので、すごいびっくりした。

 部屋から出てきた人は、エレーネちゃんのお母さんだった。

 ラーファちゃんじゃなくてよかった。

 エレーネちゃんのお母さんは、さっきお店にいた人にイデアを手渡した。

 てことは、こないだ見たイデアの交換だろう。

「ところで、エレーネとラーファイムは、まだ2階にいるの?」

「ハイ、まだいるみたいですが・・・」

「今日はアイ―シャの家で勉強会するって言ってたのに、何やってるのかしら?」

 2人の会話のおかげで、ラーファちゃんとエレーネちゃんがここにいることがわかった。

 なるほど、2人は2階にいるのかあ。

 じゃあ、早速2階に上がってみるかな。


 この体の便利なところは、どこにでもすり抜けられることです。

 だから、階段を使わなくても、すーっと床をすり抜けて、2階まで上がっていけて、すごい楽だ。

 とりあえず、2階の床に身を隠して、2階の様子を見ることにした。

 私がいる場所は、どうやら廊下のようだ。

 誰もいない。

 体を起こして、2階の廊下に出てみる。

 2階には部屋が4つもあるみたいだ。

 外からじゃわからなかったけど、結構大きな家なんだなあ。

 このうちのどれか1室に、ラーファちゃんとエレーネちゃんがいる。

 次に、部屋の扉に耳を当てて、声が聞こえてくるかを探ってみる。

 下手に入って、ラーファちゃんに見つかるとマズいからね。

 すると、2部屋目から声が聞こえてきた。


『繰り返します。

 本日未明に、ヴェルク帝国国境の街ルカザスで、ガルティア帝国との小規模な武力衝突が発生した事件ですが、現在は沈静化した模様です。

 2大帝国の武力衝突ということもあり、アトゥア中に緊張が走りました。

 武力衝突発生後、リーヴァ政府は最大級の警戒態勢を取っていましたが、先程リーヴァ政府は警戒態勢を解除した模様です。

 本日夜にリーヴァ政府が会見を開く予定になっています。』


 なんだ、ただのニュースか。

 テレビでもつけっぱなしなのかな?

 まあ、私の体じゃ、テレビがつけっぱなしでも消すことできないし、どうしようもないけど。

 それにしても、なんか物騒なニュースだなあ。

 ラーヴォルンは素敵な街だけど、やっぱりアトゥアでも戦争とかってあるんだな。

 そういや、魔法理論の勉強では魔法戦争の勉強をするとか言ってたもんなあ。

 アトゥアも、過去には多くの戦争があったんだろう。

 もしかしたら、今でもどこかで戦争しているのかも?


「・・・どうするのよ?」

 あれっ、テレビと違う聞きなれた声が聞こえてきた。

「私にわかるわけないでしょ。」

 この声にも聞き覚えがある。

 どうやら、ラーファちゃんとエレーネちゃんの声みたいだ。

「でも・・・ると・・・だから、・・・」

 なんかすごい小声で会話しているみたい。

 おかげで何言ってるのか、全く聞こえない。

 ていうか、テレビ音声が邪魔だよ。

「・・・信じてよ。・・・本当に私にもわからないのよ。」

 エレーネちゃんの声は、少しだけはっきりわかった。

 ていうか、もしかしてエレーネちゃん、泣いてるの?

 今の、完全に涙声だったよ。

 あのエレーネちゃんが泣いてるなんて、一体何があったんだろう?


 まだ何かボソボソ話してるけど、部屋の外からは全く聞き取れない。

 ニュースの音声大きすぎるよ。

 全く聞こえない。

「ううっ・・・」

 エレーネちゃんのすすり泣く声が聞こえてきた。

 なんかわからないけど、どうやらラーファちゃんがエレーネちゃんを責めているみたい。

 それでエレーネちゃん泣いてるし・・・

 なんだか、これ以上聞いていてはいけないような気がしてきて、ミディアちゃん達のいるところに戻ることにした。

 本当はすごい気になる。

 エレーネちゃんが泣くなんて、ただ事じゃないからね。

 でも、私だって空気ぐらい読める。

 多分、これはマジ喧嘩だ。

 だったら、これ以上は聞かない方がいい。

 下手に事情を知ってしまったら、せっかくの楽しい日々がなくなってしまいそうに思えたからだ。


「琴音、ラーファとエレーネ先輩いた?」

 私が戻ると、すぐにミディアちゃんが声をかけてきた。

 ミディアちゃんに、どう説明しよう?

「えーっとね、いなかったみたい。」

 つい嘘をついてしまった。

 でも、さっきの2人の様子を、ミディアちゃん達には話さないほうがいい。

 だって、ミディアちゃんもアイちゃんも明日は試験だし、余計な心配をかけない方がいい。

 直感でそう感じた。

 とりあえず、ラーファちゃんとエレーネちゃんはどこか別のところに行ってると思わせないといけない。

「だから、さっさと戻って勉強会しよう。

 もしかしたら、ラーファちゃんとエレーネちゃんが、アイちゃんの家に来てるかもしれないよ。」

「しまったあ、その可能性を考えてなかった。」

 私の話したことを、ミディアちゃんがそのまま伝えると、アイちゃんは頭を抱えていた。

 ていうか、その可能性を考えてなかったんかい。

「そうだね。アイ、琴音、さっさと戻るよ。」

 アイちゃんが頭を抱える一方で、ミディアちゃんはすごく元気になっていた。

 よっぽど勉強したかったんだなあ。

 なんか、勉強の邪魔しちゃって、悪いことしたな。


 アイちゃんの家に戻ったけど、ラーファちゃんとエレーネちゃんはまだ来ていなかった。

 まあそうだろう。

 あの感じだと、2人ともまだあの部屋にいるんだろう。

 それにしても、2人の間に一体何があったんだろう?

 昨日まで、2人ともすごい楽しそうに話していたのに。

 なんか、すごい嫌な予感がしてきた。

「どうしたの琴音?

 さっきから怖い顔して?」

 ミディアちゃんがジーッと私の方を見ている。

 私、今そんなに怖い顔してるのかな?

 ダメだ。

 ミディアちゃんには今は理論テストの勉強に集中してもらわないと。


「な、何でもないよ。それよりどんな勉強しているの・・・かな。」

 話を逸らすつもりで、ミディアちゃんのテキストを覗いてみて、驚いた。

 何が驚いたかって、ミディアちゃんの持ってきているテキストの数だよ。

 1,2,3・・・10冊もあった。

 それ、もしかして全部テスト範囲?

「ね、ねえ、もしかしてその本全部・・・」

「ウン、レベル15の教科書だよ。」

 マジですか?

 1冊1冊はそんなに分厚くないけど、でも10冊って多くない?

 しかも一つのレベルで、それだけのテキストって、レベル1からレベル15まで合わせたら何冊になるんだろう?

 そのうちの数冊は、数式と思わしきものが大量に書かれていた。

 数が苦をなんとか克服したつもりだったけど、この怒涛の数式の羅列はさすがに堪えるよ。

「ねえ、どのレベルもこんなに教科書たくさんあるの?」

「ウウン、レベルが一桁の頃は、薄い教科書がせいぜい2,3冊だったんだよね。

 それが、レベル10を超えたあたりから急に増えだして、レベル15ではついに10冊だよ。」

 そっか、最初からこんなに多いわけじゃないんだ。

「ていうか、こんなのできるかー!」

 アイちゃんはもう最初から投げやりモードだ。

「そんなこと言わないで、頑張ろうよ。」

 ミディアちゃんがアイちゃんに声をかけるけど、なんかアイちゃんはやる気が出ないみたい。

「あーあ、ラーファ先輩に勉強教えてほしかったのになあ。」

 アイちゃんがラーファちゃんの名前を出した途端、私の脳裏にさっきの光景が浮かんできた。

 あーあ、盗み聞きなんてするんじゃなかった。

 もう、すごい気になって仕方がないよ。


 結局、この日、ラーファちゃんとエレーネちゃんは家に来なかった。

 ミディアちゃんは必死で勉強してたけど、アイちゃんは最後まで諦めモードだった。

「どうしよう。こんな調子で、明日のテスト大丈夫かな?」

 さすがにミディアちゃんも不安になってる。

 私が調子に乗って、ラーファちゃん達の様子を見に行こうなんて言い出したからだ。

「なんか、勉強の邪魔しちゃったみたいで、ゴメンね。」

「ウウン、琴音が謝ることじゃないよ。

 それに、これだけ難しいと、エレーネ先輩の家に行ってた時間を勉強に充てても、大して変わらなかったと思う。」

 ミディアちゃんは私に気を遣ってそう言ってくれてるけど、やっぱり表情が重い。

「とにかく、今の自分の力を全力で出すしかないよ。ミディアちゃん。」

「ウン・・・とにかく私、精一杯頑張ってみるね。」

 ミディアちゃんはそう言うと、精一杯の笑顔を見せてくれた。

「でも、ラーファとエレーネ先輩、どうして来なかったんだろう?」

「さ、さあ、なんでだろうね。」

 私はとぼけるしかなかった。


 翌朝の目覚めは、あまりいいものではなかった。

 ラーヴォルンに行けるようになってから、目覚めると憂鬱になって仕方なかったけど、今日のは少し違った。

 やっぱり、この憂鬱な気分は、昨日のラーファちゃんとエレーネちゃんの話を聞いてしまったからだ。

 どうしてあんなことをしてしまったのだろうか?

 なんか、体が重い。

「琴音、もう朝よ。ってなんか久しぶりねこの感じ。」

 久しぶりにお母さんに起こされた。

 そして、久しぶりに日花里ちゃんが家に迎えに来た。


「どうしたの、琴音?」

 会うなりいきなり、日花里ちゃんに心配された。

 話すべきかどうか散々悩んだんだけど、結局日花里ちゃんに全部話した。

 ラーヴォルンの話だし、こっちで秘密にする必要もないかなって思ってね。

「なるほど、ラーファちゃんとエレーネちゃんがケンカしてて勉強会に来なかったと。

 琴音はそれを盗み聞きしてしまったけど、そのことをミディアちゃんには話せなかったってことね。」

「だって、あんなに仲良かった2人がケンカしていることなんて、テスト前のミディアちゃんに話せないよ。」

「そっか、向こうではまだテスト続いてるんだね。」

「今日の理論のテストでひとまず終わりみたいだけどね。

 でも、あんな調子で大丈夫なのかなあ?

 ミディアちゃんは必死に勉強してたけど、アイちゃんはもうほとんど諦めてたし。

 ラーファちゃんとエレーネちゃんは勉強会にすら来なかったし。」

「なるほどね。」

 日花里ちゃんはそう言うと、何やら考え始めた。

「どうしたの、日花里ちゃん?」

「じゃあ、今日ラーヴォルンに行ったら注意した方がいいよ。」

「えっ、注意?どうして?」

「だって、全員のテストが最悪の結果な可能性があるわけでしょ。」

「そっか。」

「そして、ミディアちゃんが、不真面目だったアイちゃんや勉強会に来なかった2人を責めて、ケンカになって泥沼状態・・・なんてことになってるかも。」

「ないよ、そんなこと。」

 外なのに、思わず大声で叫んじゃった。

 もう、日花里ちゃんは、どうして不安になるようなことばかり言うんだろう?

 前も、数十年後のラーヴォルンとか言われて、ずっと不安になったんだよ。


「ゴメンゴメン。」

 日花里ちゃんが笑いながら謝る。

 なんかすごい軽い謝罪だね。

「でも、本当にこれだけは注意して。

 あなたが2人の話を盗み聞きしたこと、絶対に2人にバレたらダメよ。」

「もし、バレたら?」

「多分、絶交されるよ。」

 ぜ、絶交!?

 また不安になるようなことを・・・

 でも、確かに人の話を盗み聞きするようなことをしたら、嫌われるよね。

 どうしよう?

 ますます不安になっちゃったよ。

 やっぱり、日花里ちゃんに相談するんじゃなかった。


 結局、今日は一日中不安を抱きながら過ごした。

 日花里ちゃんに言われたことが、ずっと頭の中に残ってて、すごい憂鬱だった。

 あー今日ラーヴォルンに行ったら、みんなとどう接したらいいんだろう?


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