11.ラーヴォルンの昼食
<<ミディア>>
今日の実技検定は終わったので、琴音と一緒にラーファ達が来るのを待っていました。
レベルが高くなるにつれて、魔法検定の時間もかかるようで、レベルによっては、まだ一つ目の課題が終わっていないところもあるようです。
しばらく待っていると、アイがやってきました。
でも、アイの表情はすごい暗かった。
「アイ、どうしたの?」
「実技、2つ目の課題でしくじっちゃった。
明日の実技のテスト、なくなっちゃったよ。」
アイはかなり落ち込んでいました。
だって、憧れのラーファに、早く追いつきたいって、ずっと言ってたからね。
実技のテストは、課題を全部クリアできた時点で採点されます。
だから、全ての課題がクリアできないと、採点すらされません。
つまり、失格になった時点で0点ということです。
「お疲れ。」
しばらくすると、ラーファとエレーネ先輩もやってきた。
でも、こちらの2人も、あまり明るい表情ではありませんでした。
「ミディア、どうだった?」
エレーネ先輩の表情はかなり暗かった。
「ハイ、私は何とか課題2つともクリアできました。」
「そうか、よかったなミディア。」
「ミディア、本当によく頑張ったわね。」
エレーネ先輩もラーファも喜んでくれた。
でも、本当に喜んでいいのかな?
出てきた時の2人の表情、かなり重たかったし。
「今日は琴音も来てたんだね。」
ラーファが琴音に声をかける。
本当にもう普通に会話できるようになっていた。
「ウン、ミディアちゃんが心配でつい・・・」
「じゃあ、ミディアが課題クリアできたのは、もしかして琴音のおかげなのかな?」
「ウウン、そんなことないよ。
ミディアちゃんすごいんだよ。
すっごい大きな炎起こして、先生達ビックリしてたよ。」
琴音がそう言うと、ラーファは驚いた顔で私の方を見た。
「ねえ、ミディア・・・もしかして・・・」
「ウン、私、どうやら魔法のコツをつかめたみたい。
全部ラーファのおかげだよ。」
「そう、ついにつかめたんだね。
本当に・・・本当に良かった。」
あれっ、ラーファが泣いてる。
どうしたんだろう?
「だって、ミディアが・・・ミディアが・・・」
まさか、ラーファがこんなに喜んでくれるとは思わなかった。
そして、ラーファの隣では、琴音までもらい泣きしていた。
もう、この2人は泣きすぎだよ。
すごい嬉しいけど・・・
「ラーファは、本当にミディアのことになると泣き虫になるなあ。」
エレーネ先輩がそう言いながら、ラーファの頭を撫でています。
「えっ、どういうことですか?」
「こないだミディアとケンカした時なんか、本当に大変だったんだぜ。」
「わーーーーっ!!!」
ラーファが慌てて大声で遮った。
「ねえ、ラーファちゃんとケンカしたってどういうこと?」
琴音も驚いた表情で私に話しかけてきました。
収集がつきません。
「とりあえず、食事に行きましょう。」
これ言うの、いつもだったらアイなんだけどなあ。
でも、アイはずっと落ち込んでるので、仕方ないかな。
みんなお腹すいていたのか、自然と話は収束して食事に行く流れになりました。
とりあえず、ごまかせたみたいだ。
私とラーファのケンカのことは、琴音にあまり知られたくなかったのでよかった。
<<琴音>>
「そう言えば、私、ラーヴォルンの食事って見たことないや。」
私がそう言ったら、ミディアちゃんはすごい驚いてた。
「えっ、ルフィル・コスタの時、色んなお店あったでしょ?
私達は、あの時何も食べてなかったけど、周りには結構食べてた人いなかった?」
「あの時はそんな余裕全くなかったよ。
だって、全く知らない世界に来て、どうしようってそればっかりだったから。」
「じゃあ、私達、これから食事にいくから、一緒に来る?
琴音は食べられないから、ずっと見ているだけになっちゃうと思うけど・・・」
ミディアちゃんは、私だけ何も食べられないことを気にかけてくれているみたいだった。
ミディアちゃんが気にかけることじゃないのに・・・
本当にすごい優しい子だなあ。
「ウン、私は食べられないけど行くよ。」
笑顔でそう応えると、ミディアちゃんも笑顔を見せてくれた。
ウン、やっぱりミディアちゃんには笑顔が一番似合う。
でも、みんなが食事を取るところを、ずっと眺めているだけかあ。
夢の中でお腹すきそうだ。
明日の朝食は、さぞかし食が進むことだろう。
ミディアちゃんの話だと、学校の周りにお店がたくさんあるらしく、みんなはいつも色んなお店に食べに行っているらしい。
今日行くお店は、結構よく行くお店らしい。
ラーヴォルンの人達がどんな食事を食べているのか楽しみだなあ。
海沿いの街だし、海鮮料理とか多いのかな?
それとも、学生の食べるものだから、ジャンクフードっぽいものかな。
ラーヴォルンにもラーメンのような麺類とかあるのかな?
私はカレーが好きだけど、ラーヴォルンにもあるのかな?
なんか色々と楽しみになってきた。
しばらくすると、一人の女性がこちらにやってきた。
身なりで一目で店員さんだとわかった。
見た目はちょっと年上のお姉さんにしか見えないけど、多分あの人もかなりの年上なんだろうな。
「みんな、今日も来てくれてありがとう。」
店員さんとのフレンドリーな会話からも、ミディアちゃん達はこの店の常連さんであることがわかった。
「で、今日は何にする?」
すごいフレンドリーにメニューを訪ねてきました。
「じゃあ、私はクーフォムね。」
エレーネちゃんがそう言うと、ラーファちゃんとアイちゃんも「じゃあ、私もそれで。」と注文しました。
一方、ミディアちゃんは真剣に悩んでいました。
「ミディアは?」
「うーん、えーっとね、じゃあ、今日はクーフィーシチューにする。」
「はーい、じゃあちょっと待っててね。」
お店の人は注文を確認すると、お店の奥へと消えていった。
みんなの話す言葉は、誰かが自動的に翻訳してくれてるので、大抵のことはわかるんだけど、やっぱり料理の名前は無理だったか。
クー?なんだっけ?
ミディアちゃんの頼んだものが、何かのシチューだってことはわかった。
「ねえ、ミディアちゃん、みんなの頼んだのって、どんな料理なの?」
ミディアちゃんは私がすぐに聞いてくると思ってたのか、私が聞くと、待ってましたとばかりに説明を始めた。
「アトゥアにはクーフィーという動物がいてね。
そのクーフィーの肉団子のシチューが、私の頼んだクーフィーシチューだよ。」
なるほど、肉団子入りシチューか。
でも、ラーヴォルンってまだ暑そうなのに、シチューとはね。
「はあ、こんな暑い日にシチューなんか頼むかね?」
私の思っていたことを、エレーネちゃんが代弁してくれたよ。
「エレーネ先輩はわかってないですね。
こういう暑い日だからこそ、シチュー食べて思い切り汗をかくのがいいんですよ。」
ミディアちゃんが汗をかきながらシチュー食べる姿を想像したら、なぜかものすごい興奮した。
「それで、ミディアちゃん、クーフィーってどんな動物?」
「そっか、琴音はこの世界の動物のこと、知らなかったね。」
ミディアちゃんはそう言うと、カバンからイデアを取り出して、ラーファちゃんに渡した。
「ねえ、ラーファ、この映像をちょっと映してほしいんだけど。」
「ハイハイ、わかったわよ。」
ラーファちゃんはイデアに手をかざすと、後ろの壁に映像を映し出した。
「すごい、魔法ってこんなこともできるんだ。」
「イデアに映っているものを映し出すだけだったら、そんなに難しくないわよ。
多分、ミディアにもそのうちできるようになるよ。」
ラーファちゃんはそう言うと、ミディアちゃんにどの辺の映像を映したらいいと尋ねます。
すごい、再生位置も自在なんだ。
これは便利だ。
ブルーレイの再生もこれくらい手軽にならないかなあ。
本編に入るまでに結構時間かかって、楽しみにしていた作品を初めて見る時とか、たまにイラッと来ることがあるんだよね。
しばらくすると、壁にある動物の姿が映し出された。
「これがクーフィーだよ。」
何ていうか、顔はイノシシっぽいけど、すごい巨体で、動きはすごい遅い。
変な動物だった。
「ちなみに、ラーファ達が頼んだクーフォムってのは、クーフィーの肉を他の野菜と一緒にいためたものに、クーフィーのミルクから作ったソースをかけたものだよ。
これもすっごいおいしいんだけど、私は今日はシチューが食べたい気分だったんだよね。」
なるほど、クーフォムは肉野菜炒めのことね。
「ミディアは、いいことがあったら、いつもシチューを食べるのよ。」
ラーファちゃんが教えてくれた。
「だって、シチュー大好きだけど結構高いんだもん。
だから、いいことがあった時だけ食べるって決めてるんだよ。」
へえ、こっちのシチューって結構高いんだ。
日本のファミレスとかはどうなんだろう?
そもそも、ビーフシチューとかクリームシチューとか、そんな単品メニューあったかな?
最近、ファミレスとか行ってないし、ファミレスで単品メニューって頼んだことないからわかんないや。
「それにしても、実技テスト初日を突破できたのがミディアだけとはね。」
エレーネちゃんがそう言うと、ミディアちゃんは驚いた表情になった。
「えっ、どういうこと?」
「さっき、アイが課題失敗して、失格になったって言っただろ。
実は私もラーファも、失格になっちゃったんだよ。」
「バカ、どうして言うのよ。」
ラーファちゃん、すごい怒った顔になった。
「だって、隠してても、どうせすぐにばれるんだし、隠す意味ないでしょ。」
エレーネちゃんはあっけらかんとそう言った。
でも、さっきまで明るかったミディアちゃんの表情、明らかに暗くなっちゃってるよ。
「ゴメンね、私一人だけ、うかれちゃって・・・」
「ミディア、私達のことなんか気にしないでいいのよ。
だって、ミディアが今回の魔法検定のためにどれだけ頑張ったか、私達知ってるし。」
「もしかして、私の練習につきあったせいで、ラーファは・・・」
「そんなわけないでしょ。」
ラーファちゃんがすぐに否定した。
「ミディアが課題をクリアできて、私、本当に嬉しいんだからね。
そんなこと言わないでよ。」
「ウン、ありがとうラーファ。」
ラーファちゃんって、本当にミディアちゃんのことを大事に思ってるんだなあ。
「大丈夫よ、私もエレーネもアイも、次の魔法検定でサクッと合格してみせるから。
そうよね、エレーネ、アイ?」
ラーファちゃんがエレーネちゃんとアイちゃんの方を見る。
ミディアちゃんの方からは死角になってるけど、ラーファちゃんの表情、すごい怖いよ。
あまりの怖さに、エレーネちゃんもアイちゃんも「ウン」と頷くしかなかった。
本当にミディアちゃんのことになると、ラーファちゃんすごいなあ。
「と、とりあえず昼食食べて、元気出そう。」
さすがのエレーネちゃんも、ラーファちゃんの迫力に完全に押されてるし。
「お待ちどうさま。」
十分ほどしてから、お店の人が料理を持ってきた。
「えっと、クーフォムはそっちの3人だったわね。
で、ミディアがクーフィーシチューね。」
そして、次々とテーブルに次々と品を置いていく。
どのメニューにも、すごい大きなパンとサラダがついていた。
それにしても、ボウル一杯分のサラダがついてくるってすごいな。
ちなみに、食器はスプーンとナイフとフォークだった。
文明は違っても、結局は似たような食器になるってことなのかな?
残念ながら、お箸はないみたい。
日本の箸文化は偉大だと思った。
「わあ、おいしそう。」
ミディアちゃんがそう言うと
「当たり前だ。うちの料理はどれもうまいよ。」
とお店の人がニッと笑いながらそう言った。
「もうお腹ペコペコだよ。」
「私も。」
「じゃあ、いただきまーす。」
みんなはそう言うと、テーブルに置かれた食事に手を付け始めた。
私はと言うと、みんなが楽しそうに食べるのを見ているだけ。
まあ、こんな体だから、食べられるわけないんだけどね。
でも、運ばれてきた食事を見て、正直少し引いてしまった。
「ねえ、ミディアちゃん・・・」
「あっ、ゴメンね琴音。私達だけ食べちゃって。」
「い、いや、それはいいんだけどさ・・・」
ミディアちゃん達はおいしそうに食べてるんだけど、私にはちょっと信じられなかった。
「どうして、シチューの色、紫色なの?」
そう、ミディアちゃんの食べているシチューも、ラーファちゃん達が食べている肉野菜炒めも、すごい紫色なんだよね。
特にミディアちゃんのは濃厚紫色で、しかもなんかボコッと泡が立っていた。
見た目は、そうだな。
アニメとかでよくある、料理の下手な女の子がレシピに従わずに色々と創意工夫して作り上げた結果、出来上がったシチュー料理。
有毒ガスとか発してそうなイメージの紫色のシチュー。
あんな感じがした。
紫のシチューに沈んでいる肉団子が、なんか得体のしれない肉のように思えてくる。
ラーファちゃん達の食べてる肉野菜炒めは、ちょっと灰色っぽくなった紫色だけど、何ていうかそっちもすごい食欲をそそらなかった。
「ああ、これはミリネアって香辛料の色だよ。」
ラーヴォルンの香辛料って、こんなに紫色なんだ。
「ミリネアはラーヴォルンで最初に作ったって言われてるんだよ。
だから、ラーヴォルンではミリネアを使った料理が多いんだよ。」
ミディアちゃんはそう言うと、ドロッとした紫色のシチューに染まった肉団子をおいしそうに頬張った。
ミディアちゃんには悪いけど、すごい気分が悪くなってきた。
「ところで、琴音はどういう食べ物が好きなの?」
「私は、カレーとかラーメンとかハンバーガーが好きかな。」
言ってから思ったけど、私の好物って本当にジャンクフードが多いなあ。
「それはどういった食べ物なの?」
ミディアちゃんに聞かれて、はたと困った。
カレーとかラーメンって、どう説明したらいいんだろう?
ネットがあったら、ウィキペディアで調べるのになあ。
カレーもラーメンも、私達にとっては当たり前の食べ物だ。
だからこそ、言葉で説明してと言われると困ってしまう。
どう説明したらいいんだろう?
「いいよ、無理に説明してくれなくても。」
ミディアちゃんはそう言うと、紫色のドロッとしたスープをスプーンですくって飲んだ。
ダメだ、気分が悪くなってきた。
「琴音、どうしたの?」
「え、えっと、みんながおいしそうに食べてるから、なんか私もお腹がすいてきちゃったかなあ、なんて、アハハハハ・・・」
最後は笑ってごまかすしかなかった。




