10.ミディアの魔法検定
<<ミディア>>
今日は琴音の国語のテストが終わる日だ。
そして、今日から魔法検定も始まる。
今度は私が頑張る番だ。
よし、行こう。
「今日はなんか朝から元気だね。」
アイに会うなり、そんなことを言われた。
ちなみに、今まで魔法検定の日は、死んだ魚の目みたいになってるって言われてたんだよね。
死んだ魚の目って、私、一体どんな顔してたんだろう?
「今日の魔法検定、すごい自信があるみたいだね。」
「ウーン、自信があるってわけじゃないけど、今までよりも手ごたえがあるって感じかな。」
「そっかあ、ミディア、昇格できるといいね。」
「ウン。」
今日は魔法検定の日なので、朝に行なわれる同学年集会はなく、みんな直接それぞれのレベルの教室へと向かいます。
実技の検定は今日と明日の二日間で行なわれ、明後日に理論のテストが行われます。
レベル3の教室には、もう結構人が集まってました。
普段は教室は生徒だけなんだけど、なぜか魔法検定の日は親が見に来ることが多いです。
多分、子供の成長を見たいということなのでしょう。
特に小さい子が多いレベル3の教室は、すごい数の大人で溢れかえっていました。
だから、いつも以上に教室に入るのが恥ずかしくて仕方がありません。
うー、8歳の子供達と並んで席に座るのが恥ずかしいよ。
「ミディアさん、早く教室に入って。」
いつの間にか近くにいた先生に声をかけられたので、渋々教室に入ります。
私が教室に入ると、やはり後ろの参観者からざわめきの声が聞こえてきました。
そりゃあ、そうなるでしょう。
ここは、本来16歳がいる場所ではないのだから。
最初に先生から簡単な説明があって、その後に実技検定が行なわれます。
レベル3の場合、課題が4つ与えられて、その課題に沿った通りに魔法を使えているかを先生が採点していきます。
1番目の課題が簡単で、4番目の課題が一番難しくなっています。
だから、課題の出来が悪いと、途中で検定が打ち切られてしまいます。
前回、私は1番目の課題で打ち切られてしまいました。
だから、2番目以降の課題を、まだやったことがありません。
でも、今回は最後までたどり着ける自信があります。
あれだけ必死に特訓したんだからね。
「ミディア・スフィルランさん。」
「はい。」
先生に名前を呼ばれた。
ついに私の番だ。
「では、最初の課題です。炎を出してください。」
そう、最初の課題は、魔法が使えるかどうかの確認です。
だから、炎を出すことさえできれば、合格です。
でも、中にはそれすらクリアできない子もいます。
前回の私がその一人だったわけだけど・・・
でも、今の私は違う。
落ち着いてやれば、絶対に炎を起こせる。
私は、練習の時と同じように、精神を集中させて、そして、指先に魔力を集中させて、一気に放つ。
それで、炎が出る・・・はず・・・
あれっ?出ない?
ウソ、昨日までちゃんとできてたのに?
どうして、炎が出ないの?
あれっ、どうして?
何度やっても、炎が出ない。
先生のため息が聞こえてきた。
マズい・・・これはマズい。
どんどん焦るばかりで、私の頭の中はパニック状態になってしまった。
「もう結構です。ミディアさん。」
ダメだ、ここで終わってしまっては・・・
「お願いします。先生、もう一度だけ・・・」
せっかく琴音やラーファが特訓に付き合ってくれたのに、こんな形で終わってはダメだ。
もうなりふり構わず、私が先生に頼み込むと、先生は渋々承諾してくれました。
これが最後のチャンスだ。
絶対に成功させないと・・・
でも、そう思えば思うほど、指先が震えてくる。
再び指先に魔力を集中させる。
練習ではできていたんだ。
絶対にできる。
でも、いくら魔力を集中させても、炎は出てくれない。
先生は、ため息交じりに首を横に振っています。
どうして、炎が出てくれないの?
私の心が絶望色に染まろうとしていたその時でした。
「ミディアちゃん、頑張れ~!!」
背後から突然、琴音の声が聞こえてきた。
驚いて声のする方を振り返ると、何とそこには琴音がいました。
驚いたせいで、今までの集中が一気に途切れてしまった。
でもどうして、こんな早い時間に?
「すげえ!!!」
とその時、私の後に検定を受けるのを待っていた子が大声をあげていた。
何がすごいのかと思って振り返ってみると、私の指先からすごい大きな炎が出ていました。
この感覚・・・そっか、これが魔法を使うってことなんだ。
これが、ラーファの言っていたことなんだ。
この時、私は初めて魔法を使うと言う感覚がわかったような気がしました。
「ミ、ミディアさん、合格。」
先生も驚いていました。
そりゃあそうでしょう。
さっきまで灯火一つ起こせなかった子が、いきなり人より大きな炎を起こしたんだから。
私だってびっくりです。
練習の時ですら、こんな大きな炎を起こせたことなかったし。
「よかったね、ミディアちゃん。合格できて。」
琴音が私に抱きついてきました。
「ありがとう、琴音のおかげだよ。」
琴音に会えたからか、魔法ができたからかわからなかったけど、自然と涙がこぼれてきました。
やったあ。
初めて、初めて魔法検定を実力で突破できた。
まだ課題一つクリアしただけだけど・・・
「あの・・・ミディアさん・・・」
琴音と喜んでいる私に、先生が声をかけてきました。
「次の生徒が待っているので、さっさと教室を出てもらえますか?」
あれっ、先生、なんかすごい引いているような・・・
いや、先生だけじゃなくて、周りの人達全員引いてる。
そっか、周りの人には琴音が見えないから、私が一人で会話をして騒いでいるようにしか見えないわけで・・・
「す、すみません・・・」
すごく恥ずかしくなったので、真っ赤になって教室を出ていこうとした時でした。
「ミディアさん。」
先生に呼び止められました。
「な、何でしょう?」
「魔法、使えるようになってよかったですね。」
先生がそう言ってくれました。
あまりにも嬉しくて、もうこみ上げてくる涙を抑えきれなくなっていました。
「ハイ、ありがとうございます。」
泣いている私の頭を、先生が優しく撫でてくれました。
パチパチパチ・・・
そして、なぜか保護者の人達が、私に拍手をしてくれました。
嬉しいけど、なんだかすごい恥ずかしい。
もう一度、先生に頭を下げると、そそくさと教室から退出しました。
「もう、すごい恥ずかしかったよ。」
多分、今までで一番恥ずかしかったかもしれない。
「でも、ミディアちゃんが合格できてよかったよ。」
琴音がそう言ってくれて、私も嬉しい。
それはそうと、
「琴音、どうしてこんな早い時間に?」
そう、琴音が来るのは、いつもお昼すぎてからのはず。
午前中の試験に、どうして琴音がいるのでしょうか?
「えーっとね、ミディアちゃんのことが気になって、いつもより早く寝ちゃったんだよ。
明日のテストは、あまり勉強することもなかったしね。
ご飯食べてお風呂に入って、9時に寝ちゃった。」
琴音って、数学と国語が苦手なだけで、もしかして他は成績いいのかな?
「それで、琴音、テストは?」
「ウン、私にできる限りのことは全部やったよ。」
それはよかった。
琴音は無事に数学と国語のテストを終えることができたんだね。
「そっかあ、それでいつもと服装が違うんだあ。」
私がそう言うと、琴音は自分の姿を見て驚いてました。
「あれっ、確かに今日パジャマ変えたけど、こっちの世界での服装まで変わってるよ。
てことは、寝た時の服でラーヴォルンに来れるってことかあ。」
「今までも、着ている服が結構変わってたけど、もしかして琴音気づいてなかったの?」
「ここに来たら、みんなのことで頭いっぱいだからね。
自分の姿なんて、最初に来た時以外、全く気にしてなかったよ。」
なんか琴音らしい。
それにしても、二ホンでは寝る時に、ああいう服を着るんだね。
なんか花柄がたくさんある服で、とても可愛らしい服だなあ。
「これ、久しぶりに着てみたんだけどどう?」
琴音はそう言うと、なんか変なポーズを取りだしました。
「ウン、すごいかわいい服だと思う。」
私がそう言うと、琴音は嬉しかったのか、頬に手を当ててニンマリしています。
「それはそうと、実技のテストって、今ので終わり?」
「ウウン、今日はもう一つ課題があって、明日さらに二つの課題を行なうんだよ。」
「大変だね。でも、ミディアちゃんだったら、絶対にできるよ。」
琴音が自信満々にそう言ってくれたおかげで、私もすごい自信がでてきたよ。
「ウン、私、頑張るよ。」
とその時、教室の方からベルが聞こえてきました。
どうやら最初の課題が終わって、次の課題が始まる時間のようです。
「じゃあ、私、教室に戻るね。」
「じゃあ、私は教室で見ているね。」
琴音はそう言うと、すーっと教室に入って行きました。
後ろの保護者と一緒に並んで見ている琴音の姿は、まるで母親のようだった。
今は、琴音が私のお母さんってことになるのかな。
思わず吹き出しそうになるのを必死にこらえて、席に座った。
でも、琴音が見ていてくれるだけで、すごい勇気がでてくる。
最初の課題の時にあった不安は、一切なくなっていました。
「よし、頑張ろう。」
次の課題は、狙った場所に正確に炎を放つテストです。
最初は大きな的ですが、段々小さな的になっていきます。
5つの的に全て命中させないと、課題をクリアしたことにはなりません。
でも、私はさっきの感覚を思い出して、炎を起こすと、あっさりと全弾命中させることができました。
一つ目の課題が嘘のように、あっさりと合格です。
「これが、ラーファの言っていたコツなんだろうなあ。」
確かに、これを言葉で説明するのは難しい。
でも、力んで魔力を集中させるのとは明らかに違う。
むしろ、私の感覚では、魔力を発散させているような感じすらする。
でも、この感覚こそが、魔力を集中させる感覚ってことなんだろう。
それを教えてくれたのは、琴音だった。
あの時、琴音に声をかけられて、力が抜けなかったら得られなかった感覚だ。
一度感覚をつかめたら、こんなにも簡単に思い通りに行くものなんだね。
一発で全弾命中させたのを見て、先生も保護者の人達も、目を丸くしていた。
私だって驚いてる。
「ねえ、今日のテストはこれで終わり?」
背後から琴音がこっそりと尋ねてきた。
「ウン、今日はこれで終わりだよ。」
「今日は順調に行ったね。
よかったね、ミディアちゃん。」
「ウン、ありがとう琴音。」
なんとか、魔法検定一日目を突破することができた。
これも、琴音のおかげだ。
琴音、本当にありがとう。




