9.ラスボスとの戦い
<<琴音>>
期末テスト初日は2科目のテストがある。
数学のテストは2時間目だ。
他の科目は苦手ではないけど、かといって得意と言うわけでもない。
本日のメインイベントは数学だけど、だからといって他の科目がどうでもいいわけではない。
他の科目でもきちんと点を取って、その上で数学を克服しないと、ミディアちゃんに笑われるよ。
そんなわけで、テスト開始までのわずかな時間に、必死に頭につめこもうと勉強していると、日花里ちゃんが声をかけてきた。
「琴音、今日のラスボスは数学なんだから、他の科目に力使いすぎるんじゃないわよ。」
数学がラスボスかあ。
確かに、本日最後のテストだしね。
でも、RPGでもラスボスのところにたどり着くまでに、立ちはだかる有象無象を蹴散らさないといけない。
「わかってるよ。日花里ちゃん。」
ちょうどその時、チャイムが鳴った。
さあ、戦いの始まりだ。
1時間目終了のチャイムが鳴って、私は思い切り疲れていた。
あれっ、テストって、こんなに疲れるものだっけ?
「普段、答案にこんなに文字書いてないから、今日はなんか疲れたよ。」
「アンタ、どうやってこの学校に合格したんだ?」
日花里ちゃんは呆れていた。
でも、そう言われると、確かにそうだ。
高校入試の時も、それなりに頑張って、答案をそれなりに埋めたはずなんだけどなあ。
今までのどのテストよりも、今日のテストが一番疲れた気がする。
「いよいよ、次が数学よ。」
「うん、わかってる。」
「いい、まずは全ての問題に目を通して・・・」
「わかる問題から手をつけるのよ・・・でしょ?」
私がそう言うと、日花里ちゃんは小さく頷く。
「そして、もし全部わからないと思っても、絶対に焦らないこと。
冷静になって考えたらわかったなんて問題、いくらでもあるんだからね。」
「ウン。」
前の小テストでは、わかる問題が一つも見つからなくて、頭が真っ白になってしまった。
でも、あの後家に帰ってから、もう一度見てみたら、2問ぐらいは解ける問題あったんだよね。
じゃあ、なぜテスト時間中に気づけなかったのだろうか?
それは、やっぱり、『数が苦』だったからだろう。
数学に対する苦手意識が、解けるはずの問題も解けなくしてしまったに違いない。
でも、今は違う。
今日のテストのために一生懸命頑張ってきた。
今までの由姫咲琴音とは違うところを、見せてあげようじゃないか。
チャイムが鳴って、全員席に着く。
先生が入ってきて、答案を配りだした。
いよいよ数学のテストだ。
試験開始10分後、私は固まっていた。
「あれっ、あんなに勉強したのに、さっぱりわからないよ。」
思わず大声でそう叫びたくなった。
まずは解けそうな問題を探したけど、なぜだろう?
どれも解ける気がしない。
あれっ?どうして?
気ばかり焦って、全然考えがまとまらない。
とりあえず、第1問に手を付けてみるけど、全然わからない。
そんな・・・こんなはずじゃあ・・・
頭の中がパニックになりそうな時だった。
「琴音。」
頭の中に、突然、私の名前を呼ぶミディアちゃんの笑顔が浮かんできた。
そうだ。
これはミディアちゃんとの勝負だ。
せっかくミディアちゃんが魔法を使えるようになったのに、私がこんなことじゃダメだ。
自分のほっぺをつねって大きく深呼吸を1回してから、もう一度問題用紙を見た。
さっきのミディアちゃんの声のおかげで、私の頭の中は不思議と冷静さを取り戻していた。
すると、さっきまでわからなかった問題の解き方が見えてきた。
時間はまだ十分にある。
「ありがとう、ミディアちゃん。」
私は小さな声でそう言ってから、解答を書き始めた。
数学のテストが終わった瞬間、私の心はすごい開放感で満たされた。
なんとか時間内に全問答案を埋めることができた。
あとは正解していることを祈るばかりだ。
「琴音・・・どうだった?」
日花里ちゃんが心配そうに声をかけてきた。
「ばっちりだよ。」
私が笑顔でそう答えたら、日花里ちゃんは安堵の笑みを浮かべた。
「じゃあ、この調子で、他の科目も頑張ってね。」
「ウン。」
そう、まだテストは終わっていない。
明後日は酷語というラスボスが待っている。
これもなかなかの強敵だ。
<<ミディア>>
今日は、琴音のテストの日です。
琴音がこっちに来るのはいつも昼間です。
つまり、二ホンが夜の時、ラーヴォルンは昼間ということです。
ということは、ラーヴォルンが夜の時が、二ホンは昼間だということでしょう。
そして、ラーヴォルンは今はお昼。
つまり、もうテストは終わっていると思われます。
「大丈夫よ、琴音はきっといい点数取るわよ。」
ラーファがそう言ってくれたことが、すごい嬉しかった。
ここ数日、一緒に訓練することで、どうやらラーファもすっかり琴音になじむことができたみたいだ。
ラーファの言う通りだ。
今の私のすべきことは、琴音の心配をすることではない。
魔法の訓練を頑張ることだ。
「じゃあ、今日も午後から訓練始めるよ。」
「ウン。」
とそこに、アイがやってきた。
「最近、ラーファ先輩、ずっとミディアと一緒でつまんないよ。」
ここ数日、ラーファは私の特訓につきっきりだったから、アイが文句言いたくなる気持ちもわかる。
「ゴメンね、アイ。」
「あっ、そ、そういうつもりで言ったんじゃないよ。
別にミディアを責めているわけじゃ・・・ゴメン。」
アイが私に謝る。
本当なら、私の方が謝らないといけないのに、なんかアイに申し訳ない気分になった。
「じゃあ、ミディアの成績がよかったら、私が琴音の念写をするから。」
何と、ラーファがそんなことを言い出すなんて思わなかった。
少し前まで、あんなに琴音のことを怖がっていたのに。
琴音とラーファの距離が縮まったみたいで、とても嬉しかった。
「それは助かるわ。」
エレーネ先輩もやってきた。
「だって、友達の顔がわからないってのは、やっぱり辛いからね。」
エレーネ先輩が、琴音のことを友達と言ってくれたことも、すごく嬉しかった。
「じゃあ、それでお願いします。」
アイも承諾してくれた。
「それじゃあ、とりあえずまずは腹ごしなえってことで、今日はどこに食べに行く?」
「だったら、私、いい店知ってますよ。」
どうやら、今日もアイのおすすめのお店になりそうだ。
昼食を取り終えて、ラーファと魔法の訓練を行っていると、琴音がやってきた。
正直、琴音に会うのが少し不安だった。
もし、落ち込んでいたらどうしようって思ったから。
でも、琴音の表情は予想とは異なって、かなり明るかった。
「琴音、どうだった?」
私が恐る恐る尋ねると、琴音は笑顔を見せてくれた。
「結果はまだわからないけど、とりあえずやれるだけのことは全部やったよ。」
そうか、琴音は全力を出し尽くしたんだ。
よかった。
「でも、まだ終わってないけどね。
まだ強敵酷語が待ってるからね。」
琴音はそう言うけど、とりあえずまずは一つ終わってホッとしている感じだった。
「あっ、そうだ。」
琴音はそう言うと、私の目の前までやってきて、頭を下げた。
「ミディアちゃん、ありがとう。」
「へっ?」
琴音にいきなりお礼を言われて、思わず変な声が出てしまった。
私、琴音にお礼されるようなこと、何もしてないけど・・・
「実は数学のテストの時、頭が真っ白になっちゃったんだよねえ。
でも、ミディアちゃんの声が聞こえてきて、私、冷静になれたんだよ。」
「そうなんだあ。」
それはすごい嬉しい。
ピンチの時に私の声を思い出してくれたって、なんかすごい嬉しい。
「それで、テストの結果は、いつわかるの?」
もうラーファも、自然と琴音と会話できるようになっていた。
「えーっとね、数学は今週ないから7日後かな。
あっ、国語もその日に返ってくるね。」
琴音がそう言うと、ラーファはなるほどと小さく頷いた。
琴音のテストが返ってくる日の翌日が、魔法検定の結果が発表される日だった。
「じゃあ、魔法検定の結果が返ってくる日に勝敗が決まるってことだね。」
「ウン。」
琴音は頑張った。
次は私の番だ。
そう思って、魔法の訓練を始めようとした時だった。
「あ、そうそう、一つ聞きたかったことがあったんだよ。」
琴音が私達に話しかけてきた。
「なあに?」
「ラーヴォルンの学校って、レベル制だけど、どうやったらレベルアップできるの?」
ああ、そういや、琴音に話してなかったね。
私が説明しようと思ったけど、ラーファに
「ミディアは魔法の練習しなさい。」
と言われたので、私はおとなしく魔法の練習をすることにした。
琴音にはラーファが代わりに説明してくれるらしい。
ここ数日で、琴音とラーファの距離が縮まって、本当に嬉しいよ。
「実技も理論もレベルアップするには、魔法検定で90点以上取る必要があるのよ。」
「90点って厳しいね。」
「そうね。レベルにもよるけど、レベル3でも平均点は70点ぐらいだからね。
レベル3でも下の方の琴音がレベルアップするには、相当厳しいわね。」
「ちなみに、ラーファちゃんのレベルだと、平均点はどれくらいなの?」
「私のレベルは17だけど、前回の平均点は48点だったかな。
私も前回は70点で、全く歯が立たなかった。」
ラーファの表情が暗くなった。
そうか、ラーファにとっても、今回の魔法検定は前回の雪辱を晴らす機会なんだ。
それなのに、私の練習につきあってて、もしかして自分の練習ほとんどできてないんじゃ・・・
「ラーファ、ゴメンね。
私の練習につきあわせちゃって。」
「な、何を言ってるのよ、ミディア。
私がやりたいからやってるだけだよ。
ミディアはそんなこと気にしないで、特訓を続けて。」
「でも・・・」
「これ以上謝ろうとしたら、私、本気で怒るよ。」
「ウン、わかった。
ありがとう、ラーファ。」
ウン、ラーファの気持ちに応えるためにも、私はいい成績を収めないといけない。
そして、絶対に琴音に勝つんだ。
<<琴音>>
最近のミディアちゃんの魔法特訓、なんかすごいなあ。
ちょっとずつだけど、操れる炎が大きくなってるし、本当にすごいよ。
ミディアちゃんが頑張ってるし、私も頑張らないといけない。
さて、今日はいよいよ国語だ。
しかも1時間目だ。
1時間目にいきなりラスボスとはきついなあ。
ラスボス倒した後にも戦いが残ってるのはつらいよ。
「RPGだとラスボス倒したら、即エンディングだもんね。」
「ラスボスが最後だった一日目の方がまだやりやすかったよ。」
私がそうぼやくと、日花里ちゃんはおかしかったのかクスクス笑いだした。
「ねえ、明日テスト終わったら、久しぶりにどこか遊びにいかない?」
日花里ちゃんが珍しく遊びに誘ってくれた。
そういえば、高校に入ってから、日花里ちゃんと遊びにいったことないなあ。
日花里ちゃん、すぐにテニス部に入っちゃったし。
遊びに行くのって、中学3年の時以来かな。
「じゃあ約束だよ。」
その時、教室にチャイムが鳴り響いた。
そして、教室に先生が入ってきた。
明日は日花里ちゃんと久しぶりに遊びに行ける。
そう思ったら、さらに頑張れる気がした。
よーし、今日も頑張ろう。




