8.初めての期末テスト
<<日花里>>
最近、なんか琴音がおかしい。
あの琴音が、毎日真面目に授業を受けている。
あの琴音が、毎日きちんと宿題をこなしている。
先日、放課後に図書館で、苦手な数学と国語の勉強をしているのを見かけた。
ちょうどその時、私はテニス部の同級生と勉強会をやっていたんだけど、最初見た時は何かの見間違えかと思った。
それでちょこっと声をかけてみたら、大の不得意科目の数学と国語を勉強していたから、これまたビックリした。
あの琴音が、自ら数学と国語の勉強をしているなんて・・・
そういえば、こないだ、琴音の弟の悟からもメールが来た。
「最近、姉ちゃんの様子がおかしい。」って内容のメールだった。
なんでも、家に帰っても、ずっと勉強しているらしい。
期末テストが近い学生の姿と言われればそうなのかもしれないけど、あの琴音が自主的に勉強するなんて、一体、琴音の身に何が起こっているのだろうか?
「琴音、なんか最近勉強頑張ってるわね。」
翌日、授業が始まる前に、それとなく琴音にさぐりを入れてみることにした。
「そりゃあ、期末テストが近いからね。
勉強するのは当然でしょ。」
そりゃあ、当然と言われればそうかもしれないけど・・・
「でも、アンタ、中間テストの前なんて、ほとんど勉強してなかったでしょ。
一体何があったのよ?」
私が尋ねると、琴音はニコッと笑いながら、こう答えました。
「これはね、ミディアちゃんとの勝負なんだよ。
お互いに苦手な科目をどれだけ克服できるかのね。」
ミディアって、確か琴音の夢に出てくる女の子だっけ?
夢の世界の女の子と勝負して、現実の世界でやる気を出すって、なんか琴音すごいわね。
よく、心に思っている不安が夢になって表れるっていうけど、実は琴音も今の成績を不安に思っていたってことなのかな?
「ミディアちゃんが苦手な魔法の特訓している姿を見ているとね。
私も頑張らないといけないって思っちゃうんだよね。
それに、この勝負を言い出したのは私だからね。」
まさか、琴音がそんなこと言い出すとは・・・
ありえない・・・
ありえないことが、この世の中で起こっている。
琴音の夢の世界は、そこまで琴音に影響を与える存在になっているってこと?
琴音は毎日ラーヴォルンに行ってるらしい。
同じ夢を毎日見る。
しかも、その夢はすべてつながっている。
そして、現実の世界に多大な影響を与えている。
琴音の話すラーヴォルンという世界は、果たして本当にただの夢なのだろうか?
夢じゃないとしたら、まさか琴音は眠っている間に、本当に別の世界に行ってるってことになるのでは?
まさかとは思うけど・・・
最近、琴音の話を聞くたびに、ラーヴォルンのことが気になって仕方がなかった。
でも、私も琴音の心配ばかりしてられない。
とりあえず、今は期末テストに向けて勉強しよう。
そして、期末テストが終わったら、琴音の家にお泊り会でもしてみるかな。
一緒に泊まったら、もしかしたら何かわかるかもしれない。
琴音は今日も一生懸命勉強していた。
何もかも投げやりになっていた琴音が、昔の琴音に戻った感じがして、少し嬉しかった。
もし、あの頃の琴音が戻ってきたんだとしたら、ラーヴォルンに感謝しないといけない。
でも、この琴音の頑張りは、果たして本物なのだろうか?
少し気になる。
<<琴音>>
いよいよ明日は期末テストだ。
初日に大嫌いな数学のテストがいきなりある。
大嫌いな数が苦のテストだ。
でも、やれることだけのことはやったつもりだ。
「試験の前に、ラーヴォルンで癒されよう。」
私は明日の準備を終えると、すぐに布団に潜り込んだ。
1時間経過・・・
どうしよう?
なぜか、眠れない。
明日テストだから早く寝ないとと思ってるのに、全然眠くないよ。
こういう時は、羊を数えるのがいいって話を聞いたことがある。
よーし、落ち着いて羊の数を数えよう。
羊が一匹、羊が二匹・・・・・・
さらに1時間経過
ダメだ、やっぱり眠れない。
こんなことで、明日テストの点数が悪くなったらどうしよう?
眠れずに布団の中でもがいていたら、なんか喉が渇いてきたよ。
水でも飲みに行くかな。
台所に行くと、お母さんがいた。
「琴音、遅くなってゴメンね。もうすぐ夕飯にするからね。」
お母さんはそう言うと、夕飯の準備を始める。
それを見て、私は気づく。
そういえば、まだ夕飯を食べてなかった。
それに、よく考えたら、お風呂にも入ってない。
確かに最近の私は、勉強とラーヴォルンのことしか頭になかったけど、さすがに今日はひどいな。
夕飯とお風呂のことを忘れるなんて。
慌てて時計を見ると、まだ8時を回ったばかりだった。
道理で眠くならないはずだ。
「なんだ、まだこんな時間だったのかあ。」
時間を見てホッと胸をなで下ろしていると、そこに悟がやってくる。
「あれ、姉ちゃん、どうしてこんな時間にパジャマ着てるの?
寝るの早くねえか?」
「あ、明日から期末テストだから、早く寝ようと思ってただけよ。」
「へえ、そうなんだあ。」
「そうなんだあ、じゃないでしょ。
悟も期末テストじゃないの?」
「まあね。でも、俺は姉ちゃんと違って頭いいし。」
そう、悟は学年でトップクラスの成績を取っている。
このため、姉の私は、いつも肩身の狭い思いをしていた。
私の方を見て、ニヤリと笑みを浮かべる悟を見て、殴りたいと思った。
結局、パジャマ姿のままで夕飯を食べた。
食事中、お母さんが私に話しかけてきた。
「琴音、最近とても勉強頑張ってるみたいね。」
「そ、そうかな?」
「明日からテストなんでしょ。
今日は勉強はほどほどにして、ゆっくり休みなさいね。」
「ウン、わかってる。」
何気ないお母さんとの会話が、何か少し嬉しかった。
最近、お母さんとあまり会話する機会がなかったってのもある。
お母さん、最近仕事で忙しそうで、あまり会う時間がなかったし、夕飯でも考え事ばかりしていて、なかなかお母さんと話してなかったからね。
でも、それだけじゃなくて、何ていうかお母さん、ちゃんと見ていてくれたんだなあって思って。
こんな些細なことで、嬉しくなる私は、多分単純な人間なんだろう。
きっと、私は褒められて伸びるタイプの人間なんだろう。
こんな些細なことで、明日のテストはいい点が取れるって思えるんだから、我ながら本当に単純だと思う。
食事をとって、お風呂に入ったら、私はさっさと眠ることにしました。
明日は、高校生になって初めての期末テストの日。
しかも、初めて日花里ちゃんの力を借りない試験だ。
正直、不安で一杯だけど、やれるだけのことはやったと思ってる。
「今度こそ、試験前にラーヴォルンで癒されよう。」
私は布団をかぶった。
「それで、明日のテストは大丈夫そう?」
会うなり、いきなりミディアちゃんにそう聞かれた。
なんか少しミディアちゃん、いつもより少し明るい感じがする。
「まあ、やれるだけのことはやったつもりだよ。
あとは明日、一生懸命頑張るだけだよ。」
「そっかあ、琴音も一生懸命頑張ったんだね。」
「だって、ミディアちゃんが頑張ってるのを見てると、私も頑張らないとって思えるんだよ。」
私がそう言うと、ミディアちゃんは少し照れた表情になった。
すごいかわいい。
「それはそうと、なんか今日はいつもよりなんか明るいね。
何かいいことあったの?」
私がそう聞くと、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりにミディアちゃんが笑顔で応えてくれた。
「実はね、今朝の授業で、ついに炎を出すことができたんだよ。」
えっ、それはすごい。
「本当に?」
「ウン、今からやってみるね。」
ミディアちゃんはそう言うと、目を瞑って集中し始めた。
その真剣なミディアちゃんの表情に、思わずゴクリと息をのむ。
ミディアちゃんは、両手を前に突き出すと、顔が真っ赤になるくらい力を入れる。
あれは多分、魔力を一生懸命貯めているんだろう。
ミディアちゃんは必死に力をためる。
すると、ミディアちゃんの両手から小さな火が出た。
「ハハハ・・・炎を出すことができたって言っても、まだこれだけなんだけどね。
って、琴音!?」
ミディアちゃんは私の方を見て驚いていた。
なぜなら、私が号泣してたから。
ミディアちゃんは、炎が出なくても、ずっとずっと魔法の特訓をしてきた。
確かに、手から出た炎は、ほんのちょっとかもしれない。
でも、ゼロじゃなくなった。
ゼロとゼロ以外じゃ、全然違う。
ついに、ミディアちゃんも魔法が使えるようになったんだ。
そう思ったら、炎が出た瞬間、涙が止まらなくなってしまった。
「琴音・・・まだ魔法検定は終わってないよ。」
そう言うミディアちゃんの目も少し潤んでいる。
「わかってるよ。」
私は涙をぬぐうと、改めてミディアちゃんに宣言した。
「私、明日のテストで絶対にいい点数取るからね。」
「琴音、私ももっと大きな炎を起こせるように頑張るね。」
「ウン、絶対だよ。」
私はミディアちゃんともう一回約束した。
ついにミディアちゃんが魔法を使えるようになった。
朝から私のテンションはMAXに達していた。
この興奮を、早く誰かに伝えたい。
私はすぐに起きると、慌てて学校に出かける準備を始める。
「琴音、最近学校に行くの早いわね。」
朝食を取っている時に、お母さんにそう言われた。
確かにそうかもしれない。
以前は、家まで日花里ちゃんが迎えに来ていたけど、最近じゃあ、私が日花里ちゃんの家に迎えにいくことが多かった。
「まあ、今日はテストがあるしね。」
傍に悟がいるので、適当にごまかした。
「琴音、頑張って来なさい。」
家を出る時に、お母さんはそう言ってくれた。
お母さんのその言葉で、またテンションが一つ上がった感じ。
高校受験の時ですら、こんなにテンション上がったことないと思う。
「琴音、最近本当に早いわね。」
日花里ちゃんは玄関で私が来るのを待っていた。
多分、今日も来るだろうと待っていたみたい。
「えへへ・・・おはよう。」
「で、今日はどんな夢だったの?」
日花里ちゃんが私にそう言う。
最近、私がラーヴォルンの話ばかりしているから、今日もそうだと思ったんだろうね。
まあ、そうなんだけどさ。
「実はね、ついにミディアちゃんが魔法を使えるようになったんだよ。
私、もう嬉しくて泣いちゃったよ。」
「そうなんだ。」
「だから、私もね、今日のテスト、絶対に頑張るんだ。
数が苦を絶対に克服して見せる。
数が苦の次は酷語の番だよ。」
私が力強くそう言うと、日花里ちゃんはクスクス笑う。
「琴音、張り切るのはいいけど、今日のテスト、数学以外もあるでしょ。
ちゃんとやってきてるの?」
「もちろん。」
私は力強く答えた。
そりゃあ、期末テストだからね。
数学と国語以外にもテストがあることぐらいわかってますよ。
でも、今回のテストに関してだけは、数学と国語が大事なんだよ。
ミディアちゃんが魔法を使えるようになったんだ。
私だって、絶対にいい点を取って見せる。




