59.絶交
<<ミディア>>
「気分が悪いから早退した!?」
同級生から話を聞いて、エレーネ先輩は驚いていた。
いや、早退も何も、まだ授業すら始まってないんだけど・・・
「えっと、あなたって確かラーファの妹さんよね?」
とそこに、教室にいた1人の女の人が、私に声をかけてくる。
「はい、そうですけど・・・」
私がそう答えると、その女の人は私の方に近づいてくる。
でも、女の人が私のところに来る前に、エレーネ先輩が間に割り込んでくる。
「おっと、ラーファのことを、ミディアに当たるのはお門違いだぞ。」
エレーネ先輩がそう言うと、女の人は不機嫌そうな表情を浮かべる。
ラーファのことで私に当たるって、一体どういうことだろう?
「エレーネ、あなたにも事情を話したよね?
ラーファがいないおかげで、私達のグループだけいつまでたってもミーティングが終わらないのよ。」
「こないだは私達のグループミーティングに、わざわざ割り込んできてくれてありがとよ。
ていうかさ、ラーファがいないと、お前ら何もできないのかよ。
ラーファがいないんだったら、お前らだけでやればいいだろ。」
「私達のグループは、ラーファがグループリーダーなのよ。
それなのに、何もかも放ったらかしのまま。
今日も教室に顔を出したと思ったら、すぐに帰っちゃうし、本当にどうなってるのよ?」
マズい、エレーネ先輩も女の人も相当ヒートアップしている。
このままだとケンカになりかねない。
「ゴメンなさい。
グループの人に迷惑かけていること、私からラーファにちゃんと言っておきますから。」
私が謝ると、女の人は溜飲を下げてくれたようだ。
「悪いけど、お願いするわ。」
女の人がそう言って、自席の方に戻っていく。
「ミディア・・・」
エレーネ先輩が私の方を見る。
どうやら、私のことを心配してくれているようだった。
「私なら大丈夫ですよ。」
「本当に・・・どうしちゃったんだろうな、ラーファの奴・・・」
エレーネ先輩が小さな声でそう呟く。
表にはあまり出さないけど、本当はエレーネ先輩もラーファのことが心配でたまらないんだ。
とその時、教室に予鈴が鳴り響く。
そろそろ、私達は自分の教室に行かないといけない。
「それじゃ、エレーネ先輩、私達は―――」
アイがエレーネ先輩に挨拶するのと、ほぼ同時に、エレーネ先輩がさっきの女の人を呼び止める。
「なあ、ラーファが帰ったのって、いつ頃だ?」
「ついさっきよ。
多分、アンタ達と入れ違いだったんじゃない?」
女の人がそう言うと、エレーネ先輩は小さな声で「そうか。」とつぶやいて、それから
「あー悪いけど、私も気分悪くなったから、今日は早退するって、先生に伝えてくれる?」
そう言うと、女の人は驚いた表情になる。
「アンタ、とても気分が悪いようには見えないけど・・・」
でも、エレーネ先輩は、女の人を無視して、そのまま教室を飛び出して行ってしまった。
私とアイも、慌ててエレーネ先輩の後を追いかける。
「エレーネ先輩、もしかしてラーファを探しに行くつもりですか?」
「学校を出たばかりだとしたら、まだ兄貴と接触する前だと思う。
だから、その前に、ラーファを捕まえる。」
「じゃあ、私も行きます。」
「私も。」
アイも私の後にすぐに声を上げる。
「いや、お前らはちゃんと授業を受けた方が―――」
「嫌です。」
強い口調でアイがそう言う。
「アイ・・・」
「ラーファ先輩が、どうして私達の前に姿を見せてくれないのかわからないけど・・・
ラーファ先輩が苦しんでいるんだったら、私がラーファ先輩の助けになりたい。」
そう言うアイの目には涙が溢れていた。
ここ数日、ずっとラーファと会えなくて、アイはもう限界のようだった。
ラーファのせいで、みんなに迷惑かけてるし、みんなに心配をかけている。
「私も行きます。
今のラーファは、放っておけません。」
私もエレーネ先輩にそう言うと、エレーネ先輩は諦めたように溜息をつく。
「わかった。
じゃあ、さっさと学校を出て、ラーファを探しに行くぞ。」
「ハイ。」
私達はラーファを探すために、大慌てで学校を飛び出す。
でも、どこを探しに行けばいいんだろう?
こないだ、琴音がルフィルの遺跡の隠し部屋を見てきてくれたけど、あそこには誰もいなかった。
となると、もうラーファが行きそうなところは、他に思いつかない。
探すって言っても、どこを探せばいいんだろう?
そう思ってたら、エレーネ先輩が
「ルーイエ・アスクに戻るぞ。」
そう言った。
「どうして、ルーイエ・アスクに?」
「そりゃあ簡単なことだ。
アイツは今制服を着ているからだ。」
エレーネ先輩の話を聞いて、少し脱力しそうにする。
でも、まあ、一理あるかもしれない。
この時間に制服のままでうろつくのは、結構目立つからね。
「それに、ラーファが持っているという呪符、多分ラーファの部屋にあるんじゃないかって思うんだ。」
「なるほど。」
確かに、あの手の呪符を学校に持ってくるとは考えにくい。
学校には不審者防止用の魔法結界が貼られていて、呪符を持って入ったら、結界が反応する可能性があるからだ。
「だから、アイツが着替えて、呪符を発動する前に取り押さえる。」
さすがはエレーネ先輩だ。
私もアイも、どこを探せばいいのかわからなかったけど、こういう時は本当にエレーネ先輩は頼りになる。
私達は大急ぎでルーイエ・アスクに戻ることにした。
ルーイエ・アスクの端にある私達家族の居住区の1階には誰もいなかった。
多分、お父さんもお母さんもフロントかレストランの方に行ってしまったのだろう。
ラーヴォルンが解放されたことで、朝から大勢のお客様が帰られるため、今日は朝から忙しくなるだろうってお父さんもお母さんも言ってたからなあ。
でも、そのおかげで、私達は2階にあるラーファの部屋まで、誰にも気づかれることなくたどり着くことができた。
エレーネ先輩が豪快にラーファの部屋の扉を開ける。
「ラーファ、いるか?」
部屋の中に勢いよく飛び込んでいくと、幸いなことに部屋の中にラーファがいた。
ラーファはちょうど制服を脱ごうとしていたところだった。
そして、ラーファのベッドの上には、等身大のイデアルディが置いてあった。
こないだの夜のことが頭をよぎる。
まさか、ラーファ・・・このために?
いや、単に制服から着替えようとしていただけかもしれない。
どっちかはわからない・・・わからないけど・・・
久しぶりにラーファと会えて、ラーファが部屋にいてくれて、とりあえずよかった。
「ア、アンタ達・・・いきなり部屋に入ってくるなんて、失礼じゃない!?」
ラーファがエレーネ先輩に向かって、強く抗議する。
「おっと、着替え中だったのか。これは悪い。
でも、こうでもしないと、お前、またどこかに行っちゃうだろ。」
エレーネ先輩はそう言うと、ラーファの手をしっかり掴む。
「これで、もうどこにも逃げられないぞ。
さあ、ラーファ、話してもらおうか。
こないだから兄貴と一体どこに行ってるんだ?
どうして、私達と会うのを避けるんだ?」
さっきまでの冗談めいた表情から一変して、エレーネ先輩は真剣な表情でラーファの方を見つめていた。
「べ、別に・・・避けようとなんか・・・」
ラーファはそう言うけど、エレーネ先輩を避けるように視線を逸らす。
そのラーファの表情で、私達は確信する。
やっぱり、ラーファは私達を避けている。
でも、避けられる理由が全く思い浮かばない。
それに、エレーネ先輩やアイにも心配をかけている。
クラスメートにも迷惑をかけている。
やっぱり、このままラーファを放って置けない。
「ラーファのクラスメートにも迷惑かけてるんだよ。
どうして学校を早退しちゃったの?
いつもどこに出かけているの?
お願いだから、私達にちゃんと説明して。」
私は、ラーファに必死に訴えかけた。
でも、私の訴えを、ラーファは全然聞いていなかった。
さっきまで視線を逸らしていたはずのラーファは、いつの間にか私の方をじっと凝視していた。
なんかラーファの様子がおかしい。
「ミディア・・・」
「な、何!?」
その視線の強さに、何か不穏なものを感じたその時だった。
ラーファは、エレーネ先輩の手を素早く振りほどくと、勢いよく私の手を掴んで、部屋を飛び出す。
突然のことに、何が起こっているのか、頭が理解できず、私はロクに抵抗することもできずに、ラーファに連れ去られる。
ラーファは、私の部屋に飛び込むと、私をベッドの上に押し倒した。
そして、ラーファは私の上に覆いかぶさってきた。
「ハァ・・・ハァ・・・ミディア・・・私ね・・・もう我慢できない。
私・・・ミディアが欲しいの。」
ラーファはそう言うと、私にキスしようと、顔を近づけてくる。
「ちょっと、ラーファ・・・やめて・・・」
私は必死に抵抗したけど、ラーファはすごい力で、私の両手を押さえつける。
それは普段のラーファからは想像もつかない凄まじい力で、私の手を押さえつける。
「痛い!!手が痛いよ、ラーファ!!」
「ミディア・・・ああ、ミディア!!!」
私は身動き一つ取ることができなかった。
ラーファは興奮した状態で、私にキスしようとしてくる。
でも、突然、私が身につけていた護符が光りだすと、ラーファの体を勢いよく弾き飛ばした。
この護符は、こないだ病院でヤシュワントさんからもらったものだった。
なんでも、ヴィルトワさんから渡すように言われたものらしいけど、まさか、ヴィルトワさんはこうなることがわかってて、この護符を私に渡したのだろうか?
「その護符は・・・クソッ!!!」
護符の光を見て、ラーファの表情は怒りに歪む。
まるで別人のように怒り狂うラーファの姿に、背筋に寒いものが走る。
なおも、ラーファは私に飛びかかって来ようとしたけど、
「いい加減にしろ、ラーファ。」
エレーネ先輩が背後からラーファにしがみついて、ラーファを止めてくれた。
「エレーネ、邪魔するな。」
いつもと全く違う乱暴な口調でラーファは、エレーネ先輩を振りほどこうとする。
「ダメです、ラーファ先輩。
いくら姉妹でも、無理やりこんなことしたらダメです。」
アイも、ラーファにしがみついて、ラーファの動きを止めてくれた。
私は、まだ体の震えが止まらなかった。
目の前にいるラーファは、まるで別人のように荒々しい言葉を発しながら、2人を振りほどこうとしていた。
ラーファに何が起こってるのかわからない。
けど、何とかしてラーファを止めないといけない。
「ラーファ、一体どうしちゃったの?
ついこないだまで、普通の姉妹として、仲良く暮らしてたじゃない。
それなのに、どうして・・・」
「そっか、ミディアは、私を受け入れてくれないんだ。」
ラーファが私の言葉を遮るようにそう言う。
「ラーファ・・・」
「ミディアは、この私の愛を受け入れてくれないんだ。
だったら・・・ミディアなんかもういらない。」
ラーファの言葉に、背筋が凍りつく。
今、ラーファは、なんて言った?
あまりのショックに、何も言葉が出てこない。
「ラーファ、お前がミディアのこと好きなのは知ってたけど、さすがにこれはやり過ぎだ。」
エレーネ先輩がラーファにそう言う。
でも、今のラーファに、私達の言葉は全く届かない。
「邪魔だ、どけ!!!」
ラーファはすごい力で強引に2人を振りほどく。
その反動で、エレーネ先輩とアイは、弾き飛ばされてしまう。
ラーファは、今までに見たことのない激怒した表情を浮かべていた。
「ミディア、私の愛を受け入れられないって言うんだったら、二度と私の前に姿を現すな!!!
そして、私の愛の邪魔をしたエレーネとアイ、お前達とも絶交だ。
二度と私達の前に姿を現すな!!!」
ラーファは凄まじい剣幕でそう言うと、すごい音を立てて扉を閉めて部屋を出て行った。
あまりの出来事に、頭がついていかない。
「絶交・・・」
エレーネ先輩は、ラーファの発した言葉を呟いてしばらく固まっていた。
「うっ・・・うっ・・・ラーファ先輩・・・」
アイのすすり泣く声が聞こえてくる。
さっきのラーファの絶交宣言、アイには相当ショックだったようで、その場にうずくまって泣いてしまった。
「アンタ達、学校に行ったんじゃなかったの?」
上の騒ぎを聞きつけて、フロントから戻ってきたお母さんが慌てて2階に上がってくる。
でも、真っ青になっている私と泣いているアイの様子に、ただ事ではないと思ったようだ。
「おばさん、実は・・・」
エレーネ先輩が、私の代わりに、ラーファの様子がおかしいことを説明してくれた。
すると、
「私も最近、ラーファのことが気になってたのよね。」
お母さんも、最近ラーファの様子がおかしいことに気づいていて、帰ってきた時にはいつも声をかけていたらしい。
でも、ラーファはいつも2、3言発してすぐに部屋に行っちゃうので、最近はほとんどまともに会話できていないらしい。
でも、仕事が忙しいこともあって、なかなかラーファのことを構ってやれなかったと反省していた。
「おばさん、ここは私に任せてください。」
エレーネ先輩がそう言う。
「この年頃は、親に話せないことがたくさんあるものなんですよ。
ラーファが何を抱え込んでいるのかわからないけど、私が聞き出してみせますから。」
「エレーネ・・・わかったわ。
ここはエレーネに任せるわ。
ラーファの一番の親友だしね。」
お母さんがそう言うと、エレーネ先輩はニコッと笑う。
「じゃあ、行ってきます。」
エレーネ先輩は力強く頷くと、隣のラーファの部屋へと向かった。
エレーネ先輩、どうか昔の優しかったラーファを取り戻してください。
私は、部屋を出るエレーネ先輩の後姿に、強くそう願った。
<<エレーネ>>
私は8歳の時に、モンフェルンからラーヴォルンに引っ越してきた。
モンフェルンと言っても、私の住んでいたのは郊外の14区で、今回魔法研修で行く3区にはほとんど行ったことがない。
その頃の私は、ものすごい人見知りだったこともあり、こちらの学校に編入してしばらくは、なかなかなじめなかった。
みんなが楽しく友達と遊んでいる中、私1人だけ孤立していることが多かった。
でも、ある日・・・
「おはよう、エレーネちゃん。」
私に初めて声をかけて来てくれたのがラーファだった。
多分、ラーファにとっては何気ない挨拶だったと思う。
でも、ラーファのその一言で、真っ暗な目の前がパーッと開けたような気分がしたのを、今でも鮮明に覚えている。
「お、おはよう・・・」
勇気を出して、恐る恐る私が挨拶を返すと、ラーファは私の手を握ってニコッと笑ってくれた。
それがきっかけで、私とラーファは友達になった。
そして、ラーファのおかげで、それまでが嘘のように、他の友達とも仲良くなれた。
今の私があるのは、ラーファのおかげと言っても過言ではない。
今では、学校で多くの友達ができたし、ミディアやアイのようなかわいい後輩もできた。
異世界から来た琴音とも友達になれた。
でも、どれだけ友達ができても、かわいい後輩ができても、私の一番大切な親友は、やっぱりラーファだ。
「ラーファに絶交されるのは、これで2回目だな。」
まあ、1回目の絶交は、私が全面的に悪かったから仕方がない。
でも、今回に関しては、ラーファが全面的に悪い。
いくらミディアが好きだからと言って、無理やりあんなことをするのはダメだ。
だから、今回は引き下がるつもりはない。
それに、ラーファに絶交って言われたくらいで、この私が簡単に引き下がると思ったら大間違いだ。
だって、ラーファは、私の一番の親友なんだから。
ラーファの部屋の扉をノックする。
でも、ラーファの応答は全くなかった。
まさか、ミディアの言ってたように、呪符を使って、どこかに行ってしまったのだろうか?
慌てて扉を開けると、ラーファはベッドにうつ伏せになっていた。
「なあ、ラーファ、一体どうしたんだよ?」
ラーファの反応は全くないけど、構わず話し続ける。
「ミディアが家に来た時、妹ができたってすごい喜んでただろ。
せっかくできた大切な妹に、あんなことしたらダメだろ。」
でも、やっぱり、ラーファの反応がない。
もしかして、寝てるのだろうか?
「一体お前が、どうしてミディアにあんなことをしたのかわからないけど・・・
ミディア、すごい嫌がってただろ。
嫌がってる人に、無理やりあんなことをしたら―――」
「・・・・・・クックック・・・アーーハッハッハッ!!!」
突然、ラーファが私の話を遮るように大声で笑いだす。
こんな笑い方をするラーファを見るのは、これが初めてだ。
コイツ、本当にラーファなのか?
その時、脳裏にリッカ・モンディールのことを思いだす。
まさか、リッカ・モンディールの時みたいに、誰か別人が乗り移ってるんじゃないのか?
ていうか、これはもしかしたら、リッカ・モンディールそのものじゃないだろうか?
仮にリッカだとしたら、ミディアを襲ったのも頷ける。
アイツ、ミディアにかなり執着してたからな。
でも、本当にリッカ・モンディールの仕業だとしたら、ラーファとずっと一緒にいた兄貴が気づかないわけがない。
「無理やりあんなことをしたらダメって・・・エレーネ、あなたのお兄さんが3年前、私に何をしたと思ってるの?」
ラーファが笑みを浮かべながら、私に話しかけてくる。
こんな不愉快な笑みを浮かべるラーファを見るのも、これが初めてだ。
「3年前?」
3年前と言えば、旅に出ていた兄貴が、リリムさんと一緒にラーヴォルンに帰ってきたことがあるけど、その時のことだろうか?
でも、特に何かあった記憶はないけど・・・
「まあ、エレーネは知らないでしょうね。
だって、あなたはその頃、高熱を出して、ずっと家で寝てたんだから。」
そうだった。
2人が帰ってきた翌日、私は突然高熱を出して、ずっと家で寝ていたんだった。
以前も高熱を出したことがあったけど、この時は突然の高熱で、医者も原因がわからなかったんだっけ。
ラーファが私のお見舞いに来てくれて、今日はリリムさんを独り占めできるとか言って喜んでいたの覚えている。
その日は、兄貴は、朝から夜まで、私につきっきりで看病していてくれたと思う。
まあ、私、ほとんど寝てたから、もしかしたらその間はどこかに行ってたかもしれないけど・・・
「3年前のあの日、私はルフィルの遺跡の隠し部屋で、ヴィルトワさんに犯された。」
「えっ!?」
一瞬、ラーファの言ったことが、理解できなかった。
今、ラーファは何て言った?
「ルフィルの遺跡の隠し部屋で、ヴィルトワさんに犯されたって言ったのよ。」
ラーファはそう言って、私の方を見る。
頭の中が真っ白になった。
まさか、兄貴がラーファを?
いや、兄貴がそんなことするわけがない。
これはタチの悪い冗談に決まっている。
「オイ、いくら冗談でも、言っていいことと悪いことがあるぞ。」
「私が冗談を言ってると思ってるの?
あの日、私はリリムさんと大事な話をするために、ルフィルの遺跡の隠し部屋に行ったの。
そこからの記憶は曖昧なんだけど、気がついたら、私は全裸で、私の上にはヴィルトワさんがいた。
しかも目覚めた時、私の体は既にすごく熱くなってて、すごい敏感になっていた。
私はヴィルトワさんにやめてって何度も頼んだけど、ヴィルトワさんは私の体への愛撫をやめてくれなかった。
おかげで、私は何度も何度もイカされちゃった。
ヴィルトワさんって、すごく上手なのね。」
ラーファは私の耳元に囁くようにそう言ってくる。
「いい加減にしろ!!!」
パチン!!!
気がついたら、ラーファの頬を思い切り平手で叩いていた。
「認めたくないのはわかるけど、事実は事実よ。
ヴィルトワさんが私を気持ちよくしてくれたように、今度は私がミディアを最高に気持ちよくしてあげるの。」
ラーファがニヤリと笑みを浮かべながらそう言う。
「私の兄貴が、そんなこと、絶対するもんか。
こんなこと言うなんて、いくらラーファでも、絶対に許せない。」
「別に許してもらう必要はないわよ。
私とあなたは、とっくに絶交しているんだから。」
「ああ、お前となんか、こっちから絶交だ!!!
金輪際、私に話しかけてくるな!!!」
気がついたら、ラーファの部屋の扉を思い切り閉めて、部屋を飛び出していた。
あの後、ミディアやアイに声をかけられたけど、怒りが収まらなかった私は、そのまま家に帰っていた。
ラーファを説得してみせるって自信満々に言ったのに、ミディアとアイには悪いことしちゃったな。
2人には後で謝っておこう。
でも、さっきのラーファの話を思い出すたびに、腸が煮えくり返る思いがした。
いつも兄貴と一緒にどこかに行ってるくせに、どうしてその兄貴を貶めるようなことを言うのか?
「アイツ、最低だ!!!」
思い出したら腹が立って、思わず大声で叫ぶと、ノックをする音が聞こえてきた。
返事をすると、扉が開いて、部屋の中に兄貴が入ってきた。
「今日はえらい不機嫌だな、エレーネ。
ていうか、学校はどうしたんだ?」
兄貴が優しい表情で私に話しかけてくる。
こんなに優しい兄貴が、ラーファが言ったようなことをするわけがない。
「ちょっとラーファと絶交しただけだよ。」
私がそう言うと、兄貴は一瞬驚いた表情を浮かべるけど、すぐにいつもの表情に戻る。
「また、お前がラーファに何かヒドイことでも言ったんだろ。」
「違うよ、ラーファの方がヒドイことを言ったんだよ。」
兄貴と話しているうちに、さっきのラーファの発言を思い出してしまい、再び怒りがこみあげてくる。
「一番の親友と、そんなに簡単に絶交しちゃってもいいのか?」
「だって、ラーファ、3年前、ルフィルの遺跡の隠し部屋で兄貴に犯されたなんて、とんでもないこと言い出すんだぜ。
いくらラーファでも、こんなこと言うなんて絶対に許せない。」
ラーファの言ったことを言葉に出したら、ますます怒りが込み上げてきた。
「ラーファが・・・そう言ったのか?」
ラーファの発言に、いつもは冷静な兄貴も驚きを隠せないようだ。
そりゃあ、こんなとんでもないこと言われたら、誰だって驚くだろう。
「いくら、ラーファでも、言っていいことと悪いことが―――」
「そう・・・来たか。」
兄貴が小さなため息をつきながら、そう呟く。
えっ、そう来たかって、一体どう言うことだ?
「まさか、ラーファの奴・・・エレーネに話してしまうとは思わなかったな。」
「えっ!?」
背筋が凍りつくのを感じた。
兄貴は今・・・何て言った?
「冗談だよな、兄貴?
ラーファの言ったことは、全部デタラメなんだろ、兄貴?」
私は兄貴がそんなの冗談だって言ってくることを期待して、兄貴の方を見る。
でも、兄貴は、
「いや、ラーファの話したことは、全部本当のことだ。」
そんな私の期待を粉々に打ち砕いてくれた。
足元がぐらつくのを感じた。
まさか、本当に、兄貴はラーファに手を出していたというのか?
そう言えば、久しぶりに兄貴と再会した時、ラーファは気分が悪くなって、途中で帰ってしまったことがあったけど・・・
あれって、まさか、そういうことだったのか?
私の中で、何かがプツンと切れた。
「このクソ野郎!!!」
気がついたら、兄貴を思い切りぶん殴っていた。
兄貴は、私のパンチをモロに食らって、後方に倒れていた。
「お前なんか・・・お前なんか、もう私の兄貴でもなんでもない。
イルキスでもモンフェルンでも、どこにでも行ってしまえ!!!
二度と私の前に顔を見せるな!!!」
兄貴にそう言って、私は家を飛び出していた。
まさか、ラーファの言ったことが、本当だったなんて・・・
私は何も知らずに、ずっとラーファの親友気取りで、ラーファの傍にいた。
この3年間、ラーファは一体どんな気持ちで私と一緒にいたのだろう?
全然気づかなかった。
だって、ラーファ、そんな素振り、今まで一度も見せなかったから。
でも、どうしてラーファは、今まで私と一緒にいてくれたんだろう?
自分を犯した男の妹と、どうして今まで友達でいてくれたのだろう?
ラーファの気持ちが、全然わからない。
今日1日で、私は一番の親友と絶交し、大好きな兄貴と兄妹の縁を切ってしまった。
今日は、私の今までの人生の中で、一番最悪の日になってしまった。
とんでもない事実を知ってしまった。
これから私は、どんな顔をして、ラーファに会えばいいのだろう?
いや、ラーファだけじゃない。
ラーファの妹であるミディアにも、ラーファのことを慕っているアイにも、会わせる顔がない。
ずっと楽しみにしていた魔法研修だけど、もう行きたくない。
このまま学校にも行かず、ラーヴォルンからも出て行きたい。
みんなの前から消えてしまいたいと思った。
(用語集)
(1)イデアルディ
イデアルディは、何も描かれていない人型をした小さな人形のことである。
術者が魔法で、イデアルディにイメージを注入することで、色んなキャラクターに変化させることができる。
空想士を目指す人達は、空想力を鍛えるために、イデアルディを使うことが多いと言われてる。
(2)魔法研修
魔法学校の生徒が、年に一度魔法の聖地に訪れて、様々な魔法の研修を行なう
魔法の聖地では、他よりもマーシャントが多く、そのため優れた魔導士も大勢集まっている
魔法の聖地は、アトゥアには多数存在し、リーヴァ王国内でも14か所存在している




