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黄昏のラーヴォルン  作者: レトリックスター
第3章 秋暁のラーヴォルン
104/254

58.学校が始まった日

<<琴音>>

 あの事件から数日が経った。

 ラーヴォルンに滞在している軍人さん達の頑張りのおかげで、行方不明者が全員発見された。

 残念ながら、行方不明者は全員亡くなっていたそうだけど、メッサニア化していないことがわかり、ラーヴォルン市民はみんな安堵していた。

 それが証拠に、行方不明者が全員発見されたニュースが広がってから、外に出る人達が徐々に増えてきた。

 また、メッサニアに襲われて生き残った人達は、全員殺処分されたという報道もあった。

 生き残った人を殺処分って、最初聞いた時は驚いた。

 けど、メッサーを受けた人は100%メッサニアになるらしく、目を覚ました瞬間に一般人に襲いかかる可能性が高いらしい。

 そんなこともあって、アトゥアの全ての国では、人間がメッサニアになった瞬間に全ての人権が剥奪されて、生殺与奪の権利は政府に一任されることになっているらしい。

 今回は、あまりにも数が多いことから、全員殺処分ということになったらしい。

 それだけ、メッサニアという存在が、アトゥアで恐れられているということなのだろう。

 そして、ラーヴォルンおよび周辺地域の徹底捜索が完了したことから、数日中にラーヴォルンの包囲網は解除される見込みとのことらしい。

 もっとも、リーヴァ王国の外の国の意見は非常にシビアだ。

 中にはメッサニアの疑いがあるラーヴォルン市民全てを抹殺しない限り、リーヴァ王国民の入国は認めないなんて国もあるそうで、まだまだ大変なことに変わりはないようだ。


 まあ、色々と問題は山積みのようだけど、ラーヴォルンは少しずつ復興へと舵を進め始めていた。

 だから、ミディアちゃん達の様子も、もっと明るくなってもいいものなんだけど・・・

 最近、ミディアちゃんの様子が少し変だ。

 みんながいる時は、明るく振舞おうとするんだけど、少し気を許したら、なんか考え込んでいることが多い。

 ミディアちゃんに何かあったのか訊ねても、

「ウウン、何でもないよ。」

 ニコッと笑って誤魔化されてしまう。

 ウーン、あれは絶対に何かあった時の反応だ。

 何か悩み事があるんだったら、私も力になりたいんだけど、ミディアちゃんは話してくれようとしない。


 ラーファちゃんはというと、相変わらず、朝ヴィルトワさんとどこかに出かけて、夜遅くにひっそり戻ってくる生活を繰り返しているらしい。

 ラーファちゃんがヴィルトワさんのことが好きだって話を以前聞いたことがあったけど、あの事件をきっかけに熱愛で半同棲状態・・・ってさすがにそれはないか。

 先日、ヴィルトワさんがルーイエ・アスクに来た時に、ミディアちゃんがラーファちゃんとどこに行ってるのか聞いたけど、教えてくれなかったらしい。

 エレーネちゃんもヴィルトワさんに聞いてみたけど、やっぱり教えてくれないらしい。

 本当に、2人きりでどこに行っているのやら。

 そして、ずっとラーファちゃんがいないから、日が経つにつれて、アイちゃんの元気がみるみるうちになくなっていくのがわかった。

 最近、ルーイエ・アスクに来た時の第一声は、

「今日もラーファ先輩は・・・いないんですよね?」

 らしく、そして本当にいないとわかると、すごい落ち込んでしまうらしい。

 ミディアちゃんも元気がないんだけど、アイちゃんがそれ以上に元気がないので、ミディアちゃんが気を使ってアイちゃんを励まそうとするけど、なかなかうまくいかないようだ。


 というわけで、私達の周りは、あまり明るいニュースがない。

 唯一の明るいニュースはというと、今日、エレーネちゃんが退院するということぐらいだった。

 まあ、ギブスはまだ取れないそうなんだけどね。

 多分、今日もラーファちゃんはいないんだろうけど、エレーネちゃんを退院を盛大にお祝いしてあげよう。

 そうすれば、ミディアちゃんもアイちゃんも、少しは元気を取り戻すに違いない。

 そんなことを考えながらミディアちゃんの部屋に入ると、部屋の中には知らない女の子が3人座っていた。

「あれっ、部屋を間違えたかな?」

 そう思い、一旦部屋の外に出る。

 でも、どう見ても、そこはミディアちゃんの部屋だった。

 これは一体どういうことだろう?

 もう一度、恐る恐る部屋の中を覗くと、やっぱり知らない女の子が3人座っていた。

 この子達は一体誰なんだろう?

 そう思ってしばらく眺めていたら、部屋の扉が開いて、ミディアちゃんとアイちゃんが中に入ってきた。

「あっ、琴音。」

 ミディアちゃんは、私に気づいて、つい私の名前を声に出してしまったようだ。

「ミディア、コトネってなんだ?」

 座っていた女の子が、ミディアちゃんに訊ねると、ミディアちゃんは慌てたように

「な、何でもないよ。」

 そう言って、みんなにお茶とお菓子を配り始める。

 そのミディアちゃんの背後で、アイちゃんが私に向かって、こっそり手招きしているのが見えた。

 アイちゃんの方に向かうと、アイちゃんが小声で話しかけてきた。


「今日、魔法研修のグループメンバーでミーティングをやってるんだよ。」

「魔法研修?」

 そう言えば、もうすぐ魔法研修でモンフェルンに行くって言ってたような気がする。

「すぐに終わらせるから、しばらく外で待っててくれる?」

「ウン、わかった。」

 そういうことなら仕方がない。

 部屋の中に居ても、きっとミディアちゃんとアイちゃんに気を遣わせてしまうから、外に出て待っていよう。

 私はミディアちゃんの部屋の前で、しばらく待つことにした。


 それから1時間以上は経ったが、一向に終わる気配がない。

 ドア越しに話を聞いている限りでは、ミディアちゃんとアイちゃんが何とか話を終わらせようとするんだけど、他の3人が雑談をし始めて、なかなか終わらない様子だった。

「あれ、琴音じゃないか。

 こんなところで何やってるんだ?」

 とそこに、階段を登ってやって来たのは、なんとエレーネちゃんだった。

「あれっ、エレーネちゃん、もう退院したの?」

「ああ、午前中にお母さんが手続きを済ませて、今退院して来たところだ。

 ていうか、こんなところで何やってるんだ?

 さっさと部屋に入るぞ。」

「えっと、実は・・・」

 何も事情を知らないエレーネちゃんに事情を説明しようとしたんだけど、その前にエレーネちゃんは意気揚々とミディアちゃんの部屋に飛び込んで行ってしまった。


 1分後、エレーネちゃんが、私に向かって抗議の表情を浮かべながら、部屋から出てきた。

「知ってたんだったら、事情を説明してくれよ。」

「私が説明する前に、エレーネちゃんがさっさと部屋に入って行っちゃったんでしょ。」

「あれっ、そうだったっけ?」

 エレーネちゃんはそう言うと、テヘッと笑みを浮かべる。

 そんなエレーネちゃんの姿を見て、思わず吹き出してしまった。

「まあ、でも、少しホッとしたよ。」

「えっ、何が?」

「ここ数日のミディアとアイ、すごい落ち込んでいたからな。

 同じグループの友達と話してる2人、結構元気そうにしてたから、ちょっとホッとしてるよ。」

 エレーネちゃんが安堵した表情で、私にそう言う。

 なんだかんだで後輩であるミディアちゃんやアイちゃんのことを、エレーネちゃんはいつも気にかけている。

 エレーネちゃんは、後輩思いのいい先輩だなって思う。

 でも、エレーネちゃんの話を聞いて、正直私は少し複雑な思いになった。

「私達といる時より元気ってのは、それはそれで、私としては少し不満だったりするんだけど・・・」

 私が少しふくれながらそう言うと、エレーネちゃんはプッと吹き出す。

「琴音がそんなことを言い出すとは思わなかったよ。」

「だって・・・」

 私も、自分がこんな気持ちになるとは思わなかった。

 これって、やっぱり嫉妬なのかな?

 でも、エレーネちゃん曰く、

「ミディアもアイも、あの子達とあまり面識ないのか、相当気を遣ってるみたいだったぞ。」

 とのことなので、ミーティングが終わったら、とりあえず2人にお疲れさまって言ってあげよう。

「まあ、とりあえず、他の場所で待ってようぜ。」

 エレーネちゃんが私にそう言ってきた。

 確かに、ミディアちゃんの部屋の前でずっと立ち話と言うのも変だ。

 とりあえず、エレーネちゃんの言う通り、どこか場所を移すことにしよう。


 エレーネちゃんに連れてこられたのは、以前誕生パーティを行ったイベント用の部屋だった。

 でも部屋に到着すると、そこは何人かのお客さんの宿泊場所になっていた。

「あちゃあ、空いてなかったか。

 この様子だと、多分、どの部屋も空いてないんだろうな。

 じゃあ、仕方がない。

 ラーファの部屋で待たせてもらうとするか。

 どうせ、今日もラーファ、いないんだろ。」

 エレーネちゃんはそう言うと、ラーファちゃんの部屋へと向かう。

 ラーファちゃんの部屋はミディアちゃんの部屋の隣なので、結局来た道を戻ることになってしまった。

 それにしても、まさかイベント用の部屋に宿泊しているお客さんがいるとは思わなかった。

 私の思っていることは、エレーネちゃんも思ったようだ。

「ラーヴォルンの観光客全てを宿泊させるには、旅館の数が足りないんだよ。

 それでも、ルーイエ・アスクのような旅館に宿泊できている観光客は、まだ幸せな方だよ。

 旅館に入れなかった人達は、リーブルガルトを臨時の宿泊施設に変えて、そこに入れられているらしい。」

「それは嫌だね。」

 よりにもよって、今回の事件の中心地と言っても過言ではないリーブルガルトに宿泊って、事件の恐怖を毎日刻み付けているようなものだ。

 絶対に、精神的に病んでしまうと思う。


 ミディアちゃんの部屋まで戻ってくると、ちょうど部屋から3人の女の子が出てくるのが見えた。

 どうやらお帰りのようで、エレーネちゃんに挨拶をしながら、そそくさと去って行った。

 もしかしてエレーネちゃんが部屋に入ったことで、あの3人に帰るスイッチが入ったのかもしれない。

 先輩を外で待たせてるのって、すごく気が引けちゃうからね。

「もう入ってもいいか?」

 エレーネちゃんがそう言うと、ミディアちゃんの「どうぞ」の声が聞こえてくる。

 私とエレーネちゃんが部屋に入ると、ミディアちゃんとアイちゃんは疲れきった表情を浮かべていた。

「2人とも、お疲れ。」

 とりあえず、2人にねぎらいの言葉をかける。

「あの子達、無駄話が長すぎるよ。」

 アイちゃんがため息混じりにそう言う。

 なんでも、魔法研修の話は最初の30分ぐらいで終わっていて、あとはどうでもいい話を延々ダラダラと続けていたらしい。

「それにしても、もう魔法研修の時期なんだな。」

 エレーネちゃんが思い出したように言うと、ミディアちゃんもアイちゃんも苦笑する。

「今年は色々ありすぎて、すっかり忘れていましたよ。」

「エレーネ先輩のグループも、打ち合わせとかやったんですか?」

「うちのグループのメンバーは、昨日お見舞いに来てくれて、お見舞い兼打ち合わせということでやったぞ。」

「へえ、そうだったんだ。」

 魔法研修は学校行事なので、本来はグループミーティングも学校の授業時間に行われるものらしい。

 でも、今回はメッサニア事件のおかげで、魔法研修直前まで学校が閉鎖されてしまったため、グループミーティングを行なう時間的余裕がないらしい。

 だから、王国軍の安全宣言が出たタイミングで、学校から各自でグループミーティングを行うようにと生徒達に伝達があったらしい。

 でも、魔法研修が中止にならなくてよかったと、みんな言った。

 メッサニア事件のおかげで、モンフェルン市民の多くが、ラーヴォルンの学生を迎え入れることに不安を感じているらしい。

 予定通り魔法研修を行うことができたのは、王国政府が市民の安全を確保することを約束したからだそうだ。

「でも、気軽にモンフェルンを観光はできないかもな。」

 エレーネちゃんがため息交じりにそう言う。

 恐らく、魔法研修の会場周辺は王国軍が厳重に警備していて、今のラーヴォルンみたいに、どこか出かけようとするたびに兵士がついて来かねないと、少し残念そうに話した。


「それはそうと、エレーネ先輩、退院おめでとうございます。」

 ミディアちゃんが今気づいたのか、慌ててそう言う。

「ああ、これで退屈な入院生活ともおさらばだ。

 あとはラーヴォルンの包囲が解除されて、学校が始まったら、いつも通りの生活に戻るな。」

「そう・・・ですね。」

 ミディアちゃんは頷いたけど、なんか表情が暗くなってしまった。

「いつもの生活に戻ったら、ラーファ先輩も帰ってきてくれますかね?」

 気がつくと、アイちゃんの表情も暗くなっていた。

「なんだなんだ。

 さっきまで元気にお友達と話してたのに、なんで私達の前だと暗くなっちゃうんだよ。」

 エレーネちゃんがため息をつく。


「実は、2人の行ってる場所に見当がつかないわけではないんだけどさ。」

 エレーネちゃんがそう言うと、ミディアちゃんとアイちゃんの表情が変わる。

 そんな2人の反応に、エレーネちゃんは思わず苦笑する。

「2人はどこに行ってるんですか?」

「そりゃあ、誰にも気づかれない場所と言えば、ルフィルの遺跡の隠し部屋しかないだろう。」

 そう言えば、あのルフィルの遺跡の隠し部屋は、エレーネちゃんとラーファちゃん、そしてヴィルトワさんしか知らない秘密の部屋だったっけ。

 確かに、あの隠し部屋に潜んでいるんだったら、誰も見つけられない理由も頷ける。

 でも、そこまでわかっているんだったら、どうしてエレーネちゃんは隠し部屋に行って確認しないんだろう?

 そのことを私が訊ねると、エレーネちゃんは、

「ルフィルの遺跡の前に、王国軍が駐留しているってのもあるんだけど、一番の理由は魔法トレースだな。」

「魔法トレース?」

「魔法トレースは、文字通り魔法が使われたことを追跡できる魔法術式で、今はラーヴォルン全体にこの魔法トレースが仕掛けられてるんだ。

 ラーヴォルン市民や観光客が、魔法転移でラーヴォルンを脱出しても、すぐに追跡できるようにね。」

 まさか、そんな仕掛けがラーヴォルンに行なわれていたとは、全然知らなかった。

 まあ、ミディアちゃん達は、普段からあまり魔法を使わないから、気づかなくても仕方がないんだけどね。

「だからもし、ラーファ先輩やヴィルトワさんが転移魔法を使ったら、すぐに王国軍に気づかれて、転移先まで兵士が追いかけてくるってわけ。」

 アイちゃんがそう言う。

 それが本当だったら、みんな怖くて魔法が使えなくなるね。


「でも、実は私・・・こないだ見ちゃったんだ。

 ラーヴァが呪符のようなものを使って、ゲートを開けるのを。」

 ミディアちゃんが元気のない声でそう呟く。

「呪符だって魔法と同じだよ。

 ゲートを開けて転移した時点で、魔法トレースに感知されるよ。」

「でも・・・本当にラーファは呪符を使って、ゲートを開いて・・・どこかに行ってしまった。」

 なぜか、ミディアちゃんの表情がすごく暗くなる。

「だとしたら、王国軍の魔法トレースに感知されない魔法を使ってるのかも。

 たまに、兄貴はどこかですごい魔法を覚えてきたりするけど、それを使ってるのかもしれない。」

 エレーネちゃんがそう言う。

「王国軍の魔法トレースに感知されない魔法なんてあるんですか?」

「それはわからないけど、でも、ミディアは見たんだろ?」

 エレーネちゃんがミディアちゃんに訊ねると、ミディアちゃんは小さく頷く。

「だとしたら・・・本当にヴィルトワさんって、天才魔導士ですね。」

 もし、王国軍に感知されない魔法をヴィルトワさんが本当に使えるのだとしたら、ヴィルトワさんのすごさはチートの域に達していると思う。


「ルフィルの遺跡は、王国軍が駐留していて、今は一般人は近づけない。

 しかも、外には兵士がウロウロしている上に、街中で魔法トレースをされているから、魔法を使うこともできない。」

 エレーネちゃんはそう言うと、なぜか私の方を見る。

 なんか嫌な予感がする。

「そこで、琴音、ちょこっとルフィルの遺跡まで行って、隠し部屋を覗いてきてくれないか?」

 私の嫌な予感は、見事に的中した。

「琴音・・・私からもお願いするよ。」

「私からも・・・」

 ミディアちゃんとアイちゃんからも頼まれてしまうと、さすがに断りづらい。

「本当はあまり覗き見とかしたくないんだけど・・・仕方がないなあ。」

 私が渋々了承すると、ミディアちゃん達の表情に、少しだけ笑顔が戻った。

 確かに、こちらの世界では私は幽霊みたいなものだから、どこにでも入っていける。

 だけど、こういう時の覗き見は、決まって心臓に悪い内容でしかないというのが、今までの経験則だ。

 でも、ラーファちゃんのことは、私も気になるし、仕方がないかな。


「じゃあ、ちょっと行ってくるね。」

 覚悟を決めて、ミディアちゃんの部屋を飛び出し、ルフィルの遺跡に向かう。

 ルフィルの遺跡には、多くの兵士達が残っていたけど、私の姿には誰も気づかないようだ。

 私は、そのままルフィルの遺跡の隠し部屋がある崖へと飛び込む。

 しばらくすると、秘密の隠し通路が見えてくる。

 その通路をまっすぐ突き進み、以前、ヴィルトワさんとエレーネちゃんがいた部屋へと辿り着く。


 部屋の中は真っ暗で、誰もいなかった。

 さらに奥に、いくつか部屋があったので覗いてみたけど、どの部屋も真っ暗で誰もいなかった。

 どうやら、エレーネちゃんの予想は外れてしまったようだ。

 でも、心臓に悪いものを見なくて、少しホッとした。

 もし、部屋でヴィルトワさんとラーファちゃんがエッチなことをしていたらどうしようって、実は少しドキドキしてたんだよね。

 そんなものを見てしまった日には、帰ってミディアちゃん達にどう報告したらいいか困っていたところだ。

 とりあえず、みんなに報告しに戻ろう。

 ルフィルの遺跡を飛び出して、大慌てでミディアちゃんの部屋に戻る。

 部屋では、ミディアちゃん達が期待の眼差しで、私を待っていた。

 でも、私が誰もいなかったことを告げると、ミディアちゃんとアイちゃんは再び落ち込んでしまった。

「遺跡にもいないとしたら、一体どこに!?」

 エレーネちゃんは首を傾げる。

 さすがのエレーネちゃんも、どうやらお手上げのようだった。


「まあ、いない人間のことを詮索しても仕方がないし、私達は魔法研修のことでも考えようぜ。」

 エレーネちゃんがさらりと話題を変えてきた。

 これ以上、この話を引っ張ると、ミディアちゃんとアイちゃんがさらに落ち込んじゃうと思ったんだろう。

「ところで、前から思ってたんだけどさ。

 私達が魔法研修に行ってる間、琴音はどうするんだ?」

 エレーネちゃんがそう言うと、ミディアちゃんとアイちゃんが顔を上げて私の方を見る。


 そう言えば、自分のことをすっかり忘れていた。

 みんなが魔法研修に行ってる間、私はずっとラーヴォルンで一人ぼっちでお留守番していないといけないのだろうか?

「ここからモンフェルンって、かなり離れてるからな。

 いくら琴音が高速で移動できるって言っても、モンフェルンまで行くのって、かなり大変だと思うぜ。」

 ていうか、それ以前に私、モンフェルンがどこにあるのかも知らない。

 エレーネちゃんに地図を見せてもらい、南街のある大陸の北東を突き進んだところにあるということはわかったけど・・・

 ここからかなり遠くて、うまくたどり着ける自信がない。

「できれば、琴音にも来て欲しいんだけど・・・」

 ミディアちゃんが、元気ない声でそう呟く。

「ちょっと、覆面に相談してみるね。」

 私はみんなにそう言ってから、頭の中で覆面に話しかける。


(覆面・・・今の話聞いてた?)

(ああ、聞いてた。)

 今日は覆面のレスポンスがやけに早い。

 もしかして、今日は暇で、私のことをずっと観察でもしていたのだろうか?

(だったら、話が早い。

 魔法研修の期間、私をモンフェルンに連れてって欲しいんだけど・・・)

(・・・・・・まあ、いいだろう。

 魔法研修の期間は、モンフェルンの中心地にあるルーベの噴水に送ってやろう。)

 なんか、あっさりと承諾してくれた。

 こうもあっさりと話が通ると、何か裏があるようで、少し気持ち悪い。

(なんだ、モンフェルンに行きたくないのか?)

 しまった、私の考えが伝わってしまったようだ。

(モンフェルンに行きたい、すごく行きたいです。)

 私がそう言うと、覆面はそうかと言って、そのまま通信を切ってしまった。

 気のせいかもしれないけど、今日の覆面、なんか別のことを考えているような感じだったな。

 でも、覆面と約束を取り付けることができたし、まあいっか。


 覆面がモンフェルンに送ってくれるという話をすると、ミディアちゃん達は喜んでくれた。

「ルーベの泉ってところに送ってくれるって言ってたけど・・・」

「ルーべの泉って、私達の魔法研修の場所にかなり近い場所だよ。

 これなら、すぐに合流できそうだね。」

 ミディアちゃんはホッと胸をなでおろしていた。

 一口にモンフェルンと言っても、首都だけにとても大きな街らしく、出現場所によっては、合流が難しい可能性もあったらしい。

「これがモンフェルン第3地区の地図だよ。

 私達の泊まる宿舎がここで、ルーべの泉がここだよ。」

 ミディアちゃんが、地図を使って、私に説明してくれた。

 モンフェルンは全部で16の地区に分けられていて、今回の魔法研修は第3地区で行なわれるらしい。

 でも、第3地区の映像を見て、言葉を失った。

 ラーヴォルンと違って、第3地区にはたくさんの高層ビルが建ち並び、道にはたくさんの乗り物が走っていて、歩道には大勢の人達が歩いていた。

「ね、そんなに遠くないでしょ?」

 ミディアちゃんが丁寧に道を説明してくれたけど、どうしよう?

 今まで都会にほとんど行ったことのない私が、いきなりこんな大都会に出たら、絶対に迷子になる。

 こうなったら、この地図を記憶に焼きつけるしかない。

 そう思い、目を血走らせながら必死に地図を眺めてみたものの、なかなか道を覚えることができなかった。


<<ミディア>>


 ついに、ラーヴォルンの包囲網が解除されて、学校が再開される日が来た。

 ここ最近、ずっとラーファは朝から出かけていなくなっていたけど、さすがに学校がある日まで、どこかに出かけるわけにはいかないだろう。

 でも、正直言うと、ラーファに会いたいのかどうか、自分でもわからなくなっていた。

 やっぱり、こないだのアレを見てしまったからだろうか?

 心のどこかで、ラーファと会うのが怖いと思う自分がいる。

 でも、やっぱりラーファに会いたいと思う自分もいるわけで・・・

 とりあえず、ラーファと会って、普通の会話をしよう。

 普通に話しているうちに、きっとラーファもいつもの調子を取り戻してくれるはずだ。

 そう期待しながら部屋を出て、朝食を取るために1階へと向かったんだけど・・・


「ラーファなら、もう学校に行ったわよ。」

 1階に着くなり、お母さんにそう言われた。

「おはようございます。」

 とそこに、エレーネ先輩とアイが颯爽と現れる。

 多分、私と同じで、学校が始まったらラーファに会えると思ったのだろうけど、ラーファがいないとわかると、アイはすごい落ち込んでしまった。

「ラーファ、まるで私達と会うのを避けているみたいだな。」

 エレーネ先輩の言ったことは、私も思っていたことだった。

 もしかしたら、ラーファは私達を避けているのだろうか?

 エレーネ先輩は理由がわからないといった様子だったけど、私には思い当たる節がある。

 やっぱり、こないだの夜のアレが、何か関係しているのだろうか?

 でも、ついこないだまで普通に話していたのに、どうしてあんなことになってしまったのだろう?


「それはそうとミディア、今朝のニュース見たか?」

 考え事をしていたところをエレーネ先輩に話しかけられる。

「えっ、まだ見てないですけど・・・」

「ちょうど今やってるみたいだ。」

 エレーネちゃんはそう言うと、イデアフィールズを見るように促す。


『先程の王国政府の発表によると、ウィルト王子には、ラーヴォルンにメッサニアが潜んでいることを隠蔽した疑いがかかっているとのことです。

 メッサニアの存在を確認していながら、なぜウィルト王子は隠蔽しようとしたのか、政府はウィルト王子に事情聴取を行なっていますが、依然としてウィルト王子は黙秘を続けているとのことです。』


「ウィルト王子がメッサニアの存在を隠蔽していたなんて、信じられない。」

「でも、本当にメッサニアの存在を事前に確認できていたのだとしたらさ。

 ルフィル・カロッサの時に手を打っていたら、事件の発生を止めることができたはずだ。」

 エレーネ先輩がそう言う。

 確かに、あの時、ラーヴォルンには王国軍が来ていたから、メッサニアの存在がわかっていたのだったら対応できたはずだ。

 もし、ウィルト王子がメッサニアのことを知っていたのだとしたら、どうして何もしないでモンフェルンに戻ってしまったのだろう?

 私は、ウィルト王子がメッサニアを放置するなんてこと、絶対にするわけないと信じている。

 ヴェルク帝国の特殊部隊にさらわれた私を助けに来てくれたウィルト王子が、そんなことするはずがない。

 でも、ニュースでは、もうウィルト王子がメッサニアを隠蔽していたと断定したような報道を繰り返し行っていた。

 このニュースを見た人達の多くはきっと、ウィルト王子がメッサニア事件の黒幕だ思ってしまうだろう。


「ヤダヤダ、メッサニアのニュースなんて、あの日のことを思い出すから、番組変えてちょうだい。」

 お母さんがそう言って、イデアフィールズのチャンネルを変える。

 お母さんにとって、あの事件はかなりの恐怖だったようで、メッサニアの話が出て来ただけで、すぐにチャンネルを変えるようになっていた。

「メッサニアは人類の敵よ。

 早く絶滅してほしいものだわ。」

 お母さんが震えながらそう言った。


 その後、私は素早く朝食を終えて、エレーネ先輩とアイと一緒に学校へと向かう。

 そして、学校に到着すると、私達は真っ先にラーファのいる教室に向かった。

 今、ラーファと会わないと、きっと後で後悔する。

 そう思ったからだ。

 でも、教室に着くと、そこにラーファの姿はなかった。


(用語集)

(1)イデアフィールズ

放送電波を受信して、映像や音声に変換する機械

また、映像イデアを再生したり、放送を映像イデアに記録することもできる

地球におけるテレビやビデオに相当する。


(2)メッサーとメッサニア

メッサーとは大量のマーシャントを圧縮した暗黒の魔法弾を魂に打ち付ける魔法で、禁呪指定されている魔法

死亡率が6割以上もあるが、生き残ると至高の快楽が得られると言われている

メッサーと呼ばれる魔法は多く存在し、中でもエヴィラルと呼ばれる魔法は、メッサーの中でも最高の快楽を得られる魔法として有名である

メッサーの至高の快楽に取りつかれた人達のことをメッサニアと呼んでいる

メッサニアになると、自分が撃たれたメッサーを自動的に習得する

メッサーは、他人から撃ってもらわないと快楽を得られないため、まず人間にメッサーを撃ち、メッサニアにしようとする。

一時期、メッサニアの存在はアトゥアを恐怖に陥れたが、アトゥア中の国々が団結して撲滅運動を行なってきたため、メッサーとメッサニアの恐怖は以前よりは小さくなった。

しかし、今でも相当数のメッサーとメッサニアが潜んでいると言われている。


(3)リーブルガルト

ラーヴォルン北街の中央にあるイベント施設

様々なイベントで使用されることが多く、最近ではハ―メルトンのコンサートでも使用された。

アトゥア最大のイデアトゥア施設を備えているため、イデアに関するイベントや学術研究等でもよく使用される。


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