57.ラーファの異変
<<琴音>>
翌日、目覚めると、体調はすっかり治っていた。
昨日の頭痛は嘘のように引いていた。
「ウン、もう大丈夫だ。」
いつものように、朝食を取って、学校に出かける。
「おはよう、日花里ちゃん。」
「おはよう、どうやらもう体の方は大丈夫みたいね。」
「ウン、すっかり。」
私がそう言うと、日花里ちゃんは安心したように笑みを浮かべる。
「ミディアちゃん達が心配なのはわかるけど、あんまり無理しないでよ。」
「ウン、わかってる。」
今回のことで、日花里ちゃんやニコちゃんに、かなり心配をかけてしまったみたいだ。
でも、あの時、私が無茶をしていなかったら、ミディアちゃん達はきっと無事では済まなかっただろう。
だから、日花里ちゃんには悪いけど、今回はああするしかなかったと思う。
でも、友達に心配かけるのも悪いし、よっぽどのことがない限り、覆面に魔法をかけてもらうのはやめておこう。
ていうか、そんな機会は二度と来ないでほしいと思う。
学校では、今日も体育祭の練習があり、元気になった私は、体育祭の練習に参加していた。
そう言えば、昨日、お母さんが言ってたけど、昔は体育祭の予選なるものがあったらしい。
なんでも、中学の時は1学年15クラスもあって、1日ではとても全てを消化しきれなかったんだそうだ。
ちなみに、今では私の通っていた中学校でも高校でも、体育祭の予選なんてものはない。
いやあ、昔はすごいたくさん子供がいたんだね。
それから、日花里ちゃんやニコちゃんと昼食とったり、授業が終わってから、帰りにカラオケに行ったりしているうちに、気がついたら夜になっていた。
お風呂に入って、寝る時間が近づくにつれて、妙に胸がザワザワしてくる。
たった1日、ミディアちゃん達と会わなかっただけなのに、こんなにも胸がザワつくのは、やっぱりあんな事件があったからだろう。
「ミディアちゃん達、元気にしてるかなあ?」
でも、エレーネちゃんは怪我をして入院しているんだった。
じゃあ、今日はミディアちゃん達とお見舞いに行かないとね。
たった1日しか空いていないにも関わらず、まるで久しぶりの来訪のように、期待と不安に胸を踊らせながら、私は布団に入った。
しばらくして、私はラーヴォルンに来ていた。
いつも見慣れているルフィルの遺跡だけど、そこに観光客の姿はなかった。
代わりに、大勢の軍人さんらしき人達がいた。
遺跡の前には、テントがたくさん設営されていて、どうやらここに大勢の軍人さんが泊まり込んでいるらしい。
軍人さんの話を聞くと、どうやら、南街にメッサニアが潜んでいないかを徹底的に捜索しているらしい。
確かにあんなのが街に潜んでいたらと思うと、怖くて外に出られない。
ミディアちゃんの家に向かう間、観光客の姿を見ることができなかったのも、そのためだろう。
「あっ、琴音。」
ミディアちゃんの部屋に行くと、ミディアちゃんとアイちゃんの2人がいた。
「もう、体調はよくなったの?」
アイちゃんが私に話しかけてくる。
てことは、ヴィルトワさんがアイちゃんに視力と聴力を貸してくれているんだ。
「ウン、もうバッチリだよ。」
「よかった。
私達のせいで、琴音の体調が戻らなくなったらどうしようって、ずっと心配してたんだよ。」
「私のことは、もう大丈夫だから。
そんなことよりも、なんかすごいことになってるね。」
私がそう言うと、ミディアちゃんとアイちゃんの表情が曇る。
それから、ミディアちゃん達は今のラーヴォルンの状況について説明してくれた。
日花里ちゃんが予想していた通り、どうやらラーヴォルンは大変なことになっていたみたいだ。
「これからラーヴォルンはどうなっちゃうのかな?」
ミディアちゃんが不安そうに呟く。
今回の事件で、ルーイエ・アスクに入っていた予約が全部キャンセルされたそうだし、ミディアちゃんが不安に思うのも当然だ。
「ところで、ラーファちゃんは、先にエレーネちゃんのお見舞いに出かけたの?」
話題を変えようと私がそう聞くと、2人の表情がさらに暗くなってしまった。
「ラーファ、昨日も今日も、朝からヴィルトワさんとどこかに出かけてて、ロクに話もできてないんだ。」
「私も、ラーファ先輩とお話ししたい。」
先日、ラーファちゃんの様子がなんかおかしくて、少し気にはなっていたんだけど、まさかそんなことになっていたとは・・・
「えっと、とりあえず、エレーネちゃんのお見舞いに行こうよ。」
この暗い空気を払うためにも、話題を変えよう。
「ウン、そうだね。」
ミディアちゃんはそう言って頷いてくれたけど、
「私は・・・あまり外に出たくないなあ。」
どうやら、アイちゃんはあまりお見舞いに行きたくないようだった。
もしかして、ミディアちゃんもアイちゃんも、外にメッサニアがいるんじゃないかって怯えているのかなあ?
「遺跡からここまで来たけど、外には軍人さんがたくさんいたし、大丈夫だよ。」
2人を安心させるためにそう言ったつもりなんだけど、私の話を聞いて、ミディアちゃん達は大きな溜息をついた。
えっ、なんで?
その答えは、すぐにわかった。
ミディアちゃん達と一緒に外に出ると、すぐに軍人さんがミディアちゃん達の元にやってきた。
そして、病院まで、軍人さんがミディアちゃん達に同行することになった。
「どこ行くにも、こんな感じなんだよ。」
アイちゃんが小声でそう教えてくれた。
話を聞くところによると、軍人さんは、外を出歩いている人達を監視しているらしい。
なるほど、これは確かに外を出るのが嫌になる。
病院まで無言で同行する武装した軍人さんの姿を見ながら、そんなことを思った。
病院に到着すると、軍人さんから解放されて、ミディアちゃん達の緊張も解ける。
それまで全く喋らなかった2人が、病院に着いた途端に饒舌になったのを見て、思わず吹き出しそうになった。
それから、ミディアちゃんとアイちゃんの案内で、エレーネちゃんの部屋へと向かう。
そして、病室の前までたどり着いたその時だった。
「さっさと帰ってよ!!!」
エレーネちゃんの大声が聞こえてくる。
なんか、誰かと口論しているみたいだ。
ミディアちゃんが、そっと部屋の中を覗いてみると、エレーネちゃんのベッドの前に、すごい大男が立っていた。
「ヤシュワントさん!?」
部屋に入ったミディアちゃんは、突然大柄の男の人が視界に飛び込んできて驚いていた。
「ミディアか。
ここにいれば、会えると思ったぞ。」
ヤシュワントさんはそう言うと、ミディアちゃんに何かを手渡す。
「これは・・・護符ですか?」
「俺にもよくわからんが、ヴィルトワからミディアに会ったら渡しておいてほしいって言われたんだ。
ったく、俺をパシリに使うとはな。」
どうやら、ヤシュワントさんは、ミディアちゃんに会うために、わざわざここで待っていたらしい。
でも、さっき、エレーネちゃんと口論していたような気がするけど、あれは一体なんだったんだろう?
「もう用は済んだでしょ。
さっさとモンフェルンに帰ったら?1人でね。」
どうやらエレーネちゃんは、かなりご立腹のようだ。
「いや、次に俺が帰る時は、ヴィルトワも一緒だ。」
なるほど、今のヤシュワントさんの発言で、エレーネちゃんが怒っている理由がよーくわかった。
エレーネちゃんは、ヴィルトワさんにどこにも行ってほしくないのに、ヤシュワントさんがヴィルトワさんをモンフェルンに連れて行こうとしているからだ。
「お前が心配する気持ちもわかる。
だが、ヴィルトワは、王宮まで出向いて調査報告を行う義務があるんだ。」
ヤシュワントさんはそう言って、エレーネちゃんを説得しようとしたけど、エレーネちゃんは全く聞き入れようとしなかった。
強情なエレーネちゃんの様子を見て、ヤシュワントさんはこの日は説得を諦めたらしく、また来ると言って、帰ってしまった。
「ヴィルトワさん、モンフェルンに連れて行かれるんですか?」
ミディアちゃんが、ご立腹のエレーネちゃんに恐る恐る訊ねる。
そんなミディアちゃん達の様子に、エレーネちゃんも気づいたようで、
「いやあ、なんか恥ずかしいところを見られちゃったなあ。」
そう言って、照れ笑いを浮かべる。
いつものエレーネちゃんの表情に戻って、ミディアちゃんとアイちゃんはホッとした表情を浮かべる。
「兄貴も兄貴だ。
ヤシュワントさんに聞いたら、昨日も今日も朝からラーファとどこかにしけこんでいるって言うじゃないか。
ラーファも、親友のお見舞いに一度も来ないとか、ありえなくない?」
エレーネちゃんが、また少し怒った表情に変わる。
「私も、あの事件以降、ラーファと全然会話していない。」
「私も・・・」
ミディアちゃんとアイちゃんが、また落ち込んでしまった。
本当にラーファちゃんはヴィルトワさんと一体どこに行ってるのだろう?
少し怒っていたエレーネちゃんだったけど、ミディアちゃんとアイちゃんが落ち込むのを見て、何か考え始める。
そして、何かを思いついたのか、急にニコッと笑いだす。
「よーし、ラーファがお見舞いに来ない罰だ。
今日は、ラーファについて聞きたいことがあったら、私が知っている範囲で、何でも話してやるぞ。」
エレーネちゃんがそう言うと、途端にアイちゃんの目が輝き始める。
あっ、これはなんか嫌な予感が・・・
「じゃあ、ラーファ先輩のスリーサイズについて・・・」
「あー、それは知らん。」
質問と回答が半分ぐらい被っていた。
即答されて、アイちゃんはガッカリした表情を浮かべていた。
「いやあ、そういう質問じゃなくてだな。」
「じゃあ、5年前、ラーファとした大ゲンカした時の話を聞かせてください。」
ミディアちゃんがそう言うと、エレーネちゃんとアイちゃんの表情が変わる。
私もずっと気になっていた。
親友同士である2人の大ケンカの話。
以前、エレーネちゃんがその話をしようとした時に、ラーファちゃんが
「その話はやめて。」
とキツイ口調で止めたのを思い出していた。
あの時は、リリムさんやマーシャント干渉の話が、ラーファちゃんになんらかの悪影響を及ぼしていることを知った後だった。
だから、私達もそれ以上聞けなかったし、エレーネちゃんもそれ以上話そうとしなかった。
みんな、あの時のラーファちゃんの反応を覚えていて、気になってたんだ。
私達の表情が一斉に変わるのを見て、エレーネちゃんは苦笑する。
「そんな期待するほど、面白い話じゃないぞ。
まあ、ラーファにとっては不愉快な話かもしれないけど・・・」
「ラーファ先輩にとって不愉快な話ですか?」
「今から、5年前の魔法研修だから、私達が12歳の時の話だな。」
「私は2人がケンカしていたことは知ってました。
でも、その理由については、2人とも教えてくれなかったから、ずっと謎だったんですよね。」
アイちゃんがそう言う。
「まあ、全面的に私が悪いんだけどな。」
「エレーネ先輩が?」
「12歳って、そろそろ異性を意識始める年齢だろ。
私は発育が結構良くて、12歳の時には、すでに結構胸が大きくなってたんだ。」
エレーネちゃんは、私達の中では一番胸が大きい。
だから、発育がよかったってのは、容易に想像がつく。
「他の女の子からは、すごい羨ましいって言われたけどさ。
周りの女の子は、まだそれほどでもないのに、自分だけ胸が大きくなるのって、結構嫌なもんなんだぜ。
男子から色んなこと言われるしさ。」
確かに、12歳だったら、男子から色々からかわれてもおかしくない。
「そんなわけで、その時の私は、同学年の中では胸が大きくて、目立ってたんだけどさ。
その当時、同学年の女子の中で、男子に一番モテたのは、ラーファだった。」
「そう言えば、あの頃、ラーファ先輩、よく男子から声かけられてましたね。」
どうやら、アイちゃんにも心当たりがあるようだ。
「当時、私には好きな男の子がいたんだ。
今はもう転校していなくなっちゃったんだけど・・・」
あっ、今の話で、何となく先が読めたような気がする。
「もしかして、その男の子が、ラーファに告白したんですか?」
ミディアちゃんも同じことを思ったみたいで、そう訊ねると、
「はい、ご名答。」
エレーネちゃんが笑顔で頷く。
「それが、5年前の魔法研修の時。
しかも、タイミングが悪いことに、私はその現場を見てしまったんだよね。」
「それで、ラーファ先輩は、なんて答えたんですか?」
「ラーファは、私がその男の子のことを好きなことを知っていたらしい。
だから、男の子の告白を断ったんだ。」
あれっ、ラーファちゃんが断ったってことは、三角関係のもつれが原因ってわけじゃないの?
「ラーファは、私に男の子から告白されたことを、話してくれたんだけど・・・
その時、ラーファは、私にこう言ったんだ。
『エレーネがアイツのこと好きなの知ってたから、断っておいてあげたわよ。
いやあ、モテすぎるのも困ったものだわ。』
今思えば、いつもの悪ふざけな感じの口調だったし、ラーファに悪気は全くなかったんだと思う。
でも、この時だけは、ラーファの発言に、なんかすごいムカついたんだ。
多分、ラーファばかりモテていることに対する僻みとかもあったんだと思う。
あとは、親友だと思っていたラーファから、見下された気分になったってのもあったのかもしれない。
だから、カーッと来て、つい怒りに任せて、ラーファに言ってしまったんだ。
ずっとペチャパイのくせに、調子に乗るなよって。」
「うわあ・・・」
ミディアちゃんがすごい引いてる。
きっと、ミディアちゃんにとっては、他人事には思えないのだろう・・・って、こんなことを考える私も、大概失礼な奴だ。
「当時、ラーファはまだ全然ぺったんこで、私の胸が大きくなるのを見て、結構気にしていたらしい。
私とラーファは仲が良くて、いつも一緒にいたから、余計気になったんだろうな。
だから、私のその一言は、ラーファにとってクリティカルヒットだった。
気がついたら、互いに罵り合ってて、取っ組み合いのケンカにまでなってた。
先生に止められて、散々怒られて、先生の前で仲直りの握手をさせられたけど・・・
それから半年ぐらい、ラーファとは口も聞かなかった。」
「半年もですか。」
ミディアちゃんは驚いていた。
確かに、今の仲の良さを考えると、信じられないことだ。
「あれは、キツかったです。」
アイちゃんがそう言う。
「アイにはすごい悪いことをしたと思ってる。
多分、私にもラーファにも、声を掛けづらかったんだよな。」
「ラーファ先輩と仲良く話しているところを、エレーネ先輩に見られたらと思ったら、なかなか話せなかったです。」
まさか、半年間も口を聞かないほどの大ケンカにまで発展するとは・・・
いやあ、恋愛話は、話し方に気をつけないと、とんでもないことになるね。
「それで、どうやって仲直りしたんですか?」
ミディアちゃんがエレーネちゃんに訊ねる。
「えっと、私達の様子を見ていた兄貴が、見るに見かねて、私達の仲介に入ってくれてね。
会って謝ったら、なんかすぐに仲直りできた。」
「えっ、それだけですか?」
アイちゃんは驚いていた。
「なんかね、私もラーファも、このままじゃダメだって、ずっと思ってたけど、きっかけがなくて、どうしたらいいか困ってたんだ。
そのきっかけを作ってくれたのが、兄貴だったんだ。
久しぶりに会って、2人とも同じ気持ちだってわかった時は、思わず笑っちゃったよ。」
「そうだったんですか。」
「今思えば、あのケンカがあったから、ラーファと一層仲良くなれたような気がする。」
「雨降って地固まるってやつだね。」
私がそう言うと、ミディアちゃん達はキョトンと首を傾げる。
どうやら、日本の諺は、ラーヴォルンには伝わらなかったみたいだ。
というわけで、私が諺の説明をすると、
「まあ、そんな感じだな。」
エレーネちゃんはそう言って笑顔で頷いた。
「でも、お2人が仲直りしても、しばらくラーファ先輩は胸のことを気にしてましたよね?」
アイちゃんがそう言うと、エレーネちゃんは苦笑する。
「仲直りできたのはよかったんだけど、ラーファは胸が大きくならないことをずっと気にするようになっちゃってね。
包み隠すことなく、私に相談してくれるようになってくれて、それは嬉しいと思ったんだけど・・・
でも、胸のことを相談されるたびに、なんか申し訳ない気持ちになっちゃってさ。」
「でも、今はラーファは、ちゃんと胸あるよね。」
ミディアちゃんが暗い表情でそう言うと、エレーネちゃんとアイちゃんは気まずい表情になる。
「だ、大丈夫だよ・・・ミディアはまだ成長期なんだし・・・」
「こ、これからだよ・・・これから・・・」
エレーネちゃんとアイちゃんが必死にミディアちゃんを慰めようとするけど、これって逆効果でしかないような気がする。
『えっと、ここで臨時ニュースが入ってきました。』
部屋につけっぱなしにしていたイデアフィールズに、突然ニュース速報が入る。
何事だろうと思い、全員がイデアフィールズの方を見る。
『つい先程、王国政府は、リーヴァ王国第3王子のウィルト・リーヴァ王子の身柄を拘束しました。』
「えっ!?」
なんか、みんなすごい驚いている。
あれっ、ウィルト王子って、どこかで聞いたことがあるような・・・
『王国政府の発表によると、ウィルト王子は、先日ラーヴォルンで起こったメッサニア襲撃事件と何らかの関与がある可能性があるとのことです。』
ニュースを見て、さらにみんな絶句する。
「ウィルト王子が、メッサニア事件に関与って、どういうこと?」
ミディアちゃんは、かなりショックを受けていた。
そう言えば、ミディアちゃん、ウィルト王子に助けられたって言ってたっけ。
「ウィルト王子がラーヴォルンに来たのって、ルフィル・カロッサの時だよね?
あの時、リーヴァ王国軍も来てたけど、まさか、あの時にメッサニアを!?。」
エレーネちゃんも驚いていた。
『現在、王国政府はウィルト王子に尋問を行なっていますが、ウィルト王子は黙秘を続けています。』
ミディアちゃんの表情が、どんどん真っ青になっていく。
「ミディア、大丈夫?」
アイちゃんが心配してミディアちゃんに話しかけるけど、ミディアちゃんの表情は強張ったままだった。
<<ミディア>>
今日は、色んなことがありすぎて、まだ頭が少し混乱している。
久しぶりに琴音と会えて、すごい嬉しかった。
それに、ラーファとエレーネ先輩の昔の話も聞けてよかった。
でも、その直後に飛び込んできたウィルト王子拘束のニュースで、私の頭の中は完全に混乱していた。
ウィルト王子が、メッサニア襲撃事件と関与?
そんなこと、絶対にあるわけがない。
だって、ウィルト王子は、私がピンチの時に、わざわざ助けに来てくれたすごく優しい人だ。
そんな人が、メッサニア事件を起こすなんて考えられない。
大体、ウィルト王子がメッサニアで自国民を襲撃して、何の得があると言うのだ?
色々考えてみても、全然まとまらない。
気がつくと、もうかなり遅い時間になっていた。
いつの間にか夕飯を済ませていたみたいだけど、何を食べたかも全然覚えていなかった。
「お風呂に行こう。」
考えていても仕方がないので、とりあえずお風呂に入ることにした。
ルーイエ・アスクの外れにこじんまりとある従業員専用の浴室に到着する。
どうやら、誰かが入浴しているようだ。
まあ、ルーイエ・アスクには従業員が大勢いるし、誰かが入っててもおかしくない。
服を脱いで、浴室に入る。
とその時だった。
「ミディア?」
浴室から、聞き慣れた声が聞こえてくる。
「ラーファ?」
久しぶりに聞いたラーファの声に、嬉しくなって、ラーファの方を見つめる。
でも、ラーファは、私のことを、なぜか険しい表情で見つめていた。
どうして、そんな表情で私のことを見るの?
不思議に思いながらも、久しぶりにラーファと話がしたくて、ラーファの元に向かう。でも、
「来ないで!!!」
ラーファはいきなり大声でそう言うと、私を避けるように浴室を飛び出して行ってしまった。
「ラーファ・・・」
ラーファはどうしちゃったのだろう?
せっかく、久しぶりにラーファと話ができると思ったのに・・・
こないだから、ラーファの様子がおかしいと思ってたけど、これは絶対に何かある。
お風呂から上がったら、ラーファの部屋に行ってみよう。
そして、きちんとラーファと話をしよう。
このままだと、昼間聞いた大ケンカの話みたいに、気がついたら半年間口を聞いていないなんてことになりかねない。
しかも、エレーネ先輩の大ケンカと違って、ラーファから避けられる理由が、私には全く思いつかないし。
お風呂から上がると、自分の部屋に一旦戻って、イデアフィールズをつける。
ウィルト王子の事件について色々確認してみたが、どうやらあまり進展はないようだった。
何かの間違いであってほしいと思う。
心からそう祈りながら、ラーファの部屋に向かおうと、自室の扉に手をかけた時だった。
(ラーファの部屋に行ってはダメよ。)
突然、頭の中に、守護人のお母さんの声が聞こえてくる。
(お母さん?)
(今、ラーファの部屋に行くのは、危険よ。)
(えっ!?)
ラーファの部屋に行くと危険って、どういうことだろう?
もしかして、ラーファの部屋に誰かがいるとか・・・まさか、メッサニアがいるとか!?
だとしたら、早くラーファを助けないと・・・
(ああ、その心配はないわよ。
今、隣の部屋にいるのは、ラーファ1人だけだから。)
お母さんの話を聞いて、少しホッとする。
でも、そうなると、ラーファの部屋には何の危険もないってことになると思うのだけど、お母さんは、ラーファの部屋には行くなとしか言わない。
私はラーファと話がしたい。
私に何か不満があるんだとしたら、きっちり話を聞いておきたい。
だって、ラーファは私のお姉ちゃんなんだから・・・
お母さんに自分の気持ちを素直に話す。
でも、私の気持ちを聞いたお母さんは、次の瞬間、自分の耳を疑いたくなるようなことを言ってきた。
(ミディア、あなたの気持ちはよくわかった。
でも、多分ラーファは、あなたのことを妹として見ていないと思うわよ。)
お母さんの言葉に、思わず絶句する。
どうして、お母さんは、そんな酷いことを言うのだろう?
(仕方がないわね。
じゃあ、ラーファが部屋で何をやっているか、壁に映し出してあげるわ。)
お母さんはそう言うと、魔法を唱え始める。
壁に映し出すって、まさかラーファの部屋の映像を映し出すつもりだろうか?
私の予想は見事に的中したようで、詠唱が終わると、壁にラーファの部屋の様子が映し出される。
そして、その映像が映し出された瞬間、私の頭の中は真っ白になった。
ラーファは、部屋の中に全裸で立っていた。
そして、ベッドに横たわっているのは・・・裸の私!?
(イデアルディよ。
ラーファが魔法で、人形をミディアに変えたのよ。)
お母さんがそう言った。
でも、イデアルディは、術者が思い浮かべたイメージを人形に投影するので、完成度は術者のレベルに依存する。
空想士を目指しているアイは、人形劇をするにあたって、アイのお父さんから相当訓練してもらったって言ってた。
だから、人形劇で、アイはあれだけの完成度の高い人形を作り上げることができた。
と言っても、人形劇に出てきた人形は、特徴はあったものの、デフォルメされていたので、本人に全くそっくりというものではなかった。
でも、ラーファの部屋に横たわる私は、私そのものと言っても過言ではないほどの出来だった。
まさか、あれをラーファが作ったって言うの?
信じられない。
ラーファが作った人形の私は、姿形から身体的特徴まで、私と全く同じだった。
そういえば、ラーファはよく私の体をじっと見ていることがあったけど・・・まさかイデアルディで私の分身を作るために観察していたってこと?
ラーファは、ベッドに横たわっている人形の私の体の上に覆いかぶさると、激しいディープキスを始める。
「ん・・・んんっ・・・」
私にそっくりな人形から、私の声が聞こえてくる。
この声も、私の声そのものだった。
(ていうか、ラーファは一体、何を!?)
(何をって、わかってるくせに。)
お母さんが、冗談交じりに私にそう言ってくる。
ラーファが、人形の私の体中を、指と舌で犯し始める。
「んんっ・・・あああっ!?」
ラーファが愛撫するたびに、人形の私が、卑猥な声を上げる。
(わ、私・・・あんな変な声・・・絶対にあげないよ。)
(そっか、ミディアは気持ちいいことをされたら、ああいう声をあげるのね。)
(お母さん!!!)
(わかったから、そんなに怒らないで。
でも、これでわかったでしょ。
どうして、私がラーファの部屋に行くのを止めたのかを。)
部屋では、ラーファが人形の私を一心不乱に犯し続けていた。
もし、お母さんが止めてくれなかったら、今頃、本物の私がラーファに犯されていたかもしれない。
でも、どうして、ラーファは私にこんなことを?
私のことを、大事な妹だって言ってくれたじゃない。
あれは嘘だったの?
それとも、最初からこういうことがしたくて、私と仲良くなったの?
ラーファがわからない。
隣の部屋では、ラーファも私の人形も、嬌声を上げながら激しく交わっていた。
もう見ていられない。
(お母さん、もうやめて。)
私が懇願すると、お母さんはすぐに魔法を解いてくれた。
部屋の映像が消えると、私はすぐにベッドに潜り込んだ。
今さっき見た映像を、さっさと忘れて眠ってしまいたい。
でも、そう思えば思うほど、頭の中にさっきの映像が鮮明に浮かび上がってきてしまう。
突然、隣の部屋から大きな音が聞こえてくる。
一体、人形の私に何をやっているのだろうか?
想像したくもなかった。
でも、その音を最後に、静寂が訪れる。
(ねえ、お母さん、ラーファはどうして人形の私にあんなことをしたと思う?)
しばらく眠れそうにないので、お母さんに話しかけてみる。
でも、お母さんは私の質問に答えることなく、
(今のラーファを見れば、何となくわかるかもね。)
お母さんはそう言って、再びラーファの部屋の映像を映し出そうとする。
(お母さん、もういい。やめて。)
でも、お母さんはやめようとせず、強引に魔法を放った。
再び、壁にラーファの部屋の映像が映し出される。
さっきまでと違い、部屋は静寂に包まれていた。
ラーファは服を着ていて、まだ私の残像が残っているイデアルディを、しばらくじっと見つめていた。
イデアルディの胸の部分に、ヒビが入っているように見えるんだけど、一体何をやったら、あんなことになるんだろう?
「うっ、うっ・・・」
突然、イデアルディを見つめていたラーファが泣き出す。
そして、横たわっているイデアルディを思い切り抱きしめる。
「私は・・・最低だ・・・人形とはいえ・・・ミディアに・・・こんなことをするなんて・・・
私に・・・ミディアの姉になる資格なんてない。
ゴメンね・・・ゴメンね、ミディア。」
ラーファは、隣の私の部屋に聞こえないよう、小さな声で人形の私を抱きしめながら何度も謝っていた。
しばらく泣いていたラーファだったが、顔を上げ、こちらを見る。
一瞬、覗いていることがばれたのかと思ったけど、単に私の部屋の方を見ているだけのようだった。
「大丈夫だからね、ミディア。
私、ミディアを傷つけたりなんて絶対にしないから。
そう、これが、私が姉としてできる最後のことだから・・・」
ラーファはそう言うと、机の上に置いてあった謎の呪符を発動させる。
すると、部屋の中にゲートが現れる。
ラーファがゲートの中に飛び込むと、ゲートは自動的に閉じ、ラーファの部屋には誰もいなくなった。
「ラーファに・・・一体何が起こってるの!?」
どう見ても、これはただ事ではない。
でも、お母さんは、これ以上何も話してくれなかった。
こうなったら、ヴィルトワさんに話を聞くしかない。
ヴィルトワさんなら、絶対に何か知っているはずだ。
明日、ヴィルトワさんに話を聞いてみよう。
(用語集)
(1)メッサーとメッサニア
メッサーとは大量のマーシャントを圧縮した暗黒の魔法弾を魂に打ち付ける魔法で、禁呪指定されている魔法
死亡率が6割以上もあるが、生き残ると至高の快楽が得られると言われている
メッサーと呼ばれる魔法は多く存在し、中でもエヴィラルと呼ばれる魔法は、メッサーの中でも最高の快楽を得られる魔法として有名である
メッサーの至高の快楽に取りつかれた人達のことをメッサニアと呼んでいる
メッサニアになると、自分が撃たれたメッサーを自動的に習得する
メッサーは、他人から撃ってもらわないと快楽を得られないため、まず人間にメッサーを撃ち、メッサニアにしようとする。
一時期、メッサニアの存在はアトゥアを恐怖に陥れたが、アトゥア中の国々が団結して撲滅運動を行なってきたため、メッサーとメッサニアの恐怖は以前よりは小さくなった。
しかし、今でも相当数のメッサーとメッサニアが潜んでいると言われている。
(2)魔法研修
魔法学校の生徒が、年に一度魔法の聖地に訪れて、様々な魔法の研修を行なう
魔法の聖地では、他よりもマーシャントが多く、そのため優れた魔導士も大勢集まっている
魔法の聖地は、アトゥアには多数存在し、リーヴァ王国内でも14か所存在している
(3)イデアルディ
イデアルディは、何も描かれていない人型をした小さな人形のことである。
術者が魔法で、イデアルディにイメージを注入することで、色んなキャラクターに変化させることができる。
空想士を目指す人達は、空想力を鍛えるために、イデアルディを使うことが多いと言われてる。
(4)イデアフィールズ
放送電波を受信して、映像や音声に変換する機械
また、映像イデアを再生したり、放送を映像イデアに記録することもできる
地球におけるテレビやビデオに相当する。




