表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄昏のラーヴォルン  作者: レトリックスター
第3章 秋暁のラーヴォルン
102/254

56.隔離されたラーヴォルン

<<琴音>>


 目覚めは最悪だった。

 最初に感じたのは、激しい吐き気だった。

 慌てて、洗面所まで向かって、目覚めに一回、部屋に戻ろうとして再び気分が悪くなって、洗面所に戻ってもう一回嘔吐した。

 しばらくすると、吐き気は収まってきたけど、今度は頭痛がひどくなってきた。

 お母さんが朝食を用意してくれたけど、とても食べる気にはなれなかった。

「琴音、大丈夫?

 今日、学校休む?」

 お母さんが私を心配して、そう声をかけてくれたけど、

「大丈夫。」

 そう言って、いつもよりも少し早めに家を出た。


 その後、日花里ちゃんと一緒に学校に行くことになったけど、頭痛でクラクラして、なかなか真っ直ぐに歩けなかった。

「無理しないで、今日は休んだらどう?」

 日花里ちゃんにもそう言われた。でも、

「大丈夫、少し休んだら治るから。」

 私は、フラフラになりながらも、日花里ちゃんと一緒に学校に行った。


 日花里ちゃんにはそう言ったものの、さすがに体育祭の練習は体がきつくて、見学することにした。

 うちの学校は、もうすぐ体育祭があって、そのために最近では体育祭の練習なるものが、よく行われていた。

 練習と言っても、やるのは開会式のリハーサルとかだけど、何度もやり直しをさせられて、これが結構きついのだ。

 最近は少し涼しくなってきたとはいえ、まだまだ日差しはきつく、外で何度も歩かされていたみんなは、終わる頃にはすっかり汗だくになっていた。

「ふう、疲れた。」

 休み時間に、私のところにやってきたニコちゃんが、そう言ってお茶を飲む。

「琴音、体は大丈夫?」

 日花里ちゃんは汗だくなのに、真っ先に私のことを気にかけてくれた。

「吐き気は収まったんだけど・・・頭痛がどうしてもね。」

「こんなところにいないで、保健室で寝てたらいいのに・・・」

「ウウン・・・大丈夫、ここで見学しているから。」

「そう、でも気分が悪くなったら、ちゃんと先生に言うのよ。」

「ウン、わかってるって・・・」

 日花里ちゃんもニコちゃんも、私の体調のことをすごい心配してくれていた。

 日花里ちゃんの言う通りに、保健室で休んでいる方が、本当はいいのかもしれない。

 でも・・・私は別に病気にかかっているわけじゃない。

 これは、覆面が魔法をかけたことによる後遺症に過ぎないのだから。


 体育祭の練習が終わると、お昼休みになった。

 日花里ちゃんとニコちゃんは、私の気分が少しでもよくなるように、屋上で昼食を取ろうと言ってくれた。

 でも、屋上にはあまり行ってはいけないことになっていたような・・・

「いいのいいの。別に昼食取るだけなんだし、気にしない気にしない。」

 ニコちゃんにそう言われて、結局、屋上で昼食をとることになった。

 でも、相変わらず頭痛が酷くて、食欲がわいてこない。

「食欲がないんだったら、無理に食べることないわよ。」

 日花里ちゃんにそう言われて、結局、広げたお弁当をそのまま閉じてしまった。

「じゃあさ、代わりにラーヴォルンの話を聞かせてよ。

 ラーヴォルンの話をしたら、少しは気分が良くなるんじゃない。

 そうだ、こないだ言ってたイデアグラルの話を聞かせてよ。」

 事情を全く知らないニコちゃんが、私にそう言ってきた。

 昨日のことを話したら、余計に気分が落ち込みそうな気もするけど・・・

 でも、2人にも、昨日あったことを話しておいた方がいいだろう。

 2人もラーヴォルンに行ったことがあるんだし、全く関係がないわけでもないんだから。


「あのね・・・実は・・・」

 私は、昨日、ラーヴォルンで起こったことを、2人に話した。

 案の定、私の話が進むにつれて、2人の表情がみるみる強張っていくのがわかった。

「じゃあ、琴音が気分が悪いのは・・・みんなを助けるために、覆面に強制睡眠をお願いしたからなの?」

「ウン、だから、こうなる覚悟はできてたんだけど・・・予想以上だったなあ。」

 覆面が状態異常系の魔法は、魔法耐性のない人間にはダメージが大きいって言ってたけど・・・

 正直、たかが睡眠魔法だと侮ってた。

 だって、普段、私をラーヴォルンに連れて行ってるのも魔法だけど、別に何ともなかったからね。

 でも、意識障害にはならずに済んだようで、それだけはよかったと思う。

「そんなに気分が悪いんだったら、学校休んじゃえばよかったのに・・・」

 ニコちゃんが、私にそう言った。

 確かに、いつもだったらそうしていただろう。でも、

「これはね・・・ミディアちゃん達を助けるために、私が払った代償なの。

 だから、それを理由にして、学校を休んだりしたくなかったんだよ。

 だって、私、ラーヴォルンも大事だけど、こっちの生活のことも大事にしているから・・・」

「琴音・・・」

「もう、琴音ちゃんったら、頑張りすぎなんだから。」

 ニコちゃんが、嬉しそうに私に抱きついてくる。


「それにしても、メッサニアなんてものがいるなんてね。」

 日花里ちゃんは驚いていた。

「私はあっちだと透明人間みたいな存在だから、自分に害が及ばないことはわかってたけど・・・

 ミディアちゃん達は本当に怖かったと思うよ。

 エレーネちゃんは、みんなを守るために大怪我してたしね。」

「エレーネちゃんは、大丈夫だったの?」

 ニコちゃんが心配そうに訊ねてくる。

「腕の骨と肋骨にひびが入ってて、頭も強打していたから、入院するって言ってたけど、命に影響はないみたい。

 帰る前には、普通に意識もあって、私達と会話してたから。」

「それはよかった。」

 とりあえず、みんなが無事であることを知って、日花里ちゃんもニコちゃんも安堵していた。

「でも、これからが大変よね。」

 日花里ちゃんがそう呟く。

「そうだよね。

 きっと、大勢死傷者が出ただろうし、街も結構破壊されてたみたいだから・・・」

「それもあるけど、これからが大変だろうなあって。」

「どういうこと?」

「だって、ラーヴォルンは観光都市なんでしょ?

 その観光都市で、メッサニアが出現したなんてニュースが、アトゥア中に広がったら、どうなると思う?」

 日花里ちゃんのその言葉で、ようやく私は日花里ちゃんが何を言いたいのかわかった。

 日花里ちゃんの言う通り、もしかして、これはラーヴォルンにとって、かなりのピンチなのでは・・・


「日花里ちゃんの言いたいことが、私にもわかったよ。

 みんなのために、私に何かできることないかな?」

 私は日花里ちゃんに訊ねてみたけど、さすがに日花里ちゃんも何も思いつかないようで、首を横に振るだけだった。

「琴音が今やらないといけないことは、早く体を治すこと。

 それで、今までと同じようにミディアちゃん達と接して、少しでも元気づけてあげることね。」

「そうだよ。

 こういう時こそ、琴音ちゃんがみんなを励ましてあげないと。」

 日花里ちゃんとニコちゃんはそう言うけど、励ますこと以外に私に出来ることは、何もないのだろうか?


 結局、学校が終わっても、気分の悪さが解消されることはなかった。

 只でさえ頭痛で気持ち悪いと言うのに、ミディアちゃん達のことばかり考えて、普段使わない頭を酷使してしまったせいだろうか?

 家に帰ってから、しばらく安静にしていたおかげで、ようやく少し気分が良くなってきたけど、夕飯の時間になっても、まだ少し頭痛は残っていた。

 でも、大分和らいできたし、明日には頭痛も完全に治るだろう。

 そう思いながら、食事を済ませて、お風呂に入っていた時だった。


(聞こえるか、琴音。)

 突然、覆面の声がした。

 よりにもよって、お風呂に入っている時に呼びかけてくるとは・・・

(私、今、お風呂に入ってるところなんだけど・・・もしかして、私のお風呂覗いてる?

 実は、覆面ってエッチな人なんだ。)

 少し意地悪っぽく、覆面にそう言ってみる。

 でも、覆面は全く動じることなく、淡々と私に話しかけてきた。

(今日、ラーヴォルンに行くのはやめておけ。)

(えっ、どうして?)

(昨日の魔法は、お前の体に、予想以上のダメージを与えてしまったようだ。

 まだ、完全に回復しきってないようだし、今日だけは安静にしていろ。)

 どうやら、覆面は私の体調を気にしてくれているようだった。

(わかった。

 じゃあ、今日行けないことを、ミディアちゃんに伝えたいんだけど・・・)

(まあ、2人の会話を中継するくらい、何とかしてやろう。)

(ありがとう。

 じゃあ、お風呂から上がったら、また連絡するよ。)

(わかった。)

 覆面との会話が一旦途切れる。

 そっか、今日はラーヴォルンに行けないんだ。

 ミディアちゃんと会えないのは残念だなあ。

 でも、自分の体のことも気にしないとね。

 じゃあ、さっさとお風呂から上がって、ミディアちゃんに謝るとするかな。


(どうやら、準備ができたようだな。)

 お風呂から上がって、ドライヤーで髪を乾かして、部屋に戻ったタイミングで、覆面が話しかけて来た。

 もう間違いない。

 覆面、絶対に私の入浴を覗いていたな。

 そうじゃないと、こんなジャストタイミングで話しかけてなんてこれない。

 まあ、覆面に覗かれているとわかったところで、私にはどうすることもできないんだけどね。

 それに、不思議なもので、覆面にお風呂を覗かれているとわかっても、あまり恥ずかしいとは思わなかった。

 男子にお風呂を覗かれたら、絶対にキャーってなるのに、なんか不思議だ。

 まあ、諦めの境地ってやつなのかもしれないけどね。

(さっき、私から連絡するって言ったと思ったんだけど・・・)

(面倒なことはさっさと済ませたいからな。

 じゃあ、行くぞ。)

 そして、いきなり覆面との会話が途切れる。

 でも、しばらくすると、何とミディアちゃんの声が聞こえて来た。


(えっ、今、私に話しかけて来たのって誰?)

 ミディアちゃんは、かなり動揺しているようだった。

 大方、覆面がミディアちゃんにテレパシーで話しかけた後、何の事情も説明しないまま、そのまま私に丸投げしてきたに違いない。

(ミディアちゃん?)

 私が話しかけると、ミディアちゃんは驚いた声を上げる。

(えっ、琴音なの?)

(えっと、覆面の力を使って、ミディアちゃんに話しかけているんだけど・・・

 覆面、ミディアちゃんに何か言ってた?)

(突然、頭の中に、知らない人の声で、お前と話したい人がいるって言われて、驚いていたら、琴音の声が聞こえてきてビックリだよ。)

 やっぱり、私の予想通りだ。

 突然、こんなことを頼んだ私も悪いけど、もう少し何とかならなかったのだろうか?


 それから、私は昨日、覆面に睡眠魔法をかけてもらったことと、その影響で体調が悪いことを話した。

(まあ、そんなわけで、体調が戻らなくて、今日はラーヴォルンに行くのを控えるように覆面に言われちゃったんだよ。

 ゴメンね、ミディアちゃん。)

(ウウン、私達のために、そんな無理をしてくれていたなんて知らなかったよ。

 ありがとう、琴音。)

(ミディアちゃん達を守るためだったら、これくらいお安い御用だよ。

 でも、ミディアちゃんと今日会えないのは、すごく寂しいよ。)

(私も、琴音と会えなくて、寂しいよ。)

(でも、体調を回復させて、明日は絶対にラーヴォルンに行くからね。

 それだけは絶対に約束するから。)

(ウン、明日、琴音と会えるのを楽しみにしているね。)

(それじゃ、ミディアちゃん、また明日。)

(ウン、今日はゆっくり休んで、明日、またラーヴォルンに来てね。)


 ミディアちゃんとは会えなかったけど、ミディアちゃんの声が聞けて、少し満足できた。

 きっと、あっちは大変なことになってると思うけど、ミディアちゃんは元気そうだったし、よかった。

 あと、色々と乱暴な通信ではあったけど、ミディアちゃんとつなげてくれた覆面にも感謝だ。

(覆面・・・ミディアちゃんと話をさせてくれてありがとう。)

 寝る前に、私は覆面に頭の中でお礼を言う。

 でも、覆面から何の返事もなかった。

 まあいいや。

 今日はいっぱい寝て、明日からまたラーヴォルンに行けるよう、体調を整えよう。

 寝るには少し早い時間だけど、布団の中に潜り込み、久しぶりに普通の睡眠をとることにした。


<<ミディア>>


「どうしたの、ミディア?」

 部屋に遊びに来ていたアイが、私に話しかけてくる。

 多分、突然、私がルティアを使いだしたから、驚いているんだろう。

「実は、さっき、琴音から連絡が入ってね。

 琴音、今日、ラーヴォルンに来られないみたいなんだ。」

 私は、琴音との会話を、アイにそのまま伝えた。

「そっか、今日は琴音来られないのか。」

 アイが少し残念そうにそう言う。

「でも、今日来ても、私に琴音の姿は見えなかったし、ちょうど良かったと前向きに考えることにしよう。」

 アイは明るい口調でそう言う。

 昨日、ヴィルトワさんは、大勢のメッサニアを倒したけど、そのためにかなりの魔力を消費してしまったらしい。

「魔力を回復するために、一旦、視力と聴力を返してもらうぞ。」

 ヴィルトワさんはそう言って、エレーネ先輩とアイに貸していた視力と聴力を取り戻していた。

 だから、今日は琴音が来ても、エレーネ先輩とアイには、琴音の姿が見えなかっただろう。

 もっとも、例え姿が見えなくても、アイは琴音に来てほしかったみたいだった。


 昨日の事件を受けて、学校は当分休校となった。

 そして、いつもは一緒にいるはずの、ラーファとエレーネ先輩が、今日はいない。

 エレーネ先輩は、リーブルガルトからの脱出で大怪我をしてしまい、入院することになってしまった。

 琴音が来たら、一緒にお見舞いに行こうとアイと話していたけど、今日は琴音もいない。

 そして、ラーファは、今朝早くに、ヴィルトワさんとどこかに出かけてしまっていない。

 アイは、ラーファのことが心配だったようで、朝早くに家に来てくれたんだけど、ラーファがいないと聞いて、がっかりしていた。

 つまり、今日は、私とアイの2人だけということになる。

「じゃあ、今からエレーネ先輩のお見舞いに行こっか?」

 アイにそう言うと、アイは元気なくウンと頷いた。


 ルーイエ・アスクのフロントは、大勢のお客様でごった返していた。

 お客様と言っても、元々宿泊していたお客様ではない。

 ラーヴォルンがリーヴァ王国軍によって隔離されたため、帰れない観光客を一時的に各宿泊施設に振り分けて預かることになったのだ。

 隔離期間中の宿泊費や物資等は、全て政府が支給してくれることになっているのだけど、そのために面倒な手続きを行わないといけないらしい。

 そのため、フロントには、ルーイエ・アスクで預かることになった観光客が、手続き待ちで溢れかえっていた。

 加えて、予約キャンセルの連絡も殺到していて、お父さんとお母さんは、忙しそうに走り回っていた。

 多分、今入っている予約は、全部キャンセルされることになるだろうとお母さんは言った。

 午前中は私も手伝っていたけど、いつもと違って、お客様が殺気だっているのを見て、お母さんが、今日は仕事をしなくていいと言ってくれた。

 きっと、私のことを心配してくれたんだろうけど、お母さんはこないだ過労で入院したばかりだし、少し不安だ。

 今日はフロントから、しょっちゅうお客様の怒鳴り声が聞こえてくる。

 本当は、みんな、早くラーヴォルンから出て行きたいのだろう。

 でも、ラーヴォルンは、リーヴァ王国軍によって完全に包囲されていているから、何人たりとも外に出ることはできない。

 理由は、行方不明者がまだ何人か見つかっていないことと、メッサニアの完全駆除のために、ラーヴォルンを徹底的に捜索するためだった。

 メッサニアを1人逃しただけで、街が滅びることもありえることを思えば、当然の措置だけど、隔離された観光客にとってはたまったものではなかった。

 みんな、メッサニアがまだラーヴォルンに潜んでいるかもしれないと怯えながら、隔離期間が終わるまでここで過ごさないといけないのだから。


 フロントにあるイデアフィールズでは、ずっとメッサニアの事件の報道ばかりが流れていた。

 ニュースによると、メッサニアによる被害者は3058人で、そのうち2452人が死亡したらしい。

 また、45人が今もなお行方不明らしい。

 昨日、リーブルガルトに何万人も観光客が押しかけていたことを考えれば、この被害者の数は思ったよりも少ない人数だった。

 これは、ヴィルトワさんやヤシュラムさん、そしてヤシュワントさんのおかげだろう。

 でも、そのことを喜ぶ人は、誰もいなかった。

 むしろ、ほとんどの人は、ニュースを聞いて戦慄していた。

 なぜなら、メッサーの被害で、2452人は死んだけど、残りの606人は死んでいないのだから。

 それはつまり、新しいメッサニアが606人誕生するという可能性があることを意味していた。

 昨日、襲撃してきたメッサニアの数は、およそ100人だったらしい。

 つまり、昨日の6倍以上のメッサニアが、新たに目覚める可能性があるということである。

 だが、生き残った606人が、その後どうなったのか、全く報道されていない。

 普通だったら、殺処分か隔離施設送りだけど、メッサニアが出現しなくなってから、隔離施設はどこも閉鎖されていたはず。

 もし、彼らがまだ殺処分されていないとしたら、ラーヴォルンのどこかで隔離されている可能性が高い。

 もちろん、王国軍が厳重に隔離していると思うけど、もし、王国軍の護衛がメッサニアに突破されたら・・・

 さらに、行方不明の45人が、もしメッサニアになっていたとしたら・・・

 ラーヴォルンにメッサニアがいるかもしれないという不安は、みんなに更なる恐怖を与えた。


「そういえば、昨日の女の子の両親、見つかったのかな?」

 アイが私に話しかけてくる。

 昨日、広場を探してみたけれど、結局、女の子の両親は見つからず、ヤシュラムさんに預けて、私達は家に帰ってきてしまった。

 女の子には悪いと思ったけど、私も、お父さんとお母さんに早く会いたかったから。

 ヤシュワントさんからお父さんとお母さんがメッサニアに襲われたと聞いた時は、心臓が止まりそうになったけど・・・

 でも、お父さんもお母さんも無事で、家で再会した時には、私もラーファも2人に抱きついて号泣してしまった。

 私の家族や知人に犠牲者が出なかったのは、不幸中の幸いだった。

 でも、ルーイエ・アスクの宿泊者には、何人か犠牲者が出てしまったらしい。

 特に、ルーイエ・アスクの常連さんが、何人か亡くなったらしくて、そのことを兵士から話を聞いたお父さんとお母さんは、相当ショックを受けていた。

「行こう、ミディア。

 多分、エレーネ先輩、待ってると思うよ。」

 アイが、私に話しかけてくる。

 ここで色々考えても暗くなっちゃうだけだ。

 アイの言う通り、とりあえずエレーネ先輩のお見舞いに行こう。


 エレーネ先輩の入院している病院に向かうため、アイと2人で外に出る。

 その瞬間、外の光景を見て、私もアイも言葉を失った。

 なぜなら、外に観光客が1人もいなかったからだ。

 外にいるのは、王国軍の人だけだった。

 普段は賑わう大通りに、観光客は1人もおらず、外から人の声は全く聞こえてこなかった。

「ミディアの家に来る時にも思ったことだけど・・・

 観光客のいないラーヴォルン・・・私も初めて見るよ。」

 アイがポツリとそう呟いた。

 ラーヴォルン育ちのアイにとっても、こんなラーヴォルンを見るのは初めてのことらしい。

 とその時、外にいた王国軍の1人が、私達の方にやって来るのが見えた。

「うわっ、また来た。」

 アイが嫌そうな顔で、小さな声でそう呟く。

「やあ君達、どこに出かけるのかな?」

 そして、私達に声をかけてきた。

 素直に病院にお見舞いに行くと話すと、一緒について行くと言い出した。

「もしかしたら、まだメッサニアが潜んでいるかもしれないからな。」

 兵士はそう言って、病院まで私達を護衛してくれることになった

 私達の身を守ってくれるのはありがたいんだけど、見知らぬ大人と一緒というのはかなり窮屈なもので、病院に到着するまでの間、私達はほとんど会話することなかった。


「2人とも、よくお見舞いにきてくれた。」

 病院に着いて、エレーネ先輩の部屋に入ると、エレーネ先輩が大歓迎してくれた。

 エレーネ先輩は、体中に包帯が巻かれてはいたけど、すっかり元気を取り戻していて、少し暇を持て余しているようだった。

 でも、私達が少し疲れた表情になっていることに気づいたようで、

「どうした、何かあったのか?」

 心配そうに、私達に声をかけてきた。


「ここに来るまでの間、ずっと兵士に付き添われて、少し居心地悪かっただけですよ。」

 アイが溜息をつきながらそう言った。

「へえ、そんなことがあったんだ。」

「ミディアの家に行く時も、兵士がルーイエ・アスクまでついてきたんですよ。

 私達のことを守ろうとしてくれてるのはわかるんだけど・・・なんか疲れる。」

 そっか、アイはルーイエ・アスクに来る時も、兵士と一緒だったんだ。

 だから、あの時、アイは嫌そうな顔してたんだ。

「多分、それ、お前達を守るためについてきたんじゃないと思うぞ。」

 エレーネ先輩がそう言う。

「どういうことですか?」

「多分、お前達がこの街から逃亡を図らないように、監視してたんだと思う。」

 エレーネ先輩の話に、私もアイも驚いた。

「そんなに驚くことないだろ。

 今回の騒動で、この街から早く出たいと思っている人達は、いっぱいいるだろうからな。

 でも、メッサニアが完全に全滅していることが確認できるまで、誰一人この街から出すわけにはいかない。

 だから、外を出歩いている人を、軍隊は監視してるんだよ。」

「そんな・・・」


 昨日まで、大勢の観光客で賑わっていたラーヴォルンが、たった一日で、まるで別の街になってしまったようだ。

「あまりにも退屈だったから、さっきまでずっとイデアフィールズを見てたんだけどさあ。

 今回の事件、もうアトゥア中に広まってて、他の国でもすごい大騒ぎになってる。

 なんせ、メッサニアの出現だからな。

 中には、ラーヴォルンにいる者を、今すぐに皆殺しにしろなんて過激な報道もあったぞ。」

「ヒドイ・・・」

「クソッ、どうしてメッサニアなんかがラーヴォルンに現れたんだ?

 アイツラさえ現れなければ・・・こんなことにならなかったのに・・・」

 エレーネ先輩が、拳を壁に叩きつける。

「エレーネ先輩、怪我してるんだから、安静にしないと・・・」

「安静になんて・・・してらんないよ。

 メッサニアが現われたラーヴォルンに、誰が観光に来るんだよ。」

 エレーネ先輩の言葉に、私もアイも言葉を失った。


 今回の事件は、観光都市であるラーヴォルンにとって、致命的な事件だった。

 軍隊の封鎖が解けたら、今いる観光客は帰って行き・・・そして二度とやってこないだろう。

 今回の事件をニュースで見たアトゥア中の人達も・・・ラーヴォルンに近づこうなんて思わなくなるだろう。

 メッサニアとは、それだけアトゥアの人達にとって、忌み嫌われ、恐れられている存在なのだ。

「ラーヴォルンは・・・もう終わりだ。」

 エレーネ先輩は項垂れるようにそう言った。

 さっきまで元気に振る舞っていたけど、今回の事件は、エレーネ先輩には相当堪えていたみたいだった。

 そして、それは、私とアイも同じだった。


 ラーヴォルンに観光客が来なくなったら、ルーイエ・アスクに泊まる人が誰もいなくなる。

 さっき、全ての予約がキャンセルされるって話を聞いたけど、今後、ルーイエ・アスクに予約が入ることなんてあるのだろうか?

 背筋にゾワッと寒いものが走るのを感じた。


<<ヤシュワント>>


 まさか、フリージアさんのお墓詣りに来て、こんな目に合うとは思わなかった。

 本物のメッサニアを見るのは、俺も初めてだった。

 何せ、俺が生まれる前に、ほとんどのメッサニアは駆除されていたから。

 昨日、大勢のメッサニアを殺した。

 あれは、人間の姿形はしているけど、もはや別の生き物だ。

 特に、あの狂気の目・・・

 俺は、過去にいくつかの戦場で武勲を立てたことがあるが、昨日ほど恐怖を覚えたことはなかった。


「隊長、大丈夫ですか?」


 隣にいたヤシュラムが、いつもの笑顔を浮かべてそう言う。

 ヤシュラムは若干18歳でありながら、対メッサニア殲滅部隊にもいたことのある戦士だ。

 多分、修羅場の数は、俺なんかよりもはるかに多いだろう。

 だから、メッサニアを倒す時も、表情一つ変えることはなかった。

 女性のように華奢なその体で、一体どれだけの地獄を潜り抜けてきたのだろうか?

 たまに、ヤシュラムが怖くなる時がある。


「ああ、大丈夫だ。」

 そう答えると、ヤシュラムは、これまでの調査を報告してきた。

「ラーヴォルンに出現したメッサニアの数は、現在判明しているだけで96人のようです。

 そのうち、南街にふらっと向かったのが1人いましたが、それ以外は全員、この北街で観光客に襲いかかったようです。」

「奴らは一体どこから現れたんだ?」

「さあ、目撃者の証言によると、突然、広場に姿を現したそうです。

 それも、一斉に。」

「まさか、魔法転移か!?」

「それしか考えられませんね。

 でも、これだけの数のメッサニア、転送する側も命がけですよ。」

 ヤシュラムの言う通りだ。

 一つ間違えると、魔法転移の術者がメッサニアに襲われかねない。


「対メッサニアの結界を貼ってから、魔法転移で送ったんじゃないか?」

 突然、誰かが話に割り込んできた。

 この声と気配は、よく知っているし、さっきから、近くにいたのは知っていた。

 関わりあいたくないから、ずっと無視していたのだが、まさか向こうから声をかけて来るとは思わなかった。

「久しぶりだな、ヤシュワント。」

 黒のローブを身にまとったそいつは、不敵な笑みを浮かべながら、こちらに近づいてきた。

 俺としては、できるだけ関わりたくないのだが、奴は話に参加する気満々のようだ。


「部外者は、話に割り込まないでくれるか?」

「そんな冷たいこと言うなよ。

 かつて、マーヴェラントで優勝争いした俺とお前の仲じゃないか。」

 そう言えば、そんなこともあったっけ。

 18歳以下の魔法学校の生徒が魔法戦闘能力を競い合う、学生魔導戦闘競技会(通称:マーヴェラント)

 その決勝戦で、俺と奴は戦ったことがあるんだった。

 そんな昔のこと、すっかり忘れてた。


「隊長、こちらの方とお知り合いですか?」

 ヤシュラムが、俺に訊ねてくるが、できれば答えたくない。

 そう思っていたら、


「俺の名前は、イルヴァ・ヘリオス・モンフェルン。

 偉大なる大魔導士さ。」

 勝手に自己紹介を始めやがった。

「ヴィルトワから、3階に結界を貼るのを失敗して、真っ先に逃げ出した魔導士がいるって話を聞いていたが、お前のことだったか。」

 ていうか、ヴィルトワも多分気づいていただろう。

 コイツの名前を出さなかったのは、多分、コイツと関わりたくなかったからだろう。

 できれば、俺もコイツとは関わりたくないのだが、奴はこちらの気持ちなどおかまいなしに話を続けようとする。

「結界を貼る前に、メッサニアの大群が3階に飛び込んで来たんだ。

 俺にはどうしようもなかったんだ。」

「だから、自分の周りだけに結界を貼って、事が終わるまでやり過ごしたんですね。わかりますよ。」

 ヤシュラムも、今の会話で大体コイツがどういう人物かわかったようだ。

 偉大なる大魔導士が聞いて呆れる。


「それはそうと、隊長。」

 ヤシュラムが話を戻して来た。

 それでいい。

 コイツはいないものとして、淡々と話を進めよう。

「まだ、メッサニアの死体全ての分析が終わっていないのですが、ここまで25体のメッサニアの分析が終了して、驚くべき結果がわかりました。

 全員、エヴィラルです。」

「なんだと!?」

 ヤシュラムの報告に、少なからず俺は衝撃を受けていた。

 メッサーの中でも、最強と言われているエヴィラルは、死亡率も非常に高い。

 そのため、エヴィラルのメッサニアは、他のメッサニアと比べて、圧倒的に数が少ないと言われている。

「エヴィラルが25体も・・・

 この調子だと、今回襲撃したメッサニアは、全てエヴィラルの可能性もある。

 だとしたら、これは・・・」

「相当、大きな組織による計画的な攻撃の可能性が、非常に高いですね。」

 ヤシュラムも同じ結論のようだった。

 一体、誰が何のために、ラーヴォルンを攻撃した?

 しかも、攻撃手段にメッサニアを選んだのは、なぜだ?

 魔力波動の件で、我が国はヴェルク帝国とガルティア帝国から、ずっと情報開示を求められてきた。

 まさか、これはどちらかの国による攻撃なのか?

 だが、昨日はイデアグラルがあって、両国の観光客も大勢、このラーヴォルンに来ていた。

 さすがに、自国の国民を巻き添えにするようなことは、2大帝国もしないだろう。

 そう思いたいのだが、同時にあの国ならやりかねないとも思ってしまう。

 特に、最近のヴェルク帝国の動きを見ていると・・・


「これは、何者かによる攻撃だな。

 お前ら、王国軍なんだから、さっさと捕まえてくれよ。」

 イルヴァが偉そうに、俺達にそう言って来た。

 その口調についイラッと来て、睨み返すと、イルヴァは怯えた表情を浮かべる。

「な、なんだよ・・・やる気か?

 あの時と違って、今の俺はかなり強いぞ。」

 口ではそう言っているけど、姿勢は半分逃げる態勢に入っていた。

「やれやれ、貴様は昔と全然変わってないな。」

 相変わらず、自信過剰のくせに、臆病者で卑怯者のようだ。

 だが、そんな小物相手にイラッと来てしまった自分も、まだまだだな。


「まあ、そっちは調査が終わるまで待つとして・・・ヴィルトワがどこに行ったか知ってるか?」

「ミディアさんの話だと、今日は、朝からラーファさんとどこかに出かけたそうです。」

「そうか、ならば、夕方ぐらいにヴィルトワの家を訪れてみるとするか。」

 今回、ラーヴォルンに来たのは、お墓詣り以外にも、ヴィルトワの連行という目的があった。

 イルキスからの連絡が途絶えて10日。

 捕まったか、死んでしまったのではないかと、ずっと不安に思っていた。

 だから、エレーネからの連絡で、アイツが無事だと聞いた時は、本当に嬉しかった。

 だが、その後、イルキスでの調査報告のために、モンフェルンに来るようにと何度も催促したが、一向にモンフェルンに来る気配がない。

 ついには、ウィルト王子が激怒して、今回、ヴィルトワを連行するようにと、俺に命じたのだ。

 というわけで、俺はヴィルトワを連れて、モンフェルンに戻らないといけない。

 だが、エレーネが大怪我したこともあるし、2、3日ぐらいは大目に見てやるかな。

 それくらいだったら、きっとウィルト王子も大目に見てくれるだろう。

 それに・・・気になることもあるしな。


(用語集)

(1)メッサーとメッサニア

メッサーとは大量のマーシャントを圧縮した暗黒の魔法弾を魂に打ち付ける魔法で、禁呪指定されている魔法

死亡率が6割以上もあるが、生き残ると至高の快楽が得られると言われている

メッサーと呼ばれる魔法は多く存在し、中でもエヴィラルと呼ばれる魔法は、メッサーの中でも最高の快楽を得られる魔法として有名である

メッサーの至高の快楽に取りつかれた人達のことをメッサニアと呼んでいる

メッサニアになると、自分が撃たれたメッサーを自動的に習得する

メッサーは、他人から撃ってもらわないと快楽を得られないため、まず人間にメッサーを撃ち、メッサニアにしようとする。

一時期、メッサニアの存在はアトゥアを恐怖に陥れたが、アトゥア中の国々が団結して撲滅運動を行なってきたため、メッサーとメッサニアの恐怖は以前よりは小さくなった。

しかし、今でも相当数のメッサーとメッサニアが潜んでいると言われている。


(2)ルティア

意識間での意思伝達を行なう魔法。

意識は魂が体に憑依した時にできるものなので、魂から直接使うことも可能である。

本来はテレパシーだけの魔法だけだったが、最近では拡張されて仮想の魔法世界に意識を転送する魔法としても使われる。

魔法世界は個々の街や国単位で持っており、ラーヴォルンの場合はラヴォルティアという魔法世界が存在する。


(3)イデアフィールズ

放送電波を受信して、映像や音声に変換する機械

また、映像イデアを再生したり、放送を映像イデアに記録することもできる

地球におけるテレビやビデオに相当する。


(4)イデアグラル

毎年秋にリーブルガルトで開催される最大のイデアイベント

イデアに関する作品であれば、魔導士・空想士といったプロから、学生や一般人まで、誰もがイデア作品を出展できる

近年は応募者が多いため、厳正な審査で出展者が決められている


(5)リーブルガルト

ラーヴォルン北街の中央にあるイベント施設

様々なイベントで使用されることが多く、最近ではハ―メルトンのコンサートでも使用された。

アトゥア最大のイデアトゥア施設を備えているため、イデアに関するイベントや学術研究等でもよく使用される。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ