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黄昏のラーヴォルン  作者: レトリックスター
第3章 秋暁のラーヴォルン
100/254

54.メッサニアの襲撃

<<ラヴィ>>


「今日は少し暑いわね。」

 最近は秋も深まって、ラーヴォルンも涼しい日が多かったのだが、今日は久しぶりに暖かい日になった。

 しかも、この時期にしては珍しく、雲一つない快晴だった。

「今日は、絶好のお墓参り日和だな。」

 夫が笑いながらそう言う。

 まあ、絶好のお参り日和かどうかは置いといて、今日の天気は私達の気持ちと見事にシンクロしていた。

 ついに、ミディアが私達の家族になってくれた。

 私と夫が待ち望んでいた日が、ついに来てくれた。

 ミディアが私達のことをお父さんお母さんって呼んでくれた時、本当に嬉しくて涙が止まらなかった。

 ミディアの話だと、夢の中にお母さんが出てきて、家族になるように促してくれたらしい。

 にわかには信じがたい話だけど、私はミディアの話を信じたい。

 だって、それって、ミディアのお母さんが私達を認めてくれたってことになるのだから、こんなに嬉しいことはない。

 今日は、しっかりとミディアのご両親に挨拶しないとね。


 墓地は、何人かがお墓参りに来ていた。

「おい、あそこを見ろ。」

 夫がそう言って指さした方を見ると、この間亡くなったフリージアさんのお墓の前で一心不乱にお祈りしている大男がいた。

「随分大きな人ね。

 フリージアさんとはどういう知り合いだったのだろう?」

「生前、フリージアさんはラーヴォルンの外でも色々商売をやってたらしいから、そこで知り合った人じゃないか。」

 フリージアさんとの知り合いだったら、ぜひ会って話でもしてみたかったけど、今は一心不乱にお祈りしているから、声をかけない方がいいだろう。

 でも、私達のお参りが終わってから、まだ残っているようだったら、少し声をかけてみようかな。


 ミディアのご両親のお墓は、きれいに掃除がされていた。

 多分、昨日、ミディアが掃除してくれたのだろう。

 私達は、お墓の前にしゃがんで、ミディアのご両親に挨拶した。


(ミディアを私達に託してくれて、ありがとうございます。

 あなた達の期待を裏切らないよう、精一杯頑張って、ミディアを育てます。

 だから、安心して見守ってくださいね。)

 私は、ミディアのお母さんに感謝の気持ちを伝えるために、いつもよりかなり長く、お祈りをしていたと思う。

 でも、私が頭を上げると、夫はまだお祈りしていた。

 いつもは私より先にお祈りをすませて、私が終わるのを待っているのに、珍しい。

 でも、その気持ちはよくわかる。

 ミディアが娘になってくれて、夫もすごい嬉しかったんだろう。


 ミディアのご両親のお参りが終わって、フリージアさんのお墓の方を見ると、さっきの大男はいなくなっていた。

「帰っちゃったみたいね。」

 少し残念に思いながら、家に帰ろうとしたその時だった。


「オイ、あれは何だ?」

 夫が空を指さす。

 空を見ると、誰かが空を飛んでいた。

「ラーヴォルンでは、飛空魔法は使用禁止だって知らないのか?」

 夫が空を見上げながら、そう呟く。

「こないだルフィル・カロッサで、みんなが飛び回っている映像がバンバン流れてたから、勘違いしてるのかもしれないわね。」

「こっちに向かってきているな。

 ちょうどいい、ここに近づいてきたら、飛空魔法禁止だって説教してやる。」

 夫は力強くそう言って、上空に向かって、

「おーい、そこの空飛んでる奴、ちょっとこっちに降りてこい。」

 思い切り叫んだ。

 ミディアが家族になってくれて、相当テンションが高いのはわかるけど、さすがにそれはやりすぎだ。

「ちょっと、怖い人だったらどうするのよ。

 とりあえず憲兵隊に連絡して、憲兵隊から注意してもらいましょう。」

 私がそう言うと、夫も少し冷静さを取り戻したようで、

「そ、そうだな。それがいい。」

 伐が悪そうにそう言った。


 突然、上空を飛んでいた人が、まっすぐこっちに向かってくるのが見えた。

 まさか、夫の怒鳴り声が、あんな上空まで聞こえたとは思えない。

 けど、あまりにもタイミングが合ってたので、

「きっと、あなたの大声が聞こえたのよ。」

 夫に向かって、冗談っぽくそう言うと、夫の表情が不安そうな表情に変わる

「そんなに怒鳴ってたか?」

「私がちゃんと事情を話すから、あなたはおとなしくしていて。」

「わ、わかった。」

 夫は、こう見えて、すごい気の小さい人だ。

 それなのに、たまに調子に乗っちゃって、昔から痛い目に結構合ってたんだけど、いくつになっても学習しないなあ。

 でも、夫のそういうところ、実は結構かわいくて気にいっているんだけどね。


 上空の人は、どんどん降下して、こちらに近づいてくる。

 それに従って、上空に飛んでいた人の顔も見えてくるようになった。

 上空の人は、まっすぐにこちらを見ていた。

 何とも言えない不気味な表情を浮かべながら・・・

 さっきまで冗談を言ってたけど、さすがにこれはヤバいかも思うようになった。

「あなた・・・」

「ああ、なんかヤバいな。」

「逃げた方がいいわよ。」

 私達は、怖くなって、その場から駆け出す。

 だが、私達が走り出すのを見て、上空の男は私達の方に向けて落下の向きを変える。

 もう疑う余地はなかった。

 上空の人は、明らかに私達を狙っている。

 さっきまではっきりと見えなかったけど、不気味な笑みを浮かべていた。

 その表情を見た瞬間、背筋に寒いものが走る。

 どう考えても、あの人は普通じゃない。

 私も夫も、直感的に命の危険を感じた。


 突然、上空の男が向きを変えた。

 もしかして、諦めてくれたのかと、少しホッとする。

 でも、上空の男の進む方向を見た瞬間、私も夫も凍りついた。

 進路を変えた先には、お墓参りに来ていた女の人がいたからだ。

「おーい、早くそこから逃げろ!!!」

「早く逃げて!!!」

 私と夫は上空に指を指しながら、女性に向かって大声で叫んだ。

 しばらくすると、女性は何事かと私の方を見てから、私の指さした方に視線を移す。

 そして、ようやく上空から男が迫っていることに気づく。

 でも、その時には、男はもう目の前まで迫っていた。

 女性は、真っ青になって逃げようとするけど、上空の男は暗黒の弾を手から放つ。

 暗黒の弾は、女性に直撃すると、女性はその場に崩れ落ちてしまった。

 その光景を、私と夫は呆然と見つめていた。

 本当だったら、女性の元に駆け寄って、救助を呼ばないといけない。

 でも、私も夫も、女性の元に駆け寄る勇気はなかった。


「あの暗黒の弾は・・・ま、まさか・・・」

 私も夫も、上空の男が放った暗黒の弾に戦慄していた。

 世の中にたくさんの暗黒魔法というものがあることは知っている。

 でも、その中でも、あの魔法の特徴は、学校で何度も教えられて来たから、よく知っている。

 間違いない。

 あの暗黒の弾は、メッサー以外に考えられない。

 だとしたら・・・あの男は、メッサニアだ。

 大変だ、早く逃げないと。

 私と夫は、慌ててそこから逃げ出す。

 でも、男は私達に気づくと、すごいスピードでこっちに向かってきた。

 私と夫は、男から逃げるために必死で走った。

 でも、私も夫も運動神経はあまりよくなく、足も速くなかったので、どんどん差を詰められてしまった。


「ここは、私が何とかするから、お前だけでも逃げろ。」

 夫は、このまま走っても、逃げ切れないと思ったのだろう。

 自分が囮になって、私を逃がそうと考えてるに違いない。

 でも、そんなことをしたら、夫は死んでしまう。

 仮に、生き残ったとしても、メッサニアになってしまう。

「ダメよ、そんなの絶対にダメ。」

 私は夫を止めようとしたけど、夫は私の手を払いのけると、別方向に走って行ってしまった。

 夫が別の方向に走って行くのを見て、メッサニアは、夫を追いかけて走っていく。

 どうしよう?

 このままだと、夫は・・・

 とりあえず憲兵隊に連絡しないと・・・

 憲兵隊がメッサニアを倒せるかわからないけど、今は憲兵隊に頼るしかない。

 憲兵隊が到着するまで、頑張ってなんとか逃げ延びていて。

 私は、祈るように憲兵隊に連絡を入れた。


<<琴音>>


「きゃあああああああ!!!」「うわああああ!!!」

 あちこちで悲鳴が聞こえてくる。

 さっきまで、アイちゃんの人形劇を楽しみにしていた人達が、今は必死に逃げ回っていた。

 私は、目の前で起きていることが受け入れられずに、目の前の光景を呆然と見つめていた。

 一体、何が起こってるというの?

 みんなを襲っているメッサニアって、一体何者なんだろう?

 ウウン、メッサニアが何者かわからなくても、ヤバい奴ってことは一目でわかる。

 襲われた人達は、みんな死んじゃったんだろうか?

 こんな場所にいて、ミディアちゃん達は大丈夫なんだろうか?

 ミディアちゃん達の顔が頭に浮かんできて、私の意識は一気に現実へと引き戻される。

 こんなところにいて・・・大丈夫なわけがない。

 ミディアちゃん達が危ない。

 早く、ミディアちゃん達と一緒に、どこか安全な所に逃げないと・・・

 ミディアちゃん達の方を見ると、ミディアちゃん達も、目の前の光景に呆然と立ちすくんでいた。


「早く逃げよう、ミディアちゃん。」

 大声で、ミディアちゃんに話しかける。

 でも、ミディアちゃんは恐怖で固まってしまったようで、私の声が届いていないようだった。

 ダメだ、早くしないと・・・

 私は、スーッと大きく息を吸ってから、ミディアちゃんの耳元に顔を近づけて、


「ミディアちゃん!!!」


 ありったけの大声で叫ぶと、ミディアちゃんはようやく我に返った。

「琴音・・・」

「早く、逃げないと・・・ラーファちゃんも、アイちゃんも。」

「ウ、ウン・・・そうだね。」

 ミディアちゃんは頷くと、同じく呆然となっているラーファちゃんとアイちゃんに声をかける。

 アイちゃんは、ミディアちゃんの呼びかけにすぐ反応した。

 でも、ラーファちゃんは、苦しそうに胸に手を当てる。

 もしかして、逃げ惑う人達とぶつかって、どこか体を痛めたのかな?

「どうしたのラーファちゃん?

 どこか痛めたの?」

 心配になって、ラーファちゃんに声をかけるけど、ラーファちゃんの反応がない。

「逃げよう、ラーファ。」

 ミディアちゃんが、ラーファちゃんの手を掴んでから、辺りを見渡す。

「エレーネ先輩は?」

 ミディアちゃんが、私とアイちゃんに聞いてくる。

 そう言えば、エレーネちゃんの姿がどこにもない。

 さっき、窓際の方に歩いて行ったようだけど、無事に逃げられたのだろうか?

 エレーネちゃんのことは、すごい心配だけど、今エレーネちゃんを探しに行くのはあまりにも危険だ。

 今は、早くここから逃げないと・・・

「エレーネ先輩、無事でいてください。」

 ミディアちゃんはエレーネちゃんの無事を祈りながら、ラーファちゃんの手を引いて走り出した。

 私とアイちゃんは、ミディアちゃんの後をついていく。


 ミディアちゃんは、最初1階に下りて、リーブルガルトの外に出ようとしたみたいだった。

 でも、階段に着くと、1階から大勢の人が逃げてくるのが見えた。

 どうやら、1階にもメッサニアが入り込んでしまったらしい。

 だとしたら、私達は、完全に退路を断たれたことになる。

「どこに逃げたらいいんだろう?」

 走りながら、ミディアちゃんはずっと考えていた。

 でも、どこに逃げたらいいのか、ミディアちゃんもわからないようだった。

 こう言う時こそ、私の体が役に立つはずなのに、何も思いつかない。

 リーブルガルトの中はすごい広くて、アイちゃんのブースに来るルート以外に何があるかなんて、全く知らなかった。

 無造作に飛び回って探しても、時間がかかってしまうだろう。

 それに、私のいない間に、もしミディアちゃん達の身に何かあったらと思うと、怖くてミディアちゃん達の傍を離れられなかった。

 このまま私は、何もできないのだろうか?

 その時だった。


「こっちだ、アイ!!!」

 突然、男の人の大きな声が聞こえてくる。

「お父さん!!!」

 その声に、アイちゃんが反応する。

 あの人は、アイちゃんのお父さんだ。

 そして、アイちゃんのお父さんの横には、エレーネちゃんもいた。

 よかった、エレーネちゃん、無事だったんだ。


「エレーネ先輩・・・無事でよかった。」

 ミディアちゃんも、エレーネちゃんの無事を喜んでいた。

「まだ無事とは限らないけどな。

 それより、3階にすごい魔導師がいるらしくて、3階に結界を張る準備をしているらしいんだ。

 だから、とりあえず3階まで逃げるぞ。」

「わかりました。」


 アイちゃんのお父さんは、3階の特別区画で、ホラーイデア作品を展示していたらしい。

 でも、メッサニアが出現したと聞いて、アイちゃんを探しに、慌てて2階に降りてきたらしい。

 そして、その途中で、エレーネちゃんを見つけたらしい。

「魔導師が対メッサニアの結界を張る前に、メッサニアが入り込んでいないといいんだけど・・・」

 とその時、3階から大勢の人が逃げてくるのが見えた。

 その逃げてくる先頭の人物を見て、アイちゃんのお父さんは絶句していた。

「あれは・・・魔導師じゃないか?

 まさか・・・間に合わなかったのか?」

 結界を張るには、相当時間がかかるらしく、どうやら結界を張る前にメッサニアが3階に侵入してしまったようだ。

「お父さん、私達、どこに逃げたらいいの?」

 アイちゃんがお父さんに訊ねる。

 でも、アイちゃんのお父さんも、どうしたらいいのかわからない様子だった。

 とはいえ、このままここに留まってるのも危険だ。

 早く、何とかしないと・・・


「兄貴、今、どこにいるんだ?」

 突然、エレーネちゃんがつぶやき始める。

「ヴィルトワさんからですか?」

 ミディアちゃんが訊ねると、エレーネちゃんは小さく頷く。

 どうやら、ルティアという魔法を使って、ヴィルトワさんと会話しているらしい。

「わかった。」

 エレーネちゃんは何やら頷くと、私に話しかけてきた。

「琴音、リーブルガルトの外に出て、兄貴をここまで連れてきて。」

「ヴィルトワさんを?」

「兄貴、この近くに来ているらしいんだけど、私達がリーブルガルトのどの辺にいるのかわからないんだって。

 多分、琴音が外に出たら、兄貴がすぐに見つけてくれるはずだ。

 だから、琴音、兄貴をここまで連れてきて。」

「ウン、わかった。」

 ようやく、私がみんなの役に立てる時が来た。

 ヴィルトワさんを連れてきて、みんなを助けてみせるからね。

 エレーネちゃんの頼みに力強く頷いて、外に向かって飛び出そうとしたその時だった。


 突然、私の体が光り出す。

「えっ、ウソ!?」

 そんな・・・こんなタイミングで眼を覚ますなんて・・・

 もしかして、あまりの恐怖に、目が覚めちゃったのだろうか?

「琴音・・・」

 ミディアちゃん達は、私の体が光るのを見て、言葉を失っていた。

 ダメだ、今、私が目を覚ましていなくなっちゃったら、ヴィルトワさんを連れてくる人が誰もいなくなる。

 そうなったら、ミディアちゃん達は・・・

 イヤだ・・・それだけは絶対に嫌だ。


(覆面、魔法でも何でも使っていいから、もう少しだけ私を眠らせて。)

 私は、頭の中で覆面に祈るように頼んでいた。

 覆面、お願いだから、私の頼みを聞いて。

 私は、何度も何度も覆面に強く願った。

 すると、しばらくして、覆面の声が聞こえてくる。

(本当にいいのか?

 魔法のない世界に住んでいるお前には、魔法耐性がまったくない。

 もちろん、魔法耐性がなくても問題ない魔法もあるが、肉体の状態を変化させるような魔法は、魔法耐性のない人間には非常に危険だ。

 この手の魔法を、何の準備もしないでかけたりしたら、色々後遺症が出る可能性がある。)

(何それ・・・後遺症って?)

(睡眠魔法は大した魔法ではないが、それでも、お前の場合だと、吐き気や激しい頭痛に襲われる可能性がある。

 場合によっては、意識障害が起こる可能性もある。

 それでもやるか?)

 覆面は、改めて私に尋ねてくる。

 でも、私に迷いはなかった。

(いいから、さっさとやって!!!)

 私がそう言うと、覆面は溜息を一つついた。

(わかった。)

 覆面は納得してくれたものの、あまりやりたくはないようだ。

 そりゃあ、私だって、頭痛や吐き気なんて味わいたくない。

 意識障害になったらと思うと、すごい怖くなる。

 でも、それよりも、ミディアちゃん達が死んじゃうことの方が、ずっとずっと怖い。

 それだけは、絶対に絶対に嫌だ。


 しばらくすると、私の体の光が徐々に収まっていく。

 どうやら、覆面が私を眠らせてくれたみたいだ。

 これで、ヴィルトワさんを連れて来ることができる。

「琴音・・・これは?」

 ミディアちゃんは、体の光が収まるのを見て驚いていた。

 こんなこと、今まで一度もなかったからね。

 でも、今は説明は後だ。

「じゃあ、ヴィルトワさんを連れてくるね。」

「お願い、琴音。」

 私はエレーネちゃんに向かって力強く頷くと、リーブルガルトの外に向かって突き進む。

 私、すぐにヴィルトワさんを見つけて、みんなの元に戻るから・・・

 だから、みんな、それまで絶対に無事にいてね。

 死んだりなんかしたら、絶対に嫌だからね。


<<ミディア>>


 琴音がヴィルトワさんを連れてくるまで間、私達はアイのブースの近くにある倉庫に立てこもることにした。

 幸いにも、その部屋の扉は鋼鉄製ですごい頑丈で、しかも窓もないので、外から侵入される心配もなかった。

 私は、ラーファの手を引っ張りながら、走ってその部屋に逃げ込んだ。

 そして、扉を閉めようとした時、すぐ近くで小さな金髪の女の子が泣いているのが見えた。

「あの子・・・もしかして、両親とはぐれちゃったのかな?」

「ミディア、早く扉を閉めて。」

 エレーネ先輩はそう言ったけど、その前に私は外に飛び出して、その子の元に向かっていた。

 私は泣いているその子の側に駆け寄る。

「大丈夫?」

 すると、その子は私に向かって何か話し始める。

 でも、この子が何を話しているのか、さっぱりわからなかった。

 この言葉は、多分ヴェルク語だ。

 ってことは、この子はヴェルク帝国からの観光客なんだろう。

 その子は、部屋とは反対側に進もうとする。

 でも、その方角から、メッサニアがこっちに向かってくるのが見えた。

「あの部屋に逃げよう。」

 私は、そう言って女の子の手を引っ張るけど、女の子は反対の方に行こうとするから、なかなかそこから逃げられない。

 どうしよう?

 突然、背後からすーっと手が現れて、思わずドキッとなる。

 慌てて背後を振り向くと、そこにはエレーネ先輩がいた。

「早く!!!」

 エレーネ先輩は、強引に女の子を抱きかかえて、部屋の方に走り出す。

 私も、エレーネ先輩の後についていく。

 背後を見ると、メッサニアがすごい形相で、こちらを睨んでいた。

 その表情を見て、全身に寒気が走る。

 人の表情を見て、こんなにも恐ろしいと思ったことは、今まで一度もない。

 いや、あれはもうメッサニアだ。

 人間じゃない。

 とにかく、今は逃げないと。

 私達は、間一髪で部屋に逃げ込むと、扉を閉めて中から鍵をかけた。


 間一髪、部屋に逃げ込むことができたけど、外から扉をガンガン叩くすごい音が聞こえてくる。

 倉庫の扉は鋼鉄製なので、叩く音が余計に響き渡り、それがみんなの恐怖を増幅させていた。

 扉を叩く音が響き渡るたびに、全員の体がビクッと震えていた。

 特に、エレーネ先輩が助け出した少女は、今にも泣きそうな表情を浮かべながら、真っ青になって震えていた。

「大丈夫、ここの扉は頑丈だから、そう簡単には破られないよ。」

 私は女の子が不安にならないように声をかけたけど、言葉が通じないからか、女の子はずっと怯えたままだった。

「見たところ、まだ7〜8歳ってところだな。

 この混乱で、親と逸れてしまったようだな。」

 アイのお父さんがそう言った。

 この子の両親が無事だといいんだけど・・・

 その時、頭の中にお父さんとお母さんのことが思い浮かぶ。

 お父さんとお母さんは無事だろうか?

 もし、北街だけでなく、南街にも出現していたとしたら・・・

 最悪の予感が頭をよぎる。

 急にお父さんとお母さんに会いたくなった。

 せっかく、家族ができたのに、またいなくなるなんて絶対に嫌だ。

 お父さん、お母さん・・・お願いだから無事でいて。

 私は、頭の中で2人の無事を強く願った。


 ズドーン!!!


 突然、凄まじい爆発が起こる。

 私達は、その凄まじい爆風で吹き飛ばされて、体を壁に打ちつけてしまった。

「一体、何が!?」

 エレーネ先輩が体を起こしながら、爆発のあった扉の方を見る。

 とその時、煙の中から、メッサニアが姿を現わす。

「まさか・・・メッサニアが爆発魔法を使って、扉を破ったのか!?」

 メッサニアは、メッサーの快楽に囚われて、正気を失った人達だが、別にメッサー以外の魔法が使えなくなったわけではない。

 でも、この部屋の鋼鉄製の扉を吹き飛ばすほどの爆発魔法を使えるとは思わなかった。

 しかも、部屋の中にいる私達が死なないように、加減を加えているようだった。

 メッサニアは飛び込んでくると、近くに倒れていたエレーネ先輩の体を上から押さえつける。

「放せ!!!」

 エレーネ先輩は、必死に抵抗するけど、メッサニアにはビクともしない。

 とその時、メッサニアが大きく口を開く。

 そして、口の中で、暗黒の弾が大きくなっているのが見えた。

「まさか、口からメッサーを撃つつもりか!?」

 アイのお父さんは驚いていた。

 このままだとエレーネ先輩が、メッサーにやられてしまう。

 早く、エレーネ先輩を助けないと・・・


 近くに、鉄パイプが転がっているのが見えた。

 こうなったら、これで、メッサニアを倒すしかない。

 華奢な私の力でどこまでやれるかわからないけど、やるしかない。

 鉄パイプを手に取り、エレーネ先輩を押さえつけているメッサニアに近づく。

 でも、3歩ほど近づいたところで、煙の中から、別の体の大きいメッサニアがゆっくりと姿を現すのが見えて、私は絶句した。

 メッサニアは、私達の姿に気づくと、こちらに向かって突進してきた。

 こんなところで死ぬわけにはいけない。

 そう思い、必死に自分を奮い立たせようとした。

 でも、大柄のメッサニアの狂気の表情が、目の前に迫ってきた瞬間、そんな私のちっぽけな勇気は、一瞬で粉々に破壊されてしまった。

 こうなってしまっては、せっかくの鉄パイプも何の役にたたなかった。

 私は武器であるはずの鉄パイプを握りしめたまま、目の前のメッサニアに、ただただ震えていた。


 もうダメだ。

 せっかく、新しい家族ができて、幸せに過ごせると思ったのに・・・

 まさか、こんな結末になるなんて、思っていなかった。

 ゴメンね、お母さん・・・私、約束守れそうにない。

 目の前に迫ってくるメッサニアに、私はただただ絶望していた。


(用語集)


(1)ルフィル・カロッサ

ラーヴォルンで開かれるルフィルの4大祭りの一つで、もっとも規模の大きなお祭り。

毎年秋に開催される。


(2)メッサーとメッサニア

メッサーとは大量のマーシャントを圧縮した暗黒の魔法弾を魂に打ち付ける魔法で、禁呪指定されている魔法

死亡率が6割以上もあるが、生き残ると至高の快楽が得られると言われている

メッサーと呼ばれる魔法は多く存在し、中でもエヴィラルと呼ばれる魔法は、メッサーの中でも最高の快楽を得られる魔法として有名である

メッサーの至高の快楽に取りつかれた人達のことをメッサニアと呼んでいる

メッサニアになると、自分が撃たれたメッサーを自動的に習得する

メッサーは、他人から撃ってもらわないと快楽を得られないため、まず人間にメッサーを撃ち、メッサニアにしようとする。

一時期、メッサニアの存在はアトゥアを恐怖に陥れたが、アトゥア中の国々が団結して撲滅運動を行なってきたため、メッサーとメッサニアの恐怖は以前よりは小さくなった。

しかし、今でも相当数のメッサーとメッサニアが潜んでいると言われている。



(3)リーブルガルト

ラーヴォルン北街の中央にあるイベント施設

様々なイベントで使用されることが多く、最近ではハ―メルトンのコンサートでも使用された。

アトゥア最大のイデアトゥア施設を備えているため、イデアに関するイベントや学術研究等でもよく使用される。


(4)イデアグラル

毎年秋にリーブルガルトで開催される最大のイデアイベント

イデアに関する作品であれば、魔導士・空想士といったプロから、学生や一般人まで、誰もがイデア作品を出展できる

近年は応募者が多いため、厳正な審査で出展者が決められている


(5)ルティア

意識間での意思伝達を行なう魔法。

意識は魂が体に憑依した時にできるものなので、魂から直接使うことも可能である。

本来はテレパシーだけの魔法だけだったが、最近では拡張されて仮想の魔法世界に意識を転送する魔法としても使われる。

仮想の魔法世界は個々の街や国単位で持っており、ラーヴォルンの場合はラヴォルティアという魔法世界が存在する。


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