1.ルフィル・コスタに現れた黒髪の美しい少女
最初の数話は早いペースで登校しますが、基本的には週一ぐらいのペースで更新する予定です。
誤字や文章のおかしなところは、都度修正していく予定です。
よろしくお願いします。
<<ミディア>>
私の目の前には、美しい宇宙が広がっていた。
厳密に言うと、私の乗っている宇宙船の前と言うべきだろう。
まあ、前も後ろも上も下も宇宙なんだけどね。
私は、宇宙船から星々の輝く光景を見るのが大好きだった。
そうやって外を見ていると、いつもお母さんが声をかけてくる。
「ミディアは本当に宇宙が好きなんだね。」
お母さんはそう言うと、私の頭をいつも優しくなでてくれた。
それで、私はいつも満面の笑みでウンと頷くんだ。
でも、どうしてだろう?
優しく頭を撫でてくれるお母さんの顔がどうしても思い出せない。
それで、私は気づく。
ああ、これは夢なんだってことに。
宇宙船の中にいる時点で、夢だと気づいてもいいものだけど。
いつもお母さんのことばかりに気を取られてしまい、自分の置かれている状況がおかしいと気づくのに、いつも時間がかかってしまう。
でも、これが夢だと気づいてしまったら、目覚めるのはもう時間の問題だった。
気がつくと、見慣れたベッドの中にいた。
「やっぱり夢かあ。」
ため息をつきながら涙をぬぐう。
この夢を見た時は、いつも朝起きた時には涙を流していた。
お母さんに会いたい。
多分、あれが私の本当のお母さんなんだろう。
でも、自分の親の顔も思い出せないなんて、私はどれだけ薄情な人間なんだろうか?
この夢を見た日は、このままずっと眠っていたい気分になる。
もう一度眠ったら、またお母さんに会えるだろうか?
今度こそ、お母さんの顔を思い出せるだろうか?
いつも、そんな思いにかられてしまうからだ。
でも、残念ながら、今日はゆっくりしていられない。
なぜなら、今日はお祭りがあるから、とっても忙しいのだ。
「ふわぁ~」
大きなあくびをしながら体を起こすと、扉をノックする音が聞こえてくる。
「ミディア、起きてる?」
「起きてるよ、ラーファ。」
扉に向かってそう返事すると、ラーファは安心したのか、そのまま1階に降りていった。
ラーファはこの家の娘で、私より一つ年上の女の子。
ちょっと変なところもあるけれど、いつも私のことを気にかけてくれている姉みたいな存在だ。
目を覚ますために、両手でほっぺをペチンと叩く。
そう、のんびりなんてしていられない。
今日は本当に忙しいのだ。
素早く着替えると、すぐに1階に降りる。
食卓にはラーファとラーファのお父さんのレームさんとお母さんのラヴィさんが既に座っていた。
どうやら少し寝坊してしまったみたいだ。
「レームおじさん、ラヴィおばさん、ゴメンなさい。」
2人に謝って、すばやく席につく。
「あらあら、そんなに慌てなくてもいいのに。」
ラヴィおばさんが私の席に朝食を持ってくる。
「ミディアは昨日夜遅くまで頑張ってたんだし、もう少しゆっくりしててもよかったんだぞ。」
レームおじさんも私にそう言ってくれた。
2人の好意は非常にうれしかったけど、いつまでも甘えているわけにはいけません。
だって、私は、この家の本当の子供ではないのだから。
3年前、私は両親とこのラーヴォルンに観光に来ていて、その帰りに交通事故で両親が死んでしまったらしい。
らしいと言うのは、その時の記憶が私には残っていないからだ。
私が覚えていたのは、自分の名前だけだった。
その事故の時、たまたま近くに居合わせていたのが、ラーファの両親だったらしい。
両親を失い、記憶も失い、途方に暮れていた私を見かねて、ラーファのご両親は私を引き取ってくれた。
私を家に住まわせてくれて、学校にも通わせてくれている。
だから、私にできることは何でも手伝いたいと思っている。
「ぐっすり眠れたし大丈夫だよ。
それに今日はルフィル・コスタの日なんだから、私頑張るよ。」
私が力強くそう言うと、おじさんもおばさんも笑ってくれた。
ちょうど、イデアフィールズでも、ルフィル・コスタの話題を伝えていた。
『本日はルフィル・コスタの日とあって、ここラーヴォルンは朝から多くの観光客で賑わっています。
ヴェルク帝国とガルティア帝国の対立で、情勢が不安となっている中、観光客の激減が懸念されていましたが、そんな心配は全く必要ありませんでした。
アトゥア中から大勢の観光客が、ここラーヴォルンに次々とやってきています。
では、何人かの観光客に話を聞いてみましょう。』
そう、今日はアトゥアでも最大級の夏のお祭り、ルフィル・コスタの日だ。
だから、私も頑張ってお手伝いしないといけません。
「ありがとう。でも、せっかくのお祭りなんだし、今日は楽しんできなさい。」
おばさんはそう言うと、私の頭を優しく撫でてくれた。
「でも、私・・・」
「せっかくお父さんとお母さんがそう言ってくれてるんだし、今日は思い切り楽しもう。」
ラーファが楽しそうにそう言うと、私はそれ以上何も言えなくなってしまった。
ラーファの家は小さな宿屋と食堂を経営していた。
ここラーヴォルンは観光都市で、今日みたいなお祭りの日は超がつくほど忙しくなる。
だから、こういった時こそ、思い切りお手伝いをしたいと思っていたのに、本当に遊びに行ってしまっていいのかな?
でも、結局ラーファに流されるように、遊びに行くことが決まってしまった。
うー、なんか心がモヤモヤする。
こんな状態で本当にお祭りを楽しめるのかな?
「じゃあ、先にルフィルの遺跡の入口に行ってて。
私も後から行くから。」
結局、ラーファに言われるがまま、私はルフィルの遺跡へと行くことになってしまった。
<<ラーファ>>
ミディアを見送った後で、両親に話しかける。
「今日はミディアを楽しませてくるね。」
「頼むぞ、ラーファイム。」
父はそう言うと、私に少しだけお小遣いをくれた。
ちなみに、ラーファイムというのは私の本名だ。
長いので、友達からはラーファと呼ばれている。
ミディアも私のことをラーファと呼んでいる。
「あの子は、自分がこの家にいることに負い目を感じているのかもしれない。
私はあの子から早くお父さんって言ってもらいたいんだけどね。」
父が冗談っぽくそう言う。
「そうねえ、ミディアはすごいいい子だし、私も早くお母さんって言われたいなあ。」
私の両親は、この通り、ミディアには一刻も早く娘になってもらいたがっている。
でも、ミディアにとって、私の両親はあくまでおじさんおばさんであって、自分は居候だと思っている。
そのせいか、一生懸命頑張りすぎるところがあって、たまに見ているこっちが辛くなる時がある。
昨日も夜遅くまで旅館の仕事を手伝っていたことを私は知っている。
だから、今日は全てを忘れて、思い切りラーヴォルンを楽しんでもらいたい。
私はそう思って、お父さんとお母さんに提案した。
今日が繁忙期なのはわかっている。
でも、ミディアには、今をもっと楽しんで過ごしてほしい。
私達のことを家族と思わなくてもいいから、変な負い目を感じて一生懸命頑張りすぎないでほしい。
一日一日を大事に楽しく過ごしてほしい。
そう思っての提案だった。
最初は反対されるかと思ったけど、反対どころか2人は大賛成してくれた上に、こうしてお小遣いまでくれた。
「ミディアが来てから、ラーファイムも明るくなって、私はすごい嬉しいのよ。
妹ができたって喜んでたものね。」
もうお母さん、そんな古いことは忘れてほしい。
でも、まあそう言うことなのかもしれない。
結局、私が一番ミディアに妹になってほしいと思っているだけなのかもしれない。
それでもいい。
ミディアに明るく楽しく過ごしてほしいという思いは、私もお父さんもお母さんも皆同じなのだから。
「おっと、もうこんな時間。」
気がつくと、ミディアが家を出てから、随分時間が経っていた。
「じゃあ、私も出かけるね。」
私も準備を整えると、扉を開けて外に出た。
外は快晴で、大勢の観光客で賑わっていた。
「うん、今日は絶好の祭り日和だ。」
そう思い、家を出たちょうどその時だった。
「おーい、ラーファ、元気かい。」
突然、頭の中に見知った声と顔が再生された。
「もうエレーネ、ラヴォルティアは使わないでよ。」
「まあまあ、固いこと言わないで。
ちなみに、アイは今日は父の用事で来られないそうだ。」
「そうなんだ。」
アイのお父さんの用事って、きっとロクでもない用事なんだろう。
でも、アイがいないのは少し残念だ。
「それはそうと、ラーファは今どこにいるの?」
「今ちょうど、家を出たところよ。
ミディアはもう先に行ってるけど。」
「そっかあ、じゃあ、一緒に行こう。
もうすぐ、ラーファの家に着くから。」
それを聞いて、エレーネの家のある方を見ると、エレーネがこっちに向かって手を振っているのが見えた。
「わかったから、さっさと来い。」
私がそう言うと、エレーネは小走りで私の方に向かってきた。
こうして、私はエレーネと2人で、ミディアの待っているルフィルの遺跡へと向かうこととなった。
<<ミディア>>
ルフィルの遺跡は、ラーヴォルンの街並みから少し外れた山の頂上にあった。
山と言っても、そんなに高い山じゃない。
普段は人気のないところなので、怖くて近寄らないところだけど、今日はルフィルのお祭りで人がいっぱいいるので、安心して遺跡まで来ることができた。
遺跡はくずれた建物がいくつかあるだけの寂れた場所だけど、今でもここは神聖な場所として、みんなから大事にされている場所らしい。
私はルフィルというものを最初はよく理解できなかったんだけど、私達が住むこのアトゥアに命を授けてくれる神様みたいな人だそうです。
私達がこうして生まれてこれたのも、ルフィルのおかげなんだって。
さらに、私達が死んだ時には、ルフィルが私達の魂を天界まで導いてくれるらしい。
だから、私達は日々ルフィルに感謝しながら生きないといけないんだって、ラーファに教えてもらった。
「でも、それなら、そんな大事な場所をどうしてこんな廃墟にしておくんだって私は思うけどね。」
つい、思っていたことを口に出してしまった。
どうやら、これは言ってはいけないことらしい。
私の発言を聞いた人達の一部が、すごい不快な顔を浮かべてこっちを睨んでいます。
でも、普通は思うよね?
こんな廃墟で放っておくなんて、それこそルフィルに対して失礼なんじゃないのかな?
ここにドーンと大きな神殿を立てて、盛大にお祭りを開いてあげた方が、ルフィルだって喜ぶと思うんだけどな。
まあ、ルフィルが本当にいればの話だけど・・・
「また、そんなこと言って・・・」
いつの間にか、ラーファが私の後ろに立っていた。
どうやらさっきの私の発言はしっかりと聞かれていたようだった。
「前にも話したけど、ここはルフィルの神聖な場所だから、むやみに人間が触っていい場所じゃないんだよ。」
ラーファはいつもそう言うけど、私はその説明に納得できないなあ。
「相変わらずミディアはつまんないこと言ってるなあ。」
ラーファの背後には、もう一人女の子が立っていました。
学校の先輩で、ラーファの同級生のエレーネ先輩だった。
「せっかくのお祭りなんだから、楽しまないでどうする?」
エレーネ先輩はそう言うと、私の額にデコピンしてきました。
ちょっと痛い。
でも、確かにエレーネ先輩の言う通りだ。
今日はせっかくのお祭りなんだし、素直に楽しもう。
とはいえ、廃墟の真ん中では、なんか神事っぽいことが行われているだけで、こんなのをずっと見ていてもつまらないだけだ。
「神事を見ていてもつまらないでしょ。
だから今日はね、私のとっておきの絶景スポットに連れてってあげるよ。
まあ、でも来たばっかだし、何か飲み物でも買ってくるよ。
それ飲みながら行こう。」
エレーネ先輩はそう言うと、一人お店のある方へと行ってしまった。
「やれやれ、エレーネがいると、本当に慌ただしいわ。」
ラーファはそう言って苦笑するけど、まんざらでもないようだ。
ラーファとエレーネ先輩は幼馴染らしい。
なんでも、小さい頃にエレーネ先輩の家族がラーヴォルンに引っ越してきて以来の親友らしい。
だから、2人は本当に仲が良くて、たまに羨ましいと思う時がある。
ああ、私にもああいう親友ができないかな。
私にとっての同学年の親友はアイだけど、2人ほど付き合いが長いわけじゃない。
でも、そのうち、私とアイもあんな感じの親友になれるのかな?
そう思いながら、ぼーっと神事を眺めていたその時だった。
神事の行われている方が、突然まばゆい光に覆われた。
「えっ!?」
隣にいたラーファも驚いていた。
でも、私達以外の人達は、全く気にする様子はなかった。
光はさらにまぶしく大きくなっていき、しばらくすると、その光の中から、なんとかわいい黒髪の女の子が姿を現した。
「な、何・・・あれ!?」
ラーファも驚いていた。
まあ、そりゃあそうだよね。
私だって驚いてる。
それが普通の反応だと思う。
でも、周りの人は、突然女の子が姿を現したというのに、誰も気にする様子がなかった。
もしかして、他の人達には、彼女の姿が見えてないのかな?
あの子、ルフィルの儀式で姿を現したということは、もしかしてここに祀られているルフィルなのかな?
正直、ボロッボロのおじいさんを想像していたんだけど、まさかあんなかわいい女の子だなんて。
私と同じくらいの年に見えるけど、実際の年齢は100万歳とかなのかな?
あの子といろいろ話してみたい。
そう思って見ていたら、なんとあの子と目が合った。
私と目が合ったその子は、私に向かって満面の笑みを浮かべた。
そのあまりにも素敵な笑顔に、私はすっかり心惹かれてしまった。