蓋は開かれる
此処にもない、そこでもない、そっちはどうだ。
――ワタシノタカラドコニカクシタ?
今、見つけてる最中だ。
――ハヤクシナイト―――
黙ってろ!気が散る。
―――マタ、クル。ソレマデ――
消えてくれ。
口に光の言葉含め、解き放つ。
浄化。
「はあ、追っ払っても、これだと―――」
腹部より、唸る音。
「腹減った」
おーい!伊和奈。飯、食わせてくれ。
「ホラ、梅干しご飯」
「……。手抜きすぎでは?」
あんたが、おっぱじめた《お化け相談所》のお陰で食糧も、ご近所のクルミ割り人形さんに頭を下げてもらってるのだ!
「めんどい、ひじょーにめんどい」
「愚痴るのではない!」
ホレ、作蔵。あんたにまた、恋文だ!
……。また、こいつかよ?
作蔵、伊和奈より手渡される小箱の蓋を開く。
それより、桜の花びらの色を含ませる煙、立ち上る。
[お日さまが、水溜まりに落ちる場所に来て]
―――ため息 。
「色男」
伊和奈の刺々しい言葉に、作蔵、落胆。
「取りつかれるなら、もうちっと―――」
人のどこを見て、モノをいってるーっ!
依頼霊に取りつかれ、そいつが〈花畑〉にいくまでしぶとく、踏ん張る。
この業務、他社の同業者には、不評で、俺の立ち上げた会社は、その外注受け入れ先だ。
〈独立〉なんて、形だ。
儲けは歩合と、親会社からの給料と称した手当て。
――君みたいな〈人〉でないと、やりこなせない!
つられて、取りつかれる。
「どれ、行くぞ!」
私も?今日《あんたは、こんがらかった》が最終回なのにっ!
――――予約録画をしとけよ。
作蔵、伊和奈のふて腐れる形相を、両手で押し潰す。
「まだ、私はあんたの〈相棒〉には抜擢してくれないのかな?」
これだけ、ひっついといて今更何を述べる?
「ただ、訊いただけ」
依頼霊が指定した〈場所〉に作蔵と伊和奈、到着する。
「小さっ!」
子供の掌程の水溜まりを凝視する。それは、伊和奈。
――曇で思いっきり陽はかくれんぼしてるけど?
――太陽だけが〈お日様〉では、なーいっ!
作蔵、指先を小刻みに振り、なおかつ、三度舌打ちをする。
「上、見てみろ」
伊和奈、作蔵の視線を追う。
電柱に備えつける傘を被る外灯。ぱっと、その明かりを灯される。
「ホレ、出てきたぞ」
――アラ、その方あなたのなんですの?
伊和奈、それにとっさに顎を突きだし、険相する。
「作蔵から、そろそろ退いてもらいたい!」
――イ、ヤ!私、この人に取りついてるから、辛いことも、忘れるの!
其れは、作蔵の身体に霧となり、入り込む。
「作蔵!」
伊和奈、悲鳴をあげ、手にする箱の蓋を開く。
「はあ、あんまりいいもんじゃないな」
「一歩間違えれば、変態ロリコンだものね?」
「―――。その表現、おもっきり誤解を招くからよせ」
作蔵、光の言葉を掌に含ませ、拳を握る。
―――ナニするの?
おふくろさんのところに〈ノシ〉付けて返してやるんだよ!
――!どうしてよ。
あんたが、いなくなって、おふくろさんも、俺にしぶとく憑いてるんだ!探して、探しまくって、それが、あんたと、確信することが出来た。
――私、ガラクタに、サレタノヨ?
そんなこと、あるもんか!
〈子〉は《宝》と気づいた今なら、あんた達はちゃんと〈花畑〉に行ける!
「作蔵、まだね?」
伊和奈、蓋開く箱を掲げ、注がれる気流の風圧に身体を後方に反らす。
「あと、ちょっとだ!」
せーのっ!
作蔵の掛け声と共に、掌から放たれる気流、ぽふんと、ひとつ煙を浮かばせ、切り離される。
「伊和奈!閉めろ」
おっけい!
がばりと、伊和奈、箱に蓋を被せ、息を大きく吐く。
作蔵、指先から光の糸を紡ぎ、その箱にぐるりと巻きつける。
「下手くそ!」
歪な紐の形に、伊和奈は野次を飛ばす。
「―――。後は、このシールをこうやって――」
[持っていて]とプリントされる其を作蔵、貼り付ける。
「―――どうにかならないのか?この、備品」
「親会社の使い残しだ。経費が浮いていいだろう?」
うーん、ラッピングにもう少し―――。
折角掴まえた依頼霊の依頼霊をわざわざ逃すのではなーいっ!
ホレ、出てきたぞ。
―――コノナカニタカラガイル?
ちゃんと、懐にしまっとけよ。ドジかあちゃん。
―――アア、アリガトウ。コンドコソ―――
テヲハナシマセン―――。
其に光の輪被り、そして、粒となる。
「めんどくさい」
「仕事だろ?愚痴るのではない」
双方、ため息。
「身体、ちゃんと、洗浄しなさいよ」
「はいはい」
「……あんたは、私と違って〈生身〉だから――」
「伊和奈、待ってろ。おまえの奪われた〈実体〉は必ず、俺が、見つけてやる」
―――お人好し。
―――俺が、抱けないが歯がゆいのだ。
―――ドスケベ。
数日後、小包が作蔵の元に届けられる。
開いて、開いて、開き続けたその箱の中に〈給料〉と記された小石が埋め尽くされていた。
伊和奈。俺、転職して、いいか?
特技を活かした職業なら、構わん。