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紫光の魔導書  作者: しぇりー
――序章――
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第二話

 鬱蒼としている森だが、ふと空を見上げると月明かりが差し込んでいた。目の前に立っている少女の長い銀髪が光沢を放っている。フードが一体となっている旅装ではあるが、相当使い込んでいるのであろう、裾が破けていたり、所々傷が目立っている。


 頭一つ分は身長差がある為、少女が上目遣いになるので少し頬を朱色に染めてしまう。彼女の綺麗な緋色の瞳からは敵意を一切感じない。むしろ目の前に立つ少女は、友好的な態度であるし、大変整った容姿であった。今まで姉以外の女性と親密な立場になる機会すらなかったヴァンには些か刺激が強い。思わず目を離す。


「む、私の顔に何か付いているか?」

「違う、なんかすまん」


 悪いことはしていないのだがなんとなく謝ってしまう。

 気を取り直すため、おっほん、と咳払い。


「俺はヴァン。ヴァン・ラグナコーストだ。気付いたらこの森に居た、どこだかすらわかってないんだ」


 ありのままを告げる。少女がどこの誰かは知らないが、敵意を感じない以上隠す必要も感じない。ましてや話す言葉も通じるのだ、別大陸という可能性は無いだろうと推測する。


 聞いた少女は一瞬唖然とした表情になる。それはそうだろう、いきなり見知らぬ男から真面目な表情で此処はどこですか、と聞かれているようなものだ。誰でも気狂いか馬鹿にしているのかと勘繰ってしまうのも仕方ない。


「私はクレア・セラフ・ローデウス。見ての通り旅をしている。俗に言う冒険者だな。……因みに此処はゼイレクアの森で危険度Aの危ない森、しかも最奥に近い場所だぞ? 夜だから活発ではないが魔物も多い。さすがに夢遊病ではないだろうな」


 クレアが苦笑しながら告げる。

 逆にヴァンは驚愕を貼り付けてしまう。


「ど、どこだよそれ……。今まで俺はヘレビオンサ大陸にいたはずなんだぞ……」

「ヘレビオンサ……? いや、そんな大陸は存在しないはずだが」


 クレアの表情が訝しげなものに変わる。そんなことには一切気にすることが出来ず、ヴァンは思考に没頭する羽目となった。まず、今いる場所はヘレビオンサ大陸ではない。

 それにゼイレクアの森なんて場所は聞いたことがない。なんて言っても危険度の高い場所であれば、自分が立ち寄っていない場所は世界各地、一箇所もないはずであった。

 魔人を探すに当たって、十年間のあてなき旅は様々な地域へ足を運ぶ、壮絶なものであったのだから。


 よって、導かれる答えは――


「俺は……この世界と違う所から……?」


 ぽつりと漏らした一言。クレアの耳にはもちろん届いている。しかし、彼の真剣な声色からして冗談で言っているとは微塵にも考えられなかった。


「それじゃあ君は、異世界から此処に来てしまった、と?」

「そう、みたいだ。間違いなく魔力も使えるし、言葉も通じてるからそんな発想してなかったよ……」


 そう言い、ヴァンは座り込んでしまう。


「それにさ、さっき言ってた冒険者ってなんだ?」

「え、君の世界に冒険者ギルドはないのか?」


 少し目を見開いてクレアが聞き返した。異世界より来たということを深く考えるのは辞めたようだ。


「まあ、ないのであれば仕方ない、か。冒険者と言うのは、魔物が主に標的となる。冒険者には『ランク』が付与され、危険度に見合った所へ討伐依頼が冒険者ギルドから出される。私が今此処にいるのはAランクの依頼を遂行中だからなんだ」

「それは傭兵とかじゃダメなの?」


 ヴァンは元々、傭兵である。基本的には仇討ち優先だが、金銭的に厳しくなれば傭兵として雇ってもらい、稼ぐのが正直一番楽であった為だ。彼の実力は折り紙付きなので、依頼に困ることもなかった。失敗したことは一度もない。


「此方の世界にももちろん傭兵はいるさ。ただ、基本的には依頼者を守り、依頼者の命令に従い、束縛されるのが嫌だって連中が冒険者にって感じが多いかな」

「そりゃあ間違いないな」


 討伐依頼を完了すると報酬が発生し、魔物自体の革や牙、鱗等の貴重な部位は売却も出来るし武器や防具へ使うことも出来る。聞く話によると冒険者とは実力さえ見誤らなければ割が良いのかもしれない、と思う。今までの世界にそんなシステムはなかったし、これからの生活に金銭は必ず必要になるだろう。


「じゃあさ、悪いんだけど冒険者ギルドまで連れてってくれないか?」

「もちろんだ。まだ少し半信半疑ではあるが、いつまでも此処に居たって仕方がないしな」


 嫌な顔一つしないで――むしろ笑顔で了承してくれることに感謝し立ち上がる。

 いつまでも森にいるわけにはいかないも当然ながら、折角生きているんだから色んなことをしてみたい、と心から思うのだった。


「クレアって凄いランクなわけ?」

「これでもSランク。自慢じゃないが最高ランクだな」


 テンションが上がってしまうのは男であるが故、仕方がないのだろうか。やはり男たるもの一度は冒険への憧れはある。類に漏れず彼もだ。

 今までは復讐の為だけに行動をしていたのだ、これからは自分の為に働き、生きていく事へのワクワクが抑えられないのも無理はない。


 自分が楽しみになっているのを横目に、クレアが苦笑しているのはこの際無視することに決めた。心なしか森を歩く歩幅が広くなってしまうのは許して欲しい、と彼は思う。



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