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その4

 

「私は、・・・元々孤児だったのです」



 一通り泣いて落ち着いた後、私がいれた紅茶のカップをを両手で包みゆっくり飲みながら、女性はポツリポツリと身の上を話してくれた。

 子どもの方はお腹も満腹になり、部屋も暖かいので膝を枕に眠ってしまっている。痩せてしまった細い腕をゆっくりと摩りながら、女性はローザ、子どもはシルヴィだと名乗ってくれた。私も透子(とおこ)と名乗っておく。


 ローザは物心ついた時には既に身寄りはなく、ミズハナの村の教会に他の身寄りのない子ども達と共に身を寄せていたらしい。

 貧しかったがそれでも精一杯頑張って生きていたが、14歳のある日村の実力者の息子に手篭めにされ、妊娠してしまった事で教会からも放逐され、このオリカに来たらしい。

 オリカは何らかの理由で村を追われた者が住む隠れ里で、ローザ達の他に4つの世帯があるという。北の痩せた土地で作物も満足に育つはずもなく、お互いに助け合って生きてきたのだが、今年は例年にも増して作物が取れず、はたして冬を超えられるのかと怯えながら皆が過ごしていたのだった。

 淋しげな顔でシルヴィを見つめるローザ。

 自分を貶めた男の子どもだけれど、ローザにとってはたった一人の家族なのだ。自分の身を削りながら育ててきたのだろう。

 今シルヴィが3歳ならローザは17歳。普通の少女なら友達と一緒におしゃべりをしたり美味しいものを食べおしゃれをして、楽しんでいる年頃のはず。すっかり痩けてしまった頬もくすんだ髪も、細くやせ細った手足も、本来ならば丸みを帯びて柔らかい身体付きの、可愛らしい少女のはずなのだ。


 もう何だか私の方の感情のタガが外れてしまって、涙が止まらなくなってしまった。

 それに気づいたローザが驚いて、そして泣き笑いの笑顔を浮かべる。



「トーコ様・・・私のために泣いてくださって、ありがとう、ございます」



 私は何も言えず、ただ首を振ってローザの手を握り、心に誓った。


 私に何ができるのか、どこまでできるのかは判らないけれど・・・とにかく手の届く範囲から私のできることをしよう。せっかく女神から特殊能力(チート)を貰ったんだもの、偽善と言われようと同情と言われようと、やれるだけやろう。

 それで泣いていた子が笑ってくれるのなら、私がここにいる意味があるのかもしれないから・・・。




 やがてローザも眠ってしまったので、私はシルヴィと共にきちんと粗末なベッドに寝かせて毛布を掛けた。身体能力が限界突破している為、二人でも軽々と持ち上げられる。

 そうしてからベッドに手を触れて、【錬金術】でベッドの質を変えて更に大きくした。毛布と布団をフカフカに変え、ベッドのマットレスも沈み込むほどの良い物にする。

 二人には今まで苦労してき多分、思いっきり幸せになってもらいたい。

 私は立ち上がると、入口からの正面の壁にドアを作り、そこから亜空間を広げて部屋を増築した。

 外から見ても今までの粗末な小屋だが、このドアを抜ければ亜空間の部屋に着く。そして廊下・トイレ・洗面所兼脱衣所・お風呂を作り、中の設備を整えた。

 いきなり現代の設備だと色々問題がありそうなので、お風呂は勝手に浄化循環して温度を一定にさせるお湯が張られた湯船と、減っても一定量のお湯が張られる桶を設置。トイレは汲み取り式?なのだが、きちんと一回一回蓋が閉まって匂いがしなくて、落とされたし尿は有機肥料として自動的に培養される仕組みにする。洗面所の水は、簡易的な水舟方式にした。水はちゃんと浄化循環するので環境にも良いはず。


 他にはキッチン・ダイニング・リビングも作った。

 キッチンだけは対面式でコンロやオーブンなんかも完全完備、シンクもレバー式の水道を設置する。食器も調理道具もカタログから良いものを選び出して設置。私が料理するためには、やっぱり使いやすくしたいから、許してもらいたい・・・。

 ローザ達の小屋?から奥の扉はローザと私とシルヴィしか通れないようにしたので、問題はないはず。もしローザに将来パートナーが出来た時は、また旧式に戻すことにする。

 ダイニングには食事のできるテーブルと大人用の椅子2つ、そしてシルヴィ用の子ども椅子。これでシルヴィも一人で座って食事ができるようになる。

 リビングには大きめの暖炉とフワフワの絨毯と、ゆったり座れるカウチとソファー。ゆっくりとくつろげる空間にしてみた。

 どの部屋も亜空間で作られてはいるが、窓に映る景色は外と繋がっており、光の入る大きなガラス窓から眺めることができる。さすがに開けて出入りされるわけにいかないので、嵌め殺しにしておく。


 廊下から階段作って、二階も増築。部屋を3つ作って一つをローザの主寝室、もう一つをシルヴィの部屋(仮)、もう一つが予備の部屋。

 それぞれに大きなガラス窓と寝心地のいいセミダブルのベッドとクローゼットミニテーブルを設置する。


 こちらに来て気づいたのだが、私は疲れたりお腹が空いたりという事はないみたいだ。

 食べたり飲んだりは出来るけど、食べなければ死ぬというような感覚がない。疲れもしないので眠る必要がなさそうだし、そう言う意味ではローザ達の世話は思い切り出来そうだ。


 小屋の増改築が完了すると、二人が眠っている小屋に戻り、そっと外に出る。暖気が入口のドアで逃げて二人が寒い思いをしそうなので、見えない小部屋を入口の外に作って二重ドアにしてみる。これで少しは違うだろう。


 小屋の周囲に亜空間を広げ、庭を作って更にその周囲を植え込みで囲い、結界を張って小屋毎害意を持つ者が入れないようにしておく。

 畑には野菜を植え花壇を作り、畑の奥に果樹園を作っておく。畑にはキッチンからのみ出入りできるようにして、やっぱり外から見たらただ小屋が立っているように見えるだけにした。もちろん畑や果樹園には鳥や害獣・害虫は入れないようにしてある。


 とりあえずこれだけ設置して、一息ついた。これで当分は外に出なくても二人を養っていけるだろう。春になれば自然と外に出られるだろうから、それからは臨機応変にしていけばいいと思う。


 勝手に色々やってしまったけれど、ローザは怒らないだろうか・・・。喜んでくれるといいのだけれど・・・。いや、それ以前に二人をまず健康体に戻してからの話だ! 頑張ろう!!




 ◆ ◆ ◆ ◆




 今日の朝食は、昨日のコーンスープに炊いたお米を足して、少しだけ人参とか玉ねぎを加えた雑炊っぽいものにした。もちろん野菜は細かくみじん切りにして柔らかくしたものを入れている。昨日の今日ではすぐには回復しないだろうから、少しだけ考えている事もあった。


 窓の外は昨日よりは雲が晴れて、少しだけ青空が見えてホッとする。もし可能なら部屋に野花でも飾って、二人の雰囲気を明るく出来たら嬉しいな。

 二人が眠っているのはまだ一番最初の小屋の中のベッドなので、私が雑炊を作っている竈の側からよく見える。気持ちよさそうに眠るその表情がとても柔らかいので、こちらまで嬉しくなってしまう。


 くくくーっ。


 可愛らしいお腹の音がして、もぞっと身動きしたシルヴィが目を擦りながら身体を起こしてこちらを見た。寝ぼけているらしく、私を見ても状況が把握できないのかぼーっとしている。



「おはようシルヴィ、いっぱい眠れたかな?」


「・・・おねーちゃん?」


「うんうん、透子(トーコ)よ。ママはまだおネムだから、シー(静かに)で起きようね?」



 小声で挨拶をすると、そっとシルヴィを抱き上げる。ローザはまだ眠っているようなので、シルヴィを台所の水場まで連れて行って顔と手を洗い、アイテムBOXから出したフェイスタオルで顔を拭いてからテーブルまで連れて行く。

 先程からシルヴィの視線が竈の鍋に向いているので、匂いを嗅ぎ付けているらしい。思わず笑ってしまいながら先にシルヴィの分の雑炊を器によそって、匙と一緒に差し出した。するとシルヴィは昨日の事を思い出したのか、じーっと私を見つめる。どうやら食べさせて欲しいらしい。

 なんて可愛らしいんだろう、この子!!

 私も座ってシルヴィを膝の上に座らせると、昨日のように匙で掬った雑炊を冷ましつつシルヴィに給餌する。嬉しそうにペロリと平らげたシルヴィは、満足そうにカップのお水を飲んでお腹をポンポンさせた。


 私は膝から降りないシルヴィに触れつつ、そのまま【治癒魔法】をシルヴィに少しづつかけた。

 体力を増やし成長に必要な栄養は、ゆっくりと食物から摂るのが本当はいいのだけれど、今のシルヴィではすぐには無理だろう。なので病院で点滴を受ける感じでその小さな体の成長に必要な栄養を与えるべく、【体力回復(ヒール)】と【身体改善(キュア)】をかける。

 こういう魔法、という呪文を唱えているわけではないので私のイメージなのだけれど、それでも発動するのでこれも全部うっかり女神のおかげである。心の中でお礼を言っておく。・・・届いているだろうか?


 心なしかシルヴィの落ち込んだ目の周りが膨らんで隈が少し取れ、骨と皮だけだった細い手足がほんの少し肉がついてきた。まだまだ痩せてはいるけれど、病的?な感じからは脱出できた気がする。徐々に癒していけば、普通の子どもらしいシルヴィに戻れるだろう。今もこんなに可愛らしいのだから、ふっくらとしたシルヴィはもっと可愛らしいに違いない。


 私を見てニコッと笑うシルヴィと見つめ合っていると、ごそっと身動ぎをする物音がしてローザが目を覚ました。側にシルヴィがいないことに気づいてビクッとしたけど、周りを見回して私の膝の上にシルヴィを見つけてホッとした表情を浮かべる。



「おはよう、ございます、トーコ様」


「おはようローザ、お腹すいたでしょう? 顔と手を洗って朝食を食べてね、シルヴィは先に食べたから大丈夫よ」


「はい、ありがとうございます」



 ふんわりと笑顔を見せたローザが立ち上がり水場で顔と手を洗うと、私の膝から降りたシルヴィが先ほど自分が拭いたフェイスタオルをローザに渡す。本当はローザの分も出そうと思っていたのだけれど、シルヴィが進んでローザに持っていったので微笑ましくそれを見守っていた。

 嬉しそうに受け取ったローザが顔を拭き、戻ってくると私がよそった雑炊をゆっくりと食べ始める。シルヴィは戻ってきて私を座らせ、その膝の上にまたよじ登った。どうやら私の膝を気に入ってくれたらしい。



「食事を終えて少し休んだら、お風呂に入ろう。着替えも用意するし身体も温まるし、気分もスッキリすると思うの。嫌なら無理強いはしないけれど・・・どうかな?」


「お風呂、ですか? 水浴びではなく?」


 あぁ。もしかしなくてもこっちの世界では、お湯を貯めて身体を清めたり温めたりする事は、とっても贅沢な事なのかもしれないと思い当たる。


「えっと、とりあえず見て貰った方が早いよね。こっちよ」


 ローザは戸惑ったように俯いていたけれど、私に促されてシルヴィと共にゆっくりとついて来てくれた。

















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