その2
気がつくと木立の中にいた。
森なのか山なのかは判らないけれど、木の葉がすっかり舞い落ちた物悲しい木々が視界の先まで黒く立ち並んでいる。
寒さに思わず身体を抱える感じから晩秋か冬と思われるんだけど・・・ここの何処が【王都】なんだ?!! あのゆるゆる女神、慌てたあまりに移動軸の設定まで適当にやったな?!
このままここにいた所で、未来は餓死か凍死だと思うので、ともかく人に会うべく歩き出す。
身につけているのは麻のチュニックとパンツに、粗い感じのゴワゴワした布の靴っぽいもの。こんな服は着ていなかったので、トリップした時に取り替えられたらしい。何もかもが想定外っていうか、私の要望は本当に反映されるんだろうかと一層不安になる。服も麻な所がさらに不安。文化レベルも低いんだろうか・・・、それとも国が貧しいんだろうか・・・。
能力は一応異世界人よりも少し上の基本設定だと言われたのだが、特に歩く速さや握る力が強くなったようには思えない上に、比較対象がいないのでため息が出る。
ステータスが見えたり魔法が使えるか試してみたのだけれど、恥ずかしいだけで何もなかった。
レベルアップってどうやって分かるんだろう・・・。
暗い未来に俯きながら、トボトボと歩き続ける。石や木の枝・瘤があって歩きにくい道なき道を歩いている、と。
視線の先の茂みがガサッと揺れて、何かが顔を出した。
ちゃんとした奴は見たことはないけれど、これはもしかして狼とかいう獣じゃなかろうか?
っていうか、目が爛々としてるから狙われてるっぽいし・・・逃げないとぉーーーーー!!!!
私が踵を返すのと同時に、後ろから生臭い息遣いと迫る威圧感! 後ろを確認する間もなく全力で走り出す。
やっぱりゆるゆる女神、私を殺す気だったんだ! タチが悪すぎる、私が一体何したっていうのよーーー!!!
とにかくメチャクチャに走っていたら、何かに蹴躓いて倒れ込んだ。目の前に尖った岩が見えて、咄嗟に頭を抱え込んで首を竦める。
『ガッ!』という音は、自分が地面に倒れてぶつかった音だと思った。
パラララッパラ~!! ピロロン! ピロロン! ピロロン! ピロロン! ・・・・・!
状況には不似合いな機械音が頭の中に流れ続ける。でも周りを見る余裕なんかなくて、固く目を閉じて次にくる衝撃を覚悟した。
けれど『ガッ!』という音の割には痛くない上に、いつまで経っても追いかけてきたはずの狼の気配がこない。
恐る恐る顔を上げてみると・・・尖った岩に頭を貫かれて息絶えている、狼の姿があった。
・・・私、助かったの?
流れる血や死んでいる狼のグロさを目の当たりにして血の気が引きつつも、バクバクする心臓の辺りを押さえて深呼吸をする。そうしてその場にへたりこんでしまった。
どれくらいその場にいただろうか。
ようやく落ち着いてため息一つ、とにかくこの場にヘタってる場合ではないので立ち上がる。狼をどうしようか悩んだが、今の私にはどうにも出来ないことは分かりきっているので、放置することにした。
さっきから視界の端に、チカチカと点滅する白いカーソルがウザイ。何これ?
再び歩きだそうとして、・・・カーソル?!
恐る恐る指でそのカーソルをタップしてみると・・・、景色を透かしながら、まるでPCのモニターのように文字がズラズラっと浮かび上がった。
『レベルアップ おめでとうございます! あなたはLV.2になりました!
レベルアップにより、予約設定制限が解除されしました
制限解除により LV.が2000になり、カウントストップしました
制限解除により 基本能力が限界突破 種族が人間 → 半神ディーヴァになりました
制限解除により 新たな技能4863個を修得しました
制限解除により 新たな魔法1569種を修得しました
制限解除により アイテムBOXが使用可能になりました それに伴いBOX内の目録が使用可能になりました
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・ 』
凄い量のログが流れる。な、何これ?!
全部は目で追えないけど、つまりはあの女神が言ってた【ご要望設定】がきちんと反映されたって事でいいのかな? でも、なんだか、私が言ってたのよりも凄い事になってて、【俺TUEEEE】が可能になっちゃってる?
女神は『それは困るんで~』とか言ってた気がするんだけど、ちゃんと把握してるんだろうか? ・・・もしかして時間迫ってた時に適当に設定したのが、これだったり?
「・・・。ま、いいか。こっちも有無を言わせず連れてこられたんだし、少しぐらいチートになったって慰謝料もらったと思えば安いわよね? 現実世界で生活した方が、どれだけ安全で便利かっていうのよ」
少し悩んだけど、そう思う事にした。私がしたんじゃないから、あのゆるゆる女神に責任取ってもらうことにする。
早速アイテムBOXから服装備を取り出そうと開けてみると、中には分厚い一冊の本が入っていた。開いてみると内容はカタログ、しかも洋服から武器装備、装飾品から食料・雑貨というありとあらゆるものが載っていた。見やすいようにちゃんとダグがついて分けられている。
これで選べばアイテムが使えるようになるって事? でもお金かポイントか分からないけどいくつまで可能なんだろう?
ページを捲って最後の裏表紙まで行くと、何やら書いてある。
【限定版 アイテムカタログ 小神エオウィン専用 取得無制限】
・・・また間違えたな?! うっかりにも程がある!!
程があるけど・・・背に腹は代えられないので、目録の中にあった一番良い装備と武器を選ぶ。
取り出したのは、乳白色のフード付きローブで、その下にペパーミントグリーンのAラインロングスカートやインナー・パニエなんかも選ぶ。どれも劣化防止・被ダメージ99%カット・被属性ダメージカット・抗菌防臭・防寒防暑・譲渡不可という優れもの。
武器をどうしようかと思ったけど、どうせ武器なんか手にしたって振り回すしかないんだもん、殴ったって切ったって同じだよ。それなら何も持たないで魔法使ったほうがいい気がするし。
その代わり発動体代わりのペンダントをインナーの中に入れておく。
洋服防具を身につけてやっと落ち着いた。これで寒くはなくなったけど、少し喉が渇いたのに気づいた。でもまず人に会うのが先なので、気を取り直して歩き出す。
歩きがてら、改めて魔法なるものもできるのか使ってみた。冬枯れの森に火魔法は危険だと思ったのでーーー。
「【発水】!」
目の前に手のひらを差し出すと、その上に直径20センチぐらいの水の玉が浮かんだ。
凄い! 本当に出た!!
そっと水玉の浮かんだ手のひらを自分に寄せて口を付ける。乾いた喉に流れる水が、心なしか甘い気がした。
調子に乗って【風の刃】とか【衝撃波】とか使ってみる。あっさりと面白い様に使えるので、ワクワクドキドキ感が止まらない。
うわぁ~実際にこうなってみると、魔法使えるって楽しいのかもしれない。生活的には安全な日本の生活のほうがいいんだけどね・・・。
自分の能力が上がっていることが実証できたので、気分一新で足取りも軽く歩き出す。
今の時間は分からないけど、まだ昼前なんだろうか? 周囲が薄曇りなのでちょっと怪しいけれど、森?を抜ければもう少し違うのかもしれない。
そのうちに獣道のようなものに突き当たり、そこをどんどん辿っていくと明らかに人が何度も歩いていると思われる道っぽいものに突き当たった。
道といっても現代みたいにアスファルトで舗装されたものでも、石畳の道でも馬車による轍でもないんだけど、そういうのあるじゃない? やっと文化的なものに出会えて浮き足出す気持ちを抑え、やや早歩きで先を目指す。
そのうちに木々が少なくなって森を抜け、そうして私は1つの村に辿りついた。