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その1

 自分が不器用だというのは、自覚しているつもりだ。

 だから何をするにも、なるべく慌てず騒がずゆっくり確実に行う事を心掛けている。あくまで自己判断なので、他人から見れば粗があったかもしれないが、それでも地道に生きていたし、誰かに後ろ指を指されるような事はしていないはずだ。

 だからこそ、現状には不満があった。



『いい加減、理解して頂けたでしょうか~?』


「貴方が言うことは理解出来ますが、納得も承諾もしていません」


『何故です~?!』


「昨日まで普通に生きてきたのに、『今日今から異世界に行って生活して頂きます』って言われても、嫌ですよ」



 私の言葉に縋るように見る彼女(・・)は、洋風とも和風ともつかぬ服を着ている。強いて言うなら封神演義に出てくる仙人のような格好と言えば良いだろうか。

 人外の美しさを湛える彼女(・・)は、眉間に皺を寄せながら責めるように私を見つめるが、私の知ったことではないし、語尾を伸ばす話し方がなんだかムカつく。



『異世界ですよ~? 剣と魔法の国ですよ~? ドラゴンやゴブリンみたいな魔物がいて、王子様やお姫様やエルフがいる【俺TUEE】の国なんですよ~?』


「嫌です」


『そんな事言わないで下さいよ~、 もう企画書通って~、設定しちゃったんですから~!』


「企画書って、何? 本人の了解を得なくても出来ることなの?」


『・・・いえ、こういった異世界トリップは~、ラノベオタクの方なら喜んで承諾するって~、先輩が・・・』


「私もラノベは読むけど、オタクじゃない!」


『困ったなぁ~、地球時間で30分後にはもうトリップが発動しちゃうのに~』


「何ーー?! 冗談じゃないわよ!!」



 思わず彼女(・・)に掴みかかる。



「現代社会に生きる何の取り柄もない私が、いきなり魔物が跋扈する異世界に飛ばされて、普通に生きられるはずないでしょう!! 殺す気かーーー!!!」


『だ、大丈夫ですよ~、トリップした人間が異世界人よりもステータスが優れてるっていうのはお約束ですし~、きっと貴女も【俺TUEE】ができるはず「はず(・・)じゃ困るのよ!!!」・・・はぃ』



 私の迫力に負けた彼女(・・)は慌てて懐から百科事典程の大きな本を取り出して、ペラペラとページを繰り始める。



『貴女に関しては何も弄ってないんですよね~、だから再設定すれば良いだけなんですけど・・・時間大丈夫かな?』


「文句言ってる間にするのよ!!!」


『は、はいぃ!! ・・・えっとぉ、ご要望はあります~? できるだけご期待に添えるようにはしますけど~、異世界破壊しちゃうほど【俺TUEE】されると~、私の責任問題にもなっちゃうんで~。それなりが嬉しいかな~?』



 切り替えの早い彼女(・・)はニコニコと愛想笑いを浮かべながら某ファーストフード店のように注文を聞く。

 異世界トリップが決定事項なら、もう思いっきり好きなように設定させてやる!!!



「異世界の人よりも基本能力が上なのは当たり前なのよね? 

 じゃあ魔法が使える世界なら、魔力も多少多めにして欲しいわ。MP切れで使えないなんて意味がないでしょう? 

 後は、ゲームみたいに無制限・無重量・劣化防止のアイテムBOXは常識だし、アイテムを【鑑定(アナライズ)】出来るスキルなんていいわよねー。

 あぁ、スキルや魔法はもちろん私に選ばせてね。

 このままの姿で異世界に行ってもいいけど、多少は若くなって寿命も伸ばしてもらえると嬉しいわ。

 武器・装備やお金・アイテムなんかは、困らない程度に欲しいんだけど?」


『それ全部答えちゃうと~、トリップ時に世界に弾き出されて何処へ飛ばされるか判らなくなるんですけどー』


「期待に添えたくないからじゃなくて?」


『それもありますけど~。これからトリップする世界は~、大神様の世界だから~。私の影響力はそんなに効かないんですよ~?」


「大神って何よ・・・?」


『大神は大神ですよ~? 高位の神様です~。私も一応、小神なんですけどね~?』



 衝撃の新事実!! この語尾伸ばして話す甘えた感じのゆるい彼女(・・)が、小神?!! 

 私が驚いている間に、彼女(・・)は本を見ながら何かを設定していく。



『ん~、無理を聞いてもらいますから~、こうしましょう! 行く時は、基本能力が少し上ぐらいで我慢してもらって~、着いた後のレベルアップ時に~ご要望通りの設定になるって事で~?』


「アイテムも?」


『アイテムBOXの中に自動的に入るようにしておきます~。着いてからなら何とかなりますし~、ん~面倒だから今設定しちゃお~♪』



 と、いきなり周りが赤く点滅し始めた。小神の彼女が更に慌て出す。



『わぁ~! 時間がない~!! え~い、もう適当に入れちゃえ!!』


「え?!! ちょっとそれは困る!!」



 私の静止を他所に、何やら彼女が慌ただしく宙を指先でタッチし始め、周りの点滅も更に激しくなり、状況の分からない私だけがワタワタする。



『えっとぉ、これでOKです~。

 行き先は【異世界 アヴァル・ファング】で~、移動軸は【王都 パメナ】にしておいたんで~、生活の基盤は大丈夫だと思います~。

 何か分からない事があったら~・・・そこにいる人に聞いてくださいね~?』


「あんたが教えてくれないわけ?!」


『さっきも言いましたけど~、大神様の世界なんで~、私の影響力って貴女の事ぐらいなんですよね~。じゃあ、頑張って~!』



 ニコニコ笑顔で手を振られ、激しくなった赤い点滅だったものが真っ赤な世界へと変化する。



「ちょ・・・!!!」



 私が文句を言う間もなく、こうして私は異世界へと飛ばされた。



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