序章:始まりの夜
「君の瞳はまるで飴のようだ」
暗闇の中、男は女の体を抱き、顔をねっとりとした手つきで撫ではじめた。
「その柔肌も一度口に入れたらとろけてしまうと錯覚してしまうような代物だよ」
女の顔を撫でていた手は球体を握っていた。
「君は最高の女だ…」
「だからこそ、血の一滴でさえも、他の奴に食べさせてたまるか…」
にたり、と笑う男の視線の先の女はひとつも動かなかった。投げ出された四肢はあらぬ方向に曲がり、白いワイシャツと剥き出しの臓器がこの光景の異質さを表現している。
「せっかく僕が楽しく食事をしているのに…」
音楽《悲鳴》がないと面白くないじゃないか…。
男のナイフが脊髄を断ち切ったのか女の体は魚のように跳ねた。男は続けてナイフを刺していた。しかし、遂にそれを止めると女の頭をナイフで切り裂き、地面へ思い切り叩きつけた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!つまんねえ!くそつまんねえよおおおお!」
暴れたはずみに握っていた球体が手から滑り落ち、地面に転がっていた。しかしそれは男が暴れている最中に潰されていた。女の顔にはあるべきものがなく、そこは窪んでいて真っ暗だった。
「君なら僕を楽しませてくれると思ったのになぁ…」
「君にはがっかりだよ、でも」
美味しかったよ。そう言うと男は最後の仕上げに撮りかかった。