↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/13

0.秘密の庭園




「約束できるかい? 僕のお姫様」


 背の高い青年は、少女の隣でしゃがみ込んだ。


「なんのこと? もしかして、チョコレートをあげちゃったこと?」


 この青年はチョコレートを食べてはいけないとお家の人に言われているそうだ。本当は大好きだということをこっそり教えてくれたから、少女は彼に会うとき、必ずチョコレートを持っていくことにしている。

 こんなに美味しいものを食べてはいけないなんて、かわいそうだから。


「ふふ、違うよ。それも言っちゃダメだけどね。僕と会ったこと。それから、ここへ来たこと。絶対に誰にも言わないでほしいんだ」


 青年はミルクチョコレートのような色の髪をさらりと靡かせ、窺うように首を傾げてみせた。肌はとても白くて、背が高くて、瞳が不思議な金色。本当の王子様よりかっこいいのだ。

 少女はえっと驚いた。そのミルク色の頬を青年はつまみながらにこにこと微笑んでいる。

 青年はいつもご機嫌でにこにこしている。時々いじわるなことを言うこともあるけれど、ほっぺたにキスをするとすぐに優しくなる。いつも膝の上に少女を乗せて、お菓子の包みを開けてくれる。……なのに今日はちょっと違った。


「どうして? お父さまやお母さまにも、言ってはだめなの?」


 お父さまと一緒にお城に来たとき、いつも青年とお茶をしていることは、まだ誰かに話したことはない。……そういえば、どうしてだろう。嬉しいことや悲しいことがあったとき、少女はいつも両親に話しているはずなのに。


「ベアトリス。ここはね、本当は入ってはいけないところなんだ。だから、ここでいつもおやつを食べていたなんて知られちゃったら、僕もキミも怒られちゃうかもしれないんだよ」


 青年はおかしそうに笑いながら説明した。怒られちゃうと言うわりには全然怖がっている様子はない。

 ベアトリスにとって、ここでもらうおやつはお屋敷のおやつよりずっと美味しかったし、誰も来ない綺麗な庭も気に入っていた。駄々をこねてお父さまに付き添ってお城まで来るくらいには。

 けれど、今まで季節が何度か変わっても、この庭で青年以外の誰かに会ったことはない。どうしてそんなことを言うんだろう。


「うん。今まではね。僕がこんなに傍にいたから」


 青年は少女の考えを見透かしたように言った。


「だけど、僕はもう城を出なくてはいけないんだ。――もう、会えないかもしれないね」

「そんなの、いやっ!」


 少女は咄嗟に青年の腕をつかんだ。青年は嬉しそうに顔をほころばせた。まるで少女の反応を知っていたかのようだ。少女の態度を褒めるように髪を撫でる。


「だよね。僕もいやだよ、ベアトリス。きっとまた会えるから、それまでここのことはヒミツだよ。……守れるかな?」


 膨れた頬を「かわいいね」と突いた青年は少女に向き合って跪いた。


「守って――ベアトリス」


 守ると、言って。青年はそっと囁くように言った。


「……どっかにいっちゃ、いや」

「……でも、キミが約束を守ってくれたらまた会えるよ?」

「……いつ?」

「それはわからないな。だって、ベアトリスがいつ二人の秘密を破っちゃうか、わからないからさ」


 だけど、もし、僕が戻るまで約束を守れたら――ご褒美をあげるよ。

 その時はキミに教えた僕の名前を呼んで。

 そうしたら――……。



『また、僕のお嫁さんにしてあげる』




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。