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白月に涙叫を  作者: 弐村 葉月
七章 影と真実
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―模擬戦―

霊峰アングァスト。教会より北方に位置する、コルストの街にある、大陸一の巨山である。その険しさと頂上に位置するとされる門の存在の所為か、地元の人間でさえ滅多な事では寄りつかぬ場所。だが、今その霊峰の麓では、三人の騎士が火花を散らし雄叫びを上げて戦っていた。


「へなぶっ!」


「おいマロリ! 何してるの!」


「ぼーっとしてんじゃねぇぞスティーゴ! 次はお前だっ!」


身の丈を越える十文字槍を振り回し、紅蓮の炎に身を包んで猛然と突進するグリム。マロリは先程の彼の攻撃に吹き飛ばされ空中遊泳中、スティーゴはあたふたと距離を取るべく後退し、眼前に迫ってくるグリムに両の手から生み出した霊気の塊を打ち出す。螺旋を描きながら襲いかかる二つの霊弾を、回転させた槍のそれぞれ穂先と柄尻で弾き飛ばし、スティーゴへ肉薄するグリム。槍は回転させたまま、遠心力を乗せた横薙ぎの一撃がスティーゴの顔面を狙った。しかし屈んで交わされ、十字の刃が虚しく空を切る。長物の攻撃をかわし、懐に潜り込んだスティーゴがこれ幸いにと両手に霊塊を生み出す――が、その体は頭から大きく吹き飛ばされた。見れば、グリムが振り抜いた槍を左手だけでフォロースルーし、踏み込みに使った右足を軸に左の蹴りをスティーゴに叩きこんでいる。火霊力による爆発のおまけ付きだ。雪の積もっている地べたを滑り倒れ込むスティーゴの上に、空中散歩を終えたマロリが申し合わせたように墜落する。


「ぐぺっ!」


「ごふっ! ま、マロリ、重いって……」


痛みに呻き転がる二人の様子を見て、グリムは槍をしまった。柄を握っていた手を無造作に開くと、槍は炎になってまるで溶けるようにグリムの体に沈んでいく。


「お前らもうちっと頑張れよなー。仮にも翳刃騎士なんだろーよ」


グリムは軽く伸びと欠伸をしながら、地べたに転がって気絶しているマロリとその下から這い出るスティーゴに向けてそう言った。


「そんな事言ったって……俺達はフェルの相手が主だしさ」


「んなもん俺だって同じだって―の」


拗ねた口調のスティーゴの反論を、グリムは一蹴し、二人に背を向けて歩きはじめる。


彼らがコルストに辿り着いてから既に二月が経過していた。門の警護に当たる、とはいってもそうそう襲撃者が現れる事もなく、またエトアールの面々に至っても全く兆候が見られなかった。そんな中で彼らが始めたのが、この霊峰アングァスト麓での模擬戦である。以前に立ち寄ったロンドの村はずれにて手にした槍を自分のものにしたい、というグリムの希望と、戦っていないと体がなまるからとのマロリ、スティーゴ両翳刃騎士の賛同を得てはじめたのだった。最初の頃こそ、まだ武器に慣れていなかったグリムとそこそこの戦闘をしていた翳刃騎士の二人であったが、グリムが槍を扱うコツを掴んでくるや否や、すぐに形勢はグリムに傾き、当初は三人でのバトルロワイヤル形式だったものが一対二の勝負となっていた。


三人と共にコルストに来ている筈のメルシアはその訓練を見物する事もなく、毎日麓で行われる模擬戦を尻目にアングァストを昇って門の元へ通っていた。

マロリやスティーゴはともかく、グリムすらも何故彼女が門に通っているかは聞かされていない。巫女である彼女が門に近づく事に何ら問題はないので、誰も深くは突っ込まないのだが。

ともかく、体を休めている翳刃騎士二人を余所に、グリムはメルシアを迎えに行くべくアングァストを昇って行った。これも毎日の日課となりうる事である。初日にグリムがメルシアを迎えに行かなかった時などは、メルシアがその日の内に教会に戻ってこなかったからである。


「さて、行くとするか」


別段メルシアに関して心配するような所はないだろうが帰ってこないのは流石に、とグリムはつらつらと思いながら山道へ踏み居るのだった。

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