少女と別れ
アーノイスは走った。
『まあ、既に会う事は出来んだろうがな』
王が言ったその言葉の意味。王は厳格な人物そして、冷酷さ冷徹さに恐ろしい程の決断力を併せ持った冷血漢だとアーノイスはよく知っていた。この世のあらゆる事象を“割り切る”事に長けた人間だった。それと台詞を加味して導き出される答えはそう多くない。
アーノイスは走る。ひたすら真っ直ぐに、もう一度彼に会う為に。会って礼を述べる為に。そして--。
王城裏門の道は木々に囲まれた獣道同然の路。正門から除く賑わいを見せる動の城下町とは正反対の静の空間。鬱蒼と生い茂る葉々をくぐり抜け、少女の目に飛び込んだのは。
--一軒の屋敷とそれを包み込む青白い劫火であった。
この世のものとは思えぬその炎は、天にも昇る勢いで燃え盛っているというのに、熱を感じず、周囲の林の枯枝一つ、雑草の一本にも引火せずにただ必要以上に纏わり付くように古めかしい屋敷だけを焼き尽くす。もう火の手は建物全体に回っており、アーノイスはどうする事も出来ず膝から崩れ落ちた。
彼女はこの、青い炎が如何なものかを知っていた。その名を葬焔。ロロハルロント王家に伝わる、罪人を確実に葬り去る為の霊術だ。一切の熱を放たない青白い焔は、使用者により定められた存在を塵の一つも余す事なく纏わり付いて消し去っていく。恐らくこの焔はウィジャの屋敷そのものごと、中に居る筈の彼を浄化すべく王が拵えたのであろう。
アーノイスは今更ながらに思い出す。彼女が謁見の間に飛び込んだ際、入れ替わるかのように出て行ったローブの人物。あのローブは“代理人”の、王の創った葬焔を運ぶ“伝え人”のものであったのだ。
「……アキ……チアキ!」
崩れ落ちたまま、顔を上げて青火を睨む。
「言ったのに……貴方言ったじゃない……」
瞳から零れ落ちる涙が地面に
幾つもの染みを作っていく。
どうしてこんな事になってしまったのか。王が悪いのか。それを止められなかった自分が悪いのか。幾つもの疑問が頭を駆け巡るも、いずれの答えも出はしない。
「護ってくれるって、言ったのにぃーっ!」
少女は嘆く。それは自分の不甲斐なさか、世界の理不尽さか、はたまた大切な人間を失った哀しみ故にか。
それが少女と少年の出会いの、幕引きだった。




