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白月に涙叫を  作者: 弐村 葉月
四章 焔と魔女
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―動向―

始祖教会地下、掲剣騎士団本部。広大な面積を持つ始祖教会の地下に広がるそこは、その直上にある清廉な教会とはまた違った静けさとより一層強まった厳格な空気が漂っている。

アヴェンシスの土地を護り、世界各地で人々をフェルの恐怖から護るべく剣を掲げた者たちの総本山であるが故、当然の事ではある。


グリムとメルシア、翳刃騎士の面々を引き連れ、ダズホーンは地下一階にある会議室と呼ばれる部屋に向かった。

両開きの大きな鉄製の扉を潜ると、そこには巨大な円卓が一つ置かれ、その円周に三十個程の椅子がゆったりと並べられている。この場は普段、ダズホーン以下、支部長クラスの人間が一同に会し、騎士団全体の方針を決める時に使われるような場所だ。今回はそこまでの人数が居るわけではないが、話の内容の秘匿性と、自室に入れるには騒がしい連中だと判断したダズホーンが、この部屋に通したのである。


各々を適当な席に着かせ、ダズホーンがグリムにレツァーンでの一件の報告を求めた。淡々としているが、淡過ぎて分かりづらいグリムの報告をメルシアが逐一補足していったのは、言うまでもない。


「なんだよお前、負けたのかよ! ざまーないなー!」


話を終え、開口一番にマロリの嫌に甲高い声が会議室内に木霊した。報告を加味し、今後の方針を決めるべく口を開きかけていたダズホーンは渋面。


「あん? まーな」


メルシアが牙を向こうとしたが、それを遮るかのようにグリムが先に言葉を返す。


「教団最強の名前はどうしたんだよ? あーそっか。とっくの昔に野良犬にくれてやったんだったな! 世話ないよな!」


尚も口汚く捲し立てるマロリだが、対するグリムはどこ吹く風で、天井を見るともなしに視線を投げて、シミの数でも数えているようだ。


「いい加減にしろよ牛脂。今すぐウルトラ上手に焼いてやってもいいんだぞ」


しかし気にしない様子の彼とは対照的に、その頭上に乗るメルシアが噛みつく。


「はじまったよ……これだから本部にゃ戻りたくなかったんだ」


舌戦をはじめた二人を尻目に、バーンが溜息混じりに呟いた。やる気のない下がった目尻が余計にたれているように見えなくもない。


「ま、マロリの気持ちもわかんなくはないけどねー。いかんせんアイツのセリフだと何言われてもムカつく」


褐色の女戦士もそれに同意を示し、呆れた視線を同僚の方へ向ける。


「ガガやスティーゴみたいに静かにしてくれりゃ、俺としても気楽なんだがねぇ。ん、ありゃ。スティーゴどこ行った」


バーンの目線が自分の背後に立つ大男に流れ、そのまま横の少年を通り過ぎ、一周した。


「俺喋っても誰も反応してくれな――ちょっと、待ってよ。俺はここにいるよ!」


「……空気」


「ガガさんまで……うぅ……」


寡黙な男にまでそう言われた少年は、珍しく声を掛けられた事にも気付かず、ただ項垂れていた。



「全く。なんでったってアノちゃんは野良犬なんかを騎士にしちゃったかねぇ。あいつ、礼儀正しいけど実際何考えてるかわかりゃしないよ」


未だ雑談を続けるマロリ。グリム、メルシアを覗いた人間以外の視線を感じていないのだろう。


「そうか? オルヴスの考えてる事なんて一番わかりやすいだろ。なぁ?」


シミ数えも飽きたのか、退屈凌ぎと言わんばかりの投げやりな口調で、グリムは頭上の少女へと同意を求めた。向けられたメルシアも何ら異論を持たず頷く。


「そうだな。というか牛脂。今の呼び方、死んでもアーノイスかオルヴスの前で言うなよ。多分死ぬぞ」


「だーいじょぶ大丈夫。この僕がお守役の犬っころに負ける筈ないからね!」


「どう思う?」


「話にならん」


自信たっぷりに言い放つマロリとは正反対に、二人の反応はごく冷ややかなものであった。


「……というわけだ。お前達には二隊に分かれ、ヘイズとコルストに向かってくれ」


三人は蚊帳の外にダズホーンはバーンらと今後の動向に付いての協議を始めている。やる気があるのかないのか、単純に形式ばった事に携わる気はないのか、そのどちらでもいいがいつも通りな彼らを相手にするのが面倒になったようだ。


「人選は?」


「お前に任せる。グリムはコルストに向かわせるとだけ言っておく」


当人に了承など得ていないがお構いなしである。そもそも会議に参加する気が無いまたはしていない兵の事情など一々気にしていては団長など勤まらない。

そんな団長様の命を直々に受け、やる気のない眼を閉じ、逡巡するバーン。彼も、表向きは精気にかけるが、一応一団を任されている立場だ。面倒でも必要な事はする。


「あーん……それじゃあアンナとガガ。俺とヘイズ行きな」


「了ー解」


「承知」


反対意見もなく、その指令に頷く二人の団員。


「あ、じゃあ僕はコルストか……マロリと一緒かぁ……やだなぁ」


やれやれと項垂れる少年が一人居たが、誰もねぎらいの言葉はかけてはくれなかった。一応言葉を聞いていたダズホーンが、彼の憔悴の原因となる人間を眺めていたが、そこでは未だ雑談と舌戦を展開しており、再度少年に同情の視線を向けるだけであった。

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