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白月に涙叫を  作者: 弐村 葉月
四章 焔と魔女
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―帰還―

「はーぁ、いきなり召集だなんて。やってらんないわ」


「俺もそう思」


「全くだよね! アヴェンシスの都会な感じは僕にピッタシだけど! でもここの連中辛気臭くってかなわないよね! ワクワクしないよ!」


「そうだよね、やっ」


「文句ばっかり言うなよなー。いいだろー? たまにゃのんびり休暇とんのもいいと思うぞー」


「ああ、それもい」


「……任務」


自治都市アヴェンシス。その都市の中心に位置する始祖教会、まさにその正門に五人の風変わりな男女が、それぞれ思い思いの会話を広げながら近づいていた。

何が風変わりか。それは彼らを周囲の人間と比較すればよくわかる。周囲の人間は司祭や修道女、時折掲剣騎士の鎧に身を包んだもの。そうでない一般市民も、ここアヴェンシスの都市としての特色からか、灰色等の質素な色の服を身に纏い、厳粛な雰囲気を放つ始祖教会の影響下にあるかの如く、寡黙に、会話をしていたとしても穏やかに静かに、を心がけているように思える。

しかし、そんな中で彼らは、言いすぎかもしれないが、異質に見えた。


特に、最後尾に着いて来る男は異常だ。

声はどこかしゃがれて太く、身体も2mは軽く超えて、3mくらいの高さだろうか。茶色の外套に身を包んでいるが、随分と猫背なのか背から首にかけて大きく曲がり、大きな身長がより一層巨大に見える。さらに外套は足元まで覆っており、フードがその顔を隠していた。


「おっ! あの子可愛いなぁーちょっと行って来る!」


一番前を行くのは忙しなく、かつ適度に不快な男にしては高い声でしゃべる、縦よりも横に大きな達磨のような男。年は二十歳すぎといったところか。顔も当然ながら達磨みたいで脂が乗っている。きっと肉牛か豚なら高値で取引されるであろう体型。白いシャツで覆いきれない突き出た腹を揺らしながら、黄色を基調としたパステルカラーでチェック柄の上着を羽織り、体格に似合わずちょこまかと動く。


「あーん? やめとけとよマロリ。修道女だぞアレ。後で団長にどやされんの俺なんだかんなー」


マロリと呼んだ男の背後には、最後尾の男には劣るものの長身で、ビビットの派手な単色の紫のコートを見に纏った男。無精ひげを生やし、短めの赤毛は後ろの方へ緩く流れている。タレ目なのも増長しているのか、何処となくやる気のない雰囲気である。


「ほんっと、あんた節操ないわね。その突き出した腹といい、三大欲求のメーター振り切ってんじゃないの?」


日焼けで真っ黒の肌の、目元の辺りを白く塗った、風変わりな化粧をした女。五人の中の紅一点であるが、何かの民族なのか、その独特な化粧に簡素な胸当てと腰巻だけの鎧を身につけ、手足と腹部は小麦色の肌が露出している。ここアヴェンシスの気候は冷帯に属している為、今が夏でも肌を露出するような格好を好む人々はあまりいない。


「まあ、仕方ないよ……マロリだし」


小柄で、気弱そうな下がった眉尻が特徴の少年。気質が由来しているのか、先程から発言を途中で遮られている――気付かれていないのは彼である。服装や外見も他の四人と比べて一般的だが、異質な集団の中にいるせいか、それが逆に浮いて際立って見えない事もない。とはいえ、他のメンバーが強烈なので、記憶には残らなそうではあるが。


「……む」


「あん? どうしたのガガ」


外套の大男が空を見上げたのに、紅一点である女が反応する。他の三人もつられて目線を青空へと向けた。


「何かあったのかい? いい青空じゃないか。でも、空に女の子はいないよ?」


「ガガをお前と一緒にすんなよなマロリ」


「本当だよn」


「全くよ。ガガに謝れ」


「ねぇ酷くない!? ねぇ? 僕こんなに扱い悪い子だっけ!?」


「本当に扱い悪いのは俺だよね……ははっ、はははっ……」


「……来る」


騒ぐマロリも自嘲の笑いを続ける少年も無視し、ガガと呼ばれた大男が呟く。その瞬間、何もなかった青空から突如眩い光球が現れ、地表へと落下した。着地点から風圧が巻き起こり、辺りは騒然となる。


「痛っててて……おいメルシア。この前の時もこんなんだったのか?」


「いや、そんな事は。場所指定だからかな……」


巻き上げられた粉塵の中から一組に男女が現れる。赤髪の青年と金髪の童女の組み合わせ。それだけの情報でも、アヴェンシスに縁がある人間ならだれでもわかる。巫女メルシアと騎士グリム。役職や立ち位置から、二人はここアヴェンシスでは当然ながら有名人だからだ。


「よっ、と。大丈夫かグリム」


膝を着くグリムの頭からメルシアが飛び乗り、手を差しだす。然したる意味はないと思われるが、グリムは律儀にその小さい手を取り、立ち上がった。


「こんくらいなんともねーっての」


「そうじゃなくて、その、傷の方なんだが」


「お前も心配性だな――って、あれ? 色物騎士団じゃねぇか。なんでここにいんだ?」


グリムが顔を上げ、例の妙な五人組に気づき、開口一番そう言った。


「誰が色物だよ! 僕達は“ダイヤモンド・ヴァージン”だって言って――痛ぁ! なんで叩くんだよバーン!」


「なんだよそのダイヤモンドナンタラってのはよ。勝手に決めんな」


食ってかかるマロリを紫コートの男が叩く。やる気はなさそうだが、一応この中ではまとめ役を担っているのが彼だ。


「……翳刃騎士フューザー。何故ここにいる」


何故か、若干の敵意を持った眼でメルシアが一団を睨む。


「召集」


威圧を受けながらも、ガガが簡素に呟くような答えを返した。だが、メルシアはそれだけでは納得しないとも言わん限りに、リーダー各の男――バーンに視線を移す。


「あー……あれだ。団長が来いって言ったんだよ。そう睨むなって。あんたが俺らを嫌いなのは知ってるけどよ。そう邪険にしないでくれや」


とは言われたものの、メルシアは嫌疑の眼を向けて憚らない。グリムの服の裾を掴んで前に立っているのは、何処か彼を離すまいとしているようにも見えた。


「あっははは! 嫌われてるなぁバーンは!」


「いや、あんたも好かれちゃいないわよ」


「いやいや、僕が女の子に嫌われるわけないだろー? なーメルシアちゃ」


「寄るな牛脂。焼き殺すぞ。弁当箱にラード詰めたような顔しやがって」


裾を掴む手をさらに強めながら、比例するかのように、いやそれ以上に嫌悪感を押し出した殺意にも似た視線がマロリを射抜く。流石に彼も黙らざるを得なかった。自身満々だったのだが、今は地べたに両手両足をついて頭を垂れている。


「やーれやれ……グリムがこっちに入ってくれりゃ助かるんだがなぁ。俺戦わなくて済みそうだし」


バーンは言いながら両手を頭に乗せた。

翳刃騎士フューザー。特定の教会に住まわず、世界各地に存在しているフェルを狩る事を任務としている騎士だ。フェルは、強大になれば成る程活動が沈静化する。近づかなければ無害と言えない事はないが、フェルである事に変わりはなく、近づく生物にはその圧倒的な力を持って喰らうのだ。そうなる前にそれらの脅威を排除するのが役目。故に、力のある騎士でしか任命されず、気質実力共にグリムは適任なのだが、本人はあまり乗り気ではなく尚且つメルシアがそれを良しとはしないのだ。


「お前ら、こんなところで何してやがる」


そんな中、数人の掲剣騎士を連れたダズホーンが現れた。掲剣騎士団長に巫女にグリム、そして色物騎士団とそうそうたるメンバーが一同に会し、始祖教会入り口である前庭が騒然となり、人だかりが出来ていた。


「これはこれはダズホーン団長。どうかなされたのですか?」


バーンが前に出て挨拶を交わす。ダズホーンは集まってきた民衆の様子を伺いながら答えた。


「謎の飛来物が始祖教会の前庭に落ちてきたと聞いてな。それと、何やら妙な連中がいるとの報告もあったんだが、どうやらお前らだったようだな」


「ふーん、そんなんであんたが出てくるなんてな。厳戒態勢って奴なわけな」


「グリム……どうやら、無事だったようだな」


話しかけてきたグリムを見やり、ダズホーンがそう口にする。それに、マロリが目ざとく反応を示した。


「なになに? お前なんかやらかしたのかよグリムー?」


「あー……まーなー」


歯切れが悪いのか返事が面倒なのか、曖昧な答えを返すグリム。


「その話は後だ。とにかくお前らさっさと教会に入れ。ここじゃ目立って仕方ねぇ」


その後、マロリの余計な詮索により教会の内情が露見するのを防ぐ為、ダズホーンがその場を取りまとめ、一同は教会の中へと歩を進めた。


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