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白月に涙叫を  作者: 弐村 葉月
三章 鮮血と意志
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―使命―

修道服や白衣の人間と幾度となくすれ違いながら、オルヴスは学術教会を出て行く。途中、信者や騎士に従盾騎士とバレて何度もその足を止められるのを少々鬱陶しく思いながらも、そこは鍵乙女に仕える者の建前として嫌な顔はせずに何とかやり過ごした。世界の救済の象徴である鍵乙女を、あらゆる息災から護るのが従盾騎士の役目であり使命だ。それに民衆が羨望や畏敬の眼差しを向けている事は熟知している。事自分に関しては、時折先程の青年のように腑に落ちないと反感を持っている人間と会う事もある。普通なら色々と心労がかかる所だが、オルヴスはそれらの事を小事と見なし、特に相手にしなかった。それが今回、予告なく相手の武器を破壊して戦力を喪失させるという愚行に至ったのは、今現在宿屋で療養中のグリムの名前が出たからと、もう一つ。彼が反応したのは彼を従盾騎士として認めなかった、からではなく「鍵乙女の儀式に感動」その点だった。それを再び思い返すと、オルヴスは歯噛みしたくなる。鍵乙女の儀式は決して美しいだけのものではないのだ。それを証拠に、アーノイスは昨晩も(グリムとメルシアの件もあったが)眠りが浅い様子だった。彼女が言う“声”が恐怖を煽る。それが安らかな眠りすら妨害しているのだ。


そんな事を考えて歩く内に、オルヴスは学術教会の外へ出ていた。オアシスがある場所とはいえ外は熱い。外套を着こんで暑さを凌ぐ。彼としては別にそんなもの着なくともいいのだが、服が埃っぽくなるのは嫌だし、フードも被れば姿も隠せる。教会を出てしまえばそうそう声をかけられる事はないと思う、とそんな事に多少の安堵を覚えていたそんな時。


「あ! もしかして、従盾騎士の方ではありませんか?」


白衣を着た、十中八九研究者である男にそう声を掛けられた。安心と信頼のフードを一瞬の内に破られた事に内心若干落ち込みながらも、オルヴスは笑顔で対応した。


「ええ……そうですけども」


「ああ! やっぱり。私はゼムケードと申します。ここマイラにて霊魂についての研究をしているもので……」


ゼムケードと名乗った男は学術教会にて研究室を持ち、十年以上前からこの地で霊魂に関する研究に没頭していたという。その辺りの事はオルヴスは詳しくなく、彼の名前は知らなかったのだが、一応世界的にも有名な霊魂研究の権威、である。らしい。

ともかく。彼がオルヴスに近づいたのは、どうやら研究の一環で門で行われる鍵乙女の儀式を拝見したいとの事で、その許可をもらいたかったらしい。無論、教会傘下の研究者とはいえど、最重要要件の儀式に部外者を入れるわけにはいかない。オルヴスは一にも二にも丁重に断った。


「そこをなんとか!」


「いえ、無理ですね。許可できません」


「邪魔はしませんから!」


「着いてこられる事事態が邪魔です」


オルヴスはゼムケードの事を半ば無視しながら街を出て行こうとする。それでも尚しつこく迫る男を、オルヴスはそろそろ巻く事を考え始めた頃。


「……何をしているんですかオルヴス殿」


聞いた覚えのある声が、二人の間に割って入った。それは先程、オルヴスと詰め所で一騒動演じた、彼と同い年の新米騎士のレイクであった。


「おや、これは掲剣騎士さんじゃありませんか。そうだ! 騎士さんからも頼んでくださいよ。ね?」


「頼む?」


第三者まで現れ、オルヴスのフラストレーションが溜まっていく。もう説明するのも面倒になった。ましてや、ついさっきいざこざを起こした相手も一緒など御免だった。


「ええ、レイクさん頼みますね」


もうそれだけ言って、オルヴスはその場から姿を消した。有り体にいえば、その場から逃走した。


「オルヴス殿? 話が見えないのですが――あれ?」


「一体どこへ……」


風も起こさずに消えたオルヴスを研究者と騎士は辺りを見回すのだった。

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