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白月に涙叫を  作者: 弐村 葉月
三章 鮮血と意志
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―メルシア―

一月後――ギティア大陸南部。

ダズホーンの命により、グリムとそれの協力を了承したメルシアは一路、孤独の島レツァーンに向かっていた。

一介の掲剣騎士に任すわけにもいかない、世門ルナギオルの調査の為だ。孤独である事を強く護る為に、教会傘下の掲剣騎士ですら入る事を禁じられているその場所い行く為、大人数での行動は出来ず、しかしながら未知の危険があるかもしれないとの事で、掲剣騎士団中最も実力のあるグリムが護衛に、そして門を知りつくすメルシアが適任なのだ。


「おらぁ! 乱れ撃つぜぇ!」


天高く舞い上がったグリムが上空から無数の火炎弾を放ち、地面に群がるフェルの一群を焼き穿つ。全ての敵を消滅させたところで、グリムは降り立ち、大剣を鞘へしまった。


「うむ。相変わらず豪快な戦い方をする」


「こまけぇ技なんか使ってやれっかよ。こんな雑魚どもに一々構ってられねぇっつうの。こっちの方はまだフェルが多いみてぇだしな」


メルシアの言葉に軽く伸びをしながらグリムが答える。


「ふむ。だからって毎回毎回街道を破壊していいのか? もう穴だらけで見る影もない」


「あぁ? じゃあお得意の修復術でもかけといてくれよ。俺はそういうのできないから」


「断る。自分で壊したなら自分で直すべきだ。人はずっとそうやって生きてきたんだ」


「あぁん? お前な、戦わねぇんだから霊力だって有り余ってんだろーが」


「気にするな。敵は全部グリムがやっつけてくれる。邪魔するのも悪いし」


「あーのーなー……!」


不遜な物言いをまるでやめないメルシアにグリムが若干業を煮やしたか、その顔を睨む。

足元の――ではなく、頭上の。


「邪魔する気ねぇなら人の頭乗っかってんじゃねぇ!」


「おわっ、とと。おい暴れるなグリム。落ちる」


肩に足をかけ、赤い髪の頭を両手で抱えるように掴んで放さないメルシアをグリムはなんとか引き剥がそうとする。しかし無駄な努力で、磁石のように引っ付いて離れない少女に、グリムはすぐに諦めた。


「ったく、暴れるなじゃねぇよ! 歩けよお前! なんで頭に重し乗っけながら戦ってんだよ俺は!」


「大丈夫。どんなに激しく動かれてもなんとかしがみつくからな。……“吸着スティック”」


「何お前霊術使ってんの!? ねぇ! 人の頭乗ってるだけでしょあんた!」


「お前と離れたくないんだ。仕方ない」


霊術を使い、より強固にグリムの頭にひっつくメルシア。旅をはじめてからずっと、あたかも当然というようにそのポジションを維持し続けていた。


「……はぁぁあ」


故にこの問答も何度したか、グリムはもう数える事をしていない。なのでもう殆ど無駄な抵抗とわかりきっていたが、普通に受け入れてしまってはそれはそれで、と思っているグリム。

深い溜息を吐きながらも、グリムはメルシアの両足を持って軽く跳ねて体勢を整えた。中途半端に捕まられていると逆に歩きづらいのだ。


「で、どっちに行けば良かったんだっけ?」


「しっかりしろグリム。こっちに真っ直ぐでいいんだ。道なりでいいからな」


「はいはい。しっかり掴まってろよロリババア」


肩からぶら下げられている小さな足をしっかり掴んで走りだすグリム。普通なら馬を使って行った方が効率がいい、がグリムは最低限の荷物だけ持ち、鍛練の一環と称して走って目的地を目指すのがスタイルだった。無論、走る速さは馬と同等かそれ以上。膨大な霊力を持つ彼ならではの修業方法ではある。


「むっ! ババアじゃない! お前より身体は小さいぞグリム!」


「たーたくなっつの! つーかフカシこくな。お前俺がガキの時からその外見だろうが」


「心だって乙女だ!」


「はいはい……なんてったって千年処――痛ってぇ! 噛むな!」


「えふぃかひーのないほはえはわふいんあ!」


「何言ってっかわかんねーっつの!」


くだらない言い合いを続けながらもグリムは先を目指し、メルシアはそれから離れずに二人は世門へと至る道をひたすら進んでいた。

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