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白月に涙叫を  作者: 弐村 葉月
二章 乙女と孤独
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―指南―

昼食後、明日まで待機となってしまいやることのない二人は、無人の第十一修練場へと来ていた。

グリムがいないので、オルヴスは居ても、修練場を破壊するような事態にならない為、今現在他の修練場で掲剣騎士達が鍛練に励んでいても、ここは静かなものだった。


事の発端は、またしても、いつも通り、アーノイスの突拍子もない一言。


「私に稽古つけてよオルヴス」


その昔、彼女がはじめて世界の門を巡る旅に出る前の頃に、一通りの基本戦闘指南及び護身術の基礎を教えた事はあったが、彼女が自らそういう、戦闘に関する訓練を要求する事はなかった。あまりに唐突だったので、オルヴスは何の事かと聞き返したが、アーノイスはどうやら本気のようだったので、食後の運動に、と了承し修練場にやってきたのだった。


「では、まず基本からおさらいしますよ」


動きやすそうな軽装に着替えたアーノイスを前に、普段着のままでコーチに預かるオルヴス。


「戦闘でまず第一にしなくてはならないのは霊力の解放です。霊力とはすなわり生命力精神力そのもの。それを己の内から引き出し、全身に巡らせる事で通常とは比べ物にならない身体能力を発揮できるようになります」


指示を受けて、瞑想し、自分の内にある霊力を身体に巡らせていくアーノイス。視覚的には捉えられないが、オルヴスにはその霊気の高まりが十分に感じられた。


「これは基礎の基礎となる技術ですが、安定して瞬時に霊力を展開できるようになるには主に数年の修業が必要と言われています。……アノ様、旅の間もこっそり練習していましたね?」


「そんなことないわよっ」


「はい、今霊気が乱れました。どんな状態でも安定出来るようにしておかないと意味ないですよ」


「ぐっ、わかってるわよ!」


一瞬、思ってもいないところを突かれて動揺したアーノイスが集中を乱す。物腰は柔らかだが、中身は割と鬼畜だったりするオルヴスだった。


「霊力は高めれば高める程、身体の力は増して行く傾向にあります。全身に巡らせずとも、例えば眼に集中すれば視力が高まり、腕に集中すれば腕力が増強されます。理想形としては状況に応じて自由自在にこれを操る事ですが、一朝一夕に出来る事ではありませんね」


と、オルヴスが徐に地面に片手をつけ、一呼吸で粗く砕く。そこから、彼の身の丈はあろうかという岩盤を無理やり引き剥がして持ちあげた。


「さて、普段でしたら決して割れなさそうなこちらの岩ですが、きちんと霊力を纏わせる事が出来ていれば、ひびを入れる事くらいは出来る筈です。叩いたら痛そう、と普通は躊躇しますが、それでは駄目です。あ、アノ様。いくら練習を積んでいるからといって今回は烙印術の使用は禁止ですからね?」


「何言ってるのよオルヴス。練習って何のことかしら?」


あくまで惚けた顔をするアーノイスにオルヴスは苦笑いを返しつつ言う。


「知ってるんですよア。アノ様、馬車で移動している間に烙印術の練習をなさっているでしょう?」


「そ、そんな事ないわ。だって騎手だってずっと貴方に任せて寝ているじゃない?」


「烙印術は多大な霊力を使います。大きな術の発動はしないとはいえ、微弱でも絶え間なく使用していればすぐに疲労が溜まる。だから寝ては訓練、訓練しては寝てを繰り返しているんですよね? でなければ、烙印に霊力を通すのではなく自分の身体に霊力を通す、そんな細かい事が出来るわけありませんからね」


「もう、貴方の気のせいよ! ともかく、その岩を割ればいいのね?」


話を打ち切るように、構えを取ってオルヴスの持つ岩を見据えるアーノイス。

オルヴスも話を蒸し返すような事はせず、岩を立てて地面にめり込ませた。


「はい。僕が感知する今のアノ様の霊気濃度ならば、思い切り叩けば割れます。では、思い切りどうぞ」


言って、数歩後ろに下がる。


それを確認して、呼吸を整え、アーノイスは助走。踏み込み、渾身の掌底を岩に向けて放った。


「はっ!」


打撃点を中心に岩が八方に亀裂を走らせ、瓦解する。


「どう? オルヴス」


少々驚いたように賞賛の手を叩き慣らしながらオルヴスが崩れた岩の所へ歩いて行った。


「素晴らしいですね。いや、ここまで綺麗に割れるとは。霊力の集中が上手くいっているようです。それに、ちゃんと掌底でやるように言ったの、覚えていたんですね」


「ふふん。ちゃんと覚えてるわよ。『殴り慣れてないでしょうから掌底の方が威力が出しやすい』だったかしら?」


「その通りです。では、次は霊力の足場形成をしてみましょうか」


「任せなさい」


その後も戦闘基礎指南を続ける二人。やがて夕方になり、たまたま通りかかった大司祭にオルヴスが少々説教を喰らうまで、二人の訓練は続くのだった。

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