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白月に涙叫を  作者: 弐村 葉月
二章 乙女と孤独
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―行程―

散々グリムに“訓練”を施したオルヴスは、アーノイスと共にダズホーンに呼び出され、始祖教会掲剣騎士団会議室に赴いていた。

アーノイスも目が覚めたので、彼らを旅から呼び戻した用事を話すとの事だった。


「一週間程前、セパンタの次のコルストの町、そこの門のを警備していた掲剣騎士が襲撃された」


教会の関係者を狙った襲撃。一昔前で有れば、門の民衆への認知が足りなかった事もあり、事件は良く起きていたらしいが、ここ数百年は特に報告はなかった。

世界に棲む人間が門の必要性を認識しているからである。門の効力が薄い所では未だに教会の教えに反発を示す者たちもいるらしいが、教会はそれほど問題視していない。


「それだけでなく、セパンタを除いた門でも不審な人影を見たという報告も上がってやがる。“世門ルナギオル”がどうなっているかは知らんがな」


世門。初代鍵乙女がはじめに造ったと言われる門で、世界で最も孤独と言われる無人の孤島、レツァーンにあるとされている最古最大の門。鍵乙女の旅路の行程には含まれず、現在は象徴としてあり、存在は教会上層部のみの秘匿とされ、島にはメルシアのかけた強力な結界が施されいるという徹底ぶりである。


「で、まずは世門の調査から――」


「いってぇぇぇえ! メルシア! 慣れてねえのに消毒液とか使うんじゃねぇよ! 目に入ったろうが!」


「グリムがじっとしてないからじゃないか! って、あ! 取るなグリム!」


「うっせぇ! こんなんだったら自分でやった方がマシだっつーの!」


「そこの二人に行ってもらおうと思ったんだがな……」


騎士団団長に呼ばれた筈なのだが、怪我の治療をしながら何故か痴話喧嘩をはじめている巫女と騎士。

団長殿は呆れて物も言えない様子。オルヴスは考え事をはじめ、アーノイスはまだ喧嘩を続ける二人をぼうっと見ていた。


「私がやると言ってるんだ。素直になるんだ」


我儘を言う子供――姿も子供だからそのまんまなのだが――のようにグリムが高々と持ち上げるガーゼと消毒液に飛びかかろうとするメルシア。


「どうせならお得意の呪術でパパっと治してくれよなぁ。わざわざこんな使わなくたってよぉ」


「なんだ治癒術が使いたいのか? 君に素養は多分ないが、術式は組み方だ。私が手取り足取り教えてやろう」


「いやそれだったら普通に救護班に頼むわ」


「むっ、それはダメだ!」


消毒液が入ってしまい、若干涙ぐみながらグリムはメルシアの両手から逃れようと両腕を高々と上げながら悪態を吐く。


「なんでだよ! お前に消毒液点眼されるよりは万倍マシだ!」


「そんな事言って救護のとこの女の子に手を出す気だろう!」


「出さねぇよ! お前は俺を何だと思ってんだよ!」


喧騒は絶えず続き、終わりそうもない。当てられたアーノイスが流石に見ているのも飽きてきた頃、ようやくオルヴスが口を開いた。


「世門の方は団長にお任せします。アノ様、僕達は先にマイラに向かいましょう」


「マイラに? ヘイズじゃなくて?」


襲撃があったと言うコルストに直接向かうのでは得策ではないと判断したオルヴスは、アーノイスに、順番でいえばコルストの次の次に当たる、普段の順番で言えば最後の門がある町だ。ヘイズはその前。


「ええ。一つ飛ばしでマイラに向かった後、ヘイズ、コルストと向かう事にしましょう」


門のある場所は全てアヴェンシスとほぼ等距離に存在し、五角形を描いている。故にアヴェンシスから各門への接続はあまり変わらない。一度戻った以上、次への経路が一直線ならばどこからへ行こうと問題はないのだ。


「オルヴスがそう言うなら……問題ないですね? 騎士団長」


オルヴスの提案に従い、ダズホーンに確認を取るアーノイス。


「それが得策です。しかし先遣隊をマイラへ向けて置きましょう。何があるか、わかったもんじゃない」


「頼みます。では、僕は失礼します。マイラへ向かうと成れば、砂漠を越えなくてはなりませんからね。準備をしてきます。出発は明朝ということで」


「待ってオルヴス。私も行くわ」


宣言し、会議室を後にしようとするオルヴスにアーノイスが続く。


「構いませんが、街中に出る事になりますよ? よろしいので?」


「私が行くって言ってるの。しっかり警護しなさいよね」


不遜にもそう言い切るアーノイスにオルヴスは苦笑を返した。


「承知しました。では、参りましょう」


そうして、二人は会議室を後にした。

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