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白月に涙叫を  作者: 弐村 葉月
二章 乙女と孤独
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―始祖教会―

「あ、ああ、鍵乙女様! お目覚めになられましたか」


ああ、ほら来た。

アーノイスは心の中でそう愚痴る。心配してくれるのはありがたいが、行き過ぎても困るものだとつくづく思う。

事、彼女の目の前に現れた、ティレド大司祭については。

大司祭、という名の通り彼は教会の審判団以下の全組織の総括(事内政方面で)を担っている人物で、真面目で実直、信仰心に厚い信者のお手本のような存在と民衆に認知されている人物であるが、アーノイスの評価も全くの同意見だった。


「驚きましたよ。ダズホーン団長が急遽鍵乙女様をこちらへお呼びするよう通達されて、その上到着した貴方様が従盾騎士オルヴスの背に乗せられておいでになるものですから。ともかく、ご無事で何よりです鍵乙女様」


捲し立てるように心境を吐露した後、恭しく一礼する大司祭。


「大司祭様の祈りが私に届いたのやも知れません。ご心配をお掛けしました」


それに鍵乙女として返答するアーノイス。それはもう手慣れた様子だった。


「それでは失礼致します」


「あ、ああ、お待ちになってください!」


会釈をして通り過ぎようとするアーノイスを大司祭が呼び止める。


「グリムの奴を見かけませんでしたか? 報告書を出すよう言ってあるのにもう三カ月分も放ったらかしでして……」


心苦しさと怒りがないまぜになっている表情を見て、アーノイスは笑いそうになるのを堪えた。

ティレド大司祭、との名前通り、彼はグリム=ティレドの父でもあるのだ。上司としての怒りと父としての怒りが混在しているのだろう。


「見ていませんね。見掛けたら伝えておきましょう」


「そんな、鍵乙女様のお手をわずらわせるなど!」


「見掛けたら、ですから。期待はしないでください。それでは」


「あ、ありがとうございます。お引き留めして申し訳ありません」


大司祭であったり信者であった父親であったり、忙しい人だとアーノイスは思いながら、その場を後にした。






その後も司祭や修道女、礼拝に来ていた信者の人々から拝まれ会釈を返してはを続け、頬が引き攣って来た頃、ようやくアーノイスは目的地だった修練場へとやってきた。

修練場とは、主に教会傘下の掲剣騎士団クァイターが日々の鍛錬に使う場所で、新人の掲剣騎士は皆一度ここに集められて二年の鍛錬を終えた後、各地の教会へと派遣されるようになるのだという。修練場は全てで十一あり、始祖教会の一階にそれぞれがかなりの広さを誇って設置されている。

その中でも一つ、特別修練場と呼ばれる場所がある。

それが現在アーノイスが辿り着いた第十一修練場だ。他の修練場と違うのはまず、天井がない、つまりは屋外に設置されている事が一つ。通常の二倍の広さとなっている事が一つ。さらに地面は石造りで舗装されているのだが、そこに巨大な呪印が組まれている事だ。防破と修復の呪印。通常の修練場にそんな大層なものはない。では、何故ここが特別そうなっているのか。理由は簡単だ。使うと必ず修練場を完膚無きまでに破壊する人物が現れたからだ。それも二人セットで。


掲剣騎士同士や世界各地の強者が集まっての闘技大会でも使われるその場は、周囲をぐるりと囲う高所の見物席があり、アーノイスはそこから修練場を覗く。下手にその二人が居て、万が一訓練をしているとなると、巻き込まれてしまう恐れがあるからだ。


だが、その心配には及ばなかった。

セットの内一人はいるが、もう片方はいない上に戦っているわけではなく、場内の中心で何やら立ち話をしているようだ。


一人は赤髪の青年、グリム。それに応対しているのは先程大司祭が口にしていた、掲剣騎士団団長、ダズホーン。精悍な顔立ちに鋭い眼光。無精髭は頭髪と同じ深い茶色をしている。筋骨隆々とした体躯で、腰に剣を差し、羽織っている銀のマントには黄金のタウ十字が大きく刻まれている。それが、全掲剣騎士を率いて立つ男の姿だ。


どちらにせよ、彼女にはあまり関係ない。オルヴスがいないのなら、グリムに大司祭からの伝言を伝えて行こう、と思い観覧席を降りようとする――が。


「そうか。その村は全滅していたってのか」


重く響く男の台詞に、アーノイスは固まってしまった。

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