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白月に涙叫を  作者: 弐村 葉月
一章 鍵と盾
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―火葬―

「これで、最後ですかね」


村の中心となる広場。そこに一人立つオルヴスとその眼前にうず高く積まれた百体程の死体の山。それは全てこの村の家々から出てきたものだった。どれもまだ新しく、つい先程命をフェルに命を奪われたと思われる者達の骸。百体、とはいったがそれも概算で、中には原型が留められておらず一体として判別できなくなってものが少なくなかったからだ。


「ふぃー、全く、鍵乙女様の力っていうのはすげぇな。やりすぎじゃねぇか?」


オルヴスの背後からグリムがやれやれと言った様子で歩いて来る。フェル討伐から帰ってきた彼にオルヴスは、先程アーノイスが放った烙印の術がどこまで届いたかの調査を頼んだのだった。


「向こうの方の山が一つなくなってたぜ。フェルは一匹だったんろ? お前がやった方がよかったんじゃねぇかオルヴス」


「貴方だって森林に穴開けてきたでしょう。人の事言えた義理じゃありませんね」


「村の端っこ陥没させた奴に言われたくねぇっつの。まあ……そんな心配も時既に遅しってか」


やるせなさを吐きだすように唾を吐き、オルヴスと共に前方の死体の山を見つめるグリム。その視線にはこれまでのようにふざけた感じはなく、少しの憂いを帯びていた。


「……僕のミスです。フェルの気配を感じ取る事が出来ないとは。気が抜けていたのかもしれませんね」


オルヴスはそう言って、額を抑える。少女の頼みを果たしにここまで来たというのに、結果、その少女すら助ける事が出来なかったのだ。


「俺達、何をしにこの村に来ちまったんだかな」


そんなオルヴスより前に出て、死骸達の前でしゃがみ込む。


「こんなものしかなかったけど、ねぇよりマシだろ」


言って、グリムはポケットから小さな一輪の赤い色が鮮やかな華をひとつ手向けた。


「アノ様にこれを見せるのは辛い。グリム、頼みます」


踵を返し、アーノイスを寝かせている馬車の方へ向かうオルヴスがそうグリムに告げる。

村の全ての人間が殺されていたというのに、自分達の馬車馬だけが死んでいなかったというのは、何という皮肉だろう。


「……ああ」


言葉を受けてグリムは立ち上がり、担いでいた大剣を地面に刺す。そこから走る火炎が地を走り、死者達を円形に囲む。


「ごめんなユレアちゃん、熱いだろ。せめて綺麗に葬ってやるから、少しだけ我慢してくれな」


立ち上る葬火。いつもグリムが起こす火の荒々しさはそこにはなく、ただ静かに、時折吹く風に少しだけ揺れる。誰が見ているわけでもないというのにその炎は厚く、空へ送られて行く死者達の最後の姿を隠しているようでもあった。


やがて遺骨までも灰と為し、グリムは火葬を終え、村の出口にて待つオルヴスの元へと戻るのだった。


「御苦労さまですグリム」


「やめてくれよ。俺は、何も出来ちゃいない」


「……そうですね」


振り向き、来た時とほぼ変わらない筈なのに暗く写る村を眺めるオルヴス。だがそれもすぐにやめ、馬車の手綱を引いた。

馬が一声鳴き、その歩を進めはじめる。


「行きましょう。もう、僕達に出来る事はありません。彼らの霊魂が安らかに眠るのを願うだけです」


そう宣言するオルヴスにグリムは何も返さず、彼らは無人と化した村を後にした。

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