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白月に涙叫を  作者: 弐村 葉月
終章
168/168

白と救世主

――始祖教会前庭。

雲ひとつない晴れ渡った青空の下、そこには今、アヴェンシス中の人々が所狭しと集まっていた。騎士から司祭から修道女から民衆に至るまで、多種多様の人々が、決して狭くはない前庭に、すし詰めのような状態で立っている。庭の教会の正門側に位置するところは少し別枠でスペースが取られているが、そこには教会と親交のある各国の代表者が集まっている。ロロハルロントのペルネッテやシュウの姿もそこにはあった。老若男女から国籍、立場に至るまで、様々な人々が見上げるのは、教会の正門の上に特設されたバルコニーに立つ女性だ。

バルコニーの中央に立つは、鍵乙女の正装たる白いドレスにさらに、騎士団の紋章が刻まれた肩掛けの外套を身に纏っている。固く、彫像のように表情は動かず、ただ眼下に見える人々を映していた。その彼女の後方には、声を張り上げ文書を読み上げるアバン。どうやら、今年の騒動に際した鍵乙女の功績を語っているらしい。さらにその後ろには騎士団長のマントを羽織ったグリムと、成熟した女性の姿のメルシアが並んで立っていた。


「――そうして鍵乙女は亡国の亡霊を打ち倒し、その黒幕でもあった裏切り者の従盾騎士をその手で討った! これは、まさに世界を安寧に導くに足る、偉業である事は間違いない!」


声を大にして力強く宣言するアバンに負けじと、民衆から割れんばかりの歓声が巻き起こる。「鍵乙女様!」「戦乙女様!」と口々に叫ぶ者あれば、両腕を上げて惜しみない拍手を贈る者も居た。その大歓声の中で、アバンはアーノイスに咳払いをして合図をする。バルコニーの中を一歩、アーノイスが踏み出すと、声が止んだ。


「此度の事態は、このアヴェンシスを、他の多くの国々を、世界を揺るがす大事でした。ですが、私達は平和を取り戻しました。そう私達の手で。誇ってください。ここにお集まり頂いた皆様も、そうでない方々も。世界が護られたのは、私の力のみではありません。全ては、日々平穏を生きんとする全ての命の願いがあったからこそです。全ての命の未来が、幸福であらんことを!」


アーノイスの言葉が終えると共に、先程よりもさらに大きな歓声がアヴェンシス中に轟いた。役目を終えたアーノイスは、一歩下がるとそのまま踵を返し、バルコニーの出入り口にゆっくりと一歩一歩確かめるように歩んでいく。

その横顔を、メルシアは横目で盗み見ていた。ギリ、と小さく音が鳴る。それは、アーノイスの噛み締めた歯が軋んだ音だった。思わず、メルシアは眼を逸らした。見ていられなかった。通り過ぎる、世界の救世主。未だ続く歓声に紛れ、仄暗い呟きが、落ちた。それはバルコニーの出口に居たグリムとメルシア以外には、決して聞こえなかっただろう。それぐらいに小さく、だが、どんな深淵よりも昏い声だった。


――――――――――――――――――――――――――――――――うるさい。







当作品をお読み頂きありがとうございました。拙い文章ではありましたが、少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。


尚、当作品には続編が御座います。

題名は「黒月に涙哭を」

純然たる続き物として書いておりますので、よろしければこちらもご一読頂けると嬉しく想います。


それでは、私めの作品にお付き合い頂き、本当にありがとうございました!

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