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白月に涙叫を  作者: 弐村 葉月
一章 鍵と盾
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―急襲―

「そういえばオルヴスさん。貴方は何故従盾騎士に?」


グリムが戦闘をはじめる数分前。

アーノイスとユレアが風呂に行っている為、オルヴスとクオンは大の男二人がお茶を啜っているという何とも侘しい事になっていた。


「何故? とはまた難解な問題ですね。鍵乙女は世界の要。それを唯一直接守る存在が従盾騎士です。世界の殆どが教会の教えを信じている中、そんな大役に憧れるのは普通の事ではありませんか?」


自嘲気味に笑いながらオルヴスは答える。その答えに、クオンは可笑しそうに笑う。


「憧れる、ですか……確かに従盾騎士というのは大きな名誉ですよね。腕に覚えのある者なら、あるいは英雄を夢見る少年なら、皆がこぞって目指すでしょう。でも私には、貴方がそのどちらでもなく見え、また貴方が鍵乙女を守りたいと思っているようには見えない。今の答えもそうです。貴方は鍵乙女ではなく……アーノイス様を守りたいのではないのですか?」


クオンの穿った言葉にオルヴスは笑みを崩さなず、また返答もしなかった。その無言が肯定なのか否定なのか、はたまたそのどちらでもないかはクオンも測り切れなかった。


「鍵乙女様は本来、門を巡る旅をするのをまず第一にし、それ以外の補佐。そう、今回のように民衆が求める助けの為に教会があるのでしょう? まあ、この村に教会はありませんから、私達に実感はないのですが……。それでも、世界がそういう仕組みなら、いくら直接頼まれたとはいえ、こんな小さな村に足を運び、あまつさえ村人の少女の願いまでも聴いてしまう。教会には鍵乙女という存在からさらに“女神”なるものまで存在していると教えがあるそうですが……」


「アノ様の行動がおかしいと?」


話しの続きをオルヴスが引き継ぐ。しかしその台詞をクオンは笑って否定する。


「違いますよ。最も、つい先程まで私は鍵乙女様というのはもっと機械的なというか……私達とはまるで違う未知の存在だと思っていましたが、実際にお会いしてみたところ、基本的には私達とそう変わらない人間に思えます。だから、頼まれごとを引き受けるのも、少女の我儘を聞き入れてくださるのも、おかしいとは欠片も思わない。変だとすれば、どちらかといえば貴方の方ですかね」


クオンはあくまでオルヴスの方に話しを持って行きたいらしい。目の前に従盾騎士という世界に一人しかいない人物がいれば当然の反応とも言えなくもない。


「鍵乙女としての彼女の意志は今グリムさんがお一人で行かれたフェルの討伐の方にありました。しかし、貴方はアーノイス様自身の意志を確かめた上で現在の措置を取った。そこが少し気になっただけですよ」


言葉を切って、彼はお茶を口に運んだ。


「良く見ていますね貴方は。まあ、そうですね。僕の事に関してはご想像にお任せします、とでも言っておきましょうか」


クオンの鋭い言葉に対してもはっきりとした返答も態度も示さず、オルヴスは受け流す。そう言われては仕方がない、とクオンも諦めたよう。


「それにしても、グリムさんは大丈夫でしょうか……フェルは一体でも戦いの術を知らない人間たちでは相手にならない。ましてや、あの森にはフェルが群生している。そんなところにお一人でなど」


「グリムは強い。元々持つ強大な霊力に加え、特異な体質まで持ち合わせている。精霊クラスのフェルでもない限り死にはしませんよ」


言って、オルヴスはカップを口元へ運ぶ――否、運ぼうとして止まった。


「どうかしまし――うわっ!」


大きな地震が起きたと思われる程の揺れがクオンの言葉を遮る。カップが音を立てて揺れ、紅茶が零れる。


「なにっ!? どうしたの!」


風呂からあがってきたアーノイスとその足にしがみつくユレアも驚いた表情で窓の外に何かを探す。そんな中、揺れがおさまったのを確認し、一口お茶を飲んだオルヴスが何でもないと言うように答えた。


「グリムが戦いはじめましたね……それと」


オルヴスの視線が窓の外を眺め、そしてクオンへと移る。彼は絶望した表情で顔を抑えていた。


「フェルが村の近くまで来ていますね。結界が見破られましたか」


それだけ言ってオルヴスは席を立つ。


「アノ様はお二人をお願いします。数体が近くにいますが、まだ村には入って来ていないようです。僕が片付けてきましょう」


「おにーちゃん……」


事態の重大さを感じ取ったか、ユレアが兄の元へ近付く。クオンは額に脂汗を浮かべたまま、無理矢理笑顔を作って妹の頭を撫でた。


「大丈夫さユレア。鍵乙女様に従盾騎士様がいるんだ。何も心配は要らないよ」


クオンにしがみ付くユレア。

普通の人間ではフェルに太刀打ちできない。小さいものが一匹ならまだしも複数。村の近く、となれば出来る事は隠れるか、逃げるか。


「待ってオルヴス、私も――」


守らないと。そう思ったアーノイスが振り向いたが、そこに既に従者の姿はなく、不作法に開け放たれたままの扉が小さな音を立てて揺れているだけだった。

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