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白月に涙叫を  作者: 弐村 葉月
九章 亡霊と復讐
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―終始―

赤黒の一閃が、門を切り崩す。重き鉄塊が落ちる低い落下音と共に、甲高い、人とも動物とも、命あるものとも無機物とも取れない悲鳴の如き叫び声が響く。螺旋を描き天へ昇る濁った霊魂には振り向かず、クオンは倒れた千年大樹、門から踵を返した。彼の歩く先には、鏡の如き刀身が突き刺さったまま、地面に横たわっているダズホーンの亡骸がある。そのすぐそばでクオンは止まり、鏡の剣の柄に手をかけ、無造作に引き抜いた。刀身に付着した血や泥を一振りして払うと、宙空へ剣を刺して空間の歪みの中へ剣を送る。そのまま、動こうとしないクオンにユレアが後ろから近づいて、傍らに膝を着き、預かっていた仮面を謙譲した。


「泣いて、おられるのですか? クオン様」


いつもと変わらない平坦な調子の声で、ユレアは言う。彼女から仮面を受け取り、クオンは再びそれをつけながら、まるでユレアとダズホーンから目をそらすように、体の向きを変えた。


「……馬鹿を言うな」


それだけ言って、クオンは何処へともなく歩を進める。


「申し訳ありません……」


また変わらぬ声音で謝罪を述べながら、ユレアは立ち上がり、自身の主の背を追った。立ち去り行くダズホーンの死に場所へ、眼帯に隠れた“眼”より流れた、血の涙を残して。

歩きながら、クオンはおもむろに上げた右手に掌大はあるガラス玉のようなものを歪みより取り出し、仮面ごしにそれを覗き込む。ガラス玉とは言ったもののそれは黒褐色に濁っていて中が見えるはずもない。だが、クオンはそれを覗き込んで、満足そうに呟いた。


「あと少しで気は熟す。それで全て終わる。いや、はじまりだ」


歪んだ、それでいて何処か物悲しい笑みで、クオンは笑う。夜へと移り変わった空に、虚しく溶けて。そんな中、セパンタの街へと至る路より数人の足音が聞こえてきた。

大方、先ほどのクオンとダズホーンの戦闘で起こっていた轟音が止み、様子を見に来たのだろう。数人の掲剣騎士が剣を抜き放ち、クオンとユレアを睨み、また横たわるダズホーンを見て驚愕している。


「貴様ら! よくも騎士団長を――」


激昂し、クオンらに襲い掛かろうとする騎士達。それは尊敬する上司を殺された恨みからか、冷静さを欠いていたと言わざるを得ない。たった数人で、騎士団長を倒した相手に挑む事それが、無謀なのだから。

彼らの誰一人、最後まで言葉を言い切ることは無かった。騎士達全員の体が、完全に時同じく裁断される。箇所や向きの違いはあれど、全てがあまりに綺麗に二分割されていた。そうして完全に命を絶たれた彼らの中に、大鎌を降り抜いたユレアの姿を捉えられたものが居たとは思えない。彼女が行ったのは、直立し、不動の状態でのただの横一閃。霊気の斬撃を飛ばしたわけでもないというのに、彼女の鎌はそこにあったいくつかの命を簡単に散らしていた。振り切った鎌を空間の断裂い戻し、ユレアはクオンへと声かける。


「早々に立ち去りましょうクオン様。これ以上こられては厄介な輩が現れないとも限りません」


「ああ、そうだな」


短く返事を返し、クオンは持っていたガラス玉を掲げた。次の瞬間、最後の門があったセパンタから、二人のエトアールの亡霊は完全に消え去っていた。

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