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白月に涙叫を  作者: 弐村 葉月
一章 鍵と盾
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―炎舞―

「フェルちゃんフェールちゃんっ、どっこかなぁ」


その頃。フェル討伐を一人で任されたグリムは村の奥の森の中を探索していた。

意気揚々と己が大剣を振り回して闊歩する姿は、不真面目で不謹慎だが、本人は至って本気である。

誰よりも強く、何よりも強く、そうありたいと願う彼はその理由を「その方が楽しいから」と答える。強くなればもっと強い奴と戦える。彼はそう言い、故に度々、自分よりも強いと唯一認めているオルヴスに突如襲撃をする、なんて事も彼の中では不思議でも可笑しくもなんともない。


「おっ、この匂いは」


何かに気付いたらしく、今度は走り始めるグリム。そして、そのまま一本の大木の枝に飛び乗ると、視線を下方に巡らせあるいってんで止まった。


「目標発見、てな」


まるで宝物を探し当てたかのように口元を歪ませる。その目にはフェルの一段が写っていた。

1mはあろうかという暗い青緑の体躯をした蜘蛛の姿をした群れ。その中心には熊とも獅子とも取れない、四脚の巨大な獣が座り込んでいる。大きさは頭から尾までで10m、肩の位置は7m程だろうか。全身は燈赤の針のような毛に覆われ、尾は蛇のようで太く長い。目は赤、口からは紫の牙が除いている。

フェルの強さは基本的にその大きさで目測出来る。その場にいる蜘蛛程度の大きさ一匹で掲剣騎士一人と言った所。しかしながら中央に座す獣はもう大きさでは判断できないところまで成長している。

フェルは喰らった命の数だけ強大になると言われ、ものによっては一体で国をも簡単に滅ぼすという。


「ひい、ふう、みい……あ、面倒くせ。取り敢えずちょいちょいいるな。ちょいちょい」


フェルの数を数えていたらしいが途中で投げ捨て、立ちあがって大剣を肩に担ぐ。

小さなフェルが巨大のそれの近くに集まるのは不思議な事ではない。弱い存在は強い存在の庇護下にありたいと思うのはごく自然な事である。だが、彼らが他の動物らのようにそこで社会を形成しているのかは謎だが。


「あのデカイのは最後にとっておくとして……ま、取り巻きからやっちまましょうかね」


グリムの姿が枝の上から消える。


「グリム・ティレド、行くぜぇぇえ!」


続き、天から絶叫。解放した霊力が火炎となりグリムを包む。そのまま、地表目掛けて落下した。


落下点の周囲に居た数体の蜘蛛が一瞬にして蒸発し、白い光の粒子が空へ逃げて行く。フェルは死んだとしても躯を残さない。光となってただ空へと還るだけだ。


突然の襲撃者にフェル達は一歩後ずさるも、それが人間――生命体だと認知するとすぐに牙を剥き出して金属が擦れるような声を上げた。

その中で一際、燈赤の獣が大地を震わせる咆哮を放つ。


「まあ待てよ。お前は後回しだっつの。まずは前座! 行ってみようか!」


獣の咆哮に促されたように数体の蜘蛛がグリムへと飛びかかる。同時、炎の塊がそれらを“轢いた”。

一瞬にして獣の横を通り過ぎ、背後に回る。炎が解け、剣を担いだグリムの姿が顕わになった。先程居た場所からそこまでに、一本の灰の路が出来あがっている。


「遅すぎるぜぇ、お前らちゃんと動けよなぁ……でないと」


グリムの足元に再び業火が巻き起こる。瞬く間にそれは彼の身体を包み、まるで焔の鎧を作りあげていた。


「すぐに消し炭になんぜ!」


閃熱が駆ける。恐れを為さず飛びかかった蜘蛛が、グリム本体に触れることすら敵わず蒸発した。

急停止、急加速。その二つを繰り返し、フェルごとその場一体が焦土と化していく。

フェルは引く事を知らないのか、次々とグリムに襲いかかって行くも、その全てが次の瞬間には跡形もなく消え去っていく。


「おらおらどうした! 楽しませろよぉ、弱い物いじめは趣味じゃねぇんだが……っ!」


あくまで直進を続けていたグリムが突如後ろへ飛び跳ねた。そこへ振り下ろされる巨大な四指の鉤爪。


「ちょ、待っ、危っねぇー。なんだよ、我慢しきれなくなったのか?」


火炎の鎧の一部を解き、眼前の自分のと同じ色の瞳を見つめるグリム。彼が避けたその場所は獣の手により大きく破砕され、地割れが彼の足元まで及んでいた。


「だから待てって言っただろ? まずは前座の蜘蛛ちゃん達から……ってあれ?」


辺りを見回す、がそこに既に小型のフェルの姿は一匹もなく、残りは眼の前の獣のみとなっていた。


「なんだよ、ちょっとジョギングのつもりだったんだけどなぁ。ま、仕方ねぇか」


言って、戦闘はじまって以来、グリムがはじめて構えを取る。大剣を右手に肩に担いだまま、腰を落として左手を前に翳し、標的を睨む。

一方フェルも姿勢を低く保ち、いつでも飛びかかれる体勢に移っていた。


「いいねぇ……百か? 二百か? お前が喰った霊魂の数だよ。まあいくらだっていいさ。その分、俺様が楽しめる」


グリムの眼が爛爛と獣を睨む。闘争本能に染まり切った色をしていた。


音が鳴る。グリムの飛び火で燃えた樹が割れる音。それが、合図になった。


激突するフェルの爪とグリムの大剣。その衝撃と剣に込められた爆炎が辺りを包みこんだ。

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