白と瓦礫
はじめまして。
まだまだ至らぬ若輩者ですが、楽しんで読んでいただけたらと思います。
作中では多少のグロ描写、微エロ(多分)が混在すると思われますので、その点を留意していただけたらと思います。
誤字・脱字等ありましたら遠慮なく指摘していただけるとありがたいです。
それでは、この作品が貴方の心に少しばかりでも残らんことを願って。
貴方のことばに、私は笑った
貴方の言葉に、私は涙した
貴方のコトバに、私はまた泣いて、でも、笑うことができた
青年は少女を抱いて座っていた。
冷たい瓦礫の上、温もりのない月明かりの下。硝煙すら上がり疲れた戦災の跡地。命すらも時すらも凍りついたその場所で、青年は眉一つ動かさず、腕の中で瞳を閉じる白雪のような少女を見つめていた。
肌も髪も服も全てが、青空を泳ぐ雲や降り積もった新雪のように真白く、美しく整った顔に儚さを添える。荒廃した周囲の情景に比べ、少女は不自然な程に美し過ぎた。煤の一つもついていない、それは彼女を抱く青年の尽力によるものであった。
はじめは恩と恨み。そして誓い。さらにはまごうことなき、唯一の愛がそこにはあった。
――愛。彼女には、ちゃんと届いて居ただろうか――
そう考え、青年は口を開きかけるが、直ぐに言葉を呑み込んだ。
少女の目は開かない。彼女はずっと、目を閉じたままだ。青年は開くのを強要しようとはしない。開くのも閉じるのも、全ては彼女の意志。彼女の意志を何よりも優先する、それが青年の誓いでありまた愛であった。
「いつまでそうしているつもりだ?」
近づいて来る足音と、芯のある強い女声に青年はゆっくりと顔を上げた。――自分の鼓動以外を聞いたのは久しぶりだ――そんなことを思いながら。
視界に写ったのは一組の男女。どちらも久方ぶりに会う、よく見知った顔馴染みであったが、青年はその来訪者に何ら感慨も感情も抱けなかった。そんなものは既に、心の何処へも存在しない。
「何の用ですか」
抑揚のない声で青年は問う。
「先月廃墟になったある村に何隊かの先遣隊が派遣された。たが、その何れもが島に着いたと思われる頃に音信不通になっているらしくてな」
「それの調査に貴女が派遣されたと?」
問いに答えた金の髪の女性の後を青年が引き継ぐ。女性は表情を変えず無言でそれに肯定と答えた。
青年は鼻で笑い、一度腕の中の少女に視線を落として、再度女性と、その隣の少年を見据える。
「貴女が調査の為だけにその姿で現れ、尚且つ騎士団長代理まで引き連れて来たと?」
そんな馬鹿な話はない、と青年は言外に付け加えて言葉を切る。騎士団長代理と呼ばれた少年が一歩、青年の方へと歩み寄った。
「俺達の任務は先遣隊失踪の原因究明とその要因の排除だ。お前がここを去ってくれれば、それで済む……わかってんだろ? ここに居たって、何も変わらない。なぁ……チアキ」
「黙れ」
名を呼ばれ、青年は虚無であった感情を、突如燃え盛る憤怒に色を変えて少年を睨んだ。その眼には、目の前の少年と女性、その向こうのモノへの憎悪の焔が宿っていた。
「その名前で呼んでいいのは彼女だけだ……ここへ居たいと言ったのは彼女だ。彼女が動くと言うまで、僕はここにいる。彼女が選んだ彼女の居場所を僕は守る」
そう言って、青年は少女を静かに瓦礫の上に横たわらせ、立ち上がる。彼は認識したのだ。目の前の二人を、敵だと。
「何処かの誰かが選んだのを良い事に、利用するだけ利用して、苦しめるだけ苦しめて。背けば反逆だと貶めて、辿り着いた居場所さえ奪って……貴様らにわかるのか。彼女が流した涙の数が! 引き裂かれた心の痛みが!」
青年の瞳はもはや眼前の二人など見てはいなかった。見えているのは彼らの向こう側。少女からあらゆるモノを奪った、巨大な存在。
「誰であろうと容赦はしない。彼女を苦しめようとするモノ、彼女から何かを奪おうとする存在全て! この僕が喰らい尽くす!」
白き月の下で、一人の青年が叫ぶ。それは、涙を咬み殺した哀しみの叫び――。