冬・初登校
真っ白の雪を一人で踏みしめている少女がいた。
右肩に掛けている鞄を左手で落ちないように抑えている。制服の上に使い古されたコートを着て、坂道を登る。
(お、お貴族様、って、馬車使うんでしょ、それ、ズルい!)
少女は自身の左を通っていくランプの付いた馬車を見送る度に恨めしそうに視線を送った。
しばらく歩いていると坂を登りきった。
だが、登りきるのが目標なのでは無い。目標は学園に着くことなのだ。
幸い、あとは下るだけで良さそうだ。
(…ひっろい…明るいし)
少女は目を輝かせる。
学園一つだけで街の学校六個分はありそうだ。いや、それ以上、もしかしたら小さな街ひとつ分に当たるかもしれない。
窓から漏れる灯りが雪に反射し輝いている。
「ここで過ごすんだ…」
思わずこぼれたと言うような声。白い冷気が口から出てくる。
少女は、少し小走りをし氷の上を滑りながら坂を下る。
「合格者届を提出してください」
「は、はい」
少女は校門の前にいた警備をしている騎士団の人に一通の手紙を渡す。その隣ではまた、貴族の馬車が通った。貴族は、騎士団の人に停められないらしい。
(いいなぁ)
少女が馬車の向かう先を見ていると騎士団の人が手紙を返した。
「確認取れました。最後に貴方の名は」
「え、あ…。フィラです。フィラ・セグレタです」
少女ことフィラがピンッと背を伸ばして答えた。騎士団の人は興味無さそうに紙に何かを書いてあっち行けと言うように手で払った。
(…うぅ、やっぱりそうだよねぇ)
フィラは肩を落として校門をくぐった。
♧♧♧
「ひぇ……」
フィラが教室に踏み入れると無数の人の視線を浴びた。
どう考えても悪い話しかしていないような女の子達。つまらなそうに自前の小刀を振り回す男の子、群れをつくり話している男女グループもいる。
(お、お貴族様だ…)
フィラは周りを見る。右も左も貴族だらけだ。
フィラが入学したのは王立魔術学園。アステリア王国でも屈指の難関校であり歴史ある学園である。
魔術学園と付いているのだから、魔術に特化している事が分かりやすい。
だが、魔術は貴族が独占していたものだ。最近は比較的緩くなってきているがそれでも貴族の方が魔術を巧みに操る人が多い。
そのため、魔術学園には貴族の割合が九割以上だ。むしろ、平民が珍しい存在と言える。
(ここでこれからやっていくのかぁ……不安)
一番前の一番廊下側に近い席に座る。隅っこで良かったと安心していると目の前に人影が見えた。
「アンタ、平民でしょ?なんでこんなゴミ同然の奴がここにいる訳?」
「ご、ゴミ……?」
「えぇ、そうよ。平民なんでゴミ同然の人間よ」
「うぅ……」
アステリア王国で一番大事なのは魔力の有無。
魔力のある人間は出家できる可能性があり男爵から子爵、伯爵から侯爵になれる可能性を秘めている。これは、平民にも言うことが出来る。仮に、魔力が多ければ男爵の地位を貰えるかもしれないのだ。
だが、これは現在の時点でありえないとされている。
平民は魔力を持たないからだ。魔力を持つのは貴族のみとされている。
そうなると必然的に平民は貴族よりも下の立場にいると言うことになる。これが平民と貴族の差なのだ。
「えっと、人をごみって言うのはあんまり良くないと思うな……」
「は?平民が何言ってんの。貴族がいなければ生きていけないくせに生意気ね!」
「あぅ……」
どうやら、目の前の貴族令嬢はよっぽど平民が嫌いなようだ。
(…お貴族様のお陰だけど…その駒として働いてるのはわたしの周りの人なのに…)
フィラはふとそう感じたが言った瞬間グサッと刺されそうなので辞めた。
「にしても、平民がいるだけで空気が悪いわ!ただでさえ雪でこっちは濡れてきたのよ!」
フィラは令嬢の足元を見る。全く濡れていない。
制服を改造したようなドレスを着ている。実際改造したのだろう。本来なら膝丈にくるはずのスカートが足首まである。
(濡れてないじゃん…わたしは歩いてきたのに)
人知れずため息をつくとバンッと机が叩かれた。
「何?ため息なんてついて。アタクシに文句があるわけ!?」
「い、いえいえ……とんでもないです…はい」
「はぁぁ!?意味分かんない!!」
「そんなカッカしないで…」
「ふざけないでちょうだい!このゴミ!」
令嬢はフィラの制服のリボンを掴む。
「ちょちょ…首しまる!」
「うるさいわね!」
「あぅ…ほ、ほんとに締まる」
フィラがアワアワしていると令嬢の肩に人の手が置かれた。
「へぃマリアンネご令嬢。今日も麗しいですね」
男性の声がするとマリアンネと言う令嬢はフィラのリボンをはなす。ウグッとなんとも言えない声を上げたフィラに興味を持っていないようだ。
男性の方を向いた。
「麗しいレディが何をしているのかな?」
「あ、あらヤダ、シュトレン様…アタクシは何もしておりませんわ……ね?」
マリアンネはフィラの方に深い笑みを浮かべて見つめてきた。フィラは全力でウンウンと頷く。そうでもしないと窓から突き落とされそうだ。
「そうかい。じゃあ、また会おうね。妖精さん」
「えぇ……」
男性はマリアンネの手の甲にそっとキスを落として扉を出ていった。同時に周りからは女の子の悲鳴が上がり出す。
マリアンネの周囲には直ぐにご令嬢達が集まり何かを聞いているようだ。
(…お貴族様って怖い…)
フィラは椅子から立ち上がり人気の無い場所を目指した。




