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修学旅行は異世界へ

作者: 有梨束
掲載日:2026/04/26

修学旅行3日目の自由行動の日。

レポート用の歴史ある神社観光のために、鳥居をくぐったはずだった。


「ここ、どこだ…?」

田舎の風景が続いたひらけた場所に出ていて、班員の4人で顔を見合わせた。


作り物みたいな石造りの家が、何軒か離れて並んでいる。


「おーい、お前ら〜!」

少し離れたところから声をかけられて振り向くと、真っ黒なマントのようなものを羽織っている人が手を振っていた。


「こっちにくるよ」

「無視した方がいいんじゃない?」

「でも、ここがどこか訊かなきゃ」

「そんなんスマホで調べればいいよ」

スマホでマップを出しても、地図すら表示されなかった。


「圏外?」


たいして仲良くもないあまりもので組んだ男女2人ずつの集まりは、もう一度顔を見合わせた。

今度は互いの目が合った気がした。

そして、たぶん全員ひやりとした不安に煽られた。


「そこのお前ら、見ない格好だな。こんな田舎で何してるんだ?」

黒いマントの人は近づいてくるなり、制服を不思議そうに眺めた。


銀の長髪に、無精髭。

言葉は通じるのに、どう見ても日本人ではない。

ジリリと後退りそうになった時──。


「んあ?お前ら、この世界の人間じゃねえな。どうした、迷ったか?」

銀髪の男は4人をじっくり見てから、なんでもないことのように言った。


「………は」




「異なる世界の人間のことをこっちじゃ『移り人』って言うんだが、お前らそれだな」

さも当然のような口調に、修学旅行生は戸惑うだけだ。

こちらは修学旅行で京都を回っていただけだ。

異世界なんて、来たくて来ていない。


「なんで、俺らが違う世界から来たってわかるんですか」

「お前ら全員、魔力を感じないからな。俺はこれでも魔法使いの端くれだ、魔力くらいは感知できる」

「魔法があるって言うんですか…?」

訝しげに訊いたにもかかわらず、男は楽しそうに笑った。


「あるよ、ほら」

片手を差し出すと、そこに炎を灯してみせた。

手のひらの上で、火が踊っている。

手品でなければ、魔法で間違いなさそうだった。


息を呑んだり、瞬きしたり、それぞれ違う反応を見せたが、誰も何も言えなかった。


これは、本当に異世界に迷い込んだのかもしれない…。


「昨日、新月だったろ」

「…そうだっけ」

「確かそうだったよ。ホテルから見た時、星がよく見えたもん」

「世界によっちゃ、新月の周期が違うんだけどな、被った時はゲートが開くんだよ」

「ゲートって、異世界を繋ぐ的な…?」

「そ。新月前後は開きっぱなしの時もある。それに巻き込まれて、こっちに来たんだろうな」

銀髪の男は炎を仕舞うと、近くの家を指差した。


「とりあえず、うちに来るか?移り人なら、当てもないだろ」

「私たち、帰りたいんですけど…!」

「わかってる。でも、夜まで待ってくれ。ゲートを確実に開くのに、俺の魔法だけじゃ足りないから」

「帰してくれるんですか?」

「ああ、それも魔法使いの仕事だ」


男は、「俺はイーサ、よろしく」と名乗って、ニカリと笑った。


イーサの家に招き入れられて、紅茶のようなものを振る舞ってもらっている。

果たして、飲んでいいものなのか、誰も口をつけない。

せっかくの修学旅行がどんよりした気分だった。


元々、クラスで友達のいないもの同士が組んだようなもの。

はじめから楽しみではなかったが、もっと気持ちが重くなっている。


「元気ないね、お前ら。心配しなくても、ちゃんと帰してやるぞ?」

「…本当に、帰れるんですかね」

「夜の方がゲートが開きやすい。そのための準備を今からするんだよ」

「手伝えることはありますか?」

「んー、そうだな。魔法が使えないとなると、厳しいな」

イーサは髭をボリボリ掻きながら、バケツに入った大量の石を持ち上げた。

宝石のような、鉱物のような、色とりどりの石たちだった。


「綺麗ですね」

「これは、魔石。お前らの世界には、あるか?」

「僕らの世界に魔法はないですよ」

「それもそうか。魔法がねえのに、生きてくのは不便そうだな」

「そうでもないですよ、色々発展してますし」

そう言って、1人がスマホを出した。


イーサは、睨むようにスマホを見た。


「なんだ、その薄っぺらい板」

「便利な道具、ですかね」

「…そういや、スマホって使えるのかな?」

「さっき、マップは出なかったけど」

「とりあえず、先生に電話してみる?」

「俺がかけるよ」

班長が緊急連絡先の担任教師に電話をかけてみたけど、通じなかった。

画面に表示されるだけで、コールはできない。


「…ダメか」

「スマホの意味ねえ…」

「あれ、待って。あたしたちの間では連絡、行けるよ!?」

修学旅行のためにグループチャットを作っておいたが、そこにはスタンプなりメッセージなりが送れるようだった。


4人はスマホの同じ画面を開いて、送り合ってみる。

今日が一番グループチャットが動いている。


「同じ世界にいれば、通じるんだ…?」

「意味ないね」

「まあ、はぐれたら最悪使えるよ」

「…みんな、どこにも行かないでね!?」

皆無だった結束力が上がっていく一方で、イーサは目を輝かせてスマホを見た。


「なんだ、それ!?その板で、連絡が取れるのか!?」

「はい、本当なら連絡先を知っている相手のスマホにメッセージを飛ばせたりするんですが…」

「同じ世界にいないと、厳しいみたい」

「へえ〜!?お前らも、魔法みたいなのが使えるのな!面白え〜!」

イーサは目を輝かせると、ニコニコしながら言った。


「それ、分解してもいいか?」

「「「「ダメですっ!!」」」」



ゲートを開く魔法陣を描くために、イーサは庭に出た。

4人はイーサの手伝いで、魔石を並べることになった。


「魔法陣は描けねえだろうけど、魔石はこの本の通りに並べてくれればいいから」

「扱ったことないのに、触っていいんですか…?」

「弾けたりしないから、大丈夫だぞ」

「…なんか、間違えちゃいけない化学実験みたい」

「わかる、緊張してきた」

4人は、石を一つ一つ確認しながら、魔法陣の周りに置いていく。


「それにしても、お前ら転移先が王都じゃなくてよかったなあ!」

「王都だったら、まずいんですか?」

「移り人は、文明に進化をもたらす存在と言われているからなぁ。貴族位でも与えられて、囲われたんじゃねえかな」

「…っ!?」

「定住する気はないんだろ?」

「ないですっ!」

「じゃあ、よかったな」

「イーサさんは、私たちのこと、帰していいんですか…?」

「もちろん!匂いが違うからな」

「匂い?」


変な匂いでもするんだろうか、と1人が自分の腕の匂いを嗅いだが、イーサは首を振って笑った。


「違う違う、お前らはいい匂いだよ。そうじゃなくて、移り人には、移住したくて来たやつとただ巻き込まれたやつがいるからな。お前ら4人とも、移り住みたい匂いがしてない」

「そんなことまでわかるんですか」

「魔法使いだからな」

「魔法使いって何者…?」


首を傾げる4人を見て、イーサはくつくつ笑いながら、魔法陣を描き上げていった。


そうして日が暮れるまでに急ピッチで仕上げた準備が間に合い、夜を迎えた。


昨日が新月だったとわかるほど、微かな線みたいな月が見えた。


「おもてなしもできなくて悪かったな」

「いえ、僕らこそ突然来たのに、ありがとうございました」

「旅行してたんだったら、ここら辺を案内すりゃよかったなあ」

イーサは魔石を4つ取ると、それぞれの手に置いた。


「大した土産にもならないけど、持っていきな」

「…私たちの世界で、発動したりしませんよね?」

「守りぐらいには、なるんじゃね?」

テキトーすぎて不安になるが、なんとなく力強かった。


「よし、全員魔法陣の内側に入んな。出たらダメだぞ?」

イーサの指示で4人は固まって、魔法陣の上に立った。

緊張が走り、固唾をのむ。


イーサは手をかざすと、呪文を唱え始めて、みるみるうちに魔法陣が光っていく。

バタバタッと制服の裾がはためいて、風が巻き上がっていく。

目が開けていられなくなるほど強くて、彼らの上で月が笑っていた。


「じゃあな、気をつけて帰れよ」

イーサの声がした途端、あたりは夕暮れに逆戻りしていた。


ハッとして見上げると、くぐった鳥居の下にいた。

どうやら、元の場所に戻って来られたみたいだった。

スマホを確認すると、16時で集合時間に迫っていた。


「夕方ってこと…?」

「みたいだな」

「帰って来られたのか…」

「やばい、集合時間!」

「というか、レポート用の観光してない…」

「終わった…」

「異世界のレポートなんて書けないよ〜!」

4人の手の中には魔石があったが、それをレポートに書くわけにもいかない。


後のことはひとまず置いておいて、駅まで走っていくしかなかったのだった。



修学旅行は、同じ世界内でお願いしたい…!





お読みくださりありがとうございます!! 毎日投稿116日目。

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