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二人の男  作者: 明家叶依
9/12

早朝 聞き手の男視点

 明け方、カーテンの隙間から入ってくる朝の光で目が覚める。仕事を辞めてからのこと、昼夜逆転しつつあった生活も、あいつと喫茶店で会うようになってからは規則正しい時間にベッドの中に入っていた。実家暮らしというのもあって甘えている部分はあった。早く、次の仕事を見つけないといけない、という気持ちが朝から自分の背中に重くのしかかり、瞼は開いているのに、動けずにいた。辛い……。しんどい……。最近はそんな言葉が自分の口から漏れ出るようになった。ポジティブだと周りから言われ、それが自分の長所だと思っていたのに、今の自分は真逆だった。


 まだ、時間は六時台。俺は適当なTシャツと短パンに着替えて、外に出た。朝、日の光を浴びるのは気持ちがいい。自分の悪い部分が浄化されるみたいで、清々しい。信号機で止まって首を左右に動かしていると、反対側に見知った丸刈り頭が見えた。一定のリズムで動かしていた顔を急に止めたから、首が少し痛む。


「今日もいい天気だな」

「お、おう。そうだな」


 横断歩道の真ん中で軽く言葉を交わす。渡りきるとなぜか隣にあいつがいた。


「いや、おかしいだろ。普通、横断歩道ですれ違ったらお互い反対側の歩道に向かって歩くだろ。何でお前は俺と会ったらクルッとUターンしてこっち来てるんだよ。こっち来るなら渡らずに待ってればよかっただろ」

「友よ、朝一番だからか今日は一段と元気だな。元気はいいことだ」


 俺の言葉を無視して、いつも通り自分のペースであいつは言葉を口から出す。それにしても、タンクトップに太ももくらいの短パンって陸上選手か……? 形から入るタイプだとしても意識高すぎだろ。夏だとしても朝からこんな格好で走っている人は少ない。それにしても、普段から身軽だと思っていたが、結構努力家なんだな。驚いた。朝からトレーニングしてるのはリスペクトしかない。


「凄いな。朝からランニングなんて」

「ランニング? 私はコンビニにホットドッグを買いに行こうと思っていただけだが?」

「ホットドッグ⁉ その格好で?」

「うむ。朝まで漫画を読んでいたら空腹でな、妻を起こすわけにいかず、コンビニで腹ごしらえをしようとしていたのだ。でも、ランニングもいいな。一緒に走るか?」

「自由だな……遠慮しておく」


 朝っぱらから走る気力など無かった。散歩はゆっくりと歩き、太陽の傾き具合や、雲の形の変化を見るから面白い。ランニングも趣味としては成立するが、やっぱり今はなあ……。


 俺が歩き出そうとすると、あいつも横に並んでついてくる。少し進んだところで「コンビニはいいのか?」と尋ねると、「友と会えたからいい」と元気はつらつに言われて、何だか照れくさくなった。そんな事言われたことがなく、何て返事をすればいいかわからない。俺は恥ずかしさから距離をとろうと地面を蹴って走った。


「お、やっぱり走るのか。いくぞー!」

「違うわ。腹減ったから俺もコンビニ行くんだよ。あ、でも財布忘れた」

「私が払おう」


 サンダルなのに、もう25歳なのに、なんか、こんな朝から外走るってのも……いいな。明け方のひんやりとした風が頬をかすめ、少し伸ばし気味の髪が揺れる。子供の頃に戻ったような感覚。


「コンビニまで競走な」

「むむむ! 負けんぞ」


 俺たちは誰もいない街で、二人はしゃぎながら、近所のコンビニよりも少し遠い別のコンビニまで競走した。


 もちろん俺が負けた。

 いや、サンダルじゃさすがに無理だろ。挑んだの俺だけど……。


 でも、少し気持ちが楽になった。


 コンビニのイートインコーナーに並んで座ってホットドッグをもしゃもしゃと頬張っているあいつに「ありがとな」と呟く。隣で「何か言ったか?」と聞かれたが無視をした。


 すっかり太陽は世界に溶け込んでいて、今日が始まろうとしている。普段はただ眩しいだけで、その眩しさが嫌だった。自分の進むべき道が定まらなくて、いつも少し先から手を差し伸べるような太陽が嫌いだった。


 だけど、何だかな……。

 今日は真正面から見ても、とても気分がよかった。


「もっと、自由に……気楽に考えればいいんだな」

 俺はまた、ぼそりと呟いた。


 一人、また一人と、お客さんが自動ドアをくぐる。

 この人達もまた、何かを抱えながらも生きているのかな……。

 俺も、今、こうやって生きている。


 さてと……。

 今日は何して過ごすかな。


 俺は右手に持ったアメリカンドッグを頬張りながら、遠く見える空を見上げた。

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