公園
あれから三日連続で喫茶店に来てはみたものの、ふむ、最近は何か用事でもあるのか、一度も友の顔を見ていない。事件にでも巻き込まれてしまっていたら心配だ。警察に連絡をして捜索願を出すか、いや、だめだ、私は友の名前を知らない。というか……。名前を知らないのに友人と呼べるのだろうか。普通友人というのは名前で呼び合ったりするのが一般的ではあるが、うむ、まあいいか。色んな友情の形がある。
帰り道に立ち寄った公園の自動販売機で炭酸飲料を買い、花壇の前であぐらをかき、ミツバチの行く末を見ていた。えっさほいさと蜜を運ぶ姿に対し、頑張れ、という気持ちが高ぶり、先ほどから応援をしていたのだ。私はプロ野球を現地で見ているファンがビールを飲んでいるような感覚だった。まあ、野球見たことないけど。それにしても、それにしても、ヒマワリは元気がいい。太陽の光でしっかり栄養を蓄えているからだな。私はTシャツの袖をまくって、少しでも栄養が入り込むように皮膚が外に出る面積を増やしたが、これでは腕だけだと思い、Tシャツを脱ごうと裾をまくり上げた。
「まてまてまて。変なこと考えるな。本当に捕まるぞ」
後方から声が聞こえてきて、半分ほど脱ぎかかったTシャツをもう一度着た。振り向くと、そこには友がいた。久しぶりに会った友は慌てたように駆け寄り、私を止めた。友の額からは汗が垂れ、頬を伝って顎から落ちた。
「……何してたんだ?」
「端的に言うなら光合成だな。友は?」
「友じゃ……、いや、俺は本屋の帰りだ」
「何を買ったんだ?」
「別に何でもいいだろ。おわぁ⁉」
私は男が言い終わる前に右手に持っていた、書店の名前が印字されている袋を奪い取り、中身を取り出した。入っていたのは漫画の単行本の最新刊だった。この漫画は私も好きだ。私は気分転換したいときに別の作者の漫画を読む。その中の一つだった。週刊連載の漫画で、知名度はかなりある。アニメ化もしていて、私の尊敬すべき漫画家でもある。同じ趣味を持っている友に親近感を抱いた。
本屋のビニール袋を投げ捨て、両手で大事そうに本の表紙を見ていたら「そろそろ返してくれ」と袋に付いた土を払いながら友は言った。私は漫画を渡した。今から帰ってこの本を読みたいのだと思う。そんな大切な時間を止めるわけにはいかない。漫画はじっくり読むから楽しいのだ。もし読んだら、また感想を聞こう。
「漫画……読むのか?」
「うむ。大好きだ」
友は後頭部を掻きながら「そうか」と伏し目がちに言い、少し黙った後、公園を後にした。
私は空を見上げた。太陽は雲で隠れている。ボーッと見つめていると、不意に漫画が読みたくなった。古本屋にでも寄って帰ろう。私は缶に残った飲料を一気に飲み干し、ゴミ箱に捨てて公園を出て、人差し指だけを伸ばした腕を前に突き出し、左方向にスライドさせた。
「本屋はこっちだ! 急げー!」
私はぽつりと額に当たった雨など無視して、本屋目がけて腕を振って走った。




