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二人の男  作者: 明家叶依
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出会い

 もしも私に勇気を与えてくれるような存在がいたとして、私はその人の期待に応えられるような行動がとれるのだろうか。いや、そうやってまず第一に期待がどうとか、責任がどうとか考えている時点で、純粋な気持ちでその人と話していないことになる。愚かな人間の可能性があった。昔からそうだ。人にどう思われているかをまず第一に考えてしまう。身だしなみにしても、それこそここぞという時の場面でちゃんと仕事、学業をこなせるかどうかにしても。学業というのは試験や体育祭のことである。決して、周りに期待されるようなタイプというわけでも無いが、昔から足だけは速く、アンカーを務めることもしばしばあった。


「何が言いたいって?」


 こぢんまりとした喫茶店の奥のソファーの対面に座っている男が、飲んでいたアイスコーヒーのグラスを揺らし、残りを啜っている。僕が一人話している間、彼はいつまでも飲むのをやめず、目線だけを私に向けて話を聞いていた。そういう人間である事は重々承知していて、僕はそんな彼だから話をした。


「私に勇気を与えてくれる人がいてほしい、ということだ」

「最初に結論言ってんなら、後ろの話何だったんだよ」


 ぶつくさと言いながら、通りかかった店員さんに声を掛け、同じ物を注文していた。にこやかに笑顔を振る舞う女性の店員は、別の席のカップなどをを片づけるついでに、男の濡れたグラスもお盆に乗せた。「ありがとね」と気さくに笑い、机に置いてあった紙タバコを手に取り、一本加えて火を付けた。


「この先、そんな存在いてくれるかね」


 私は将来の不安を抑えつつ、来店時に注文したブラックコーヒーにミルクを入れて、スプーンでかき混ぜた。時間が経っていて大分温く、少し顔を歪めた。あまり美味しくない。かといって、代わりの物を用意させる訳にはいかない。目の前の男は肘を突いて、右手の人差し指と中指で挟んだタバコを揺らし、煙を私目がけて吹き出した。「やめろ」と言って左手で煙を払うもタバコ特有の匂いが鼻の粘膜に残る。不快な顔を示しているのに、男は愉快に笑う。


「気にしてたって仕方ないだろ」

「話を聞いていたのか?」

「だから、そんな存在現れるの待っていちいち気にしてる時間あるなら、知らない英単語でも一つ覚えろ」


 まだタバコの先端は赤い。

 男は途中で灰皿に立てかけて、鼻をほじる。


「自分だけだ。勇気を与えるのも作るのも、結局の所自分だ。何かに影響されて感化されてその場でやる気になっても、結局やるのも諦めるのも面倒くさくなるのも自分だ。明日頑張る言葉をもらっても、明後日には効果が切れてるだけだ」


 男は再びタバコを咥えると、丁度注文の品が届き「ありがとね」と店員に左手を上げて言った。


 私は、考えた。


 「今、君が私に勇気を与えてくれた」と言う。


 「ああ、そうかい」と男がぶっきらぼうに言う。


 初対面の男は、そう言って立ち上がり、コーヒーを持って別の席に移った。

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