1、さくら色パフェ
「あ〜!つっかれた〜!あと少しでテストなのに全然進んでるのかわかんないよ…」
目の前には散らかった教科書やワーク。マーカーが引かれていたり、付箋が貼られていたりして使い込まれているのがわかる。ふと顔を上げると、前回の模試の結果が目に入ってきた。
(前回、成績が少し落ちちゃったんだよな。ちょっと体調が悪かったのもあっていきなりD判定になっちゃった。本番もそうなったらどうしよう)
考えても仕方がないので、ネガティブな想像を振り払う。さっきまで解いていた問題は、何かをずっと間違えているのに、何が間違いなのかわからない。
明日先生に聞いてみようと考えているとお腹がくぅっとなる。時計はもう11時を指していて、そろそろ寝なければならない時間だ。
(もう夜遅いから寝なきゃいけないのはわかってるんだけど、お腹が空いちゃって寝れそうにないや…いつもはお母さんが夜食を作ってくれるんだけど、お母さん、今日体調悪そうだったからなぁ)
今日家に帰ってくると、お金が置いてあって、書き置きで
『今日は体調が悪いから、晩御飯は好きに買ってください』
と書いてあった。部屋を見ると、綺麗好きな母親にしては散らかっていて、今日は本当に体調が悪かったんだと思った。
(せっかくだから、コンビニで何か甘いものでも買おうかな)
パーカーをきて、軽く髪を手櫛で整えた。鏡にうつる自分は、少し自信がなさそうに見える。
「さむっ…!甘いものだけじゃなくて、肉まんとか売ってないかなぁ」
外は思ったよりも寒くて、思わず独り言が漏れてしまう。
コンビニは少し遠いが、自転車を使うほどでもない微妙な距離にある。中学生の時は大会や外部練習で帰るのが遅い時には父親が迎えにきてくれていた。こっそり2人で甘いものを買ったり、ホットスナックを買ったりするのは特別感があって、父親には言わないが、結構好きだった。
(お父さんってばこんな時に限って出張なんだから…お父さんがいたら何かしら作ってもらえただろうし、お母さんもゆっくり休めただろうにな)
そんなどうにもならないことを考えながらコンビニまでの道を歩く。パーカーだけではちょっと、いやかなり寒かった。
ふとショルダーバックの中を確認すると、スマホ、財布、定期、それから飴のゴミや最近使ってなかったリップ、昔のレシート、5円玉…流石にそろそろ片付けたほうがいいかもしれない。
ため息をついてふと前を見ると、
「カフェさくらや?こんなところにお店あったかな」
ちょっとアンティークな大きな扉で、くすんだ金色の取っ手がついている。木の色が黒っぽいからなのか、ひどく重厚感がある。店の前に置かれている看板には
虹の国のお姫様も大好きな、さくら色パフェ。そっと一息つきませんか?
わけがわからない。文字しか書いていない看板で、そのパフェについては見た目も、味も、何もわからない。良く知らない虹のお姫様とやらが好きらしいということだけだ。
が、なんだか不思議な魔法に当てられたみたいにそのドアを開いた。思ったよりも扉は軽く、歓迎されているようだと思った。後ろでチリンチリンとベルの音がしていた。
「どうも…」
中は想像していたよりも広く、あたたかな空気にあふれていた。入り口に置いてあったメニューはちょっと変わっている。
日本語で書かれている文字もあれば多分英語や中国語、フランス語で書かれている文字もあったし、全くもってみたことがない文字もたくさんあった。それらがごちゃ混ぜで書かれているのだ。
もっとおかしなことは、そのどの文字もスルスルと読めてしまうことだ。
「北海道のジャガイモを使ったいももち、北京ダック、1人一万円の毋米粥、ケーセフォンデュ、中身ぎっしりサモサ、何これ、虹色水飴、惑星ジュース?」
どれも名前しか書いていない。ちょっと不親切なメニューを眺めていると、メニューが勝手にパラパラめくれだした。驚いて手を離しても止まる気配もない。しばらく眺めていると、一つのメニューを開いて止まる。
「何、あ、これ店の前に書いてあった、」
「はい、さくら色パフェです。ようこそ、お客様。お好きなお席にお座りください。」
心臓が口から飛び出すかと思った。驚いて顔を上げると、今まで誰もいなかったはずの空間に綺麗なお姉さんが立っていた。ふわふわとしたクラシックなメイド服を着ているので、店員さんなんだろうか。
好きな席に座ってくれとのことだったので、とりあえずカウンターに座る。机は飴色で、よく使い込まれているのがわかる。席は結構高くて、足がつかない。
周りを見ると、なんとなくピンク色のものと水色のものが多いように思う。モチーフは宇宙とさくらが多い。
飾られている絵もさまざまだ。抽象画が並んでいると思えば、写実的に書かれているものもあるし、西洋画の隣に日本画がある。墨で描かれている松の木の隣にアニメのようなイラストも置かれている。
上を見上げると、天井は思ったよりも高くて、そして色々な絵が直接書いてある。
それら全てを暖かい光が包み込んでいる。窓の外は草原になっていて、星々がこぼれ落ちそうなぐらい輝いている。なんだか泣きたくなるぐらい、あたたかい空間だった。
「失礼します。どうぞ、ウェルカムドリンクのホットチョコレートです。こちらはメニューになります。お客様の希望に沿ってメニューが開きますが、今日は私しかいませんので、スイーツメニューしか出てきませんがご了承ください。」
軽く会釈をして、メニューを受け取る。メニューは終わりがないようで、一番最後のページをめくってもまた新しいページが出てくる。
何を食べようか。ご飯系は食べられないとしても、めくれどめくれどスイーツ系のメニューばかり出てくるから問題のないような気がしてくる。
シンプルなショートケーキ、栗をあまーく煮たモンブラン、狐も食べにくるパンケーキ、旬のステラフルーツを使ったあんみつ。今度のメニューは一言紹介が書いてある。
偏食の吸血鬼が愛したあまーいモンブラン。さくら色の紅茶と一緒にいただくのが通だ。中に入ったナッツとビターチョコレートの食感を楽しんで。
今が旬のステラフルーツ。きらきら淡く光るステラフルーツを使ったあんみつには、冬の流星群を閉じ込めた、濃厚な黒蜜をかけて楽しんで。ステラフルーツはこだわりのレグルス印。
メニューを見ていると、ふとパフェが食べたいなと思った。もともとコンビニでパフェを買いたかったんだったと思いつつページを開くと、さくら色パフェのページだった。
虹の国のお姫様も大好きなさくら色パフェ。虹の国のお姫様が、自分が前に進めているか不安だった時にいつも食べていた、甘くて可愛い、素敵なパフェ。
…美味しそうだ
「ご注文はお決まりですか?」
2回目だが普通に驚く。さっきまで居なかったのに。
「えっと、このさくら色パフェの…紅茶セットでお願いします」
「はい、さくら色パフェのセットですね。少々お待ちください。」
メニューは持っていかれてしまった。もう少し見ていたかったので少し残念だと思いつつ、ホットチョコレートを飲む。
美味しい。
甘すぎずに苦すぎない。微かに爽やかな味がするのはオレンジピールだろうか。上にのっている生クリームは緩くたてられている。これがウェルカムドリンクだなんて贅沢な話だ。
飲んだら減るなんて当たり前なのに、ひどく残念だ。あと少しになってしまってちびちびのむ。なんだかお腹がぽかぽかして、心がふわふわする。
「どうぞ、さくら色パフェと紅茶のセットです。紅茶は今日はピンク色の国の特産品マーシャルピンクティーで、おすすめはストレートです。」
パフェはそんなに大きくはなくて、1人で食べるにはちょうどいいサイズだ。
上に載っているのはいちごで、見るからに大きくとても美味しそうだ。
ほんのりピンクに染まった生クリームやピンク色のメレンゲクッキー、それからちょこんと乗せられた可愛い砂糖ずけののお花はなんなんだろうか。
多分中にも色々入っている。アイスやフルーツ、クリーム、クッキーなんかだろうか。全体的にピンク色で、なんとなく恋というものをお菓子にしたらこんなふうになるんじゃないかと思った。
「気にいってくださってよかったです。上のお花は虹の国で取れるスリジエの花ですよ。」
「虹の国って、あの紹介に書いてあったお姫様の国ですか?」
「はい、彼女はいつもこのパフェを食べていました。いつも美味しそうに食べてくれるので、嬉しかったですよ」
そういってニコニコ笑う彼女は、少し懐かしそうだった。
「中のアイスが溶けてしまいますから、気をつけてお食べください」
スプーンを手に取って、まずは上のイチゴとクリームを食べる
「…!!!」
甘酸っぱいいちごと、濃厚なクリームはやっぱり相性がいい。
どちらも単体で食べても美味しいのに、一緒に食べると罪深いおいしさだ。
食べていると次はアイスにあたる。アイスは単体ではさっぱりしすぎず、かといって濃厚すぎない絶妙な塩梅。クリームと一緒に食べても、果物と一緒に食べても最高に美味しい。
お砂糖でつけられたお花は甘くて、ほんのりいい香りがする。
ピンク色のメレンゲクッキーは罪なほどに可愛らしくて、少しだけイチゴの味がする。
中に入っていたクッキーはそれ単体でも美味しそうなのに、こうやってパフェの一部になってしまうのが贅沢だ。
途中に入っていたジャムは酸っぱさが強くて、それがまた美味しい。中にはラムネ菓子のような白くて小さい花がとろりと溶けている。
したの方に入っていたコーンフレークが溶けたアイスや生クリーム、ジャムなどをまとめていて、最後まで美味しい。
食べ終わってしまうのが勿体無い。でも、食べたい。
久しぶりにこんなに何も考えずに夢中で美味しくデザートを食べているような気がする。
なんとなく、またお母さんとパフェを食べたいと思った。
食べ終わってしまった。満足感と同時に少し寂しさを感じる。
…そういえば紅茶も頼んでいたんだっけ。
紅茶に口をつけると、ふわりといい香りが広がる。心がほぐれていくような気がした。
暖かい飲み物がなんとなく胃に落ちていくような感じがする。
飲んでいくにつれて、お腹から指の先や足の先までぽかぽかしてくる。さっきまで甘いものを食べていたから、砂糖の入っていない紅茶はちょうど良く口をさっぱりさせてくれる。結構嬉しい。
「あ…」
食べ終わってしまったし、紅茶も飲み終わってしまった。でも、体が温まったからかお腹がいっぱいになったからか、さっきまでの寂しさはなく、すごく満たされている。今ならなんでもできそうだ。
「お皿、おさげしますね。楽しんでいただけましたか?」
またどこからかメイドさんが出てくる。流石に3回目になれば、少しなれた。
「ごちそうさまでした。本当にとても美味しかったです。」
私は久しぶりに心から笑っていることを自覚していた。全く、単純な人間だ。美味しいものを食べて、ちょっと勉強から離れたらそれだけでまたやる気が湧いてくるなんて。
「お勘定お願いします。」
いったい何円ぐらいだろう。やっぱりこんなに美味しいんだから、6000円ぐらいはするんだろうか?むしろそれでも安いぐらいかもしれない。考えて、財布を出そうとすると、メイドさんから言われたのは予想外のものだった。
「では、そのレシートをください。貴方が肉まんを二つ買った時のものです」
「へ?レ、レシートですか?ちょっと待ってくださいね。…どうぞ。本当にレシートなんですか?」
「はい。このレシートです。一応お持ち帰りのできるお菓子もありますよ。今日はマカロンがうまくできましたので、おすすめです」
そう言って彼女が出してくれたのは、色とりどりのマカロンが詰まっている。
「それ、ください。」
つい、うちのお母さんのことが頭に浮かんだ。今は風邪だから食べられないかもしれないけれど、お母さんはマカロンが好きだ。そんなことを考えていたらつい、口から言葉が溢れてしまった。
「どうぞ。ラッピングしておきますね。お値段は五百円です」
たったの五百円でいいんだろうか?そこそこの数が入っているように見える。
「ありがとうございます。どれもとても美味しかったです。」
ラッピングされたマカロンを受け取って、お店を後にする。
後ろでチリンチリンとベルが鳴っていた。
お店を出ると、なんだか夢だったように思うが、間違いなく自分の手にはマカロンが握られている。
行き道はあんなに寒かったのに、今は体が暖かいからちょうどいい。
今なら、解けなかった問題も解けるだろうと思ったし、きっと志望校にも受かると思えた。
私はできる。私ならきっと自分の力で合格という夢を掴めると思った。
読んでくださりありがとうございました。今日は自分の好きなお菓子と紅茶を飲んで、ゆっくり心を休めてあげてくださいね。
冨岡亜弥 とみおか あや
必死に勉強して第一志望の大学に合格する。その後留学。帰ってきてからアイドルにスカウトされ、一世を風靡する大人気ソロアイドルになる。30歳の時、10年近く付き合った人と結婚。その後もちょこちょこ曲を出したりテレビに出たりしている。全盛期を過ぎた今でももちろん曲を出せば50万枚は売り上げ、ライブを行えば一瞬でチケットが売り切れる伝説的なアイドル。ちなみに絵本も別名義で出版しており、どれも暖かいタッチで描かれており好評である。
さくら色パフェ
いちごや生クリーム、お花までのせた、可愛らしいピンク色のパフェ。虹の国に嫁いだお姫様が好んで食べた。
虹の国ではカラフルである方がいいとされているけど、それでも自分の祖国も、新しく嫁いだ虹の国も愛していたお姫様は、たまにさくらやに来てこのパフェを食べていた。上にお花を載せたのは彼女のアイデア。
彼女は王様と一緒に立派に国を治めた。
マーシャルピンクティー
かわいいピンク色の紅茶。ピンクの国で採れる桜貝のようなはなびらをゆっくりピンクの国の太陽の光に当てて、花びらがピンク色に染まれば完成。味は見た目に反してそんなに濃くない代わりに香りが華やかで、極上のものは王家御用達。結婚式の引き出物にも人気。
ホットチョコレート
カフェさくらやのメイドが最近ハマっているあまーいミルクチョコレートと空色ミルク牛の出す牛乳を贅沢に使ったホットチョコレート。最近は上に六分立てぐらいの生クリームと、レグルス印の銀色の初雪をかけて食べるのにハマっている。
マカロン
メイドが作ったマカロン。全体的にさくら色。食べると幸運が上がる。
カフェさくらやのメイド
お菓子しか作れない。桜が好き
カフェさくらやの調理担当
研究所の方に行ってた。星が好き




