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第7話 大丈夫

 その女性は、詩羽だった。

 驚きが隠せないが、今は心を落ち着かせるために路地裏の隅に座っている。


「…俺、ちょっと飲み物買ってくるわ。」

「ん…、あぁ、お願い。」

「…」


 湊斗は近くにある自動販売機に行き、いつも通りの缶コーラを3つ購入し、蓮たちが座っている場所に移動する。

 そして湊斗は蓮と詩羽に缶コーラを渡し、隅に座る。

 プシュッ、と缶コーラが静まった路地裏に鳴り響き、みんなが飲み始める。


 沈黙が続く。


(…この人が詩羽だとは思わなかった……)

(学校でも何かってレベルじゃない……)

(さっきの男たちが言うなら、あれが最初ではない…?)


 あらゆる思考が湊斗を駆け巡る。

 その時、蓮が震える声で湊斗に質問した。


「警察に行こう……」

「ん…?悪い、きこえなかっ…」

「警察に行こう!今すぐ!こんな……こんなの放っておけないじゃん!」


 蓮は、大きな声で湊斗の声をかき消すように、そう言った。


 女性が詩羽じゃなかった時は、警察に行くことを推奨し、それで終わりだと思っていた。

 でも、その女性は詩羽だった。

 同じ高校、身近な人、親友が関わっている人、それだけで蓮の恐怖はどんどん増していった。

 湊斗も同様だった。

 2週間前のあの日から、思っていたことが全然違う。

 いじめというレベルじゃない。

 今の出来事だけで、それだけ恐怖を増すことができるのだ。


「大丈夫!…大丈夫だから……」


 だが、その恐怖を倍増する言葉が、詩羽の口から出てきた。

「大丈夫」。絶対に大丈夫ではない。ここまでボロボロになりながらも、「大丈夫」だと言う理由は何だろう。そう湊斗と蓮は考えていた。

 涙ぐみながらも繰り返す詩羽の姿が、むしろ「もう助けてほしい」と叫んでいるように見えて仕方がなかった。


「…大丈夫なら……」


 助けを求めているように見える詩羽とは裏腹に、湊斗は「ならいいか」と警察に行くことを諦めた。

 当然、蓮はそんな判断に乗らず、一生懸命湊斗を説得し始めた。


「…え?…大丈夫だからなんだよ……」

「服を脱がれて、お金を盗まれ、そしてこれが初じゃないんだよ?」

「詩羽さん自身が警察に行きたくない理由はわからないけど、行かないとそれは…」


「うるせぇな!」


 蓮の説得は湊斗には届かず、静かな路地裏は湊斗の大声で響いた。


「詩羽自身が大丈夫だって言ってるんだ!もうこれでいいだろ!」

「…で、でも……」

「もうこれでいいんだよ!」


 湊斗は蓮の胸ぐらをつかみ、蓮を睨みつけた。


「っく…!」


 蓮は湊斗の行動に涙が出そうになり、掴んでいた手を離し、路地裏を抜け出した。



 湊斗は「ふぅ」とため息をつき、詩羽の手を優しく引っ張った。


 詩羽はどこに向かうのか疑問に思って湊斗に聞いてみるが返答はない。


「ねぇ、どこに行くの?」

「ねぇ湊斗、聞いてる?」

「ねぇって…」


「警察だよ!」


 詩羽が何度も何度も問いただしたその時、湊斗は大声を出した。

 それは、気づけば湊斗自身の口から飛び出していた。

 自分でも驚くほどの声量で。


「…えっ?」


 詩羽は驚きの顔を見せる。


「…私、言ったよね…?警察にはいかないって……」

「…大丈夫だから……」


「どこが大丈夫なんだよ!」


「……」


 湊斗は詩羽のほうを向き、手を力強く握った。

 詩羽は開いた口が塞がらず、ただずっと湊斗を見ていることしかできなかった。


「…俺、嫌なんだよ……」

「詩羽がずっといじめられたり、ヤンキーとかに絡まれたりして、苦しむところを見るのは…!」


「…」


 詩羽は沈黙が続く。

 その光景を見て、周りは立ち止まってその光景を見届けようとする。

 湊斗はそれに気づいたのか、詩羽の手をもう一度引っ張って、ある場所へ移動した。


「…ね、ねぇ!どこ行くの!?」


 交番の目の前まで来ていたが、その交番とは逆方向へ進んでいく。

 どんどんスピードが上がっていき、息切れが激しくなる。



 ◇ ◇ ◇



「はぁ…はぁ……」


 着いたところは、湊斗と詩羽が初めて会った公園だった。

 腰に手を当てながら、ゆっくり歩いてベンチに座る。


 それを見た詩羽も、隣に座る。


 息切れがゆっくりとなくなったそのあとに、湊斗は口を開いた。


「…もう、終わりにしよう。」


「…え?」


「…流石にダメだ。あれだけやられてたら、警察側も動いてくれる。」

「あれが初めてだけどさ、もう嫌なんだよ…詩羽が苦しむ姿を見るのは……」


 これを言うのは2回目だが、その思いは本当だった。

 詩羽が苦しむのを見るのは、湊斗には辛くて、いち早く助けたい。蓮もそう思ったから警察に行くことを強く推奨したのだろう。

 でも詩羽は、その判断を拒否した。

 なにがそこまで耐えることを好むのだろう。そう湊斗は思ったのだ。

 拒否し、そう思った瞬間に、湊斗は決断したのだ。


「もう警察へ連れて行こう」と。


 蓮には悪いけれど、一度この場所を抜けてもらって二人で行こうとした。

 その理由としては、湊斗はもう片足を突っ込んでいるが、蓮はまだ何も知らなかったからだ。

 蓮も関わってしまうと、なにをされるかどうかわからない。蓮が被害者になるかもしれない。湊斗はそうとっさに判断したのだろう。

 実際、関わらないほうが一番いいが、湊斗は詩羽のことを助けたいと本気で思っているから、他人には関わらないでほしいという願いもありそうだ。



「…本当に……大丈夫…だから……」



 でも、そんな湊斗の思いを砕くような、声で、目で、詩羽はお願いをした。


「ちょっ、なんで泣いてるんだよ…」


 湊斗は詩羽にティッシュを差し出し、「うーん」と悩んだ。


(そこまで泣くなら……無理にでも行かせられないじゃん……)


 でも、そんな顔を湊斗は否定できず、最終的に警察に行くことはやめると判断した。

 そこで、湊斗は一つの方法を思いつく。


「…あっ、なら、」

「…?」


「俺の家で住んでくれ。」

ごめんなさい!第6話投稿から結構経っちゃいましたね…

ちなみに体調は治りました!大丈夫です!

あぁあと、夏休みで完結まで書きたいって言ってたんですけど…無理そうです(笑)

夏休み終わっても、書く予定でいるので、楽しんでくれると嬉しいです!

よろしくお願いします!

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